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ホーム > アキンド探訪  > 「労働者は強い」僕が体験した、創業期における従業員の話

 

労働者は強い。創業期人材のジレンマ。

従業員は会社に利益をもたらしてくれるとても重要な存在です。人間一人にこなせる業務の量が有限である以上、業務を拡大しようと思ったら従業員を雇うというのは有力な選択肢になってきます。会社経営というのは、つまるところ従業員に給料を払って、支払った額以上の利益を出すことですからね。従業員は利益の源泉そのものです。
 
その一方で、従業員のことを「労働力を販売しに来る取引先」として考えると、あまり良質な取引先とは言えません。極論をすればですが、「その日に欠勤されたら会社に大損害が出る」という日であっても、体調が悪いと従業員が主張すれば出社させることは不可能です。また、一応、法的には一定期間を経た後でないと退職できないというルールは無くもないですが、本人が「就労不可能である」と宣言すれば、会社に引きずり出すなんてことは一切出来ません。そして実体験ベースで言いますが、わりとバックレます。(これに関しては別に訴訟起こしてもいいんですけど、割に合わない)
 
創業期も半ばに差し掛かり、従業員が増え始めるとこれまで創業メンバーだけで回していた頃とは全く別種のトラブルが頻発するようになると思います。また、「人を使う」ということの難度の高さに直面せざるを得なくなります。実際ここで、「人的規模の拡大は志向しない」という方向に舵を切る経営者も少なくないです。まぁ、僕の事業はどうしても拡大するとなれば従業員を増やすしかない業種でしたので、前回のエントリに引き続いて、こちらも失敗の話になります。
 
労働者の権利は強いです。そして、恐ろしいことに労働者は支払いを待ってくれません。大抵の取引先は電話して事情を話してお願いすれば支払いを多少待ってくれたり(まぁ、今後は都度、現金払いでお願いしますみたいなことになることもあるけど)するものですが、従業員にはそういうことは一切通じません。遅配なんか出した日には、従業員との信頼関係は完全に終わりだと思っていいでしょう。あの状況まで追い込まれた時の従業員は最悪の債権者です。金融機関の取立てよりずっと恐ろしいですよ。また、給料を止めたまま従業員に仕事をさせるというのはね・・・。本当に何が起きるかわからない世界に突入します
 
なにより恐ろしいのは、従業員に対しては「一定期間に一定量の労務を提供する、労務の提供が契約通り成されなければ違約金を支払う」というような、通常の商取引では当たり前の観念が一切通じないことです。労働者は(まぁ厳密に言えば1ヶ月程度のあれはあるけど)いつでも会社を辞められるのです。社員数人規模で事業を回している時にこれがどれほど恐ろしいことかは少し考えてみればわかると思います。
 
しかし、創業直後の会社に「辞めてもいい人間」なんてものを置いておく余裕があるかといえば、あるわけがありません。経営効率の面だけで言えば、全ての従業員が代わりの利かない存在であることが理想です。しかし、言うまでもなくそれは「どこが崩れても総崩れ」という状態に他なりません。更に、「自分が抜けるとこの会社は大変なことになるだろうな」ということに気づいた従業員は際限のない要求を始めます。
 
そういうことをしない人間を雇えばいいという話かもしれませんが、これはとても残念なことだと思うんですけど、毎日が乱戦状態で業務マニュアルなど存在すらしない創業初期に、「会社の弱みにつけこんで金を抜こうとする」程度の知恵の働かない人間では、なかなか戦力になりえないのです。状況を読み、雇用主と報酬の交渉をする。これはプレイヤーとしての優秀さの表れそのものですし、労働者としては当たり前の権利です。これが出来ない人間が優秀なわけがない。これが創業期人材のジレンマという概念です。(今考えました)

起業家と労働者の利害は一致しない

そもそも、株を持っていない従業員にとって「未来の成功」なんてのは絵に描いたモチでしかないんです。今月払われる給与、それが従業員にとって世界の全てです。特に、創業したばかりの会社に株も貰えない状態で入社するような人間にとっては。創業したての零細企業なんて、3年後には存在してない可能性の方が高いわけですからね。未来の展望なんて、客観的に見たらクソほどの価値もないわけですよ。このクソほどの価値もないものをいかにキラッキラさせるかが経営者の腕とさえ言える。
 
創業期の会社における経営者と労働者の利害は、根本的に一致しないのです。もちろん、「従業員としての待遇を維持したまま株をよこせ!」と主張する人間も出てくるでしょう。(まぁ、経営者だって「株はやらないけど役員にならない?」って言いますしね、これはお互い様です)
 
従業員を雇って会社を回すということは、能力の低い使えない従業員と、能力はあるが当然要求も苛烈な従業員との終わりなき戦いです。要求されるがままに金を払っていたら倒産しますし、与えられる株の数は当然有限です。(まぁ総量を増やすことも出来なくないけど、他の株のホルダーがブチギレると思う)
 
かといって、有能な従業員に逃げられても大変なことになります。そして従業員に重要なポジションを任せられなければ利益はなかなか出ないですし、経営者が全く休めないということになります。その一方で重要なポジションを掌握されたら相手に交渉力が発生してしまう。「従業員が徒党を組んで全く同じ業種の別会社を立ち上げた」みたいな話だってよくあることです。取引先もノウハウも顧客も全部ゴッソリ持って他社に移られた、なんて話は最早聞き飽きたレベルですね。僕もやられました。
 
これはもう、模範解答の無い終わりなき戦いです。例えば、従業員Aに「辞められたくなければ俺の給与を上げろ」と脅かされたとします。仕方なくあなたは従業員Aの給与を上げました。そりゃもう従業員B、C、Dが出てきますよね。出資者(株主)も怒るかもしれませんね。他の役員たちも口々に不満を言うでしょう。そりゃね。人間、他人の給料には本当に敏感ですからね。まぁ、Aに口止めをするなどの措置はなくもないですけど、小さな規模の会社でバレずにそれをやれるかというとね…。
 
また、従業員は大抵の場合「自分の業務」を「自分だけがこの業務に精通している」という状態に持って行きたがります。業務ブラックボックス一丁あがりです。(これは労働者の振る舞いとしては大変正しい戦略なので、労働者の皆さんは積極的にやりましょう。僕もそうしています)「あなたの仕事を全部この人に伝授してください」という指示を出して、素直に仕事を教える従業員ですが、体感的には「存在しないんじゃね?」と思うレベルです。このようにして「新人潰し」や「課長も逆らえない現場のババア」などの概念が発生します。まぁ、でも、これもやっぱり労働者の処世術としては正しいというしかないですよね。

従業員が憎い

正直なところ、会社の規模を一定以上に拡大した後、信じられないほど従業員に対して冷酷になる経営者ですが、「気持ちはわかる」としか言いようがありません。僕だって従業員が怖くて出社拒否したい日が何度もありました。従業員を「仲間」とか「味方」とかそういう認識をするのは、余程運と人徳に恵まれた経営者以外は不可能だと思います。「タチの悪い取引先」くらいが穏当な表現で、「敵」と表現する経営者にも会ったことがあります。
 
彼は「自社の従業員の大半が大嫌いだし、もう少し会社のスケールを上げて収益を仕組み化したら古参の人間は全て排除する」とベロベロに酔っ払って語っていました。彼が転ばずに走りぬけたら、立派なブラック企業経営者になるんだと思います。そんな彼の会社の求人広告には「アットホームな職場」と書かれていました。確かにそういう家庭もありますね…。
 
何故か、わりと多くの人が「経営者は労働者より強い」と思っています。でも、創業期の会社に関してはこれは完全に嘘です。余裕で労働者の方が強いです。だって、経営者の切れるカードってせいぜい「減給」と「解雇」くらいしかないんですよ。創業したての零細企業をクビになるのが怖い人間なんてそんなにいないですよ。(たまにはいますが、そういう人間が優秀な人材である可能性は低いでしょう)
 
例えば、従業員10人のそこそこ儲かってる零細企業があるとしますが、ある日突然5人が辞表を出したら大惨事ですよ。普通に倒産まであります。実際、「従業員が全員辞めた」みたいな話は経営者界隈で結構聞きます。「従業員が逃げたけど、仕事止めたら違約金が・・・」って僕に電話かけてきた社長もいました。すいません社長、ちょっとブログとツイッターが忙しくてお力になれませんでした。まぁ、今の僕には動員できる人間もいないし事業もコケて顔も効かなくなったのでどの道お力にはなれなかったと思いますけど。
 
僕も現在は給料を頂戴する身の上ですが、改めて労働者は最高です。何せ、会社にどれだけ損害与えてもよっぽどコンプラ的なアレでなければ訴えられることもないし、最大のリスクが「クビになる」ですよ。こんなのノープレッシャーもいいところじゃないですか。ここ数年、毎月給料日は本当に憂鬱だったのですが、貰う側になると本当に楽しいものですね。最高です。そりゃ「労働者が憎い、従業員が憎い」って気持ちにもなるよなぁと改めて思いました。
 
そういうわけで、僕自身も創業期にある企業がどのように人材を確保しマネジメントすればいいのかについてはあまり明確な答えを持っていません。「創業者のカリスマ」とか「マインドコントロール」とか「やりがいを与え、夢を見せる」とか「零細企業でもクビになりたくないレベルの人材でなんとか利益を上げる方法を考える」とかそういう方向性なのかなぁと思います。
 
よく、自社の未来の展望を熱く語って社員をウォー!させてるイケてる新興企業の社長がいますが、あれ本当にすごい能力で、株も分けてもらってない社員に会社の未来の展望なんてさして関係ないし、そんなんどうでもいいから今月の給料上げろって話じゃないですか。普通に考えて。ハチャメチャに上手くいったところで、どうせ一番先に利益取るのは株主で次は経営者、従業員なんて最後におこぼれを貰う程度でしょう。そりゃ経営に食い込むレベルまで登りつめてた人は美味しいかもしれないけど。
 
事業拡大が上手くいったところで末端従業員の平均給料なんかそんなに上がらないです。事業拡大とともに利益率がアホほど上昇するならともかく、総売り上げから人件費に配分出来る割合なんて事業規模が拡大してもそんな変化しないんですから。事業規模がデカくなったらその分人件費も増えるわけで。しかも拡大期の採用なんてムチャクチャなんだからロスもでかくなる。まぁ、出世して給料を上げるチャンスは増えるかもしれないけど。
 
創業期の会社には、人間に夢を見せて非合理的な努力をさせるある種の能力が必要になるということなんですかね…。僕はどうしてもそういうのが得意ではないので、未だによくわかりません。でも、そういうことが出来る社長が勝ってますね、やっぱり。
 
で、起業を志す皆さんどんな感じでやっていこうと思いますか?従業員を雇って上手いことやるイメージはできましたか?「有能だけど安く働く忠誠心溢れる労働者が欲しい」って思いましたよね。でもね、それを100人単位で調達出来るならあっという間に億万長者なんですよ・・・。僕も次の事業のためにここは非常に考えているところなんですが、あまり倫理的でない手段しか思いつきません。コンプライアンスはとても大事です。社会に怒られます。やっていきましょう。

 
 

この記事を書いた人

1985年生まれ、早稲田大学卒業後金融機関勤務を経て起業するが大失敗。 現在は雇われ営業マンをやりながら、ブログを書いたり ツイッターをしたり、フリーライターをしたりしています。 発達障害(ADHD)持ちです。そちら関係のブログもやってます。 Blog http://syakkin-dama.hatenablog.com/ Twitter https://twitter.com/syakkin_dama

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