承認欲求で労働する人間。金を払ってでも働きたい「最安値人材」のワナ

ニアセ寄稿

あなたは時給いくらだろうか?
 
私も大して稼いでいるわけではないので偉そうなことは言えない。だが自分が経営者となって驚かされた。この世には「最安値で働きたい人材」がいくらでもいるということを。

承認欲求で労働する人間

最安値で働きたい人がいる」ことを知るきっかけとなったのは、ライター・編集者のオンラインコミュニティ。数千人規模でライターが集う掲示板には、記事の告知とライター募集が飛び交う。そして、そのフィーは驚くほど安い。たとえばグルメライターは食費込み1記事1,500円で募集されていた。
 
平均的な情報記事の原稿は筆が速い人でも執筆に1~2時間かかる。さらに店の取材で短くとも1時間。そして経費が追加される。おそらくこの原稿は赤字になるだろう。つまり「金を払って仕事をする」のだ。正気ならば、こんな仕事を受けるはずはない。
 
しかし、現実には応募者が殺到している。なぜなら「媒体へ寄稿できるライター」「グルメに詳しい人」という承認を得られるからだ。
 
募集している媒体がぐるなびやRetty、あるいはグルメ雑誌だったら私もまだ納得しただろう。有名媒体で働いた実績があれば、単価が上がる。単価が上がれば、その仕事は赤字でも間接的に将来の時給を上げられるからだ。しかし、募集媒体には無名のブログもどきも大量にあった。
 
承認欲求で労働する人間は、金を払ってでも働きたがる。それが、私の結論である。

金を要求してこない人間は信頼できない

だが、経営者になってわかった。承認のために安く働く人材に、ろくなやつはいない。彼らは無能というわけではない。身を粉にして働いてくれるため、むしろ優秀なことも多い。だが彼らは賃金以外の報酬として「承認」を常に求めてくる。
 
承認欲求で働く人材は、根本的に自分を承認できていない。だからマネージャーへ承認を要求する。それが満たされなければ、
 
「トイアンナさんは、私のことが嫌いなんですか?」
「どうせ私は、そろそろクビになるような人材ですよね?」
 
とメンヘラも驚く批判が飛んでくるのだ。
 
褒めるのはやぶさかではないが、毎日「今日はこれができたね」「この才能があるよね」「●●さんがいてくれて嬉しい」とコンスタントにチヤホヤできるマネージャーは少ない。マネージャーにだって忙しい日もあれば、余裕のない状況もある。
 
だが承認欲求をモチベーションにする人材は、そこで不満を抱く。「私はこの職場で愛されていない」という感情は、やがて上司への憎しみにもつながる。そして彼らは退職を検討し始める。そのため、承認欲求をベースに働く人材は自己都合で会社を転々とする傾向にある。

承認欲求オバケを手懐ける人間

だが、この承認欲求オバケを手懐ける人間もいる。ブラック企業だ。ブラック企業では頻繁に社員を貶める。貶めぬいた上で「そんなお前を雇ってやれるのは、弊社しかない」と洗脳するためだ。承認欲求に振り回されている人ほど、その誘惑に弱い。
 
だからこそ資金力のないスタートアップや、自転車操業の薄利企業ほど「承認」を売りにする。表向きの言葉に言い換えれば「やりがい」「成長」だ。「承認さえ与えれば、タダでも働く人がいる」と知った企業が、承認を「福利厚生」として与える代わりに最安値で買いたたくのをどう責められようか。承認欲求オバケへ代わりに給与を与えても「ここではやりがいが感じられない」と転職してしまうのだから、企業も欲するものを与えているだけである。
 
私も、承認を餌にファーストキャリアを選択してしまった同じ穴のムジナだ。短期間で「世界のどこでも働ける人材になれる」という言葉が好きだった。厳しい上司がプロジェクト明けに「Well Done(よくやった)」と一言メールしてくれたときは、印刷して手帳に挟んだ。いまだって、ブログやTwitter廃人をするような承認オバケである。
 
だから、あえて発信している。承認をモチベーションにすると買いたたかれるぞ、と。

承認とカネは、どちらも手に入る

そもそも、承認欲求で動く人間は「認められたいなら、タダででも労働しなければ」と思い込みがちだ。しかし承認とカネは同時に手に入る正当な対価をもらい、きちんと仕事を納品する。その積み重ねが信頼になり、承認となる。「私は有名媒体のライターだ」というのと同じくらい「私は一度も原稿を落としたことがない」という言葉は価値がある。
 
承認をモチベーションにするのは一向にかまわない。むしろ、カネがもらえるからと常に人格否定されたり、殴られたりする職場なんかにいてはいけない。「カネも」手に入れるべきなのだ。承認のために自分を値切ってはいけない。あなたは正当な承認とカネ、両方を手にすべきだからである。
 
この原稿は、ある学生から「タダでもいいので弟子入りさせてくれ」と言われたことがきっかけとなった。個人的なメッセージかもしれないが、たとえ学生で、未経験であっても身銭を切って働いてはいけない。なぜなら自分が値切ったつもりでつけた時給が、いずれはあなたの固定給になるからである。

 
 

ニアセ編集部からのコメント

承認されることだけに意味はありません。承認されることに満足することはやめてください。自分の価値を高めることが重要です。この人だから頼みたい、相談したいと思ってもらえるよう努力していきましょう。

 
 

慶應義塾大学在学中に起業を2回経験。卒業後は外資系企業に勤め現在は独立。フリーのマーケターとして活動するほか、ブログ『トイアンナのぐだぐだ』(http://toianna.hatenablog.com/)をきっかけにライターとしても活動中。

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