「太っている人は美しくない」。アンチの声と正面から戦い続ける、プラスサイズモデル 藤井美穂の生き方

ニューアキンド

ふくよかな体型を活かし、プラスサイズモデル(大きめサイズのモデル)として活躍する藤井美穂さん。渡辺直美さんやゆりやんレトリィバァさんらと、体型やコメディアンといった肩書は近いものの、フェミニストとして発信を続けているのが、藤井さんの大きな個性だといえます。

ロサンゼルス在住で、仕事の場はアメリカの彼女ですが、Twitterでは日本人とコミュニケーションを行っています。攻撃的なコメントに対して考えをストレートに発信し、怒りを表現することもしばしば。彼女が怒っている理由、また、どのようにしてコンプレックスを仕事に変換できたのか。お話を伺いました。

【ご本人のプロフィール】

名前:藤井美穂(Twitterinstagram
肩書:俳優、コメディアン、プラスサイズモデル

「そのイジリ、古くない?」アメリカで感じた日本のお笑いへの違和感

―渡辺直美さんや、ゆりやんレトリィバァさんをはじめ、藤井さんと体型や肩書が近い方々がいます。特にどんなところがご自身と共通していると思いますか?

藤井:ふくよかな体型でいるだけで、面白さを求められるところでしょうか。私は元々お笑いが好きだし、舞台でコメディを演じるのも楽しいです。でも、世の中にはいわゆる「ぽっちゃり体型」でいるだけで、コミカルなキャラを期待されてしまう人が多いのだろうと思いますね。

私は、現在アメリカでコメディアンとしても活動していますが、日本でお笑い芸人を目指すという発想はなかったんです。数年前まで、お笑い芸人が体型や見た目で笑いをとることがスタンダードのような空気があったように思います。体型ありきで面白さを強要されることは、私にとって心が折れてしまう仕事だと思ったので、日本でお笑い芸人を目指すことは断念しました。

―女性のお笑い芸人が体型をネタにする場面も多々ありますが、どう思っていますか?

藤井:そういった笑いが面白いと思えないんですよ。今も日本のお笑いは好きですが、飛ばさないと見ていられないシーンも多いです。年齢や見た目のことを持ち出したり、自分の悲しい恋愛体験をネタにしたり、どれだけ男性に貢いできたか…といった話など。アメリカでは、そういった女性が自虐する話題は、見る側がかわいそうに感じてしまい、笑えないという雰囲気があります。日本のテレビを見ているとアメリカではNGな笑いが多い印象ですね。でも今は見た目に頼らないスタイルの芸人もたくさん出てきているので、それは嬉しいですね。

―日本を拠点として活躍する渡辺直美さんら女性のお笑い芸人と、アメリカを拠点とする藤井さんの違いとは何でしょうか?

藤井:私の方が政治的発言を多くしているところでしょうか。日本ではそういった発言は、思っていても、口に出しにくい雰囲気がありますよね。その点、私はアメリカに拠点を置いているので、自由に発信していますね。

確かに渡辺さんたちは明るくておしゃれでかわいらしい。ただ、その立ち位置はすでに先輩方が切り開いてきた道であって、私は私にしかできないことをしていきたいですね。

英語を話せないままハリウッドへ。出会い系サイトで知り合った恋人との交流で英語が上達

―藤井さんは現在プラスサイズモデルとして活躍されていますが、学生時代は容姿にコンプレックスがあったとか。

藤井:中学生の頃から心無い言葉を浴びてきました。親からは「妹のように痩せられないの?」と言われ続け、ご飯を残すと褒められる。周りの友達からは、新しい服を買ったら「服がかわいそう」とまで言われる始末。私も物事をはっきり言い過ぎる性格なので、強く言い返してしまうことも多くて、結局クラスに馴染めず、いじめを受けていたこともありました。

プラスサイズモデルになるまでは、ありとあらゆるダイエットを試みたんですよ。オリーブオイルダイエットやバナナダイエットとか、もう何でも! でも、何をやってもほとんど変わらなくて、ストレスでアトピーを患ったことありましたね…。

「かわいくなかったら結婚もできないしかわいそう」「もし私が痩せたら、もし色白だったら、もし目が大きかったら…私は幸せになれる」。当時、私も親もそのように思い込んでいました。

―現在はアメリカに拠点を置かれています。どのような経緯で渡米されたのですか?

藤井:短大で演劇を学ぶために、地元から上京して、当時は舞台にも時々出ていたんです。卒業後の進路を考えたときに、演出家の先生に海外に行くことを勧められました。ただ、英語もほとんど話せないし、海外についての知識もなかったんですけどね。それでも、「国際派俳優になるためにはハリウッド!」だと思い、ほとんどリサーチもせずに安易に渡米を決めました。

―ピンと来たら動いてみると。

藤井:これだと思ったら迷わないですね。しかし、いざアメリカに来ても、思っていた以上に言葉が分からず、しばらくは会話に相当苦労しました…。自分のことを説明できないし、相手の言葉も理解できない。友達はおろか、渡米して1年くらいは誰ともうまくコミュニケーションが取れずに孤独でしたね。本来の私はよく喋るし、もっと面白い人間のはず…希望に満ちて渡米したはずなのに、どうしたものかと。

―どのように乗り越えたのですか?

藤井:アメリカに来て一年目は、語学学校に通って徹底的に英語を勉強。その後、学校外へと行動範囲を広げつつ、出会い系サイトで恋人を見つけました! 本当は友達を作りたかったんです。でも友達って、相手に楽しんでもらえるだけの英語力がなければ、自信を持って作ることができないと思っていました。自分を好いてくれる恋人なら自分に優しく接してくれるじゃないですか(笑)。どんなに拙い英語でも一生懸命聞いてくれるんです。そうなると私も嬉しくてどんどん話す。自分が勉強している言語を話せる相手と付き合うと、言語の上達が早いとはよく聞きますが、私の場合も本当にそうなりました。交際がスタートしてから、日常会話もかなりスムーズになりましたね。

また、日本にいたときは、はっきりモノを言う性格が非難を浴びましたが、アメリカでは正直なところが魅力的だと言われたんです。「正直に言ってくれてありがとう、君の正直なところに感謝する」と。以前はマイナスだと思っていたことが、環境を変えるとプラスに変わる。徐々に自分のことが好きになっていきました。

批判は想定内。私がSNSで戦っている姿を見てほしい

藤井:順調に付き合っていた恋人とも1年程度で別れてしまいました。最後に言われた言葉が「もう少し痩せた人と付き合いたい」だったんです。正直な部分は好きでいてくれたけれど、太っている人はダメなのか…。自暴自棄になって、アプリで知り合った男性と一夜を共にする、というのを繰り返していた時期も。寂しさから、自分を受け入れてもらえる人なら誰でもいいと思っていたんでしょうね。今思えばセックス依存になりかけていたと思います。

そんな生活が続いてしばらくしたある日、友達が“ボディポジティブ”をテーマにしたYouTubeの番組を紹介してくれたんです。ボディポジティブとは、従来の美の基準から自由になって、自分の体型を受け入れようという考え方。今までは、たとえば「肌が白くて目が大きい」といった人たちが“美しい”と定義されることが多くありましたが、それだけが“美しい”ではないと。極端に細い人や、シミがかなり多い人、病気で体に特徴がある人も、一人ひとりにそれぞれの美しさがあるのだと唱えています。そもそも、自分が“美しい”と信じて自分のことを表現しているときは、誰もが魅力的になれるんですよね。

ちょうどアメリカがそういったムーブメントが盛り上がりつつあるタイミングで、私もプラスサイズモデルとして番組に出演するようになりました。インスタグラムにも力を入れるとフォロワー数も一気に1万人程度増え、社会の流れにうまく乗れたと思っています。

―素敵なムーブメントですね。ただ、日本ではボディポジティブがまだまだ追い付いていないかもしれません。藤井さんがTwitterで、アンチフェミニストやアンチプラスサイズモデルの人たちと戦っている場面をよく拝見します。過去のインタビューで、「怒りのロールモデルになりたい」と発言がありましたね。

藤井:SNSで叩かれることは想定内です。それより、私より若い世代の人には、私のようなつらい思いをしてほしくないんですよね。

先のYouTubeの番組しかり、アメリカでは日本よりも先にフェミニズムについて訴える人たちがいました。彼・彼女たちも最初は散々叩かれていましたが、ディスカッションを重ねるうちに、世の中の認識も変化していったんです。おかしいと思えることはおかしいと言う。誰かが他人の容姿をからかっていると、それは違うと言える空気になってきたんですよ。そんな変化の過程を見ていたので、新しいことをすると叩かれるのは覚悟の上。ただ、自分の中で、何を言われても大丈夫な状態になってから、SNSでも発信しようと決めていました。

私が発信することで、日本人の意識が少しでも変わってくれたらうれしい。特にマイノリティの人や、弱い立場の人の力になれたらいいなと思います。SNSで戦っている姿でさえ、戦い方の参考にしてもらえたらと考えています。

―アンチの人たちはなぜ怒っていると思いますか。

藤井:気持ちは分かるんですよ。自分の中の常識が覆されると、それは間違いだと言いたくなる気持ち。私に怒っている人は、「太っている人が美しいはずがない」と心のどこかで信じている。自分が信じていたものを否定してくる人って脅威ですよね。人間ってとにかく同じことをしているのが好きな生き物だし、そこに居心地の良さを感じる部分もあると思います。

自信は成功体験から生まれる。行動は「自信の種を巻くこと」につながる

―読者の中には、自分に自信を持てない人たちも多くいます。どうしたら、藤井さんのように自信を持って生きることができると思いますか?

藤井:自信って獲得している最中は気づかなくて、何かを成し遂げた成功経験から生まれるものだと思うんです。自信を持とうと思って取り組んだわけじゃないということ。 何か行動を起こすことは、自信の種を巻くようなもの。ちゃんと芽吹いたら自信につながるし、ある程度時間が経過しないと、結果は分からないですね。

何か行動を起こすことは、自信の種を巻くようなもの。ちゃんと芽吹いたら自信につながるし、ある程度時間が経過しないと、結果は分からないですね。

―挑戦したい気持ちはあっても、不安を感じてなかなか踏み出せない。そんなとき藤井さんはどうしますか? それでも行動するのでしょうか。

藤井:うまくいっているイメージが湧かないものは、やってもうまくいかないですよ。私はピンとこないものはやらないし、ピンとくるものは必ずやります。人生って水面に向かって石を投げる「水切り」のようで、ひとつの場所にとどまってしまうと沈んでしまうんです。 何事も良い状態がずっと続くことはないし、今うまくいっていたとしても、変化することを恐れない。私のモットーは、自分の中で新しいことをやり続けること。それは小さいことでもいいんですよ。そうやって動き続けることで、結果的に成功体験が増えていくと、さらに自信につながっていくと思います。

編集後記

藤井さんは「明るくて元気な人」! Twitterでアンチフェミニストの人たちと戦っている強めな姿を拝見していましたが、実際お話をしてみると、太陽のようにその場を明るく照らす魅力を持っていました。

自らを“面白い人間”だと言いつつも、自分が味わったつらい思いは誰にも引き継ぎたくないと語る姿に意志を感じます。日本人の意識を変えたい——という思いにも。フェミニストとしての発信をはじめ、本音をさらけ出し、覚悟をもって生きている姿は、外見のみならず内面的にも美しいと思いました。

※写真は藤井美穂さんご本人より提供

松永 怜

千葉県出身。医療現場で10数年以上働いたのち、フリーライターとして活動。ライフスタイル、エンタメ、医療、恋愛婚活など担当。 文春オンライン(文藝春秋)、東洋経済オンライン(東洋経済新報社)、telling,(朝日新聞社)、ダ・ヴィンチニュース(KADOKAWA)、m3(エムスリー)、らしさオンライン(リクルートスタッフィング)、CHANTO WEB(主婦と生活社)ほかでも執筆中。カレーと珈琲とライブが好き。
【Twitter @kickmomo】

ニュー アキンド センター
タイトルとURLをコピーしました