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ホーム > アキンド探訪  > 「岩下の新生姜ミュージアム」はなぜあんなに攻めているのか?

 
わたくし松澤は珍スポットと呼ばれる一風変わった観光地をめぐっては「東京別視点ガイド」で紹介しています。6年間で巡った総数は1,000ヵ所以上。年末にはその年巡ったスポットTOP10をランキング形式で発表しています。
 
2016年度ベスト1に選んだのが栃木県の「岩下の新生姜ミュージアム」です。テレビCMでおなじみの岩下食品が手がける企業ミュージアムなのですが、その展示内容があまりにもぶっ飛んでいるのです。オープンは2015年6月。経営者が高齢だったり客足が減ったりで、気がつけば無くなってしまいがちな珍スポット界隈において、あまりに突然でビッグな新風だったので度肝を抜かれたものです。

たとえばジンジャー神社。岩下の新生姜とおなじくピンク色です。狛犬として立っているのは角が新生姜の岩鹿(いわしか)ちゃん。

ご神体も新生姜ですし、お供えものも新生姜。この日はイースター企画で新生姜の神様に変わって、新生姜で色づけされた卵の神様が鎮座していました。
岩下の新生姜ミュージアム
超巨大な顔ハメ看板もあります。
岩下の新生姜ミュージアム
岩下の新生姜ミュージアム
体を駆けめぐる新生姜気分を味わえるゲーム「ジンジャー・ツアーズ」。昔なつかしのテレビ番組、電流イライラ棒と同じルールです。
岩下の新生姜ミュージアム
イースター企画でダチョウの卵が岩下漬けされていて、ピンクになっていたり。
岩下の新生姜ミュージアム
極めつけは「新生姜の部屋」です。擬人化された新生姜と2ショット写真を撮れる展示です。
岩下の新生姜ミュージアム
本棚には「100万個の新生姜を食べたねこ」「もしも高校野球部のマネージャーが岩下の新生姜を食べたら」「ゆきゆきて新生姜」などベストセラーが並んでいます。

岩下食品株式会社 4代目社長・岩下和了さんにお話しを伺った

企業ミュージアムでありながら、他を寄せ付けない独創的な展示の数々。いったいどういう狙いがあるのか、どういう想いが込められているのかを社長・岩下和了(いわした かずのり)さんに直接伺って参りました。
岩下の新生姜ミュージアム
▲岩下食品株式会社 4代目社長 岩下和了さん
 

カオスでいい。やたらフラグを立てる

 
- 企業ミュージアムなのにすごい自由度ですよね
 
岩下社長:こないだカップヌードルミュージアム行ったんですけど、そちらと比べると対称性がはっきりします。カップヌードルぐらいですとプロモーションの歴史や世界各国入り乱れての商品展示をすれば、それだけで派手になりますし、みんな関心も持つでしょう。なのに、むしろ展示することがありすぎるから、佐藤可士和さんの編集テクニックで「創業者・安藤百福さん発明家としての側面を見せる」というテーマの絞り込みをしています。
 
その点、新生姜ミュージアムは真逆。関連してるものはなんでもぶちこむし、カオスでいい。世界レベルの派手な試みはないけれど、店頭レベルや消費者とのコンテスト企画とか細かいことをごちゃごちゃ積み重ねてやってきました。商品だけの協賛とかそういうレベルもひょいひょいやってるんですが、普通はやったら終わりでしょ。フェスの協賛も来場した人しか見ないで終わりですし、もったいないなと。広告としては済んだことでも、ご来館の方にご覧いただければ楽しんでいただけるのではないかと、ひたすら展示してます。
 
やたらとフラグを立ててる状態なんですよ。
岩下の新生姜ミュージアム
 
- やたらとフラグを立てる?
 
岩下社長:これは一例ですが、ヒルナンデスでハロプロのアイドル℃-ute(キュート)の岡井千聖さんが来てくれました。僕、℃-uteのCD結構持ってるんですよ。なんで好きかを語るとややこしくて長くなるで省きますけど、ファーストCDにサインもいただきましてSNSでつぶやきました。そうすると狙ってるわけではないけど℃-uteのファンが来てくれたりします。そういう流れでなにがしかの「聖地」になったりすることもあるんです。
 
もともと有原栞菜ちゃんというメンバーがいて「新生姜大好き」ってTwitterでつぶやいてくれてたんです。それをみつけて返信したところから交流がはじまりまして、演劇に出演されるときに花を贈ったんですね。そうなったらCDをすべて聴くのが礼儀ですので、そこから聴きはじめて好きになったというわけです。
 
2017年6月に埼玉スーパーアリーナーで℃-uteは解散コンサートするんですがそのチケットもおさえてます。ここが℃-uteの聖地になったらいいですね(笑)取材でタレントさんにお越しいただいたり、SNSで岩下の新生姜が好きだと発信してくださる著名人の方がいたら、そのご縁は本当に大事にしているんです。それはそのタレントのファンの方たちとのご縁の始まりなのだと思ってます
 
- 普通なら見過ごしちゃうようなフラグからしっかり交流をとっていった
 
アイスホッケーチーム「栃木日光アイスバックス」にスポンサーした際も、新生姜の被り物をしてくれて新聞に載りました。それを展示していますが、アイスホッケーファンの方に喜ばれています。
岩下の新生姜ミュージアム
▲「こんなにサイン並べてダサいって分かってるんだけどさ。でも喜んでくれる人がいるなら貼るよ」と岩下社長
 
- なるほど、それがフラグを立てる。アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」のコスプレでも話題になりましたよね
 
まどかマギカのほむらちゃんのコスプレをしたのは6年前。ミュージアムが出来る前です。コスプレの件がきっかけでまどマギの副監督と仲良くなって年賀状をもらいました。それも飾ってあります。僕がほむら好きだってことがきっかけで新生姜好きになってくれる人いるし、喜んでくれる人がいるんですね。アイドルの聖地、コスプレイヤーの聖地にするつもりはないけど、どう捉えてもらってもいいやって気持ちです。
 
 


▲話題になったほむらちゃんコスプレツイート

 
 

社長はTwitter廃人。「1日1,000回いいねを押してる」

 
- 岩下社長はTwitterもかなり活用されてますよね
 
岩下社長:ミュージアムより前にTwitterはやりはじめました。震災のすぐ後です。使い方覚えて検索して自社製品のリサーチをしたら、けっこう「おいしい」「うまい」「他人にオススメしてる」ってつぶやきがあって、嬉しくなっちゃいました。
 
SNSがなかったなら消費者の声を聞く機会はプレゼントつけたアンケートはがき、お客様相談窓口ぐらいでそのほとんどが問い合わせです。お褒めの言葉は月1件来るかどうか。それなのにTwitterの世界だとすごいんですよ。「もっとこうしたら」ってご指摘の声も含まれてますけど、大半が褒められてるしお礼の言葉で。嬉しくってたくさん「いいね」を押して。社長から直接いいねされたら、怖がられるかなと思ったんですが、意外と喜んでくれることに気づきました。今はもっと増えてますけど、当時は1日200~300いいねはしてました。テレビ放映時なんて1日1,000回いいねを押してます。ツイ廃状態ですよ(※)。
 
※ツイ廃:「Twitter廃人」の略。Twitterばかりしていて廃人化してる人のこと
 
岩下の新生姜ミュージアム
▲スマホに記録されたいいね数。カッコ内が月の総いいね数。2万いいねを超える月もちらほら
 
-え~~~、1日1,000回もいいねしてるんですか!?
 
岩下社長:はい、何回いいねしたかすべて記録してるんですよ。いまはツイート数が増えてて物理的に難しいんですが、最初はほぼすべての人にリプ(返信)までしてました。
 
- マジでツイ廃じゃないですか!社員さんに任せないんですか?
 
岩下社長:量的なしんどさも含めて、どう受け止められてるかを体感できるんです。方向を捉えるのにちょうどいい。人に任せたら任せたらそれが実感できないので。このミュージアムもTwitterの活動がベースですから。お客さまが見えてやってることなので、こういうことをやれば喜んでくれるだろうなと確信しながら案を考えられます。
岩下の新生姜ミュージアム

新生姜を漬けものから脱却させたい

岩下の新生姜ミュージアム
 
岩下社長:ずっと岩下の新生姜料理だけを出すレストランを作りたいと思ってたんですよ。ヤッホーブルーイング(「よなよなエール」「インドの青鬼」などを販売するビール会社)が赤坂にバーを作ってイベントやったり、そういう見せ方をしてました。コアなファンが付いてるんです。注目してた会社なので「おもしろいなー、そういうことをやりたいな」と。
 
ユーザーが大勢来てくれると思ってましたけど、地代が別途かかりますし、本格的にやるとして我々には飲食店経営のノウハウがありません。万が一、食品事故があれば信頼が吹っ飛んじゃいますし、なかなか手を出せずにいたら、先代の社長である父がガンになりまして一度計画が頓挫しました。
 
先代の頃、ここは「岩下記念館」という美術館でした。先代が亡くなる前に美術品はすべて処分して、学生塾に貸与するという方向で話がまとまりかかっていたんですけどストップかけたんです。「漬けものを取り巻いてる状況が厳しいから新しい展開にしよう。地代もかからないし、ここでカフェをやろう。でも、地方だから食べに来てもらうには工夫がいるよな」とこういう形になりました。
 
-社内で反対意見はなかったんですか?
 
「絶対失敗する」とか反対意見もたくさんもらいました。ただ、ありとあらゆることは流転しますから。沈みかけてる漬物という船に頼って、なにもやらずに指くわえてるよりいい。設備代の心配はそれほどいらなかったので、出費としてもたいしたことはありません。
 
カフェやライブやイベント、オフ会あるいはアトラクションそのものもそうですが、いくつか温めてたやりたいことをやれて、これまで無償で応援してくださってきたTwitterの人たちに恩返しをしたい。彼らがどうすれば喜んでくださるか、それをひたすら考えて、運営してるミュージアムです。入場料をいただいてないのでここだけの儲けでいえば完全赤字ですが、広告宣伝費に換算すれば相当な金額になりますね。
岩下の新生姜ミュージアム
 
– 漬けものに対する危機感があるんですね
 
岩下社長:新生姜を価値転換して、漬けものというイメージから脱却したかったんです。漬けものは音楽でいえば演歌なんですね。CD売れなくなった時代にひたすら演歌を歌ってる感覚。そこでトップスターになっても、そもそも演歌を聞く人がいなくなれば先細りですから。演歌は演歌で椎名林檎と石川さゆりがコラボしたり、いろいろ手を打ってますよね。
 
漬けものというカテゴリーは古いし健康ネガティブなイメージなんです。「しょっぱい」というネガティブなイメージがあるので、食べすぎちゃいけないということで、いままで食べたことがない人はそのまま食べないですし、いままで食べてた人も少なく食べる。それが漬けものの置かれてる市場環境です。
 
– 新生姜を漬けものから脱却させる
 
岩下社長:漬けものはレギュレーションもきつすぎるんですよ。「これは漬けものです」と語ったら「ああ、じゃあ、地域の味ですね。原料はこのへんで獲れるんですか?このへんが産地なんですか?」と。地産地消だと思われるんです。台湾でしか獲れないペンタオジャンという生姜をつかってるんですが「岩下さんって栃木にあるのに海外産使ってるじゃん」って思われちゃう。伝統的なものは伝統的な食習慣に寄りかかって商売してる分、革新的なものは生まれにくいんです。
岩下の新生姜ミュージアム
 
– 「漬けものといえばこう」と固定観念があるんですね
 
岩下社長:ですので、ミュージアム内のカフェでは味噌汁とごはんと新生姜、魚と新生姜みたいな漬けもの然としたメニューはありません。パスタに合う、カレーに合う、ピザに合う、そういう提案をしています。
 
SNS上では「漬けもの屋」から「しょうが屋」という印象に変わりました。新しくファンになってくれた人たちは岩下の新生姜を「漬けもの」ではなく、「しょうが」と捉えてれています。

新生姜ペンライトも社員からの発案だった

 
– 展示品はすべて岩下社長が考えてるんですか?
 
岩下社長:いえ、最終的には僕がOKを出しますけど、月1回社員ミーティングをしてますし、社員から企画を集めてます。僕ひとりならやらなかったなという企画もありますよ。ペンライトも社員の発案です。
 
– え、あのきわどいやつ、社員さんの案なんですか!?
 
岩下の新生姜ミュージアム
▲岩下の新生姜ペンライト。現在は発売中止
 
岩下社長:いや~、腹くくりました。出来上がってきたものがあれですから。もってきた社員には「これ、作ってて誰もなんも言わなかったの?」と聞いたんですけど「……え?製造したルミカライトの企画担当者は女性ですし、新生姜に頑張って似せただけなんですけどねえ」とか、しれっとした表情で言ってきて「ほんとかよ!」と。いちおう反応見てみるかとTwitterで「ペンライトできました苦笑い」とアップしてみたら190万インプレッション(1.5万リツイート)までいきました。
 
 

 
– てっきり社長発案だとばかり。あれを提案できるなんて、すごい会社ですね
 
岩下社長:もともと新生姜ブログをやってたメンバーなんです。「ブログやらせてくれ」って若手たちがいまして、おもしろい記事を結構書いてました。たとえば6月6日は「らっきょうの日」なんですが、この日ばかりは脇役のらっきょうを主役にしようと、らっきょうにカレーかけて脇にちょこんとごはんがのってる。そんな記事を書いてました。
 
土用の丑の日には、新生姜にタレぬって串刺してかば焼きしていたりと「こいつらバカだな~、いいな~」と思ってたので、ミュージアムを作るさい社内各所にいたブログメンバーを集めたんです。
岩下の新生姜ミュージアム
▲総務部長がならべた新生姜アルパカ
 
– ああ、そういう下地があったんですね!社長なら許してくれると分かってた
 
岩下社長:アイデア出しも社外の専門家に頼るのではなく、商品を愛してる社内の人間で、その愛を伝えていこうと。新生姜色のアルパカにしても愛すると命が宿りますし、総務部長が丁寧に並べて展示してました。
 
新生姜ミュージアムはお客さまに喜んでいただくことだけを考えて、商売はミュージアムを出たあと。ここは赤字でかまわない、儲けをださなくていい。なんでもありで楽しんでもらって、その想い出を反芻しながらスーパーでお買い物してもらえればそれでいいですね。

 
 

この記事を書いた人

おもしろくて別視点な観光地を「東京別視点ガイド」(http://www.another-tokyo.com/)で紹介したり、ツアーにしてみんなで行ったりしています。

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