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ホーム > アキンド探訪  > 人材不足。二極化する労働者と現代の「読み書きそろばん」」

僕はライター業の傍ら零細企業の営業マンをやっているわけですが、最近僕の勤める会社では大変動が起こり、具体的に言うと新卒入社の正社員が全員いなくなりました。零細ベンチャーのスピード感というものを肌で感じる昨今です。
 
そういうわけで、日本は若年人口の減少に伴う大変な人材難にあります。これはもう僕が会社を経営していた頃から感じていたのですが、優秀な労働者がとにかく不足しております。
 
しかし、労働者が育つには訓練が必要です。残念ながら弊社のような零細企業には人員育成ノウハウもなければ、投下する資金もありません。結果として、「プロパー社員を育てて安定した会社の土台を作ろう」という弊社社長の目論見は失敗に終わりました。
 
中小零細企業の経営者は「金がない」「人が足りない」のどちらかで常に悩んでいるものですが、最近は「人が足りない」という悩みが特に増えています。僕も「誰か紹介してくれ」とよく頼まれますが、紹介出来る人材が身近におらずなかなか心苦しい思いをしております。
 
本日は創業間もない企業、あるいは中小零細企業の「人材不足」という問題について語っていこうと思います。

新興零細企業に人材育成環境など存在しない

僕が起業を経験して感じたことは、「人を育てるのは本当に難しい」ということです。「人材育成」というのはそれ自体がお金を取れるノウハウと言えるでしょう。資金も時間もカツカツの新興零細企業において、「人を育てる」ということは、まさに至難の業と言えます。
 
新入社員にとって大手企業と新興零細企業であれば、新興零細企業の方が仕事は難しいのです。業務は定型化されておらず、ケースバイケースの対応が求められ、また「誰もやったことのないこと」に挑むのが日常の新興企業において求められる人材の質は、大手企業の1年目に求められる人材よりかなり高いと言えます。
 
おまけに、丁寧な業務指導を行う時間的余裕もあるいは資金的余裕も通常ありません。この負担は全て、新入社員に押し付けられることになるでしょう。多くの零細企業にとって人員育成とは「現場に投げ込んであとは祈る」くらいのものだと思います。
 
結果として「とにかく人が育たない」という現象が起きます。当たり前です、こんな環境で人が育つわけがない。これが新興零細企業の最も辛いところです。もちろん、零細企業に『人を育てよう』という意欲が無いわけではありません。
 
むしろ、零細企業の経営者は「人さえ育てば」といつも思っています。果敢に挑む人も多いです、しかしその多くは残念ながら失敗に終わります。高確率で狙ったとおり人材育成が出来るなら、それを商売にすればいいわけです。
 
新興零細企業において、「人材育成」とはまず「金を横領しない」「毎朝ちゃんと出勤してくる」「客に暴言を吐かない」辺りから始まります。
 
大手企業と違って、「この会社に意地でもしがみつくぞ」というモチベーションのある人材も多くはありません。社会常識の乏しい方も多いです。その状態で臨機応変にハードな業務をこなせる人材を育成するなんて、土台不可能なのです。これを解決するために「それはもはや会社法人ではなく宗教法人では?」みたいなメソッドを導入するところもあります。
 
もちろん、現場に投げ込んだら勝手にモリモリ成長する人もいます。しかし、それは「たまたま」なのです。人材育成ノウハウが確立していない以上、再現性はありません。こうして人材は使い潰され、「まとなな人材がいない」という経営者の嘆きが市場に木霊することになります。何のスキルも身につけないまま、短期の職歴で職場を去っていく労働者もとても辛いことになります。
 
誰も幸せにならない、まさに地獄です。

現代の「読み・書き・そろばん」、そして人材の二極化

最近僕の勤める会社は非正規事務職員の募集を行いましたが、キーボードで「ェ」の文字が打てない、エクセルの罫線が引けない、ググるという概念を知らないなどかなり難しい人材が押し寄せました。
 
最近はスマートフォンの普及のせいか、若い方でもPCスキルが極端に低い方も増えています。何故それで事務職を志望するのかは謎ですが・・・。事務職の求人は人気があり、また弊社の給与設定は高めなのでいつも応募数自体は多いのですが、その中で「事務」の基礎スキルがある人は決して多い比率ではありません。
 
僕が非常に強く感じるのは人材の「二極化」です。社会人としての基礎スキルを一通り身につけた人材と一切身につけていない人材に見事に分化しているように思えてなりません。
 
Excelを「まったく」使えない、あるいはWordで文章の体裁を整えられない人に事務をやらせるのはほとんど不可能です。また、基本的なビジネスマナー、「敬語」や「電話応対」をこなせない人も当然に厳しい。もっと言うと、四則演算が怪しい人もたくさんいます。「3割引で請求書切っておいて」を電卓で計算できない人も、かつての僕の部下に存在しました。また、必要な情報をインターネットや書籍から探すという能力が「全くない」人も多いです。
 
僕が新卒で就職した際は、3週間ほどかなり厳しいビジネス研修に放り込まれ、座学からロールプレイまで一通りを教わりましたが、あの経験は今でも非常に役立っています。僕も社会常識が豊かな方ではありませんでしたが、朝から晩まで軍隊のような厳しさで叩き込まれる研修によって多少は社会人としての基礎スキルを習得できました。「仕事の基本的な進め方」は習わなければ普通はわかりません。
 
しかし、新興零細企業にこのような指導環境は通常存在しません。「自力でやる」しかないのです。かといって、自力で業務に必要なスキルを身につける能力のある人材を採用するのは、本当に難しい・・・。中卒だろうが高校中退だろうが出来る人は出来ますが、出来ない人の方が圧倒的に多いのです。
 
人材の定着率が低い新興零細企業では身銭を切って高価な外注研修を受けさせるのも難しく、3年会社にいてくれる人材なんてむしろ稀なのです。そのうえ、こういった社会人の基礎スキルを「教える」のはそれ自体簡単なことではありません。だから、外注の研修屋が商売になっているのです。
 
こうして、人材の格差はどんどん開いていきます。当然ですが、起業される方が採用できる人材は多くの場合、二極化の下の側になることが多いでしょう。「読み書きそろばんが出来ない」人材をゼロから育てるのは、本当に大変なことです。「何が出来ないのか」を把握するだけで一苦労ですし、仕事の合間にそれらを一つ一つ教えていたらあっという間に赤字です。
 
「いない方がマシ」ということにはどうしてもなってしまいます。皆さんも創業されて、月給22万円くらいで人を雇ったら体感的に理解できると思います。社会人の基礎としての現代版「読み書きそろばん」を教えられる環境こそが切実に求められている。僕は人を雇った経験から、それを非常に強く感じました。

2つの提案

僕から2つ提案があります。
 

① 行政は基礎的なビジネス研修に助成金を出せ

 
社会人の基礎スキル指導を外注できる業者は存在するのですから、労働者が研修を受けるための助成金を行政には出してもらいたいのです。「人材開発支援助成金」というものが一応現状でも存在していますが、これは要件が複雑であまり知られているとも言えません。適用されない会社や事業主が非常に多いです。「創業したばかりの零細企業でこれ使えるところどれくらいあるの?」という感じです。
 
そういうものではなく、業種によってある程度バリエーションをもたせた現代の「読み書きそろばん」を教える研修を受けるための資金を、会社を通じて「労働者個人に」支給して貰いたいのです。それこそ、フリーターでも受けられるようにして欲しい。社員研修を外注できる業者はたくさんあるのですから、金だけくれればいいんです。助成金が出るようになれば、更に外注できる業者も増えるでしょう。
 
これである程度、労働者の基礎スペックは底上げが可能になると思います。実質的に「繁忙期に安く人を確保する」用途でしか使われていることのないトライアル雇用助成金より、余程効果的だと思いませんか?
 
3週間で20万円。各社から30人集めてやれば600万円です。これだけの額であれば、それなりに質の高い研修を行うことが可能でしょう。情報化社会の高度化と長い不況による疲弊で、中小零細企業には人材育成を行う体力が完全になくなっています。また、創業したばかりの企業なども同様です。ここは、行政が下駄を履かせてやるべきだと僕は思います。
 

② 大企業の雇用流動性を高めろ

 
これはかなり怒られそうな意見ですが、僕は大企業こそどんどん解雇を行うべきだと思います。そうすれば、中小零細企業に大企業での労働経験を持つ人材が流れ込みます。逆に、中小企業で叩き上げた人材が大企業に登っていくことも必要でしょう。
 
僕がかつて勤めていたところもそうでしたが、日本企業はなかなか人を切りません。結果として、飼い殺しになっている人材がそれなりにいるでしょう。僕自身もあの組織に残っていたら、今頃立派な飼い殺しサラリーマンだったと思います。
 
あの人材を中小零細企業に向かってリリースするべきです。大企業に入社できるだけの学力や基礎スペックを持ち、基本的なビジネス研修を受けた人材は、中小零細企業経営者からすれば「飼い殺しにするならくれ!」というところでしょう。
 
雇用流動性の乏しさが日本の労働者に格差を生み出しているように僕には思えてなりません。過激な発言ですが、大企業には毎年一定割合の解雇を行うインセンティブを与えるくらいで丁度良いと思います。これは同時に新卒一括採用批判でもありますが、これはたくさんの人が論じているので割愛させていただきます。

人材こそ会社の宝

現実問題として、僕の提案が現実になることは少なくともしばらくは無いでしょう。大企業は相変わらず人をあまり切らないでしょうし、中小企業から大手企業に転職できる時代はそうそう来ないでしょう。零細企業では相変わらず人材が育たず、何のスキルもない労働者と十分なスキルを獲得した労働者の二極化現象はどんどん悪化していくだろうと思います。
 
その中で起業を志す皆さんは「いかに良質な人材を確保するか」という難題と常に戦っていく必要があります。あるいは、「人材の質が低くても利益を出せる事業をデザインする」という方向もあるかもしれません。もしくは、人材育成スキルを獲得して起業に打って出るという方向もあるかもしれません。
 
利益は人材が生み出すものです。良質な人材さえ確保できれば、後は利益なんて勝手に出ると言っても過言ではありません。あまりにもクサい台詞なので言いたくないですが、人材こそ会社の宝です。しかし、宝は磨かなければ光りません。磨いても光らないのもいますが、磨かれていないから光れていない人材もたくさんいます。もう少しこれ何とかならねえのかよ!といつも思います。
 
しかし、僕自身も創業期に人材育成に大きなリソースを割くことは不可能でした。本当に忸怩たる思いがあります。これはもちろん僕の能力と努力不足によるものも大きいので、社会にばかり責任を預けるわけにはいかないのですが。
 
僕の意見は経験に拠っているので大いに偏っていると思います。しかし、一面的な事実ではあるでしょう。現代版「読み書きそろばん」を身につけていない人材は、たくさんいるのです。そういった皆さんをなんとか戦力化していく必要はあるのです。起業を志す皆さん、あるいはこれから職に就く皆さん、あるいは企業で既に働いている皆さん、あなたはこの問題とどう向き合いますか?
 
やっていきましょう。

 
 

この記事を書いた人

1985年生まれ、早稲田大学卒業後金融機関勤務を経て起業するが大失敗。 現在は雇われ営業マンをやりながら、ブログを書いたり ツイッターをしたり、フリーライターをしたりしています。 発達障害(ADHD)持ちです。そちら関係のブログもやってます。 Blog http://syakkin-dama.hatenablog.com/ Twitter https://twitter.com/syakkin_dama

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