お化け屋敷に人生をかける!謎解き型ホラーゲーム「シカバネ」を仕掛ける22歳の野望

ニューアキンド

今回紹介するのは『謎解き型ホラーゲーム』という一風変わったお化け屋敷シカバネ」である。怖いものが苦手なのでお化け屋敷をさけてきた人生だが、これはまったく新しいエンターテイメントだと実感できた。
 
体験レポートとインタビューをご覧いただこう。
 

プレーヤーは自分、謎解き型ホラーゲーム「シカバネ」

シカバネ

謎解き型ホラーゲーム「シカバネ」は、イベントプロデュース団体「Clover」が運営するアトラクション。阿佐ヶ谷アニメストリートに「シカバネ」専用店舗があるという。

シカバネ

あった。
見つけてしまった、怖そう。…入りたくない。
 
失礼な言い方だが、この手作り感のある雰囲気も、安全ラインを振り切ったメチャクチャな演出をしてくるのではないかという不安を掻き立てられ、いっそう怖く感じる。

シカバネ

ヤバイ。
心の準備ができるまえにゲームの説明が始まってしまった。

シカバネ

最初はゲームに関しての注意事項だったが、徐々にシナリオへ誘導されていく。シナリオ説明も注意事項と同じトーンで説明されるので、設定なのか事実なのか、よくわからなくなっていく。

シカバネ

今回のシナリオは、東京都杉並区阿佐谷の民家で起きた父子無理心中事件。父親は死亡し、娘は昏睡状態に陥ってしまう。プレイヤーは新薬を使用し、昏睡状態の娘の夢の中へ入り、この事件の真相を探るという設定。薬を飲むための同意書まで書かされ、実際に薬らしきものを飲まされる。
 
同意書を書き終えると、アイマスクをして一人づつ部屋の中へ連れて行かれる。視覚を奪われたことと、これからなにが起きるのかわからない緊張感で口から心臓が出そうになる。部屋に入ると、いかにも怖い音楽とナレーションが流れ出した。
 
「これはゲーム、これはゲーム、人間がやってる、人間がやってる…」と頭の中で唱えても、そう思えば思うほど怖くなってしまうもの。
 
アイマスクを外す指示がありゲームスタート。
お世辞にも広いとはいえない不気味な赤黒い空間に、ユラユラヨタヨタと揺れるシカバネがいた。

シカバネに絶対に見つかるな!知恵と勇気で謎を解け

シカバネ


▲室内には、ロッカーやダンボールなどシカバネから隠れるスペースがある。ここを起点にして情報を集めていく。

 
シカバネ」は普通のお化け屋敷のようなウォークスルー型(暗い敷地を歩いていく)ではなく、テレビゲームのように「クリア条件」がある謎解き型お化け屋敷だ。制限時間内にすべてのミッションをクリアすると、異世界から脱出することができ、ゲームクリアとなる。
 
だが、室内には、人の形をした化け物「シカバネ」がウロウロと歩き回っている。このシカバネに見つからないようにアイテムを入手したり謎を解くための情報を集めなければいけない。

シカバネ


▲シカバネがアイテムに気を取られれいるうちにそ〜っと動こう。

 
 
シカバネに3回見つかるとゲームオーバー。クリアする為には、積極的に動き回らないといけないが、大胆に動きすぎるとシカバネに見つかってしまう。そこで、タイマーや電子レンジなど身の回りにあるアイテムを使って、シカバネの気をそらしたり手に入れた情報を元にシカバネを錯乱させるなど、様々な戦略を駆使しなければいけない。
 
ちなみに、見つかると「ミヅゲダッーーー!!!!!」と絶叫される。これがとてつもなく怖くて、とっさに「見つかったぞっーーー!!!!!」と大声で絶叫してしまった。シカバネもびっくりしただろう。

濃厚なストーリーとリアルなパフォーマンス

シカバネ

ゲームを進めていくと、生前の日記や事件の新聞記事、家族写真などが見つかる。それらの情報をつなぎ合わせていくと、事件の裏に隠された家族の悲しい過去が浮かび上がってくる。シカバネには、ただ怖がらせるだけではない濃厚なストーリーがあるのだ。

シカバネ

序盤のミッションはシカバネをキッチンタイマーでおびき寄せ、その隙に机の引き出しにある日記をとってくるなど、比較的簡単なものだが、それを躊躇させるのが「シカバネ」の存在感だ。
 
終始、部屋中をこの世の者とは思えない奇声を発しながらヨタヨタと動き回っている。人間が演じているのは間違いないが、その演技力から「本物の化け物」に思えてしまうのだ。この熟練の演技もシカバネの大きな魅力だ。
 
簡単なミッションもシカバネと暗闇による恐怖で、うまくいかない。まごついている間にも刻々と時間は過ぎていき、制限時間リミットになってしまい死亡(終了)してしまった。

お化け屋敷に人生をかける

シカバネ


▲Clover代表の岩名謙太さん。公演中の作品イメージを守るため、死んだゴリラのお面を着用。

 
 
お話を伺ったのは「シカバネ」を運営するイベントプロデュース団体「Clover」代表の岩名謙太さん。弱冠22歳のホラーイベントクリエイターだ。つい先程までお化けだったことがウソのように終始にこやかにお話を聞かせてくれた。
 
ーーめちゃくちゃ怖かったです
 
今日進めたのは、まだ物語の3分の1ぐらいですよ。ここまでは、正解のアナウンス通りに進むチュートリアルみたいなものです。ここから先はシカバネの動きも複雑化したり、声も激しくなってきて難しくなってくるんです。謎解きも自分で考えなきゃ進めなくなっていきます。
 
ーーまだ3分の1ですか……音もすごく怖かったです
 
これまで音の制作は専門家に頼んでたんですけど、自分は注文が細かくて「ここが0.1秒早い」とか指示するので、今回は自分で作りました。部屋の中は暗くて視覚情報が少ないので、その分、音の作りはすごく重要なんです。
 
ーー男性のオバケって珍しいですよね
 
不思議なもので、男性がオバケをやると女性の方が怖がります。逆に、女性のオバケは男性の方が怖がるんです。お化けである前に、行動や性格の読めない異性ということも恐怖に反映されているんじゃないかと思っています。
 
ちなみに今回は、狂った父親が追いかけてくる恐怖を再現したくて、映画「シャイニング」のジャック・ニコルソンを目標に演技しました。室内にもオマージュがしこまれてますよ。

シカバネ


▲シャイニングに出てきた謎の言葉「REDRUM」、反対から読むと「MURDER(殺人)」になる。これに気づく人はなかなかのホラーマニアだ。

 
 
ーーお客さんの「ギャー!」っていう反応は嬉しいですか
 
最初は嬉しかったですけど、今はなんとも思いませんね(笑)いまはどっちかというと、ストーリーに対して感激していただいたりとか、小道具や謎解きの演出などの全体を通して「よかったよ!」と言ってもらえることが嬉しいです。

小さい頃からお化け屋敷は落ち着く空間だった

シカバネ
 
ーー昔から怖いものとかお化け屋敷が好きだったのですか
 
両親の影響で3歳からバイオハザードをやってました(笑)小さい頃、1年に1回富士急ハイランドに家族旅行することが恒例でして、そこで「戦慄迷宮」っていうお化け屋敷に出会いました。
 
初めて入ったのは小1の頃。その時は内容をあまり理解できていなかったので全然余裕でした。ただ、翌年の小2の時は怖くて泣きました。自我が目覚めていたんでしょうね。
 
でも小3~4になると全然大丈夫になったんです。そのころになると年1回行ける別荘という感じでしたね。行くと癒されるんです(笑)本当に大好きで1日で3回入ったこともありました。
 
ーーお化け屋敷を楽しむ側から作る側に目覚めたきっかけはありますか
 
人生で初めてお化け屋敷を作ったのは中3のときでした。高校になると離れ離れになっちゃう友達も多かったので、思い出作りのためにお化け屋敷を作ることにしたんです。
 
自分の家を舞台にしたのですが、家が狭かったのでウォークスルー型のお化け屋敷だと1分ももたないと思いました。そこで狭い空間でも長く楽しめるように、ゲーム要素を加えた謎解き型のお化け屋敷を考案しました。
 
謎をすべて解き終わり「楽勝だったねー」って油断させてから、階段からすごい音とともにオバケがダッーン!!って降りてくる。これにはみんな驚いてましたね。
 
ーーはじめてのお化け屋敷なのに、今の原型にもなる見事な演出ですね
 
今まで自分が見てきたお化け屋敷は、演出というよりも、どこで何が起こるというような「仕掛け」が多かったのですが、狭い空間でお化け屋敷を成立させる方法を探ることで、お化け屋敷に映画的な「演出」が効果的だと発見できました。お化け屋敷を作っている時すごく楽しかったのと、友達が喜んでくれたことをよく覚えてます。
 
ーー本格的にお化け屋敷をつくりはじめたのはいつですか
 
大学1年のころ、「オバケン」っていうゾンビイベントを企画している会社のイベントに参加しました。こういうことを仕事にしてる人たちがいるんだ、と衝撃をうけてノウハウを学ぶために弟子入りしました。
 
その後すぐに自分でも作ってみたくなって、学校の友だちや役者の友達を集めて、はじめて本格的なお化け屋敷シカバネ」を作りました。
 
演出はまだ今に比べるとショボかったかもしれませんが、会場が本物の民家だったり、役者さんを何人も登場させたしたりして自分なりのお化け屋敷を一生懸命つくってみました。これが想像以上にウケたんです。
 
こういうお化け屋敷を喜んでくれる人がいるんだとわかってから、どんどんイベントを重ねていき、本気でお化け屋敷を始めようと思い大学を中退しました。本当は英語の先生になろうと思っていたのですが、自分でも予想外の展開です(笑)
 
阿佐ヶ谷に店舗を借りて、お客さんからお金をいただいて運営しだしたのはちょうど1年前ですね。

お化け演技とストーリーならどこにも負けない

シカバネ


▲前回公演の「シカバネ」。階段を這いつくばって降りるため、膝がアザだらけになった。

 
 
ーーお化けの演技はどう考えていますか
 
お化けの演技に関しては日本一うるさいと思います。マルチエンディングのゾンビイベントやったときは、演者の方々と土日12時間の稽古を2か月やりました。演者はほとんど舞台の経験者たち。「声出すの1秒早い!」とか厳しく指導しても、それに応えてくれる人としかやれないですね。
 
演者として参加した人に「やって楽しかった」だけで終わらせたくない。「大変だったけど成長したな」って役者さんに思ってもらいたいです。裏目標で「役者さんがプロデビューするまえの選択肢になりたい」と思ってます。ここで働いて演技をしながら食べていける。そんな人を増やしたい。映画監督がふらっと来て「あそこであのゾンビやってたの誰」って紹介して映画デビューするみたいなのが理想です。
 
ーーこうすれば怖くなる、などの演技ノウハウとかあるんですか
 
いえ、怖くするための演技はしないんです。こういうストーリーのこういうテーマだから演技はこうしよう、というところから始まります。どういう怨念を持って死んだのかとか、生きていた時にどういう人間だったのかを考えて動きをつけていきます。あとは動きのバリエーションを多くもっておくことですね。動きのパターンが少ないとウソっぽくなっちゃうので。
 
ーー過剰な演技ではなくリアルを追求してるから怖いんですね
 
シカバネにとって演技はすごく大事なんです。狭い空間でお化け屋敷を成立させるために謎解き要素を加えたのと同様に、備品にたくさんお金をかけられないので、お化けの演技で怖くするしかないんです。
 
演技のためなら無理な態勢にも耐えないといけないので、公演が終わるとアザだらけになってますよ。真夏の炎天下、屋根がないところで35日間連続ゾンビやったことがあるんですけど、最終的に暑すぎてまっすぐ歩けなくなりました。あやうく本物のゾンビになりかけましたよ。

シカバネ
 
ーーストーリーも同様にこだわりがありますか
 
映画が大好きなので、自然とストーリー作りに力が入ってしまいますね。意識しているのは連続ドラマのようなストーリーにすることです。クリアできなかったお客さんの続きが気になって再チャレンジしに来てくれるんです。最後までクリアするとお化け屋敷なのにストーリーが悲しくて泣いてくれるお客さんもいますね。

誰もやっていないことだから丁寧なサービスを提供する

シカバネ


▲体験した当日にtwitterでホラー風記念写真をアップしてくれる。顔がねじれて見事に死亡している。

 
 
ーーニッチな商売ですが、集客はどうやっていますか
 
ほぼTwitter集客です。どこかに宣伝してもらうお金もないし、すべて自前で宣伝しています。TwitterなどSNSがあるのは宣伝する上で本当に大きいですね。宣伝するにしてもやみくもに宣伝しまくるのではなく、どういうターゲットにどういう宣伝をしたら効果があるのかをいろいろ試しながら勉強している最中です。
 
ーー今回の宣伝方法で効果があったものはなにかありますか
 
手応えがあったのは、ポスターですね。今回のターゲットは「ホラーゲームが好きな人」に絞って、ゲームの中に入って遊べるということを、画面に女の子が閉じこめられてる絵でパッと見ただけでわかるようにしました。コピーもずばり「ホラーゲームの世界へようこそ」。前回に比べて予約の入り方やTwitterのリツイート数など全然違いましたね。

シカバネ


▲コピーは「ホラーゲームの世界へようこそ」

 
 
ーー作品に自信があるからこそ宣伝も大事にしているのですね
 
やっぱり商売にしているので、自分が作って楽しいだけでは成立しません。楽しんでくれるお客さんの数が増えれば、自分の満足も相互に増えていくと思いますので、その点はしっかりやっていきたいと思っています。
 
理想はそういった宣伝を請け負ってくれるスタッフがいればいいんですけど、作品だけでなくこういった宣伝を考えることもこの先重要なスキルになると思っています。
 
ーーお客さんが急増しても規模を増やすのは難しいですよね
 
そうですね。やっぱり今は自分が現場にいないと成立しないと思っていますので、まずは今回の公演すべてのソールドアウトを目指しています。この公演は50分1,980円でやっているのですが、ビジネスを知ってる人からすれば「他で出来ない体験なんだから、もっと値段あげたら」って言ってくれるんですが、この値段で多くの人に体験してもらって、ブランド価値を確立したいんです。まずはソールドアウト達成してから値段を少しづつあげていこうと思っています。
 
ーースタッフは少数精鋭でやっていくのでしょうか
 
とにかくこういったものが狂ったように好きでないとできないですね。そういった意味でやれる人は限られます。
 
いまは2名ですべて行っていますが、なかなかバランスがいいんですよ。僕がシナリオを書いたり、マーケティングや宣伝計画を考える。もう一人はグラフィックデザイナーをやっていたので、内装の小物作りから広告物などのデザインをする。お互いの長所を活かし、短所を補いながら最小限のチームで動いています
 
2人でやってるから作品のエンドクレジットつくったら、自分と相手の名前ばっかりずらっと並んで大変なことになりますよ。

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▲代表の岩名さん(左)とデザイナーの今出さん(右)。今出さんはデザイン・小物制作からお化け役まで幅広く担当。

 
 
ーーお化け屋敷のサービスとして気をつけていることはありますか
 
自分ごとながら大手に属さずフリーでお化け屋敷を始めるって正直狂ってますね。普通は設備費に1,000万円ぐらいかかるところを10数万円でなんとかしてますし。誰もやろうとしないビジネスだからこそ、細かな配慮とサービスを大事にしていこうと思っています。
 
公演終了後に記念写真を撮ってホラー風に加工して送ってあげたり、ゲームの攻略度を書いた診断書をお渡ししたり。誕生日を教えてもらったら、お化けからイラスト付きのメッセージを送ったりもしています。
 
これは予約制で誰が来るのかわかってるからこそできること。せっかく来てくださったお客さまなので、一人ひとりと積極的にコミュニケーションがとるようにしています。お化けですけど、やってることはアイドルっぽいんです。
 
ーー今後の野望はありますか
 
お化け屋敷をメインでやっていきたいですが、それだけでなく、謎解き要素や演出のノウハウを使った泥棒ゲームなどのホラー以外のジャンルもどんどんやってきたいです。
 
これはシカバネと同じ構造を応用すればできます。「シカバネ」のお化けを住民に変え、プレイヤーが泥棒になる。住民の注意をうまくそらして金目のものを盗んでいくゲームです。昨年この泥棒ゲームも公演したのですが、シカバネと同じくらい好評をいただきました。
 
こういった体験型ゲームの世界はまだまだ未開拓な部分の多いエンターテイメントジャンルなので、とことん挑戦していきたいですね。

編集後記

狭い空間でお化け屋敷を成立させるために謎解き要素を用いたり、設備にお金をかけられないから演技やストーリーにとことんこだわる。
 
弱冠22歳の若きホラーイベントクリエイター岩名さんの知恵と工夫を絞り出す姿勢には学ぶことが多くあった。
 
この夏、Cloverの二人による熱き情熱の結晶「シカバネ」で体の芯まで冷やしてみてはいかがだろうか。
 
取材協力:イベントプロデュース団体「Clover」代表 岩名謙太
URL:https://www.projectshikabane.com/

 
 

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