商売に必須の「お付き合い」。カネをかけずに他のお店とのトラブルを回避する方法。

ニアセ寄稿

えらいてんちょうが教える「商売のトラブル回避法」

 
どうも、えらいてんちょうです。
 
最近はショボい企業のコンサルタントをやったり、投資家と起業家をマッチングさせるイベントを開催したり、Youtuberとしてそこそこのところまで行ったり、その他何かあやしい感じのムーブで儲けたり、儲けなかったりという感じです。「本業はいったい何なんですか?」とよく聞かれるのですが、あえて本業を言うならば(自分で立ち上げた)バーの経営者および店長であり、そのバーの支店が日本中に広がっています。その経験から「ショボい企業コンサルタント」を名乗っています。
 
私のところに相談に来る『起業したいマン』ですが、自己資金が数百万あって、それを効率よく使って事業を立ち上げようとする感じのタイプの人はほとんどおらず…。まあ、まず間違いなくお金がありません。自己資金はバイトで貯めた50万、なんて人はまだいいほうで、まったくのスカンピンでやってくる人も多々います。
 
そういう人たちでも、私の周りにいるお金持ちが面白がって投資をしたり、あるいは私のアドバイスを聞いて100万ぐらいの自己資金を溜めることによって、無事事業を始められたり、始められなかったりしています。
 
今回は、そういう「カネがなくて起業した人が、いかに周りとトラブルを起こさずにやっていくか」という話をしたいと思います。
 

甘く見積もりがちな「挨拶の重要性」

よくいるんですよね、自分は○○さんに出資はしてもらったけども、お客さんはSNSのつながりの人が中心だし、商店街の周りの人は別に助けてもらってないから挨拶も何もいらないよね、という人。いや、別に間違ってはいません。それであなたのお店にジャンジャンお客が入り、儲かって儲かって仕方がない、という状態が続くなら別に挨拶なんかいりません。
 
ただ、なかなかそうはいかないのです。たとえばあなたの店が商店街の中にあったとしましょう。商店街の人たちは、あなたの店を知らないどころか、あなたの店の敷地に前あった、もう閉店してしまった店の人のことまで知っています。あなたはその場において完全なる新参者であり、仮に同じ商店街の中に扱う商品がかぶる店があれば、その店の商売敵になり得るわけです。
 
こういったケースで予想されるのは、商店街の他所の店の人からの攻撃です。商売敵本人だけではなく、です。なぜなら、その商売敵の店はもう長いことその商店街でその業態の店を経営しているわけであり、商店街の人たちで仲間を形成しているからです。街を散歩していると、電柱に「○○商店会」なんて旗が下がってますね。あれがそうです。「○○商店会」というのは、「○○商店街で商売をやっている人の集団」であり、まさに「商人ギルド」です。ギルドの仲間たちは自分たちの誰かが攻撃されれば束になってかかってきますし、やっとこさ店を立ち上げたばかりのあなたの店は叩けば埃のひとつやふたつは出ますから、総攻撃を喰らってはひとたまりもありません。
 

「商人ギルド」の標的になってからでは遅い

正直、こうなってしまってからこの状況を覆すのはかなりしんどいものがあります。どこのギルドでもそうですがギルドには「主」がおり、その「主」の機嫌を損ねてしまった後だと、「主」の赦しを得るには、最初から適切な対応をしたときと比べて数十倍、数百倍の労力がかかります。赦しが得られない場合、周りの商店街が全部敵、という状態から店をスタートしなければならなくなります。
 
あなたは自分の店のことだけやっていればいい、と思っていたのに、周りの商店街からさまざまな嫌がらせを受けたり、行政へ何かをチクられたり、怪文書を撒かれたりなど、先方の攻撃手段は無限です。そしてあなたは本業からかけ離れた作業に忙殺されることになります。その対応にかまけて本業の質が下がってしまっては、まったくもって本末転倒です。
 
何を隠そう、私もこの「商人ギルド」の主です。商人ギルドは別に実際の商店街だけではなく、インターネット起業にも存在します。ネット商店街の中において、店長を1日単位でSNSで募集する「イベントバー」のシステムは、本当に最初に着想したのが私かどうかは知りませんが、少なくとも現時点において、私はそのシステムのフランチャイザーとして、ひとつのネット商店街の「主」です。
 
自分の店を持つということは、誰しもが一国一城の主になるということです。「信長の野望」でも「三國志」でもそうですが、ゲームを始めた瞬間に周りの国が全部敵、という状況はしんどいですよね。できれば、周りには味方の国がたくさんいて、しばらくは戦争の心配なく、自国の力を充実させるのに力を注ぎたいものです。
 

「商人ギルド」に入り込むためにまず踏むべき手順

ゲームだとこの場合、お金やアイテムを送ったりして友好度を上げるのですが、実際の商店街でもネット商店街でもほぼ同じです。まずは挨拶です。「このたび、あそこの角にこんな店を開きます、△△と申します。至らない点もあるかと思いますがよろしくご指導ください。まずはご挨拶をと思いまして、大したものではないのですが……」なんて手土産の一つも持っていけば完璧です。これを、商店街の片っ端からやっていきましょう。全部回ればその中にたいてい「主」がいますし、「ああ、挨拶回りなら○屋の○さんに一声かけといたほうがいいよ」なんて教えてくれることもあります。親切にも「主」を教えてくれているのです。
 
開店前というのは店内の内装、行政への届けなど死ぬほど忙しいのですが、この手順だけは踏んでおいたほうがいいでしょう。お金がないなら最悪手土産はなくても構いません。この「ギルドへの挨拶」は恐ろしいことに、遅れると利息がつきますので、早ければ早いほどいいのです。逆に、あまりにも遅くなってしまった後では、多少の手土産なんか何の役にも立ちません。
 

出店前に特に注意しておくべき「〇〇かぶり」

とくにケアが必要なのは、「商圏がかぶる(他店の客を減らす恐れがある)、システムがかぶる」といった消耗合戦に陥るおそれがあるときです。たとえば1000円理髪店しかない商店街に1回5000円かかる美容室を作る、これは客層がほぼかぶらないと予想されますから、まあ少し丁寧に「こんなのやらせていただきます」でいいでしょう。しかし、そんなに大きくない商店街で、もうすでに北海道の海鮮にこだわった居酒屋があるところに、北陸獲れの海鮮居酒屋を建て、どちらも宴会や貸切も可能、なんて話になってくると、かなり綿密な挨拶と住み分けの相談が必要になります。
 
「商人ギルド」のネットワークは基本的にその商圏で商売をしてきた人たちの集まりですから、いかんせん情報が異常に早く、またその精度が非常に高いです。リアル商店街でも物件を探しに不動産屋に行ったら、その不動産屋がすでに商店会の一員で、契約前に不義理を全員知っている、なんてこともあります。ナメてはいけません。そしてそれは「ネット商店街」でも同じなのです。
 

えらいてんちょうの周りで発生したトラブル事例

つい先日、私の周りでもこれが起こりました。私のバーの店舗からわずか2駅、反対側にある私のバーの衛星店舗からは1駅しか離れていない場所で、まったく私に話を通さないまま、日替わりバーテンシステムのバーを開業しようとした人がいました。しかも、私のバーでも何度もバーテンをつとめてくれたスターバーテンを引き抜いて、です。
 
リアル商店街とは違い、ネット商店街では2駅程度しか離れていない実店舗は商圏がかぶるどころではありません。「SNS経由で、日替わりバーで一日バーテンをやろう」などと考える人間は大都会でもそう多くはなく、必然的にお客さんの多くは遠くから電車に乗ってやって来ることになります。2駅先なんてほとんど軒先のようなものです。衛星店舗とはお互いにルールを決め、お互いに企画やバーテンを融通し合うなどいい関係が築けていたのですが、何も挨拶無しにこれをやられてはたまりません。
 
当然、「商人ギルド」内からこの情報はすぐに私のところに届き、私は開店準備にかかっていたこの店の店主と即座に交渉に入りました。このままでは、お互いがバーテンを引き抜き合う消耗戦となり、誰も得をしないからです。いや、私の店はギルドが出来上がっていますから潰れることはないでしょうが、先方は「我々のギルドにケンカを売った店」ということになり、どう考えてもまともに経営が成り立つとは思えません。私は決して争いごとが好きな人間ではありませんが、商売上の不義理はキッチリと落とし前をつけ、ギルドのメンバーに毅然とした対応を取ったことを示さないと、今度は私の店が危なくなります。
 
結果として、この店は大幅な業態変更と、日替わりバーテン制度の廃止を余儀なくされました。最初から相談しておいてくればお互いの利益になる形に落ち着かせることができたのに、あんな無茶な特攻作戦を取られては、収まる話も収まらなくなります。
 

「商人ギルド」に守ってもらうためのテクニック

この話を聞いて「怖い」という感想を持たれる方もいるかもしれません。しかし、これは水商売の論理で言えば明確な「ショバ荒らし」であり、こちらの店の存続に関わる重大な問題なのです。だからこそ、リアルにせよネットにせよ商店街の面々は「ギルド」を作り、綿密な情報交換をしているのです。みんな「明日は我が身」だからです。「ギルド」は別に閉鎖的な組織ではなく、然るべき挨拶とスジが通されれば、ちゃんと入会が認められるものなのです。
 
このギルドの中にうまく入り込み、無事店をオープンさせられれば、あなたは「守られる立場」になれるわけです。ただし、当然一番の新入りですから、なにか癪に障ることを言われても、少なくともその場では平身低頭で話を聞いていましょう。ここで逆らっては何にもなりません。
 
私がよく言う言葉ですが、「挨拶と謝罪は無料でできる投資」です。お客さんが来なくて仕事がないときには、店の周りを掃き掃除でもしていましょう。そのうちギルドの人が通りかかって「どうだい、やってるかい?」なんて声をかけてくれます。「まずまずです」でも、「いやーなかなかですねー」でも構いません。「私の店はたぶんもうしばらく暇なんで、なにかお手伝いできることとかありますかね?」とかだと最高です。
 
そこから「おう、ちょうどよかった、いまから配達あるんだけど、10分ぐらい店見ててくれない?」なんて話になれば、「懐に入れた」ことになります。「おー、ただいま、何もなかった?んじゃもう大丈夫だよ、ありがとう」なんて言われたら「こんど、お仕事終わりにでも、うちの店遊びに来てくださいよ」と言えます。すると、何日か後にそのおじさんが他のギルドの人を連れて店に来てくれたりします。そこで「いつもお世話になってるんで……」みたいな感じで一杯ごちそうしたり、一品余計に出してあげたりすると、「商人ギルド」の情報ネットワークがいい方向に働きます。
 
「こないだ角に店出した子、あの子若いのになかなかしっかりしてるよ」という情報が瞬く間に商店会の中に広がり、「そんなにいい子ならいっぺん行ってみようか」ということになり、商店会の仲間に入れてもらえます。また、来てくれた商店会の人が、その人の本業で、商店街のただの住人と雑談をしているときにも「そこの角にさ、こないだ店できたじゃん。俺いっぺん行ってみたけど、なかなかいい店だから今度行ってごらんよ」という感じで、勝手に宣伝をしてくれたりします。悪いことは何もありません。
 
この商店会こと「商人ギルド」は敵に回すと大変なことになるが、味方にすると心強いということがおわかりいただけたでしょうか。
 
ちなみにこの「商人ギルド」を無視して商売する手も全くないわけではありません。いちばんわかりやすい例が地方都市の郊外のショッピングモールです。繁華街の商店会の涙ながらの抗議を無視して、バイパス沿いの空き地に馬鹿でかい店舗を立て、食品、衣料品、酒店、書店、映画館、フードコートあたりが全部詰め込まれた店舗を作った結果、若者やファミリーはみんなそっちに集まってしまい、商店街がシャッターだらけになったという例は日本中のあちこちの都市で見られます。あるいは、コンビニチェーンや格安レストランチェーンなどに対しても商店会は無力で、そのおかげで昔から愛されてきた地元の店がつぶれてしまった、などの例も見たことがあるでしょう。
 
ただ、これらのバックボーンは巨大企業です。巨大企業が多大な資本を投入し、築き上げたブランド力と集客力にはさすがに歯が立ちませんが、あなたの作った一国一城を商店街の中でやっていこうと思うなら、近隣の商人たち、つまり商店会=「商人ギルド」を敵に回さず、味方につけるとハードモードがイージーモードになるぐらいの差が出るというのは、ここまで書いてきたとおりです。
 
「商人ギルド」内でかわいがられる方法はこれ以外にもいくつかあります。最初の挨拶は必須ですが、たとえばお中元やお歳暮、お年賀のシーズンなどは株を上げるチャンスです。「ビール、お好きでしたよね?」「甘党だとお聞きしたので、お茶菓子に羊羹をお持ちしました」「奥様がお料理がお好きとのことでしたので、サラダ油を……」何でも構いません。こういうちょっとした気遣いができることで、あなたの評判は爆上がりします。聞くところによるとサラリーマンの世界ではお中元・お歳暮禁止令が出ているところも多いらしく、サラリーマンから個人事業主に転じた人には季節のご挨拶という習慣がないかもしれませんが、個人事業主同士であればこの季節は大チャンスと言ってもいいでしょう。
 

商店会費は気持ちよく払っておいた方がよい

また、少し別の話になりますが、商店会に入ると「商店会費」などのちょっとした(しかし、ショボい起業においてはバカにならない)金額を請求されることがあります。これがイヤだという人もいるでしょう。また、月に一回ぐらいみんなでくだらない話をしてお茶を飲むだけの謎の会議や、お祭りの季節だからといって神輿作りやその他のよくわからない作業に駆り出されることもあり、これがイヤで仕方ないという人も多いでしょう。
 
しかし、モノは考えようで、商店会費は「少なくともそれだけ払っておけば商人ギルドに入れてくれる」ということですし、謎会議は「そこにいるということで仲間意識を共有できる」場となります。お祭りはあなたにとってどうでもよくても、商店街にとっては大事なイベントだったりします。ここで活躍できると、あなたの株が爆上がりして、ほぼ確実に投資した以上のリターンが返ってきます。

自分の商売に集中して、有意義な商売人ライフを!

自営業というのは、ボーナスがあるわけでなし、有給休暇があるわけでなし、毎日売上げのことばかり考えていなければならないという厄介な商売です。しかし、だからこそ自分の商売に集中できる環境を整えるというのは非常に大事なことなのです。イージーモードであなたのやりたい事業をガンガンやっていきましょう。

1990年東京生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。2015年、24歳の時に初期費用50万円でリサイクルショップをショボく起業し、ショボい経営術で1年間で系列5店舗まで拡大。現在はイベントバーエデンを経営し、ショボい起業コンサルタントも展開する。事業計画書はいらない、開業資金に何百万円もなくても大丈夫など、起業の常識をこれまでの経験をもとに覆し、ショボい起業家を増やす。このほか、ベーシックインカムハウスプロデューサー、しょぼい喫茶店アドバイザーも務める。2016年に初対面から2週間で結婚、1児の父。

ニュー アキンド センター
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