【相撲協会を解雇された男】貴闘力が語る相撲界への疑問と期待「今の親方は無責任」

ニューアキンド

相撲ライターの西尾克洋です。2011年より相撲ブログを開始し、2015年からは相撲ライターとしてキャリアをスタートするなど、10年以上にわたり相撲について書いてきました。


大相撲は視聴率10%を超える人気コンテンツである一方で、暴力事件や薬物事件などの不祥事が絶えず、またファンの高齢化という課題もあり、改革の必要性が叫ばれるのが実情だ。

そんな中、現在YouTubeチャンネル「貴闘力部屋」が話題で、22万人もの登録者を誇る一方、相撲界に対する尖った発言が物議を醸すことも少なくない貴闘力さん。神田伯山さんや吉田豪さんをはじめとした著名人がチャンネルの魅力について言及するほど、多方面から注目されている。

私自身、貴闘力さんの発信から少し距離を置いている部分もあった。というのも、野球賭博に関与し相撲界を去ったという経緯から、金銭的な事情を理由にYouTubeを始めたのではないかという見方を捨てきれずにいたからだ。しかし、元親方やコロナ禍に引退した力士をYouTubeチャンネルに招き、相撲界の問題を批判したり、鋭く指摘したりするなど、大きな話題性を誇ることも事実。それゆえ、なぜ今積極的に発信しているのか、これほど人気を集められるのかを聞いてみたいと思った。

そんな貴闘力さんのこれまでを振り返りながら、YouTubeで発信を続ける原動力やオンラインショップの開業に至った経緯、そして今後の展望についてお聞きした。

【ご本人のプロフィール】
名前:貴闘力忠茂(たかとうりき・ただしげ)
年齢:54歳
職業:実業家、YouTuber(貴闘力部屋)、オンラインストア「貴闘力部屋~相撲再生計画~公式ショップ」を運営
過去の経歴:力士(最高位:関脇)、力士引退後は大嶽親方として相撲部屋を運営

「全部できなかった」と語る親方時代

相撲界に対して意見することが多い貴闘力さんも、かつては親方を務め、自らの相撲部屋(以下、部屋)を運営していた。内部の人間だった時期があることから、過去にやり残したことやうまくいかなかったことがあったのではないかと私は考えた。

―親方時代にやり残したことや、達成できなかったことは何でしょうか?

「全部だね。弟子の私生活や稽古、部屋の経営も全て。知恵が回らなかった。

親方の仕事って、お金勘定や弟子集め、稽古、食事など、部屋の運営にかかわること全てを把握しなければならない。これをひとりでやるのは無理なんですよ。そういうものを全てやろうとすると全部いい加減になるからね」(貴闘力さん、以下同)

私は親方の役割について、知識としては知っていたし、大変なものだという認識はあった。しかし、貴闘力さんの話を聞くと他の部屋の実態が気になる。親方の仕事を完璧にできている部屋はあるのかと聞くと、返ってきたのは「ないよ」というシンプルな答えだった。言い切られたところや、実際に運営した方がこう語ったことから、部屋運営の難しさを伺い知る結果となった。

相撲ファンとして、貴闘力さんが親方をしていた当時の大嶽部屋で気になっていたことがある。それは「右肩上」(みぎかたあがり)や「森麗」(もりうらら)といった珍名力士が複数在籍していることだった。

―なぜ特徴的な四股名を付けたのでしょうか。また、それは力士にとってプラスになると言えるのでしょうか。

「これはね、たとえばケガをして、『がんばっても、幕下上位に上がれるかどうかだな』っていう、相撲の実力だけでは食べていけないような力士がいるとします。彼らのような人でも、引退後、元力士なうえに元珍名力士だったら、商売でも営業でもいろいろな世界で相撲経験を生かしていけるでしょう。現役時代は嫌がるかもしれないけど、のちにその名前で良かったよね、ってなる」

貴闘力さん本人は「全て駄目だった」と話すが、力士にとってプラスになる何かを残そうとしていたのだ。事実、私も前述した四股名の力士のことは印象に残っている。狙い通りだったのである。

実業家への転身は「メシのタネ」

貴闘力さんはとにかく忙しい。11時から1時間程度の取材中に数本の電話が掛かってくるのだが、全てが仕事関連だ。その都度インタビューは中座する。聞いたところによると、このようなペースで夜までひっきりなしに電話が掛かってくるのだという。

―なぜ焼肉店を始めたのですか?

「子どもの養育費に毎月40万円必要だったから、やるしかなかった。メシのタネだもん」

事情があり相撲協会を辞めて、生活していくための手段として始めたのが焼肉店を手がけるといった実業家の活動だった。焼肉店の経営によって、現在は経済的に困ってはいないそうだが「別に今以上にお金儲けがしたいというわけではない、金じゃないんだ。いいところに住みたいわけでもないし、四畳半の部屋でもいい」とまで話してくれた。

―ではプロレスにはなぜ参戦したのでしょうか?

「プロレスに出たのは、あれはギャグ」

「何だ、これ?」YouTubeのきっかけは相撲協会に対する疑問

私は今回の取材で、「YouTubeを始めた動機が経済的なものである」という回答を引き出すため、少し意地の悪い質問を用意していた。ただ、経済的に問題がないという答えが出てきた以上、その回答があまり読めなくなっていた。

―なぜYouTubeを始めたのでしょうか?

「息子(※)が力士になったから。もし相撲取りになっていなかったら、相撲界が悪くなろうが良くなろうが別に関係ないって思ってたんですよ。でも俺は小学6年生の頃から相撲が好きで、ワクワクしていた頃の相撲を力士になって“中”で見たら『何だ、これ?』と、疑問に感じることがたくさんあったんです。

(※)三男の王鵬幸之介(十両6枚目)の他、次男、四男が大嶽部屋所属の現役力士である(2021年9月場所時点)。

その『何だ、これ?』を解消するためにやるべきことを、YouTubeに発信していく。今、『相撲のここが悪い』と散々言っているけど、俺が知っている相撲界の悪いことを全部さらけ出していきたい。

相撲っていうのは面白くて、楽しいもんだと。でも相撲協会はいろいろとはき違えているところがある。それを正当に戻す。それが俺の仕事だと思ってるよ」

悪い部分をさらけ出すところが人々の関心を集めているために、貴闘力さんのYouTubeは話題になっている。それでは、世話になった相撲界に後足で砂をかけているだけではないか。だが、貴闘力さんは文句を言いたいわけではない。相撲が好きだからこそ、相撲界をより良くしていく。それが貴闘力さんのYouTubeの根幹だ。

「稽古が足りない」は馬鹿でも言える

今の親方を外から見ていると足りない部分も見えてくる。指導の方針や姿勢、さらには知識といった部分にも話は及んだ。

―今の親方に足りないものは何だと考えていますか?

「力士の稽古ひとつとっても、親方は決まり文句のように『稽古が足りない』と批判します。そんなことは誰でも言えるわけですよ。稽古が足りないなら、稽古が足りるような方法を教えないといけない。『今の力士は稽古をしない』とか言う前に、親方は稽古を教えていない。今の親方は無責任。

あとは、相撲のことを勉強してない。四股名ひとつとってもそう。名前に山(ざん)が入っている力士はみんな引退後、親方になっていないでしょ。山(ざん)と山(やま)との違いってわかる? 神が宿っているか、いないかなんだよ。だから山(ざん)という名前を付けて相撲を取るには性根を入れないと怪我をする。そういうことを全然理解しないまま、弟子に適当な四股名を付ける親方たちに呆れてるよ」

「やま」と「ざん」の違いについては諸説あるようだが、貴闘力さんは誰に教えられたわけでもなく、相撲が好きで書物を読んで調べているうちに知識として得たそうだ。

―今の力士は大きなケガが多いように思えますが、この点についてはどう考えていますか?

「ケガを未然に防ぐ方法はいくらでもある。ただ力士も指導者もそのレベルにまで到達していない。柔らかい筋肉を作れていない。若乃花(三代目。花田虎上氏)みたいに股割りができていなくても柔らかい体は作れるんです。

半月板が割れたとか、肩が外れたとか、そういうのはパーツが壊れているだけだから、ケガのうちに入らない。腕が折れたとしても、2ヶ月我慢すれば治る。骨はくっつくんだよ。ただ、怖いのは靭帯が切れるような、力が半減してしまうようなケガ。そうならないようにするためのトレーニングを教えていかなければいけないけど、力士も指導者も学びが足りてないのが現状」

治るものはケガではないと断言する貴闘力さん。確かに、額から血を流しながらもそれほど気にも留めずにそのまま続行しているのを稽古場で見たり、膝の負傷を抱えながらも「大したことないです」と言いながら本場所を完走したりと、力士たちの強靭な体は私たちの理解を遥かに超えている。

また、ケガを未然に防ぐためには、力士自身のレベルを上げるべき、という話も非常に興味深かった。相撲の世界で柔軟性といえば、いわゆる柔軟運動のことを指すのだが、相手の出足の圧力を無効化するという意味での柔軟性についても、関係者の間では重要視されている。幕内力士の平均体重が160キロを超える中でケガをしないようにするためには、まず力士としての能力を上げ、かつ攻撃を受けられる柔らかさを身に着けるというのは、理にかなった話だと感じた。

さらに興味深いのは、一般人の目線と相撲関係者の目線では言葉の定義が大きく異なることだ。力士生命に関わるものを「ケガ」と捉え、闘ううえでより実戦的な柔らかさのことを「柔軟性」と捉える。力士はアスリートではなく、やはり力士なのである。

焼肉店だけで十分儲かっているのに、あえてオンラインショップを始める理由

さて、貴闘力さんが相撲協会に対して今言いたいことがある事情も、そして主張についてもかなり興味深い話を聞くことができた。もうひとつ気になったことがあった。それはこれまでの活動とは少しベクトルが異なるものだ。

―貴闘力さんは最近オンラインショップを始めたそうですが、その経緯を教えてください。

「たとえば相撲協会が売ってるものとかさ、『なんでそんなに高いんだよ』ってものもあるじゃん。俺は良いとは思わない。なら俺がやっちゃおうって。ただ儲けるためだけなら焼肉店をやっていればいいんだよ。でもファンのためにさ、面白いものを作った方がいいじゃん。YouTubeもそうだよ」

貴闘力さんの行動は単純明快だ。問題があるならば、自分で何とかすれば良い。

問題を認識する嗅覚があり、すぐに行動に移す。そしてそれを支える支援者がいて、結果として商売が成立する。焼肉店でも、YouTubeでも、オンラインショップでも、全て同じなのである。

「国会議員」になりたい理由と、変えねばならないこと

―貴闘力さんの今後の夢をお聞かせください。

「俺の野望は、国会議員になって相撲界を変えること。相撲協会が自ら変化することができないのであれば、外部から働きかければいいんだよ。

そのためにはさ、応援してくれる人の数が必要なんだよ。YouTubeを始めて1年くらいでチャンネル登録者数が50万人くらいに増えると思ってたけど、現時点で22万人くらいかな(取材時の2021年8月末時点)。今は支援してくれる人を集めている段階だね」

―貴闘力さんが思う、相撲協会が「これは変えなければいけない!」という点は何ですか?

「相撲協会の運営は、経営ができて、そのうえで相撲を愛している人に任せた方がいい。歴代の理事長は相撲しか経験していない人たちでしょ。相撲界で上位にいったからといって、務まる仕事内容じゃないんです(笑)。相撲の理事長は親方がやらない方がいい。どう考えても無理がある。あと、今は外部の委員も、協会幹部から息のかかった人を入れてるんだよ。そういうやり方は絶対アウトでしょ。報酬がいくらだとか、意思決定のプロセスだとか、見えない部分が多すぎる。透明化された協会であるべきなんだよ」

しかし、貴闘力さんはこうも語る。

「自分がやりたいと思っていても、できるかできないかは俺が決めることじゃない。周りが決めること。できなければできないで、焼肉店の経営を楽しく続けていく」

実業家としての活動をしながら、自分を育てた相撲のために、名前に傷が付くリスクを背負ってまで尽力できる人はいないだろう。しかも「自分が決めることではない」と話しながら、実業家としてもYouTuberとしても結果を残しているのである。国会議員の貴闘力さんを見られる日が来るかはまだ不透明だが、始めて間もないオンラインショップについては早いうちに実を結ぶのではないかと思う。貴闘力さん自身が運営するのであれば。

西尾 克洋

1980年生まれ。鹿児島県出水市出身。日本大学卒業後、2011年に相撲ブログ「幕下相撲の知られざる世界」を開始し、1300万PVを記録。2015年からはスポーツライター・相撲ライターとしてキャリアをスタート。Number、現代ビジネスなどで相撲記事を担当し、フジテレビ「グッデイ」やTokyo FM「高橋みなみのこれから、何する?」、NHKラジオへの出演・取材協力など活動は多岐に亘る。ヤフー公式コメンテーターとしても活動中。著書に『スポーツとしての相撲論』(光文社)。

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