極楽とんぼ・山本圭壱が語る鈍感力の重要さ「切り取り報道の裏には声援だってある」

ニューアキンド

2006年、自身が起こした不祥事によって10年間芸能界から離れて活動自粛をしていた極楽とんぼの山本圭壱さん。2015年にフリーの芸人として、2016年、吉本興業に復帰を果たし、現在はチャンネル登録者数が35.1万人(※2021年4月末時点)を誇る人気YouTubeチャンネル「極楽とんぼ山本圭壱 けいちょんャンネル」を運営しています。また、2021年1月よりスタートしたBS日テレ「週末極楽旅」は、コンビのレギュラー番組として、極楽とんぼファンを中心に注目されています。

活動自粛期間は貯金を切り崩しながら、知人の紹介で宮崎県の飲食店やスーパーなどで働いていたという山本さん。貯金残高が一時は4万円にまで減っていたといいます。

失敗に対して一斉に批判される時代。一度ミスをした人は、世間からのバッシングを受け続け、自身の考えや思いを発信しづらい世の中になりました。事務所から契約解除され、一度廃業を経験した山本さんもそのひとりです。

今回、社会から大バッシングを受けた山本さんに、今の社会を見て感じること、そして、つまずいた際にどう対応すればいいのか、今のご時世を、どうすればサバイブできるのかを聞きました。

【ご本人のプロフィール】
名前:山本圭壱
年齢:53
肩書:お笑い芸人
趣味:広島カープ・サーフィン
特技:野球(草野球チーム神様)

「あれはバッシングではない」 報道の切り取り方に対する疑問

—不祥事を起こした当時、世間からのバッシングをどう感じていましたか?

山本:「バッシングをどう感じていたのか?」とよく聞かれるんですが、そもそも「バッシングされていた」という捉え方自体が違うと思っています。バッシングをする人もいれば、応援してくれる人だっているんです。それなのにバッシングだけを切り取って報道されることには疑問がありますね。芸能人だけでなく経営者など前に立つ人は、悪いことばかり切り取られがちですが、中には声援も絶対あるのだから良いことに目を向けた方がいいと僕は思います。

—山本さん自身はどんな方から声援を受けていたのでしょうか?

山本:本当にいろいろな方です。僕のために厳しく言ってくれる関係者の方もいました。自分にとって、厳しく言ってくる人がダメな人たちで、優しい言葉をかける人がいい人たちなのかと問われたら、そこは自分で判断するしかありません。大切なことは、バッシングや声援を自分がどう思うか、どう捉えるかですね。

—不祥事によって離れていった仲間はいませんでしたか?

山本:ぶっちゃけ言うと、いなかったです。知り合い程度の方、浅い付き合いの方は離れていったかもしれませんが、信頼していた方は味方でいてくれました。僕が鈍感だからそう思っているだけかもしれませんが。

でも「鈍感力」は生きていくために必要な力だと思っています。僕は「あいつこの野郎!」と怒ったり、ずっと根に持ったりするタイプではないですし、寝て起きて、その日会う相手が笑っていればそれでいいや、みたいなスタンスなんですよ。

—バッシングに関わる話でいうと、歌手 Adoさんの楽曲『うっせぇわ』が教育上良くない、子どもに聞かせたくないなど、話題になりました。このようなニュースに関してどう思われますか?

山本:それはその曲が流行ったから文句を言われているだけですよね。流行ったということは突き抜けているということです。あまり世間の声を気にせず、表現者は自分の思う通り表現していけばいいと思っています。

—筆者は子どもの頃、山本さんがご出演されていた「めちゃイケ」が教育上良くないという理由で、両親に見せてもらえませんでした。そういう方針の家庭があったことについて、何か思うことはありますか?

山本:なんとも思いません。だって、僕が子どもの頃も「ドリフターズ」を見させてもらえない友達が周りにいましたから。そういう番組を子どもに見せる・見せないはそれぞれの家庭でジャッジすればいいだけの話です。

『うっせぇわ』だって、聴いたり歌ったりするのを「やめなさい」という家庭もたくさんあるわけですよね。結局それは「ダメだ」と言っている家庭を切り取って話題にしているだけなので、何も気にする必要はないと思います。

加藤浩次が提唱する「2・6・2の法則」は、商売人にとって必要なスタンス

—気にする必要はない、というメンタルはどうすれば鍛えられますか?

山本:鈍感力を身につけることです。例えば、僕のYouTubeチャンネルでは、批判のコメントを毎度もらっています。その際は目を細めて見ないようにしているんですよ(笑)。また、相方の加藤が提唱する「2・6・2の法則」はものすごく共感しています。

—「2・6・2の法則」、詳しく教えてください。

「2割は自分たちのファン。6割は僕たちのことを何とも思っていない人たち、そして残りの2割が僕たちを叩くために身構えている奴らだ」と加藤は言いました。「なるほど!」と思いましたよ。

多くの人たちは僕たちに興味が無い。叩く人も2割しかいない。だったら、僕たちは2割のファンをちゃんと大切にすればいいんじゃないかって。僕は元から鈍感なタイプですが、そう思うようになってから、より楽な気持ちになりました。加藤に「これ、俺の意見として言っていい?」と聞いたら、好きにしろと言われたので、これ、僕が言ったことにしておいてください(笑)。

—山本さんの(笑)その2・6・2の法則は、読者の商売人にとってすごく良いメッセージになりますね!

山本:そうかもしれないです。だって、飲食店でたとえたら、100人中100人のお客さんが「このお店おいしいね」と言わないですよね。飲食店だったら、100人中20人が声を大にして悪評を拡散しようとしているだけです。6割は何とも思っていない人たち。残りの2割はファンなので、悪評に対して「また何か騒いでいるよ、はいはい」と言って火消しをしてくれる。YouTubeチャンネルのコメント欄でもそうやって言い合っている人たちがいるので、そんなやりとりを見ていると面白いなあと思います。

成功って何? 幸せの尺度は他人が決めることではない

—相方の加藤さんは、2021年の3月末で吉本興業を退社されました。山本さんはそれに対してどう思っていたのですか?

山本:加藤は吉本興業とエージェント契約をしていました。今回は満期になっただけで契約書に基づいて退所したのであって、吉本を解雇されたわけではない。退所によって吉本芸人と仕事をしないということもありませんし、現に加藤の番組に吉本芸人はたくさん出ています。

加藤は今後、吉本が制作する番組に呼ばれても普通に出演すると思いますよ。僕は吉本、加藤は個人の会社、そのふたりで極楽とんぼとしてやっているというだけです。

—山本さんは一度廃業を経験したものの、現在ではYouTubeやコンビ活動で成功されているわけですが、その成功の秘訣はどこにあったと思いますか?

山本:成功しているのか失敗しているのか正直わからないです。逆に質問ですが、成功って何ですか? 何をしたら成功になるんですか?

—たとえば、活動自粛前と同じようにまたファンが山本さんのところに戻ってくることとか……。

山本:どうなんですかね。過去のファンが戻ってきているかどうかはわからないですし。成功か失敗かって、自分で死ぬ前にジャッジすることだと僕は思っているんです。だから成功の秘訣はわからない。死ぬ寸前にジャッジするなら、僕は人生全部成功だと思うはずです。

—先ほどの鈍感力の話とも繋がる気がするのですが、山本さんは現実を悲観されていないのですね。

山本:全然悲観していないです! 大金持ちですごく大きな家に住んでいても家族全員が幸せな顔をしているかといったら、そうではないかもしれない。貧乏で小さな家に家族4人で住んでいても、ニコニコしながら幸せに暮らしていることだってある。人と比べてもしょうがないですし、幸せかどうかなんて他人がジャッジすることではないですよね。

20年後、極楽とんぼは今と変わらずけんかしている

—山本さんは周りがあまり気にならないということですか?

山本:気にならないですね。SNSで自分の意見を言ったら叩かれることって、芸能人ならよくあるじゃないですか。叩かれたくなかったら公で意見を言わなければいい。僕はSNS上では「意見」せず、くだらない発信をするだけに留めています。テレビを見ていちいち「つまんないテレビだな」と発信することだけで気分を害する人もいるわけですから。

—先ほどの『うっせぇわ』の件もそうですが、昔は通用していた表現が今では批判されることが多々あります。極楽とんぼのお笑いは、この10年間で変化がありましたか?

変わっていないと思います。僕が53歳で加藤が52歳、年齢とともにどこか落ち着いたというのはあるかもしれません。コロナ禍が落ち着いたらたくさん人を集めて、僕たちとゆかりのある地で、極楽とんぼライブをやりたいと思っています。

—では、極楽とんぼの20年後はどうなっていると思いますか?

山本:20年後か……僕は73歳で加藤は72歳。それでも今と変わらずけんかしている方がいいんじゃないですか(笑)。

—それ、とても見たいです!

山本:見たい人と見たくない人がいると思うので、見たい人だけを集めたライブでやった方がいいですよね。テレビでわざわざジジイのけんかを見せるよりも。73歳のジジイがテレビでけんかしていたら、それこそ「うっせぇわ」って批判されますよ(笑)。

—最後に、ニアセ読者を今後もっと増やすためにはどうすればいいか、アドバイスをいただけるとうれしいです。

山本:今回は僕のインタビューですが、わらしべ長者のように、僕よりもっと有名な人にインタビューしていけばいいと思います、シンプルに(笑)! 次はバッドボーイズの佐田くんを紹介しますよ。あのやんちゃ坊主が今では佐田工務店の棟梁として、DIYで商売をしている。YouTubeは僕よりはるかに人気ですよ。僕のチャンネルでもお世話になっています。

先ほど僕は「成功って何?」と言いましたが、逆に失敗しない方法は「やめないことだ」と数年前まで思っていたんですよ。でも佐田くんを見ていると、必ずしもやめないことが失敗しないこと、とは限らないんだと思うようになりました。佐田くんは今DIYで大活躍していますからね。進む道が険しければ、やめて他の道でがんばればいい……って、佐田くんが芸人をやめたかのような話になっちゃいましたね(笑)。彼は芸人としても素晴らしいですよ。

【編集後記】

「めちゃイケ」世代であるにもかかわらず、家庭の方針から「めちゃイケ」を見られなかった筆者。全盛期の山本さんを知らない筆者にもわかりやすく、ときにビシッと指摘をしながら話してくださいました。ちょっとしたことを気にしてしまって生きづらくなっている方も、山本さんの鈍感力に目を向けると、また少し違う視点が見えてくるかもしれません。

姫野桂

フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)、『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)、『生きづらさにまみれて』(晶文社)。趣味はサウナと読書、飲酒。

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