【本業2つという生き方】武道館に立っても菓子店は辞めない!腰低すぎパンク道

ニアセイズム

 「やりたいこと」と「やらなければならないこと」、どちらを取るか。多くの人が、人生の岐路にぶつかるテーマです。
 人気バンド「ニューロティカ」のボーカルをつとめるATSUSHIさんは、八王子市の老舗菓子店「藤屋」の店主でもあります。ただでさえ忙しい人気バンドのフロントマンが、この不況下、まったく異業種の菓子店経営を兼任する。相当な葛藤に苛まれ、疲労感に襲われていることだろう…。などと考えながら2022年1月3日、ニューロティカ、初の武道館ライブを見に九段下へ向かいました。いざライブが始まると、想像以上のパワフルなパフォーマンスに衝撃!

ATSUSHIさんが数々のプレッシャーをはねのけステージに立ち続ける、その原動力が知りたい!と後日、八王子の藤屋を訪問。「やりたい」と「やらねば」の2つを手にしたATSUSHIさんの本心とは?

名前:ATSUSHI(アツシ) twitter
略歴:バンド「ニューロティカ」のボーカル、ブッキング担当、菓子店「藤屋」の若旦那。1984年、ニューロティカを結成。1990年日本コロムビアよりシングル「ア・イ・キ・タ」でメジャーデビュー。バンド活動を続けるかたわら、1998年より実家の菓子店「藤屋」(昭和26年創業)の経営を引き継ぐ。2015年、ドキュメンタリー映画『あっちゃん』公開。2021年、ライブハウス「新宿ロフト」で通算300本ライブ出演を達成。2022年、ニューロティカ結成38年目にして初の武道館ライブを決行。

─ATSUSHIさんがお店を継ぐとき、「本当に俺が菓子店をやるべきなのか」という葛藤があったと思うのですが…。

ないですね。

─バンドと菓子店、両方うまくこなさなければ! というプレッシャーは…。

ないですね。

─予定が重なってしまって調整に困るとか…。

ないですね。

─では、思春期はどうでしたか? 「パンクロッカーが菓子なんか売ってられっかよぉ!」という反抗期は…。

ないですね。

─…ええと、くどいようですが「バンドと菓子店の両立」を選ぶのに迷われたことは…。

ないですね。迷ってること自体が甘いんだよって言いたいね。その時間がもったいない。俺は「だったらなんでもやってやる!」っていうタイプの人間なんで。皆さんも、今やりたいことがあるならやってほしいです。

ベアブリックシリーズ35のニューロティカ版の発売後、メーカーにお願いして特別に作ってもらった「ITバージョン」

─明快なお答えありがとうございます! …しかし、ニアセ史上最短でインタビューの結論が出てしまったので、ちょっと寄り道を。2022年1月3日、初の武道館ライブお疲れ様でした。当初、メンバーの中でATSUSHIさんだけが企画に反対をしたそうですね。

そうですね。「無理です!」って。普通はライブハウスからだんたん大きな会場での経験を積んで武道館をやるのですが、ニューロティカは新宿ロフトからいきなり武道館です。すごく嬉しいんですけど、「現実的には無理だろう」と。頭の中が「負債」って言葉でいっぱいになりました(笑)。でもほかのメンバーの士気がすごくて、「俺が武道館をやめるっていったら、バンドがダメになる」と思って。2度目の打ち合わせでは「やろう」って言いました。

─ふたを開けたらチケットはソールドアウト、大盛況でしたね。しかし、バンドのフロントマンはもっと勢いで行くのかと思いましたが、リアルな感覚をお持ちなんですね。

ほかのバンドもみんなそうだと思います。メンバーはみんな家族がいるし、負債を負っても責任が取れない。そこはしっかり考えます。

─そういう危機感から「バンドを諦めてサラリーマンをしよう」と思う方もいますよね。ATSUSHIさんはそう考えられたことはなかったのでしょうか。

ないですね。バンド活動だけでも生活はできるレベルだったので。

─なるほど。そこはやはり、無名のバンドマンとは違って確信がありますよね。でもだからこそ、店舗経営との兼業には驚きがありました。世間が「好きなことだけで食っていきたい」と悩む中、なぜ「音楽だけでも食える人」がお店を継ぐのか? と。

父親が病気になり、母親が一人では大変だと思ったので。「じゃあ手伝うよ」って「フツーに」店を継ぐことにしました。でも、バンドのメンバー3人が「良いよ。店やりながらバンドやれよ」と言ってくれたのが、大きかったかもしれないです。メンバー4人でバンドの法人を運営していたのに、その取締役が「菓子店やります」って、普通は「なんじゃそりゃ!」ってなりますよね。

─仲間が理解してくれるのは、嬉しいですね。しかし、人気バンドと菓子店経営のダブルワークは、かなり忙しいのではないでしょうか。

当時(1998年)そういうことを言われたら「モー娘。とかピンクレディーよりもラクだろ」と答えていました(笑)。今なら「AKB48よりは」とか「医療従事者よりは」と言うかな。「もっと大変な人がいる」ということが支えになっていたんです。仕事があるうちはありがたいって思っちゃう人間なんで、「忙しくて大変だ」とは思わなかったです。もともと、寝ても4時間くらいで目が覚めちゃいますし。コロナ禍でライブがなくなって、初めて「普通の生活」を知ったんですよ。暇すぎて、「なんじゃこりゃ。みんないいなあ」って思いました。暇つぶしにお酒を飲みすぎて、アルコール依存症になりかけましたが(笑)。

─菓子店経営だけだと「暇」とは、すごい体力ですね。ところで、お店をやっていて、楽しいと思うことはありますか?

近隣のお子さんが来て、嬉しそうにお菓子を買って、次に来たときに「おいしかったよ!」って言ってくれると、「バンドと一緒だな」と嬉しくなります。「ライブよかったよ!」と「お菓子おいしかったよ!」、どちらも自分の背中を押してくれています。小さいときから親を見て「人のために商売をしているんだ」というのは感じていました。「みんなお菓子を食べて笑顔になったらいいね」と。

店のそこかしこには、近所の子どもたちから届いた手紙。かわいいお礼の言葉とともに、「ニューロティカのあっちゃん」が

─それが「反抗期がない」というお話とつながるのですね。でも、「バンドだけでいきたい」と思う時期はなかったのでしょうか。往々にして「やりたい」はきらびやかで、「やらねば」は地味です。私なら、ついきらびやかな方に傾いてしまいそうですが。

それは考え方次第じゃないかなあ。俺は武道館でライブやって、翌日新宿ロフトでライブやって、朝まで飲んで、そのあと店に立ちました。地方からライブを見に来てくださったお客さんが、店に来てくれるんですよ。そう思ったから酔っ払っていても、店を開ける。メディアに踊らされると、嬉しいは嬉しいですよ。やっぱ。テレビに出ると近所のおばあちゃんが相当喜んじゃって「あっちゃん、やっと報われたね」って涙ぐんだりして話しかけてきたんですよ。「俺はテレビ出るためにバンドやってんじゃねえんだよ!」と思わなくもないけど(笑)、それでも喜んでもらえると「みんなが笑ってくれるならいいかな」って思えます。それが俺の宿命っていうか、使命だと思うんで。

─カッコいいですね。

おばあちゃんの涙をみて「スターになろう」と思いました。だから、友達のバンドがゴールデンタイムの歌番組に出ると嬉しいんだよね。「ロックなのにテレビなんか出てんじゃねえ!バカヤロー!」じゃないんだよ。「やったね!」って。それは昔から変わらない。

─ある意味、そのおばあさんと同じ感動ですね。

あ! ほんとだ。やべー。そういうことか。いまわかりました。近所のおばあちゃんと俺、一緒の気持ちだわ。

─(笑)。バンドもお店も地続きでATSUSHIさんの生活になっているということがよくわかりました。ただ、大手のコンビニエンスストアーやスーパーマーケットが駅周辺の一等地を占領している今、正直、個人商店の経営は厳しいのでは。

ああ…。ここの商店街は元気な方だけど、それでもお店は少なくなりましたね。お菓子屋さんも何軒かあったけど、みんな閉店しちゃいました。他の街から来た若い人は、ここを通りかかると「なんだこれ」って驚くんです。お菓子といえばコンビニしか知らないんですよね。

─それでも潰れず残っているということは、時代に沿った経営戦略があるのでしょうか。

ないですね。ただ、スーパーやコンビニにはないようなお菓子を仕入れるようにはしています。

─仕入れのときにお菓子を選ぶポイントは?

問屋に行ってパッケージを見て、きれいだったり可愛かったり…90%はジャケ(パッケージ)買いですね。小さい頃から店頭にならぶほとんどのお菓子は食べていましたし、試食品もたくさん来ていたので、ジャケを見ただけでだいたい味はわかるようになりました。実際おいしいものを並べているので、リピーターが多いです。

─では、菓子店はバイヤーのセンスで品揃えが決まるのですね。

それは店によると思います。メーカーさんにとっては、コンビニがトップです。コンビニにバーンと大量に卸して、売れなかった分は安くしてスーパーに卸ろす。だから人気の商品がうちのような小売まで来ないこともあります。声を大にして言いたいですよ。小売を大切にしろ!と。

歴代ペコちゃんからも、71年間の重みが。でも「店名の藤屋は不二家とは関係なく、曽祖父の呉服屋の屋号です」(ATSUSHIさん)

─なるほど。仕入れ量では大手には敵わないですものね…。

そうですね。ドラッグストアでお菓子を安売りするようになったときも、ショックが大きかったです。小売店の仕入れ価格が、大手の販売価格だったりするので。でも向こうも商売ですからね。大手を優遇するのは当たり前です。それがわかっているから、「大手とは違う商品を並べよう」と思っています。

─「経営戦略はない」と言いつつ、状況を見ながら臨機応変に対応されていますね。

ウチは、近所のおじいさんとおばあさん、お子さんたち、そしてニューロティカのファンで成り立っています(笑)。近所の会社が10時と3時のお菓子を頼んでくれたりするんですよ。営業は特にしていないのに、うちを選んでくれる。近所の子どもたちは幼稚園の帰りに買いに来てくれますし。中高生になると都会のコンビニに流れて一旦来なくなるんですが、20歳超えたあたりで戻ってくるんですよ。「これまだ売ってるんだ。懐かしい〜!」って言われると「懐かしいんじゃねえんだよ。お前が幼稚園の頃からずーっと置いてあるよ!」と思いますけど。

─感動的な展開かとおもいきや(笑)。ここまでのお話で、やはり睡眠時間4時間だけではない、ATSUSHIさんなりの「バンドと店を両立するコツ」があるような気がしてきました。

コツ…(と長考し)。楽しく一所懸命やるとか? うーん、みんなに聞かれるんだけど、俺にとってはこれが普通なんですよね。ただ、人との付き合いを大切にするというのはあると思います。パソコンはできないけど人脈はあります。地元の友達とか先輩後輩とかたくさんいるし、バンドの方でも色々なジャンルの連中みんな友達で。これは、親の影響だと思います。商売をしていると、やはり「挨拶はきちんと」とか、人との関わりを大切にすることが普通になるので。だからこんな腰の低いパンクロッカーになっちゃった。

─なるほど(笑)。バンドとお店とお酒も含めた人づきあいを大切にして、とにかくすべて楽しみながら一所懸命にやる、と。

「女」も入れて。一応。ロックなんで。

─バンドとお店と酒、と、女ですね(笑)。そんなに一所懸命になれるということは、そもそも仕事がお好きなんですね。

仕事は趣味のひとつです。遊びの延長。ジョージ秋山さん「浮浪雲」が大好きなんですけど、主人公・雲の「趣味は生きてることでんす」みたいなもんで。その言葉を勝手に歌詞にしちゃってますけど(アルバム「良いか惡いかは別として(笑)」収録「今すぐGO! 」)。

─それ、すごく良いセリフですね。では、AKB48よりは暇ながらにお忙しいATSUSHIさんの、今後の野望をお聞かせください。

2022年7月17日に、日比谷野外大音楽堂でライブがあります。その頃はお酒も飲めていると思いますので、一杯ひっかけて一緒に「わっしょい」できればいいかなと思います。

─野音! すごいですね。今回は「負債」の文字は浮かびませんでしたか?

企画を聞いたとき、武道館のチケットが1600枚しか売れていない時期だったので、負債÷負債でゼロになったんです。麻痺してたんですね(笑)。「やってやるよ!」と。全員一致で。

─なるほど(笑)。でも武道館が成功した今は、期待感100%ですね。野音も含め、今後のご活躍も楽しみにしております。ありがとうございました!

<告知>
【ライブ情報】
ニューロティカ「野音deロティカ」
2022年7月17日(日)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
開場17:00 開演18:00
全席指定(FC先行):8,800円(当日引換お土産付)
全席指定:6,900円
全席指定子供料金:3,900円
ファミリー席:13,900円 ※(親子3人まで)親親子、親子子
※ファミリー席はオフィシャルHP先行のみ
詳細はホームページにて:https://newroteka.com/

<店舗情報>
藤屋 東京都八王子市本町3-9
042-625-2131

長谷川 京子

東京生まれ、横浜育ちのライター、脚本家。金子成人、桃井章に師事し、自主映画祭年間ナンバーワン、演劇祭のグランプリなどを受賞。2008年より広告ライターに。現在はカルチャー誌、女性誌、Webなどで執筆。過去の職歴はサブカル書店員、伊香保の仲居、大手保険会社営業、芸能学校ワークショップ講師・脚本家、夜の蝶、キャンギャル、超大御所コピーライターのゴーストライター、お父さん川柳のゴーストライター、ダイエット食品の広告モデル(ビフォーの役)など。

ニュー アキンド センター

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