ここ数年、ダイバーシティを尊重する社会への取り組みが進んでいます。国籍や人種、性別、年齢、容姿など、さまざまな違いに限らず相手を受容し、能力を発揮できる社会の実現が望まれているのです。
高山芽衣さんは、イケてる薄毛のためのスタイルメディア「NOHAIRS」の創設者。薄毛をテーマとした事業では、コンプレックスを「改善する」ような発信が多いですが、NOHAIRSは違います。「多様性があたりまえな社会の創造」というミッションを掲げ、「コンプレックスは隠すもの」という風潮を覆すべく、薄毛男性のロールモデルを発信する高山さんのこれまでと、これからについてお聞きしました。
高山芽衣(twitter)
株式会社Passion monster 創業者CEO、YouProduce株式会社 CEO
1994年生まれ。長野県出身。専門学校を経て、外資系アパレルブランドの販売員に。独立後は一人一人が個性豊かな人生を歩むための社会をつくるべく、25歳の時に株式会社Passion monsterを創業。薄毛を気にする男性に向けたメディア、「NOHAIRS」を開設し、自身がコンテンツディレクターとして、ウェブメディアやYouTubeにて、イケてる薄毛男性のスタイルを提案している。
「金髪でも成績よければ問題ないじゃん」高校で感じた違和感
―高山さんは今どんなお仕事をしていますか?
高山:NOHAIRSを運営する株式会社Passion monsterと、動画マーケティングを行うYouProduce株式会社の2社を経営しています。Passion monsterのミッションは「多様性を当たり前にする」です。人が持つ個性を自由に表現できるような社会になったらいいなと思っています。
その文脈で、3人に1人が悩んでいるという「薄毛」にフォーカスして「隠さなくても、坊主頭やスキンヘッドのカッコいい人いっぱいいるよね」という社会や、新しい文化になればと、NOHAIRSを運営しています。事業はメディアの運営、企業のマーケティング支援、スキンケア製品、アパレル製品の製造販売です。YouProduceでは動画マーケティングやライブコマース事業をしています。
―Passion monster創業のきっかけは何だったのでしょうか?
高山:父の影響が大きいです。父は公務員ですが、自分の趣味のために割り切って仕事をしているような人でした。私が就職した頃に仕事を辞めて、退職後は毎日好きなことをしながら、すごく充実した人生を過ごしています。いわゆる「お堅い公務員」というイメージに当てはまらない生き方ですね。私はそうした生き方に憧れを抱いていました。
ファッションが好きだったこともあり、トータルビューティの専門学校に進み、「将来ファッションで起業するならバイヤーだ」と思って、外資系のアパレル企業に就職して販売員をしていました。起業を志していたのは、父の自由な生き方の影響ですね。
販売員は素敵な仕事ですが、お客さんを待つという受動的な時間が多く、私には合わないと感じて転職しました。転職して事務の仕事やSNSマーケターとして、女性向けのアパレルブランドの立ち上げを経験したものの、「私のやっていることは、私以外の誰かでもできる」と思うようになっていったんです。そこで「誰もやっていないようなことをやりたい」と、NOHAIRSを立ち上げました。
―「多様性を当たり前にする」と考えるようになった原体験はありますか?
高山: 中学校に入学する前、お姉ちゃんやお兄ちゃんがいる友達は、「中学校とはこういう場所だ」という情報を持っていました。私は一人っ子でその情報を持っていなかったので「浮いてはいけない」と、まわりの様子を見ながら過ごしていたんです。そんな自分にストレスを感じていた中学時代の経験があるので、自分らしさに憧れを抱いていたと思います。
だから、高校は勉強を頑張る一方で金髪の先輩もいるような、生徒の主体性を尊重する学校を選び、入学しました。ところが、入学した年に高校全体の偏差値が他校に比べて下がったことから、「髪色は黒」と、校則が厳しくなったんです。私は「偏差値と髪色なんか関係ない。金髪でも成績がよければ問題ないじゃん」と思ったんですが、先生によっては聞き入れてもらえませんでした。
「多様性や自主性を育む方針の学校だから入学したのに、方針転換をするのはおかしい!」と思ったんですよ。でも、社会に出るとそんなおかしなルールはたくさんあります。たとえば真夏でめちゃくちゃ暑いのにスーツを着なければいけないとか。「自分にとって何が必要かを選択できない社会というのはおかしくない?」と感じるようになっていきました。
―最近では、「体操服の下の肌着を禁止する」というニュースがありましたね。
高山:そのニュース、ほんとキモいですよね(笑)。先生も立場があるので、解決するためのルールをつくるんでしょうけど、あのルールはナシです。髪を染めるなど、「自分はこうしたい」「こうしよう」という行動をすることで、その行動に対して評価を受ける経験ができると思うのですが、これを若いうちに体験しないと、大人になったときに、自分のやりたいことの善し悪しが判断できなくなる恐れがあると思います。
コンプレックスを持った人がカッコよくなったらめちゃくちゃ面白い!
―多様性のなかでも、「薄毛」というテーマを選んだ理由は何でしょうか?
高山:アパレルの販売員をしていたとき、取り扱っていたある派手なブランドがあって、私は「このブランドの服を合わせるのは難しいな、ちょっと浮くかも」と思いました。でも、そんなことは気にせず颯爽と着こなしている人もいて、それがめっちゃカッコいいと思ったんです。他人から見た似合う似合わない、ではなくて、「これが私だ」という姿勢がすごくて。ファッションにおいて見た目と内面は密接につながっているなと感じたんです。
一方で街を歩いていると、薄毛を隠している男性がいます。私は、「これは本人にとってベストなのか?」「薄毛を気にしながら生きるのはつらいのでは?」「隠すくらいなら堂々と剃ってしまえば?」と思いました。
日本では、確かにスキンヘッドの人は少ないし、「怖い」というイメージを抱く人もいますし、仕事には適さないと言われることもあるようです。一方で、スキンヘッドの当人に聞いてみると「覚えてもらえるから営業にはめっちゃいいよ」と前向きな意見も中にはあります。
薄毛はコンプレックスで、悩む人が本当に多いので、何か別の選択肢があってもいいのではないかと思って、NOHAIRSを始めたんです。「コンプレックスを持っている人がめっちゃカッコよくなったら超面白いな」って、ノリで始めたというのもありますけど(笑)。
― 薄毛というと、コンプレックス商材というイメージがありますが、そのようなマーケットを狙ったわけではないのですね。
高山:コンプレックス商材を必要としている人はいると思いますが、必要以上に不安を煽りたくないと思っています。NOHAIRSでは「髪を剃れよ」と言うのではなく、髪を剃るのか生やすのかを悩んだときに、「自分はどうしたいのか」と問うて、理想にたどり着くためのサポートをしているんです。ネットの情報などからまわりを気にして選択をするのは不健全ですね。
結局、魅力的な人は自分にしっかりとした考えがあり、そこに魅力があります。そんな選択を後押ししたいんです。コンプレックスは悪いものでなく、自信を持って選択をしていくことの大切さを伝えていきたいですね。
―NOHAIRSのコンテンツ作りや提供するメッセージにおいて重視していること、これまでに苦労した点はありますか?
高山:コンテンツづくりにおいては、フラットでいることを重視しています。たとえば「ハゲ」という言葉を使うと「悩んでいる人にとって失礼だ」と怒る人もいます。でも、当事者の発言の場合は「そういう人もいるよ」と、発言を尊重して掲載します。
最初はビジネスモデルなんて考えず、とりあえずノリと勢いで会社を立ち上げました。「アイデアは新しくて斬新だし、メディアをやれば広告もつくだろう」と思って。メディアを立ち上げて、プレスリリースを出したら2日後には1万PVくらいの反応があったんです。これはイケるぞ! と思いましたがそんなにすぐにはうまくいきませんでしたね。「イケてる薄毛のスタイルメディア」という、そもそも需要があまりないところをターゲットとしていたので、広告も思うようにつかず、ついたとしてもNOHAIRSの考えとは合わないコンプレックス商材系のものでした。
当初の目論見は外れましたが、幸いにもNOHAIRSで取材した方のほとんどがビジネスパーソンなので、そこからお仕事を紹介してもらえるようになりました。取材させていただいた方を中心としたコミュニティもできました。参加者は20~60代までさまざまです。
ノリで始めた事業ながら、かけがえのない出会いが次々と生まれていく
―コミュニティはどのように広がっていったのでしょうか?
高山:特に意図はしていなかったんです。NOHAIRSで取材させていただいた方は、自分の考えをしっかり持っていて、どこか振り切っている……ツルツルの人たち同士、あるある話をする場を求めていたんですね。それでみなさん集まったら面白がってくれて、とても協力的なんです。「薄毛を気にしている人をハゲましたい」「僕が若いころにこんなメディアがあったら……」という声がたくさんあって。「励(ハゲ)みになります!」と多くの人が言っているのは、このコミュニティならではです(笑)。
―お話を聞いていると、高山さんはコミュニティの方に対して「ハゲ」ていることをおもしろがっているようにも感じました……。
すごく面白いと思います 。堂々とそんなこと言ってくるなんて(笑)。大前提、皆さんをリスペクトしていますし、良い関係を築けていると思っています。「僕はもっと力にならなきゃいけない」みたいに言ってくださる大会社の社長さんもいて、「じゃあもう力貸してください!」って……。本当にありがたいです。
あるとき、私はスキンヘッドの剃毛に手間がかかるということを知ります。これは意外だったのですが、それがきっかけで、洗顔・シャンプー・シェービングフォームを作ろうと、コミュニティの皆さんからヒントをいただいて商品「Borderless Time|ローションソープ」が生まれました。
それと、印象的だったのは東北新社の代表取締役社長の中島信也さんと知り合ったことです。誰からの紹介でもなく私が直接取材の依頼をしたのですが、娘さんがNOHAIRSを知っていてくださって、娘さんの推薦もあって取材を受けていただいたんです。中島さんのように、なかなかお会いできそうにない人にも興味を持ってもらえるのは、他にはない個性的な発信を続けてきたメリットですね。
―すごいですね。オリジナルのスキンケア製品以外にアパレルも展開していますが、事業の売上構成はどうなっているんですか?
高山:ブランディング業の受託が一番多いです。ポップアップストアなどを展開するとアパレルの売上も伸びますね。スタッフは、業務委託も含めて10名くらいです。
やはり日本でスキンヘッド関連の事業だけでいうと難しさを感じていますね。アメリカにはスキンヘッドの市場があり、さまざまな商品があるのですが、日本のユーザーにはあまり認知されていません。日本市場はたとえばお坊さんなどに知っていただくなど、人のつながりで地道に広げていこうと思っています。今後は市場があるアメリカや海外展開の構想もあります。
―NOHAIRSの活動で、薄毛に悩んでいた人が前向きになったという事例はありますか?
高山:そうですね。ある社長の事例ですが、薄毛を隠していた頃は業績も悪く、家族との仲も良くなかったそうです。でも、髪を剃ってからは業績も家族関係も良くなったといいます。ご自身は、隠すものがなくなったので、やるべきことが明確になったそうですし、まわりの方もタブーを気にしなったようです。YouTubeにNOHAIRSの動画を投稿しているのですが、そこでも「悩みがあって鬱っぽくなっていたけれど、そんな悩みがなくなって気分爽快です」といったコメントをいただくこともあります。
皆さん吹っ切れて内面が変わり、自信がつくような印象です。カッコよくなりますね。何も悩まない人は、人の痛みに気づけないかもしれません。でも悩んだ人は強い。相手の悩みをわかるし、吹っ切れているのでメンタルも強くなり、そういった内面の変化が魅力として現れますね。
まわりが受容する環境であれば、自分らしくあることができると思うんです。NOHAIRSはそのような場所なんです。薄毛でもカッコよくなれるという土壌です。私は「あなたはこうすれば大丈夫だ!」と言うつもりはありません。ここにはカッコいい人がいっぱいいるから「自分も何か変えてみよう」と思っていただくきっかけになればと。
―今後、NOHAIRSではどんな企画を展開される予定でしょうか?
高山:構想段階ですが、2つやりたいことがあります。1つはNOHAIRSのメンバーシップ登録を100万人にすることです。同じ思いを持つ仲間で結託して、同調圧力のある社会を変えていきたいと考えています。もう1つは映画です。ハゲがマジョリティの世界で、そこで人は何を悩むのかを描く作品を構想しています。東北新社の中島社長は映画監督でもありますので、監督や俳優、カメラマンなどスタッフもツルツルの人を集めて作りたいです。
お風呂の排水溝に髪の毛が詰まらなかったり、バリカンの種類が豊富だったり、帽子や日焼け止めがめっちゃ売れたり……そんな世界を描きたいです。
自ら弱者にカテゴライズするのはもったいない。自分を大切にする人を増やしていきたい
―ツルツルの人だけの世界には、新たな悩みが出そうですね。あと、昔から人の容姿をイジることってあるじゃないですか。その点についてどんなご意見を持っていますか?
高山:容姿イジりについては、人によりますよね。イジられるのが好きな人もいるので。ハゲをネタにできる人もいれば、できない人もいます。NOHAIRSや私自身は、不用意に容姿をイジるなど、攻撃をしたりはしません。人が傷つくような言動には注意しています。
多様性においては、世代間でギャップを感じることはありますね。ある40代の方から「差別をするつもりはないけれど、女装している男性は苦手」という意見が出たことがあります。私は特段気にならないのですが、世代によっては気にする方がいるのかもしれません。
でも、受け入れられないならそれはそれで仕方がないとも思っています。多様性を受け入れられない人を排除するという動きも違うと思うので。さまざまな考えを持つ人がいることを知る必要があると思います。
あと、私自身が女性ということで、セクハラなDMなんかが来るんです。私はそれをSNSでしっかりネタにさせてもらうんですけど、私の発信に対して「女性だから狙われるんだ」「セクハラを野放しにするな」などの意見を受けることもあります。
もちろんセクハラDMを許容するつもりはありませんが、 私はセクハラを受けるたびに対応していたら時間がもったいないので、DMに対して断った後は軽く受け流せばいいという立場なんです。でも、「そういう態度だから男性がつけあがるんだ」と意見をいただくこともあって……でも、「女性だから弱い」「女性だから被害を受ける」という感覚ってちょっと古いかなと思っています。自分で勝手に弱者だとカテゴライズするのはもったいないですよ。
―まだまだいろいろな偏見がありますが、みんなが多様性に寛容になっていけば、NOHAIRSのことを理解してくださる方が増えていくと考えていますか?
高山:そうですね。薄毛に悩みを持つことなく、薄毛の人たちのコミュニティが普通に存在する、というのがゴールなんだと思っています。ツルツルの人がたくさんいても珍しくなく、好奇の目で見られることもなく、ただそういうカッコいい人たちがいる世界になればいいと思っています。
ただし、NOHAIRSを続けることに懸念があります。私自身が薄毛ではないということです。薄毛の方の気持ちに対して「わかります」とは言えないので、話をしていても熱量が劣ると感じることもあります。だからこそ、薄毛だけにとらわれず多様性を認める文化づくりを目指していきたいと考えています。
―今後は薄毛以外の分野にも挑戦するのでしょうか?
高山:薄毛以外の分野としては教育に興味があります。小中学生の頃って、まわりと比べて遠慮するような雰囲気がありますよね。海外では、小学生のうちから「君はどうなりたいんだ?」と問われて、みんなの前でプレゼンをして、他の人もそれを受け入れる、といった教育があると聞きました。人の目を気にして生きていたら、自分が本当はどうしたいかを考えなくなりますよね。
薄毛に限らず、「自分に自信を持ちましょう」というメッセージを核とした事業をしたいです。子どもには、自分に自信を持ち、自分を大事にすることを伝えたいですね。
―例えば子どもの進路について過剰に干渉する親もいます。
高山:親は人生経験があるので親自身の正解を持って接すると思うのですが、本人の意向を聞いているかが重要です。正解を持ちつつも、尊重するということです。私自身は父や親戚から、どんな否定や反対も受けずに育ってきました。会社を辞めるときも、起業するときも、私が親だったら「大丈夫かこいつ?」と思うはずなんですが(笑)、みんなが応援してくれました。もともと多様性を認める環境で育ったというのは感じています。
でも、これはメリットだけでなく、デメリットの側面もあると思っています。私は、目の前にたくさんのハードルがあって、それをハングリー精神で乗り越えてきた人のほうが強いと思うんです。コンプレックスを持ちながらも堂々とのし上がってきた人とか。うらやましさやときには脅威を感じます。そういうものを持って育ってきたら、私の人生はまた違っていたかもしれません。
【取材後記】
他人の意見を尊重し、悩んでいる人に勇気を与える場を提供することで、自らも数々の貴重な経験をしてきた高山さん。まわりの意見に左右されるのではなく、フラットな視点と、自分自身の考えを持つことが重要であることを一貫して語ってくださいました。世代に関する偏見は良くないですが、どちらかというと高山さんのように若い方のほうが他人の趣味・志向や考えに対して寛容な印象を受けます。これから、さまざまなギャップをなくし、誰もが活躍できる社会が訪れるのではないかと期待しています。高山さんのこれからの活躍に注目していきたいです。