林業がやりたくて、自分で山を買っちゃった。“NEO林業家”イシタカさんに話を聞いてみました。

ニューアキンド

20代で山主となった男、その名は「イシタカ」

こんにちは。ニューアキンドセンターのつかDです。

コロナ禍における密にならない趣味として、キャンプを楽しむ人が増えていると聞きます。いいですね、アウトドア趣味。憧れます。

さて、アウトドアを楽しむためにテント、車などを買う人は身近にいるかもしれませんが、流石に「山を買った」という人はいないのでしょうか。今回は若干28歳で山を買った男の話です。しかも、彼はアウトドア趣味のためではなく、自分の目指す「林業」のために山を買ったと言います。

20代で山を買う男とは、一体どんな人物なのか。買った山で何をしようとしているのか。「林業」への思い、「NEO林業家」を名乗る理由を聞きました。

twitter:イシタカ|NEO林業家
note:山を買う

実家は100年続く老舗旅館。身近に商売を感じながら育ったイシタカさん

―山買ったんですか?

イシタカ:はい、買いました。「イシタカ山」と名付けました。このnoteに詳しく書いてあるんで、読んでください。

― 山を買った話はそのnoteに譲りましょう。今日は、一サラリーマンにも関わらず山を買っちゃったというヤバイ男が、どのように育ってきたのか、何を目指しているのかを聞きたいと思います。

イシタカ:よろしくお願いします。

検索すると出てくるイシタカ山。企業のオフィス。

イシタカさんは「林業家」ですが、「林業家」って一般的な就職活動では中々たどり着かない気がします。 元々林業が身近にあったのでしょうか。ご実家が林業をやっていたとか?

イシタカ:いえ、林業とはあまり関係のない家に生まれました。実家は山北町で100年続く旅館なんです。旅館のある山北町には小さな発電所が沢山あるんですが、その発電所をつくる作業員さん達に部屋を貸していたのが旅館の始まりと聞いています。 旅館の名前は「落合館」です。かつて「落合」という場所にあったことから、そう名付けられました。

「落合」という地名の由来は、その地域がちょうど二つの川の合流地点にあり、「川と川が落ちあう」というところから来ています。川に付随した道もそこで合流していたので、「人と人が落ち合う場所」と考えることもできます。 何度か移転して、丹沢湖ができるときに今の場所に落ち着きました。

移転前の「落合館」

父が元々病弱だったため、旅館の仕事は主に母がこなしていました。繁忙期にはキッチンで寝たり、自分を犠牲にしてもお客様が一番という姿勢を間近で見てきたので、「商売って大変なんだな」とは感じていました。私には兄が3人いるのですが、その旅館業の収入だけで子供4人を育て上げたというのは並大抵ではなかったと思います。心から「すごいな」と思います。今は一番上の兄が旅館を継ぎましたが、母もまだバリバリ働いています。

「実家が旅館」ってカッコいいですね!

イシタカ:辛いこともありましたよ。特にお風呂が辛かったですね。お客さんと自分たちが入る風呂が一緒だったんですよ。中学校で部活を終えて汗だくで帰ってくると、スポーツ合宿で泊まりに来ている高校生のお客さん達が大人数でお風呂に入っている、なんてこともよくありました。その時はお客様優先なので、自分はお客さんが終わるまではお風呂に入れない。夏場は特に辛かったですね。

受験勉強の時に、別の階でお客さんがどんちゃん騒ぎをされたのもストレスでしたね。でも、そのお客さんたちが来てくれるおかげで自分たちがご飯を食べたり学校へ行くことができる。そのあたりのジレンマはありました。

何かに導かれるように林業の道へ進んだイシタカ青年

高校卒業後、東京農大に進学されていますが、やっぱり林業家を目指して進学したんですか?

イシタカ:いや、農大へ進学したのは陸上部が目的でした。箱根駅伝を目指していたので。ただ、結果的には農大へ進学したことは、その後の人生に大きく影響しましたね。農大で植物の事や、里山の事を勉強するにつれ、「田舎、いいなあ」「ゆくゆくは地元に戻って、汗をかくような働き方がしたい」と思うようになったからです。

協力隊では実践的な農業や林業に触れる機会が多かったので、その中で農業ではなく「林業、いいな!」と強く思うようになりました。ここで、自分の進む方向性がガチっと固まりましたね。「俺は林業がやりたい!」と。

1年間の緑のふるさと協力隊活動が終わり実家に帰省した際、たまたま実家にお客さんとして来ていた地元山北町の森林組合の方とお話する機会があり、「ウチに来ないか」と声を掛けて頂きました。ただ、その時点で今度は2年間「地域おこし協力隊」への参加が決まっていたので、「2年待っていただけませんか」とお伝えしました。そして、2年後に改めてご連絡したところ、本当に待って下さっていて、採用していただきました。こうして無事に「地元で林業の仕事に就く」という第一目標を達成することができました。

イシタカさんが「山を買おう」と思った理由と、山を買った後に起こった変化

― 陸上をきっかけに進学した農大、就職が上手くいかずに参加した地域おこし協力隊、実家の繋がりと、なんだか林業に吸い寄せられているようにも見えますね。森林組合で働きながら、今度は自分の山を買うわけですが、そこにはどのような思いがあったのでしょうか。

イシタカ:まず、この地域の林業は苦境に立たされていると感じています。森や山があるのに、それを伐採してもお金に換える手段が少ないからです。また、木材の価格が昔と比べて下落しているというのも事実です。山はあるけど有効活用の仕方が見いだせない中で、安定した売上になる公共事業の受託仕事ばかりになっているのが現状です。このままではジリ貧という思いがあります。

一方で、本当に山ってお金にならないんだっけと考えてみると、そんな事は無い。確かに木材の価格も一番良かったころから比べて下がっていますが、値段がつかないわけではないですし、今見えていない販路もあるかもしれない。また、そのまま売れなくても加工、製材することで高単価商品に作り変えることもできるかもしれない。

まだまだやれること、やってないことがまだ沢山あるんです。ただ、組織の中でそれを主張し実行していくには自分があまりに下っ端過ぎることもあり、もどかしさを感じていました。それなら組織の外で、自分がやりたいような「林業」というものを実現できるように動いてみようと。その一つの手段が「自分で山を買う」というものでした。買ったあと具体的に何をやるかはカッチリ決めていなくて、色々試してみようという実験的な意味合いが強かったですね。

― なるほど。個人として林業の伸びしろに投資したということですね。それにしても山主になるというのは凄い決断です。実際に山を買ってみてどうですか?

イシタカ:山を買ったことで、色々な気付きがありました。山に行き、自分で木を伐採して、加工して売る。すると、ちゃんと買ってくれる人がいるんです。「なんだ、ちゃんとお金になるじゃん」と思いました。やってみないと分からなかったことです。薪の無人販売所で、初めて代金を入れるお皿にお金が入っていた時は嬉しかったですね。

この日も丸太の購入者が。チェーンソーカービングに使うと言う。

インターネットでも商品の販売を開始しようと準備中です。商品は検討中ですが、例えばまな板、キーホルダー、コースター、スウェーデントーチなどを考えています。面白いものだとヒノキの壁掛けを作ろうと思ってます。ヒノキの節ってぴかぴか光るんです。それを寄せ集めて作る壁掛けです。家具にもいずれ挑戦したいですね。今は家具を作るyoutuberの動画を見て勉強してます。とにかくまずは自分で作って売ってみようという感じです。やりたいこと、作りたいもののアイデアがどんどん出てくるので、楽しいです。

また、自分の活動を発信することによる副次的な影響もありました。SNSのフォロワーが増え、晶文社さんのWEB連載も始まりました。これも山を買った効果と言えるかもしれません。

― 山を買ったことで、色々なことが動き出したんですね!最近芸能人など、キャンプ目的で山を買う人もチラホラいます。それについてはどう思いますか?「気軽な気持ちで手を出すなよ」って腹が立ったりしますか?

それは全くないですね。山は先祖代々受け継がれているという心情的な理由と、税金が安いという金銭的な理由で、「ただ何となく所有者が持っているだけ」という状態になっていることが多いんです。そんな状態に比べれば、キャンプで活用する方がよっぽど価値がありますよね。山を欲しい人、活用出来る人が持っている方がよいと思います。

イシタカ山

「NEO林業家」も作戦のうち。林業×発信力でパイオニアに

― 新世代の林業家としてまさにパイオニアのような存在だと思うのですが、参考にされている方はいますか?

イシタカ:田中畜産の田中一馬さんですね。畜産業でアパレルみたいなことをやったり、youtubeで牛の蹄の手入れ方法を配信したりとか。発信や自己プロデュースがとても上手だと思うので、同じ第一次産業に携わる者として、勉強になることがとても多いです。あとはプロ無職のるってぃさんとか。もっと発信力をつけたいので、とても参考にさせてもらっています。

私が「NEO林業家」と名乗ってSNSで発信を続けているのも、発信力の重要性を感じているからです。もっと色々な人に自分という人間、自分の活動を知ってもらいたいですね。SNSでは「自分の実力を実際より大きく見せてしまっているのでは」と思うこともありますが、SNS投稿をきっかけにWEBサイトを訪問してくれたり、私の活動を応援してくれる人が1人でも増えるならば、自分はやるべきだと考えてます。

もちろん、応援してくれる人やお客さんをがっかりさせないように、真面目に頑張っていくことが前提です。ちゃんとクオリティ高い商品を作るとか、山の仕事も細かいところまで行き届くようにするとか。

この日は農業系youtubeチャンネルの取材も。
発信力は着実に上がってきている。

― どこまでも地に足がついていますね。では最後に、今後の目標を教えてください。

イシタカ:林業の世界ってよくやたらデカい目標を掲げる人がいるんです。「林業を持続可能な産業にする」とか「地球の環境を守る」とか。でも、個人でいくら頑張っても、できないことがあると思います。例えば私が個人で「林業を持続可能な産業にする」なんてことは到底できない。でも、私自身が林業という世界の中で持続的に稼ぎを得ていくことはできると思っているんです。だから、まずはそれをやっていきたいです。その先にまた見えるものがあるかもしれませんが、それでも根っこは自分と家族、周りにいる人を大切にするということで、それは変わらないと思います。

引き続き山を有効活用するノウハウを蓄積しながら、「イシタカ山」をきちんとブランディングして、私の活動を応援したいと思ってくれる人に向けて商品を作っていきたいですね。今商品に入れる「イシタカ山」のロゴを作っているところです。自分がイシタカ山で切って、加工してきたものを買ってくれる人への感謝の気持ちを、そのロゴには籠めるつもりです。

― ありがとうございました!

愛犬のマツ

編集後記

「趣味はYoutubeを見ること」というイシタカさん。でも、何より一番楽しいのはイシタカ山で仕事をしている時だと言います。落ち着いた語り口ですが、山や林業に対して非常に熱い想いを持っていることがよくわかりました。

旧世代には思いもよらないアプローチで、独自の林業の道を切り開いていってくれることでしょう。これからWEBショップ「イシタカ山」も開設予定とのこと。是非注目してください。

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