先日、ニアセ編集部員のランチ難民ユーコがGoogleで「移動販売 小田原」と検索したところ、検索にヒットしたのが「デニムマン」。ネーミングに引かれ、「デニムマン」について調べるとキャンピングカーでジーンズの移動販売をしている、と書かれてあります。
ジーンズの移動販売!?
1時間後には衝動的にデニムマン新倉 健一郎氏に取材申込をしていました。我々が最初にデニムマンに抱いた素朴な疑問が「移動販売という時代と逆行したような販売形態をなぜ始めたのか」。ここが興味を持ったポイントなので、色々どストレートに聞いちゃいました。
走るジーンズショップ「デニムマン」誕生のきっかけ
―デニムマンはどのように生まれたのでしょうか。
新倉氏:もともと僕はジーンズショップに約27年勤務していたんですが、去年に店が閉店することになったんです。その時僕は49歳だったんだけど、これからどうしようかと考えてました。そこで考え抜いた答えが「結局自分にできることはデニムを売る事」だったんです。
ただ、店舗をどこかで構えるというのは成功する気がしなくて。というのもジーパンの個人商店はどんどん閉店してるし、淘汰されてるんですね。ジーンズショップというショップ形態がなくなるんじゃないかっていうくらい、減ってきている。
色々考えてたんだけど、地域のマルシェが盛り上がってるのをみて「移動販売ってどうだろう」と、ふと思いついたんです。検索しても出てこないから誰もやったことがないんだ、って思ったら俄然やる気が湧いてきました。
―キャンピングカーというのはどういった理由からなのでしょうか。
新倉氏:まず自分がやりたい事が「試着、ミシンでの丈直し、お話が出来る、ものがある程度置ける」って所だったんです。その中でも、「立ったまま試着ができる」という点が重要で、そう考えていくと一番良い選択肢がキャンピングカーだったんです。
あとたまたま後輩がキャンピングカー持ってて、それ見て「キャンピングカーいいなぁ」って思ってたというのもあったけど。それにこれは結果的に分かったことなんですが、キャンピングカーって皆あまり乗ったことないから「キャンピングカーの中ってどうなってるんだろう?」という興味関心を引く、良いつかみになるんです。
元々、キャンピングカーについての知識がなかったので、そこはキャンピングカーを売ってる所で相談しました。シンク取っ払ってミシン置けばいいんじゃないかと思ってたりしたら、それだとキャンピングカーの要件満たさないから車検が通らないとか。そんな感じで準備を進めていきました。
ミシン台。リペアも丈直しもキャンピングカー内で行う。
走るジーンズショップ「デニムマン」が考える「商売」
―なぜ通販ではなく移動販売なのでしょうか
新倉氏:そこがよく聞かれるところでもあるし、お話したいところでもあるんですが、個人商店さんとかでも、うまくいかないと通販に行く人が多いんですね。でもそういう人たちに、通販やってみてどう?って聞くと「全然楽しくない」って言う。
商品をアップして、お客さんがポチッとそれを購入したら、梱包して、発送する。それって何が面白いのかなと。僕にとっても全然面白いと思わない。移動販売はECに対するアンチテーゼなんです。通信販売、ファストファッションが盛り上がっていくにつれて、それの揺り戻しでお客さんと対面でじっくり話して提案する、人と人との関わり合いというのが求められてきているんじゃないかと思います。
―購買のターゲットとしては、通販をあまりしない人達なんでしょうか。
新倉氏:僕がターゲットにしている方たちって、年齢でいうとそんなに若い人たちじゃないです。でもネットを全くやらない人たちかっていうとそうでもなくて、買うものが決まってれば通販で買う。
ただネット販売って、買いたいものが決まってなくて、自分に合ったものが欲しいと思った時に少し難しいんですね。
例えばネット通販で服を買って失敗した事ってありません?
―あります。買ったけどお蔵入りになったやつとか。
新倉氏:今ってそういう人が多いんですよね。失敗した!と思っても返品せずに、お蔵入りにしちゃう。商材的にもジーパンはちゃんと試着してもらって、長く使ってもらいたいっていうのがあるんですね。こちらがこれどうでしょう、って提案したものを何着か履いてもらって、決めてもらう。
―確かにお店で吟味したものは長く使っていますね。
新倉氏:そうでしょう。ちょっと話がそれるんですけど、一時下取りセールが流行った時があったじゃないですか。ジーンズもそういう時期があって、そうすると新品同様のジーンズを持ってくる人もいるわけ。これまだ履けるけどいいの?って思うんだけど、全然愛着がないんですね。それってどうなの?と。
そういうものとは対極の商売がしたいんだけど、店を構えるとうまくいかない。そう考えるとこの移動販売っていう業態は理にかなっている気がしてきたんです。ネットの利便性とはまた違う「お店の人が来る」「試着が出来る」「お客さんに合ったものを提案できる」っていう部分が理にかなっているかなと思います。
「何を買うか」より「誰から買うか」
―一番お聞きしたかった点でもあるのですが、ネットでのやり取りが盛んな今日、移動販売は時代に逆行したように感じるのですが。
新倉氏:そこはぜひお話ししたかった。僕は「今はネットの時代」と思っていること自体が危ないのかなと思っていて。それはある意味驕りだと思うんです。
皆が皆ネットの方向に行くわけではないでしょ。マルシェとかが最近盛り上がってるけど、そういう人たちもいるわけで。でもそういう人たちが通販を利用しないかっていうとそうではないし、もちろん僕もネット通販は利用します。買うものが決まってたら通販で買います。
でも一方では「何を買うか」より「誰から買うか」っていう方が大事だと思っている人が少しずつ増えている気がしてます。それは僕自身の手応えもある。今、倉敷の児島のジャパンブルージンズっていうメイドインジャパンのものが見直されてきているのも、そういう理由があるのかなって思うんですよ。
だから将来的にECをやるかって言われると、どうしても必要ならやりますけど、今はやろうと思ってないです。もしもECサイトに商品出してて、お客さんに「いいな」と思ってもらっても、試着もしないで買ってもらうっていうのは僕にとっても不安だし。
―確かにECサイトなどでもお客様から評価される点というのは接客態度、つまり人とのやりとりの部分が多いですね
新倉氏:僕は売る側も楽しくなるネットショップをやってみたらいいんじゃないかな、と思っています。売上が上がればそりゃ楽しいけど、それだけじゃないと思う。「商い」ってそういう事ではないんじゃないかと。
僕も今までは数字追っかけてたけど、売り上げだけじゃなくて、それ以外のものもあるんじゃないかって思って、デニムマンを始めました。あとお店って、基本はお客さんが何かするのを待っているものじゃないですか。ネットショップはお客さんがクリックしてくれるのを待ってるし、実店舗はお客さんが来るのを待つ。27年「待つ仕事」をしていたので、それに飽きてきたってのもありますね。
編集後記
「儲け」だけでない、人と人とが関わり合う商い。
お客さま一人一人としっかりと向き合い、じっくり話すことで信頼を作り上げる。これはリアルの現場だからできること。お客さま一人一人に合ったニーズを肌で感じることができますよね。ネット通販でも人間味を感じるサービスが必要だなと考えさせられた瞬間でした。
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