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残業は悪。という考えがついに日本へ上陸してくれた。だがその背景には高橋まつりさんの死があり、さらにたくさんの判例があった。現在でも毎年のように訴訟が取りざたされる中、必ずこういうリアクションを目にする。   「残業するヤツなんて無能なだけでしょ」と。   最初に言っておくが、私はそういう意見を愚かだと思っている。そして今からこの記事でボコボコに殴るつもりだ。洗練されたロジックなんて、用意するつもりもない。それでもいいという方だけ読み進めてくれればよい。 定時退社をする人が、やっていること 書籍『  新 13歳のハローワーク』『  「会社四季報」業界地図 2018年版』を開けば、この世にはさまざまな労働があることを体感できるはずだ。そして個人しだいで早く帰れる職業も大量にある。   実際の話をしよう。ある知人が、銀行で働いている。一般的には激務と呼ばれる部門にいるが、彼は毎日きっかり17時半に帰宅する。理由は明確で「家でやりたいことがたくさんあるから」だ。彼はプライベートが確保されれば出世できなくてもいいと思っている。   彼は叱られない程度に業務をこなすため、ほとんどの作業をExcelのマクロで組みなおして部署全体の業務を効率化した。1年目のころは「先輩より早く帰るな」と指導を受けたが、彼はかたくなに定時帰宅を続けた。そして今では「あいつはそういうやつだから」と治外法権を与えられている。   彼は業務を効率化する能力の高さと、出世よりプライベートを優先する一貫した態度で帰宅する権利を得た。もしこの企業でワーク・ライフ・バランスを重視する施策が実施されたら、出世も手に入るかもしれない。   だが、彼のスタイルを維持するには最低でも下記の条件が必要だ。     <有能でさえあれば早く帰れる人材が持っている条件>   ・効率化できる業務が多い 彼は業務をマクロ化することで定時帰宅を実現した。しかし、そのためには「マクロ化できる業務」であることが必須である。効率化しやすい業務は、ルーティーンの多い作業だ。自分に割り当てられた仕事に「決まりごと」が多くなければ、効率化も難しい。   ・仕事を効率化して同僚が感謝する風土がある 仕事を効率化したら誰もが喜ぶ職場は、限られている。たとえば、子供ができたから多く働いて残業代を稼ぎたいという人にとって、効率化は「何てことしてくれたんだ」と受け止められるだろう。自分がトップならそういう人材を切ればよいが、下っ端ならどうしようもない。   ・プライベートにやりたいことがある 有能な人材ほど、仕事でほめられやすい。だからもっと仕事に精を出す……というサイクルに陥りがちだ。ホワイト企業へ転職した激務を経験した社員がプライベートに物足りなさを感じ、再び激務に戻っていくケースはまぁまぁある。残業を無くすためには、そうしたいと思わせるほどのプライベートが必要なのだ。 私が激務だったころ、私以外は有能だった 対して、私が激務だった頃を見てみる。当時の自分が激務だったのは無能なせいだった。だが、取引先の広告代理店はそうではなかった。彼らは労働集約型の仕事をしていたせいで、激務になっていたのだ。   まず、彼らは弊社から依頼を受け、広告戦略を立てていた。広告枠の購買や制作スケジュールも考えると、できれば1年前から準備をしたいところだ。しかし予算確保がギリギリまで決まらないこともある。「〇〇の広告の予算、弊社内でもらえないかもしれませんのでもう少しお待ちいただけますか?」という言葉で、簡単にスケジュールはぶっ壊れる。   そして、信じられないような納期になってようやく「やっぱり広告打ちたいです」という恐ろしいオーダーを受け取ってからが勝負だ。広告媒体に「もう広告枠に空きはないよ!」と怒鳴られ、制作会社には「こんな納期で広告を作れるわけないじゃないですか!」と泣かれ、そして弊社からは「こんな広告で売れるわけない。台本全部作り直して」とボツにされる。   それでも彼らは動くしかない。広告代理店は「人」が商材だ。もし彼らが広告を出せなかったら「じゃあもういいよ、直接媒体へウチがかけあうから」と切り捨てられてしまうだろう。ある程度のムチャを代わりに引き受けてもらえるから、彼らに価値がある。そう思われている限りは労働集約型のビジネスをやるしかないのだ。そこに無能も有能もない。むしろ無能なクライアントを抱え、有能な社員が振り回される。 激務にメスを入れられるのはトップの決断だけ 一応断っておくが「広告代理店だから」激務なのではない。たとえば「弊社は戦略立案を強みとする代理店だ。ムチャを要求するクライアントの仕事は受けない」という経営方針が徹底されていれば、こんなことにはならない。   だが経営者にとって、これは苦渋の決断だろう。売上は少なくとも短期的にガクンと落ちる。社員の給与も減る。高い給与が出せないなら「戦略立案がまともにできる優秀な社員」も自社を受けなくなるだろう。100億円、1,000億円をポンと出してくれたクライアントは、ムチャを引き受けてくれるところへカネを払う。この世から激務は無くならない。仕事の上流にいる人間が、ムチャな依頼をする限り。   業界全体の仕事のやり方が、あるいは取引先が咎を背負うべき事例はいくらでもある。だから残業をいち企業の責任、さらに言えば個人の責任にするのは愚かとしか言いようがない。どうしても残業代を減らしたいなら、利益と給与を犠牲にしてでもメスを入れるしかないのだ。   最後に、私が経営者として利益を減らしてでも残業を無くせた仕組みだけ紹介しておこう。「1日3時間以上の業務を残業とみなす」ことだ。これなら「思いっきり残業したい」人もせいぜい1日6時間しか働かない。定時はすでに「残業」扱いなのだから、誰も17:30にはオフィスへ残らない。   もしあなたが経営者で、何が何でも残業を減らすと決意したなら使ってみてほしい。実施すれば気づくはずだ。   残業は個人の能力とは全く関係ない、トップダウンのシステムで変わるものだと。     ...

「コンサルティングしたい」「経営したい」と考えた方が真っ先に学ぶフレームワークのひとつに、SWOT分析がある。自社が置かれている状況を俯瞰するために、4つの観点で現状を切り分けるもので、S・W・O・Tはそれぞれの頭文字だ。   ダラダラと理論を並べるよりも、サンプルをご覧いただいたほうが早いので「お~いお茶」を例に簡単なSWOT分析をしてみた。 SWOT分析 こうして要素分解するだけも、ブランドの抱える現状が見えてくる。が、これだけでは経営には使えない。そこで「クロスSWOT分析」を行う。難しい要素はないので初めてご覧になる方もご安心あれ。クロスSWOTとは、4要素を組み合わせて戦略を考えることだ。これも百聞は一見に如かずなので、図をご覧いただきたい。 と、先ほどSWOT分析で切り分けた4つの要素を掛け合わせるだけで、スラスラと戦略が生まれる。実際の経営では自社や市場の現状をしっかり調べてリスト化する必要はあるが、初心者にも使いやすいフレームワークだろう。   クロスSWOT分析を行うメリットは、取りうる施策を平等に並べることで、冷静に検討できることだ。しかし現実はそうではない。「SWOT分析・クロスSWOT分析を用いて、自社がどうすべきか提案してくれ」と依頼しても、ほぼ全員3パターンの案しか出してこない。弱み×脅威を踏まえた案、つまり「撤退戦略」はおおよそ誰も選ばないのだ。 撤退を選ぶ勇気は、経営者が発揮すべし その理由は、なんとなくわかるはずだ。たとえ出来たてホヤホヤのベンチャーだって、今期の売上目標くらいある。撤退を選ぶということは、その目標へ向かって着々と工事してきた道を爆破するに等しい。じゃあどうやって売上を作るんだ? 投資額は返ってくるのか? 出資者への質疑応答を考えるだけで胃が痛むだろう。   特に多角経営を前提としていないベンチャーならなおさらだ。一攫千金を狙ってコツコツお金と時間を投資してきたのに、それをあきらめるなんて下手すりゃ倒産である。それでも冷静に見て沈没する船なら、沈む前に避難するしかない。経営者とはそういうものだ、ということは別の記事に詳しい(撤退戦は経営者の仕事。事業を畳む決断をどこでつけるか、出直しのために)ので、詳しくはこちらをご覧いただきたい。   さて、自社の状況を見るに撤退したほうがよさそうだ。となれば一番重要なのは「さっさと撤退する」ことだ。時間が経てば経つほど赤字が膨らむとわかっているなら、さっさと切って次へ進むに限る。正論だが、そうは問屋が卸さない。そこまで頑張ってきた社員がいるからである。 社員の心を折ると、ベンチャーは折れる 以前、「ベンチャーは社員が命」と書いた(スタートアップに揃えるべき4種の人材と、自社を壊す「毒になる社員」とは)。創業期にどれだけ優秀な社員がいてくれるかで、生存率は大きく変わる。前職でも活躍する優秀な社員を口説き、自社へ引き込むのも大変だったろう。そうやってようやく来てもらった社員へ「やっぱり今までの取り組みはナシにしよう」と伝えるのがどれほど危険か。   「やっぱりリスクを取るんじゃなかった」 「絶対成功するって言った、社長の言葉を信じてきたのに」 「もっとまともな会社があるんじゃないか?」   こういうムードが社内に生まれたとき、優秀な社員は真っ先に辞める。できる社員ほど去るのも早いのだ。だから撤退をするときは社員の情熱をへし折らずに説得せねばならない。ここからは、自社で撤退を繰り返したダメCEOの私から「撤退の作法」をお伝えしたい。 社員本人に、撤退を結論付けさせる まず、「この案は撤退する」と結論を告知してはならない。現場の社員は、社長より自分の方がビジネスを理解していると考える。だからトップダウンで撤退を命ずると「わかっていない人に、無理やり仕事を止められた」と感じてしまい、モチベーションが下がる。   ドストエフスキーの実体験によれば、究極の拷問とは「半日かけて穴を掘らせ、残りの半日でその穴を埋めさせる」ものだという。何の目的も感じられない労働を命じることで、精神的ダメージを与えるのだ。   これまで死ぬ気で挑ませたプロジェクトへ撤退を命ずるのは、穴を掘らせてから、また埋めさせるのと変わらない拷問だろう。だったらどうすればいいか。「この穴、埋めたほうがいいな」と自分で思えるよう、誘導するのだ。   最もたやすい誘導の作法は、社員へオープンに現状を相談することである。「あなたのプロジェクトで、こういう問題が出てきてしまった。これをどうやって乗り越えたらいいか、アドバイスしてほしい」と伝えよう。こちらが頼ることで、現場の社員は信頼されていると感じる。さらに相手を説得せねばならないので、社員は一度冷静になる。上述のSWOT・クロスSWOT分析は、撤退を意識させる道具のひとつだ。優秀な社員なら最終的に自ら撤退を結論付けてくれるだろう。 社員をフォローすることは経営者の責任 それでも無理にプロジェクトを通そうとしてくるならば、第三者の意見を入れよう。たとえば試験段階で消費者調査を導入し「こんなサービス/製品、絶対に使わない」と言われるのはかなり効く。だが、それでも話を持ってくるほど胆力のある社員はそういない。万が一それでもプロジェクトの継続をゴリ押ししてくるのなら、その社員が本当に優秀か疑ったほうがよい。   そして撤退を提案されたら、社員へ謝ってほしい。「このプロジェクトがうまくいかなかったのは、あなたのせいではない。自分の判断力不足だ」と。それが事実である必要はない。というよりも、ほとんどのプロジェクトが傾くとき、それは誰のせいでもない。   経営者の役割はただ、その社員が自分を責めすぎないようフォローすることだ。心を折りさえしなければ、優秀な社員は反省を活かした企画を出してくれる。そのためには撤退で湧き出そうな涙をぐっとこらえて、社員をフォローする。それが、経営者の責任である。     ...

  こんにちは、トイアンナです。   これまでに2回起業してパッとしない成果を出してから就職。現在は3回目の起業へ挑んでいます(懲りてない)。しかし失敗から学ぶこともあります。今回は特に私が辛酸をなめた、スタートアップ界隈でゴロゴロいる「毒になる社員」についてお話します。 スタートアップの時期に、社員は厳選できない 「スタートアップ」。いい響きですが、金も知識も足りない時期です。そんなスタートアップ時期に自社へ飛び込んでくれる社員は、はっきり言ってどこかおかしい、おかしくないといけません。そのおかしい要素別に4分類したのが、こちら。   ・ とにかくデカいことをやりたい「ビジョナリー型」 乱世の英雄です。何もかも決まっていない創業期に大活躍するリーダー。このタイプが発起人となるケースも多いんじゃないでしょうか。営業が上手で資金をバリバリ獲得する一方、なぜか私生活(≒女性問題)で問題を抱えがち。中堅企業へ進化する過程でコンプライアンスと衝突します。   ・ 好奇心でキャリアを選ぶ「キュリオシティー型」 「面白そうだから」という理由でスタートアップへ飛び込んでくれる逸材。アイディア出しや企画で重宝します。欠かせない人材である一方、本人のやる気は「この業界なんとなく分かっちゃったわ」と感じた時点で失速しがち。ようやくビジネスが軌道に乗ったかな、という時期に急な辞職をします。そしてまた次のスタートアップへ繰り出し、永久の旅人となる方も。   ・ 頑張りを褒められたい「ワーカホリック型」 何かをしていないと死んでしまう狂戦士です。元コンサル出身者にありがち。音頭をとってくれるリーダーを求めてさまようため、上記の「ビジョナリー型」リーダーにほだされ、飛び込んでくれます。大企業出身者が多いため保守的な提案をしがちですが、この社員のおかげで違法・脱法の地雷原へ突っ込まず生き延びる企業は少なくありません。   ・ スタートアップにおける守りの要「シールド型」 最後の最後でスタートアップに参加してくる慎重派。スタートアップでなおざりにされやすい総務・財務部門を立て直すバックオフィスの盾です。社長を含め初期メンを叱る役割のため、姉御肌の人材が担当しやすいです。 リスクが高いのは「前社批判に終わるタイプ」 いずれのメンバーも優秀さで厳選すべきなのは言うまでもありません。また、これらの人材どれも欠けてはならない基礎パーツ。最低人数で回すにせよ、この4タイプは欲しいものです。では、いかに優秀さをジャッジすべきでしょうか?    答えは「社会不適合だったからスタートアップへ来た」のではないことです。   一般的にスタートアップは、会社員を経験してから「いっちょやったるか」と集まり、人生を賭けてみる方が多いはず。会社員経験者はマナーや根回しを知っているため案件を受注しようにも有利であったり、投資を得やすかったりします。   ところが「社会不適合だったからスタートアップへ来た」人材はここで力を発揮できません。キャッシュがないとあっという間に死ぬのがスタートアップですから、この時期に参画してもらうのは早すぎるのです。参加してもらうとすれば、安定収益が確保できてからの拡大期でしょう。 過去の経歴を「いかに語るか」で毒になる社員を見抜く 特にスタートアップ期で「毒になる社員」の特徴を列挙します。   ・ 前職について悪口一辺倒で語る ・ 元カレ・元カノについても悪しざまに言う ・ 社交的でFacebookの友人が多い ・ 過去に有言不実行だった経歴がある ・ 挫折体験を語らせると大体「誰かのせい」で挫折している ・ 頭だけを使う成果が多く、手を動かした経歴が少ない   このタイプは「自分がこれまで成功できなかったのは、環境が悪かったからだ」といかに自分が悲惨な経験をしてきたか滔々と語ります。人情味のある社員ほどこれを信じてしまうのですが、実際に仕事を任せると信じられないほど動けません。業務改善のためフィードバックをすると、会社が悪いと言い出します。そうして自社組織を壊してからまた次の会社へ去るのです。   このタイプは、自分を上記の「キュリオシティー型」だと自称しがちです。   「好奇心旺盛なんです、だからいろいろな事業に興味を持って職歴が多いんです」 「やりたいことは全部試します。飽きっぽいと言われることも多いです」   ですが創業期に欠かせないキュリオシティー型は、興味を持ったことはある程度まで完遂します。つまらない作業も嫌だとはいいながら実行する胆力があるのです。一方、「毒になる社員」は前職やこれまで付き合ってきた人間を一方的に責め、自分を被害者にします。   スタートアップを志す人間なら誰しも、大企業に失望した経験くらいあるでしょう。だが創業期を経験することで「自分も至らない点があった」「あの会社の長所も取り入れよう」とバランス感覚を取り戻します。しかし「毒になる社員」は相手が100%悪かった、自分は被害者だと、一方的な視野を維持します。   ちなみに私がいままで聞いて一番びっくりしたのが、「みんな私に恋をしてしまうんです。ダメって言ってるのに。創業メンバーが私を奪い合うことが多くて、それでどのスタートアップも長続きしませんでした」と断言した志望者でした。ここまでくるとポジティブ過ぎてもはやあっぱれですが、採ってはいけない理由も伝わるかと思います。 面接では過去をじっくり聞き出そう では、どうすれば「毒になる社員」を見抜けるでしょうか。事例を見て「こんなんすぐに分かるでしょう」と思われるかもしれませんが、前職への義憤あってこそやり抜ける人と、自分を被害者に仕立て上げるだけで手を動かさない「毒になる社員」の識別は難しいものです。まずは前職や周囲からのリファレンスチェックを勧めます。   また、過去の経験をじっくり聞き出すことで「ずっと他責ばかり」「成果を出す前に組織を去っている」「恋人も相手が悪いとののしるばかり」と、毒になる社員ならではの特徴が浮かび上がります。   スタートアップに適した人材は4タイプ共通で、下記の要素を持っています。   ・ 頭だけでなく手足も同時に動かす ・ 成果を出すまでは意地でも踏ん張る ・ 失敗したらまずは自分を疑う ・ 承認されないシーンでもなすべきことをなす   この共通点は、たとえ飽きっぽいと言われるキュリオシティー型でも同様です。この要素が毒になる社員と未来の幹部を識別するリトマス紙となるでしょう。   「忙しすぎて面接をする時間もない」のがスタートアップではありますが、それでも毒になる社員の雇用は避けたいもの。少ない人数で回す分、メンバーは会社のブランドイメージも担います。採用を最優先にするくらいの気持ちで、自社員を厳選してください。さもなくば私と同じ穴に落ちることとなるでしょう。ご武運を。     ...

  「ブラック企業が嫌いだ」といって反対する人は少ないだろう。定時よりフレックスの方が楽だし、有給休暇はたくさん欲しい。早く帰りたいし、給料は高い方がいい。もちろん私だってそう思ってきた。これまで個人事業主になるのも含めれば2回転職してきたが、いずれも、よりホワイトな労働環境を目指しての行動だった。   現在は1日平均8時間勤務、休暇は自己判断、年収はそこそこ。概ね満足している。しかし将来は子供もほしい、となれば多少背伸びをしてでも仕事を頑張りたい。   そうなると一番手っ取り早いのは、人を雇ってメールの返信や請求書作成などの事務をお願いすることだ。私は執筆業をしているので、原稿に向かう時間が増えれば収入が増える。無理に原稿料の単価を上げるよりも現実的だろう。   そこで初めて「ブラック企業の仕組みがどれほど雇う側から見ると魅力的か」と危うい知見を得てしまった。今日はその話をしたい。 零細企業が与えられる便益は「やりがい」くらいしかない そもそも個人事業主レベルの売上というのは、どこまで行っても零細企業並みである。年10億稼ぐ企業はごまんとあるが、年10億稼ぐライターなんて聞いたことない。新書で100万部売れたって、印税は6千万円くらい。毎年ミリオンセラー出しても企業にはかなわないのだ。ましてや私のような駆け出しライターをや。   というわけでアシスタントに出せる年収はあまりない。これが漫画家なら「先生のテクニックを盗んでいつかは自分もデビュー」なんて夢もあるが、ライターのアシスタントが文章を実際に執筆する例は少ない。せいぜい精度の高い資料の読み込みができるようになるくらいだろう。となると、私のような零細雇用主はやりがいをムリヤリ作るくらいしか応募者を集める術がない。   となると、応募項目はこんな風になってしまう。 「デビューから2年で独立! 次のヒットメーカーになれる職場」 「最速成長を実感できる」 「世界のどこでも働ける人材、なってみたくありませんか?」   なんと抽象的でブラックなフレーズだろう。こんなの、自分のアシスタント応募で書きたくない。たとえ本当に採用された方がやりがいを感じてくれるにしたって、嫌だ。 そうしないと零細企業には人が来ない現実 ところが相談した人材紹介会社の方は、こうおっしゃるのだ。   「でもね、怪しいやりがいでも書かないと零細企業に来てくれる人なんていないんですよ。ホワイト環境で働きたい人なら、誰でも福利厚生がしっかりした大手で高年収狙いますから。そうじゃない時点で応募者にも何かあるんですよ。 たとえば『やりがい』という名のもとに搾取されるのが好きという人は一定数いるんです。搾取されたい人はホワイト企業へ就職させても『やりがいが無い』って言ってすぐ辞めちゃって、結局、激務ブラックを選ぶ。採用者が嫌でも、零細企業でちゃんと働いてくれる人が欲しければブラックな文言を入れなきゃいけないんです」   だったら正規雇用は諦めて、派遣さんを雇おうか。けれど調べていくうちに、もっと嫌な事実と直面してしまった。正規雇用の方が人件費は安い。ある程度優秀な派遣社員なら、時給1,200円は払わないと成り立たない。それより退職金ナシの正社員の方が、よほど安いのだ。   調べるうち「正社員はクビにできないと言われるが、会社を廃業させてしまえばそのまま解雇できる。その後、別会社を立ち上げればよい」という恐ろしい文言まで見かけてしまった。正社員は安定しているなんてウソだ。経営者が「そこそこ優秀な人材を限られた予算で雇いたい」なら、やりがい搾取するのが一番合理的なのである。 下のさらに下を行く雇用の存在 さらに、社会的にマイナスとなる事情を1つでも抱えている人間は搾取の対象にされやすい。たとえば前科がある人、精神疾患で経歴にブランクがある人、知的障がいを抱える人。該当する方は「最低賃金でも貰えるだけマシと思え」的な扱いを受けることもある。   前科といっても過失によるものかもしれない。薬さえ飲めば通常勤務できるかもしれない。知性が必要な労働なんて全労働の何割だよ? そんな鬱積を雇用市場は「純粋なんだね」の一言で飲み込んでいく。   実際、統合失調症で今も闘う方から「これでも雇用があるだけマシ。じゃあ障がい者へも最低時給を適用しろって言ったらどうなると思いますか。クビになるだけです、私たち。それよりは少しでもお金をもらってる今がいい」と言われてしまった。その通りだ。だが中には「時給200円」で働かされるケースもあり(https://lmedia.jp/2015/09/01/67140/)、経済的虐待と言わざるを得ない。……言わざるを得ないが、零細雇用主にとってこれ以上合理的な選択肢があるだろうか。悪くなることは、なんと楽なことか。 実利を与えるのが、せめてもの善意 「じゃあ、零細の雇用主がこの絶望的だけど合理的な雇用環境でできることって何があるんだろうか」   という問いが、この数か月私の脳裏をぐるぐると回っていた。   結論としては2つ。   まずは賃金をできる限り上げることだ。ベンチャー創業期など、厳しい時期はあるだろう。しかし新興企業は助成金や補助金も多いため、雇用で補助金をもらいやすい。それを元手に給与を増やすことはできる。   次に「実になるやりがい」、すなわち将来のカネになるスキルを与えることだ。たとえば執筆が仕事の私なら、就業時間内の研修で実際の執筆方法を教えればよい。本当にライターとして育成し、独立できるシステムができればうちを踏み台にして羽ばたいていける。「こんなところ早く卒業して、別のところで立身出世しなさいよ」というのが、零細雇用主にできる最大のサポートだろう。   一方であまりに権限を与えすぎると、今度は会社を丸ごと乗っ取られたり資金を持ち逃げされたりするかもしれない。世界を率いるビジョナリー・カンパニーだって会社をわざと僻地に作って社外の交流を断絶させたり、会社を讃える歌を作って信仰心を高めたりしているのだ。零細だってそれくらいしなければ裏切者が出る。合理的な範囲で経営するなら、性善説ではやっていけない。   そんな風にして、今日も零細の雇用は回っている。     ...

  「起業したいです。何から始めればいいですか?」と質問をいただくことがある。   私は起業経験こそあれポシャった人間なので立派なことは言えないが、少なくとも最初の1年を乗りきるために必要なことは、結婚式で全部学べた。極論だが起業したい人はもはや独身でも結婚式をすればいいくらいに思っている。なぜなら結婚式の準備をすればビジョンの共有、予算管理、リーダーシップの3点が余すところなく鍛えられるからだ。 「ビジョンの共有」をせねば夫婦喧嘩になる 結婚式準備は、式場見学から始まる。そう思っている人はすでに波乱含みだ。結婚式はまず、夫婦でひざを突き合わせて「どんなことをしたいか」ビジョンを話し合うところから始まる。キリスト・仏教・神前式のどれか。大人数を招くフォーマルな式か、こぢんまりとやりたいか。   普段「何でもいいよ~」と寛容な彼でも、意外と「え?結婚式って会社の人や親戚中呼ぶもんでしょ?」と、とんでもない前提をぶち込んでくる。お互い「それ、結婚式をするなら当たり前でしょ?」と思っている要素を言語化し、ビジョンをすり合わせる。これができないと、そもそも見学にすら行けない。   たとえば、私は結婚式を挙げるつもりすらなかった。自分のためにご足労願うのも申し訳ないし、なによりコスパが悪い。普段は効率厨の夫も絶対にそのつもりだと思って入籍の準備を進めていた。ところが夫の口から出てきたのは「え、世間的に結婚式はするもんでしょ」   「そういうことは早く言ってくれ!」と思ったが、ビジョンを共有しなかった私の落ち度である。   起業でも同じだ。なんとなく「いいじゃん」と集まった創業メンバーも、じっくり話し合うと全然違う夢を見ていたりする。最初にビジョンを一つにせねば起業は空中分解するだろう。経営ビジョンを共有できないグループはすぐに崩壊する。そして家庭は最小単位の経営チームだ。2人のビジョンを共有する結婚式は、まさに起業へうってつけのエクササイズなのである。 「予算管理」こそ結婚式の要 結婚式を挙げる上で最も喧嘩になりやすいのが予算だ。「たっぷりのブーケにお色直しは2回。ビデオ撮影もしたいな〜」なんて夢を詰め込むとあっという間に一千万円。引き出物を入れる紙袋が1つ500円の世界。予算管理なしに式が成り立たない。   新婚は引っ越しやハネムーンでただでさえ金がない。そしてゲストの満足度も気になる。「ドレスばっかり派手で食事はひどかったね」なんて語り草になりたい夫婦はいない。だから限られた予算でゲストにも楽しんでもらわねばいけない。自分のやりたいことを達成しながら客の満足度を最大化する―。まさにビジネスで肝となる考え方である。   私の結婚式では夫が夢を膨らませ、私が予算を緊縮する係だった。「オレンジのお花がいい」「いいドリンクを出したい」といった夢の呪文を唱えると、その都度十万単位でコストが増える。一方、みんなのウェディング調査でゲスト満足度が食事に影響されることを知り、食事予算を最大化するなど独りよがりにならない予算管理が求められる。   起業がすぐポシャる中には「創業者の夢だけいっぱい詰め込んで、客を置いてけぼりにしたサービスを出し、誰も使わず終わる」ものがある。どんな素晴らしいビジョンも、予算内で顧客満足度を上げられないなら意味がない。結婚式はそれを教えてくれる。   さらに結婚式では自分の両親、相手の両親など「最終決定権が自分にある」と思っているプレーヤーが大量に登場する。起業で言うところの株主だ。親族をどう説得して自分のビジョンへ近づけるかは、まさに起業家に求められるリーダーシップである。 「リーダーシップ」で予想外のトラブルを軟着陸させる そして、結婚式がビジネスマネジメントを学ぶ上で素晴らしいのは、予想外のトラブルが必ず起きるという1点に尽きる。私の場合は、友人のドタキャンによりテーブルが1つ消滅した。結婚式では座席表を各テーブルに配るのが作法だから、配置を変えるなら座席表も印刷し直し。深夜、もう間に合わないと泣きそうになったが24時間運営の印刷会社へたどり着いた。   スタートアップでは「いきなりのトラブル」が笑えるほどやってくる。そのトラブルを乗り切るリーダーシップは素質や才能として語られがちだ。しかしリーダーシップは技術。小さな修羅場で訓練すればいくらでも育てられる。結婚式は小さな修羅場の宝庫として、起業家のリーダーシップを鍛えてくれるだろう。   かつて冠婚葬祭の業界で起業したことがある。そのときはイベントへブース出展し、業界内での知名度を上げようとした。在庫手配も予算管理も完璧だったが、まさかのスタッフ不足が前日に判明した。もともと1人いればよいだろうと思っていたが、営業周りで他社ブースを回る間は店番が別途必要なことをすっかり失念していたのだ。マヌケとしか言いようがない。   こういう失敗も結婚式なら「スピーチを依頼していた人がまさかのインフルエンザ」「手紙を読んでくれるはずの親友が彼と浮気していた」などの修羅場で身をもって教えてくれるだろう。(後者はできれば経験したくない)土壇場のリーダーシップは、プライベートの修羅場でこそ磨かれる。「あの時に比べれば、こんなの屁でもない」といえる胆力こそ、起業家の能力だから。 結婚式のプランだけでもやってみる 起業家であれば、結婚式はぜひ挙げてほしい。彼女がいるなら籍は入れずとも結婚式だけでもぜひ。もし抵抗があるなら、100人単位のパーティ企画を1つ打つのが良いだろう。   ビジョンの擦り合わせ、予算管理、そしてリーダーシップの奪い合い……どれも肝がヒリヒリする経験だ。だが、ヒリヒリするのを快感だからこそ、スタートアップって楽しいんだろ?くらいに言える仲間ができることを、いち起業家として期待している。     ...

  学生時代、世界は変えられると思っていました。専門は国際政治で、紛争解決。ビッグな研究にビッグワード。さすがに平和を作れるとまでは思っていませんでしたが、平和が生まれる仕組みくらいは解明できるだろうと。   ビッグなテーマを扱うと、夢も大きくなる。学生起業を思いついたのは、そんな時のことでした。   結論から書きますが、私は2社起業して両方ポシャりました。2社目はそこそこ起動に乗せましたが、最初の失敗はひどかった。けれどひどい失敗ほど学びも大きいものです。ですから今回は大言壮語を振り回して盛大にズッコケた最初の起業についてお話させていただきます。   起業したのは帰国子女向けの教育事業でした。海外に長年滞在した高校生は、大学受験で帰国生向けの推薦入試を受けられます。推薦入試とはいえ事前に滞在国のセンター試験結果に近いスコアを提出する必要があるほか、大学によっては別途筆記試験も課されます。   ところが帰国子女の高校生には卒業して日本へ帰ってから、最初の入試まで準備期間が2カ月しかありません。それゆえ本来の能力を発揮できず第一志望に通らないことも多々ありました。それで「通信教育で帰国前から対策できる仕組みを作ればいいんじゃないか」と考えたわけです。 目的に合致した人しか起業仲間にしてはいけない ここで私は、起業家が「絶対にやってはいけない」ミスを犯しました。当時の彼氏と起業したのです。他に参加したのは彼氏の友達。そして私以外の創業メンバーは金に困っていました。考え得る限り最悪のチョイスです。   何があっても、起業はビジョンが合う人としかやってはいけません。目的に合意できないと、経営方針がブレるからです。私が通信教育で作りたかったのは「帰国生が実力を発揮できる世界」でした。当時の彼氏が求めていたのは「東大に通っている自分の学力で楽にこなせる仕事」でした。彼の友人が求めていたのは「すぐ手に入るキャッシュ」でした。   全員、目的がバラバラです。目的が違えば細かい施策で揉めます。揉めている間は商品の質が上がりませんから、盛大な時間ロスになりました。実例として、知名度を上げるために広告を打とうとしたことがあります。海外在住の日本人向け新聞へ出稿したのです。   そのときは残念ながら集客に繋がりませんでした。しかし「帰国生が実力を発揮できる世界」を目指す仲間なら、広告をどう直すべきだったのか、媒体は正しかったのかレビューしたでしょう。しかし「すぐ手に入るキャッシュ」を求めていた彼の友人はみんなで出し合った広告費が捨て銭になったと怒りました。   テストプランとして出稿したイギリスの新聞広告は、2017年現在もたった£12(約1,600円)。(http://www.news-digest.co.uk/news/classified/apply.html)けれど彼の友人はお金がなく、とにかく儲かると信じて起業に参加していました。だからわずか1,600円で大揉めしたのです。   目的が違う相手と起業してはいけないと書きましたが、特にお金に困っている人と組んではいけないと学びました。仕事柄、ベンチャー企業へ伺うことも多いのですが、成功事例を聞いていても最初の1年は赤字覚悟。正直、お金に余裕のない人間は家庭教師のバイトでもした方がよさそうです。   けれど起業の声かけをして集まる人の半分は「事業売却でがっぽり儲ける」「寝てても従業員が働いて儲かる仕組み」を夢見ています。こういうタイプをスタートアップ期に招き入れるのは最悪の選択肢です。 具体的な失敗と廃業までの流れ ここからは、あまり振り返りたくもない廃業までの流れをご覧いただきましょう。最初は口コミもありそこそこ生徒が集まりました。時給2,000円のバイト程度。これでやる気を出した我々3名は、さらなる集客を考え広告投資を決めます。   「帰国子女にヒアリングしたから」と自信満々に新聞広告を打ちましたが、前述の通り集客へ繋がらず、彼の友人が怒ります。「儲からないなら教材づくりは協力したくない」「じゃあ報酬は払えない」などしょうもない小競り合いをするにも時間を使います。   次第に全員が「何でこんなに時間を使って儲からないんだ」という思考になっていきました。揉めているだけで何も顧客へ価値を提供していないのに、働いたつもりになってしまったのです。   その後は「広告に出資した金返せ」なんて話になった挙句、彼の友人が音信不通に。添削指導にも人材が必要なので、人手不足から通信教育の質が下がり、ゆるやかに生徒が減り始めます。   仲間を探そうと起業の話を同級生にしてみましたが「一攫千金」タイプが集まるばかり。安定した年商が上がったら法人化しようと思っていたのが不幸中の幸いか、アッサリ廃業が決まりました。彼との関係はこの後しっちゃかめっちゃかになり、最後はmixiで相談を聞いてくれた女性に寝取られてTHE END。 起業は華やかで、経営は地味だから 「起業」という言葉は華やかです。ベンチャー企業のウェブサイトには、顧客の世界を変えるソリューションが溢れています。しかし経営と廃業はとても地味。ビッグマウスにふさわしいスモールワールド。けれどすべて自分の責任です。   調子に乗った自分が友情と恋愛関係を壊しました。金じゃどうにもならない人間関係を、金でトラブって壊してしまった。当時は人間不信っぽく相手を責めてみましたが、悪いのは全部自分です。バカ、本当にバカ。あの日の未熟な自分を殺してやりたい。   その後、目的が合う相手と再び企業を志すものの同じく広告戦略でコケて頓挫。モノの売り方を学ぶため、就活で外資系企業のマーケティング部門へ入りました。   今の私は、世界を変える起業はできないかもしれません。けれど自分の担当した商品が売れることが大きな喜びです。それは当時の私が死ぬほど成し遂げたくて、できなかったことでした。     執筆:トイアンナ ブログ:トイアンナのぐだぐだ     ...