コロナ禍でも大黒字! “デスマッチのカリスマ”がECサイトを立ち上げた理由【プロレスラー葛西純】

ニューアキンド

 プロレス界に存在する「デスマッチ」というジャンルを皆さんはご存じでしょうか。あらゆる反則攻撃を用いたり、痛々しい凶器で殴り合ったり。その過程で鮮血が流れることもある危険地帯でありながら、リング上から発する選手たちの生き様が熱狂空間を生む世界です。このデスマッチという戦場でカリスマと呼ばれるプロレスラーがいます。「プロレスリングFREEDOMS」に所属する葛西純さんtwitterアカウント)です。そんな葛西さんにはもう一つの顔があります。自身が企画・運営をしているアパレルECサイト「クレイジーファクトリー」のオーナーという顔です。今回は葛西さんに、ECサイトの運営、これからのビジョンについてお話を伺いました。

【会社プロフィール】
ネットショップ:クレイジーファクトリー(WEBサイト
商材:葛西純が企画するアパレル商品

【ご本人のプロフィール】
名前:葛西純
年齢:45歳
肩書:プロレスラー

特大「葛西」コールを受けるはずだった、半年ぶりの復帰戦

─ 葛西さんは昨年(2019年)12月25日の後楽園ホール大会を最後に、ケガの治療のため長期欠場。6月10日の新木場1stRING大会で半年ぶりに復帰されました。まずは復帰戦の感想をお聞かせください。

葛西:プロレスの受け身というのは肉体に相当なダメージが蓄積します。でも休んで1ヶ月ほど経ったとき「もう試合できるくらい回復したんじゃないかな」という感覚になってきました。その後、医師から「4月以降であれば、試合に出場しても大丈夫ですよ」と許可が下りました。

 いよいよ復帰戦が決まったんですが、コロナの影響でズルズルと延期になり、モチベーションがあまり上がらない中で6月10日の試合を迎えました。この日は無観客ではなく有観客興行でしたが、この試合はコロナに負けた感じがしています。

─ 「コロナに負けた」というのを詳しく教えていただけますか?

葛西: 新木場1stRINGは収容人数およそ300人の会場ですが、感染防止対策で100人規模の興業だったんです。半年ぶりの復帰戦だったこともあり、特大「葛西」コールで迎えられることを思い描いていたのですが、お客さんはマスクをして、どこか遠慮した歓声でした。お客さんの前で試合ができることは嬉しかったのですが、描いていたものとのギャップが大きく、かなり寂しさを感じましたね。

 試合中は欠場前と変わらないパフォーマンスをしましたが、いつもならワーッと声が上がる場面でも思うように盛り上がらない。お客さんはプロレス、特にデスマッチに非日常を求めて会場に来ていると思うんです。それなのに「声を上げてはいけない」「葛西コールができない」状況で我々の試合を見ていました。この状態こそがコロナに負けたということです。コロナをひとときでも忘れさせるような熱狂空間を作るべきだったのですが、我々の力不足でした。

― コロナ禍で葛西さんはどのような生活をしていたのか気になります。そしてコロナをどのように受け止めましたか?

葛西: 自粛期間中はジムにも行けなくなり、家で引きこもっていました。トレーニングは家の近くの公園で。レスラー仲間も多くが自粛していましたね。

 45年間生きてきて、こんなに長い期間、自粛生活を強いられる経験は初めてでした。漫画や映画の世界みたいになっちゃったなあと感じています。復帰戦で、会場を盛り上げるために試合中ファンに「声出せ!」「楽しめ!」と言っていましたが、そういう問題ではなかったですね。コロナと付き合いながら、時間が解決するのを待つ。プロレスラーとして今は我慢のときです。

家族と回転寿司に月3回行けたら幸せだな。その資金を貯めたくてECサイト運営をスタート

― 葛西さんは2017年にECサイト「クレイジーファクトリー」をオープンしました。立ち上げたきっかけを教えてください。

葛西: 私は昔からブログを書いていました。グッズを試合会場で売っていたこともあって、ブログのコメント欄で「ネット販売はしないんですか?」という問い合わせが多数あったんです。それで今よりも生活が潤えばいいなと思って、夫婦二人三脚でECサイトを始めました。でも元々はECではなく実店舗で「クレイジーファクトリー」をやるつもりだったんです。

 妻と裏原宿の物件を何回か見に行きましたが、住んでいる長津田から原宿まで電車で通うのは大変だという結論になりました。あとは家賃ですね。結果、長津田にワンルームマンションを借りて、ECサイト運営を始めることにしました。商品の受注やデザイナーに依頼するのは私の役割で、ネットのやり取りや梱包、出荷作業は妻の役割です。

― ECサイトを運営する中で、葛西さんはどのような想いで取り組んでいますか?

葛西: 我々レスラーの1試合あたりのファイトマネーは驚くほど低いんです。それもあって、ECサイトの収益は、月に2〜3回ほど家族で回転寿司を食べに行くみたいな、プチ贅沢に使えたらいいなあという想いはありますよ(笑)。強いて言うなら、ECサイトで小銭を稼いで、マンションでも買えたらいいねという話を妻としています。

― 家族との幸せを叶えるために、ECサイトを運営されているんですね。売上や経営状況が気になります。

葛西: 現状はおかげさまで大黒字ですね(笑)。嬉しいことに、商品があっという間に完売するときがあります。Twitterで商品の販売告知を1週間前から3日ごとに行っているのですが、販売開始から10~20分で完売するときも多くあって。そのときは非常に達成感があって、妻と喜んでいます。

 妻と二人でこじんまりやっているので、利益も出ています。とにかく在庫は残さない、ギャンブルみたいな商売はしないことを心掛けています。もしECに在庫が残っても、会場での販売で売り切れるくらいの量なので、問題なしですね。

 ありがたいことに、コロナ禍でも状況はほぼ変わらずでした。この度ECサイトの強みをものすごく感じましたね。コロナに負けた復帰戦では、悔しい思いをしましたが、おかげさまで「クレイジーファクトリー」のお客さん、ファンは葛西純を求め続けてくれた、そんな実感がありました。

― 販売告知というと、2歳の娘さん(愛称・ジプシー嬢さん)の存在が切っても切れません。娘さん=「クレイジーファクトリー」CEO、という設定で販促をされていますが、この考えに至った経緯を教えていただけますか?

葛西: 自分が普通に告知するよりも、娘を使って発表した方が面白いと思ったからです。それと自分の商品だけでは限界があるので、娘に「ジプシー嬢」というニックネームを付けてキャラクター化し、ジプシー嬢ステッカーやトートバッグを販売しています。ちなみに以前、子どもサイズのTシャツも作りましたが、売上が思うように伸びませんでした。やっぱりプロレスファンは自分が着て満足する人が多いんだと感じましたね。子どもには可愛いものを着せたいのではないでしょうか(笑)。

血まみれでニヤリ。ファン目線を追求し続ける「アーティスト」葛西純

―葛西さんはプロレスラーになる以前に「サル・ザ・マン」というペンネームで格闘技雑誌にイラストを投稿されていました。「クレイジーファクトリー」でご自身が描いた商品を販売する考えはないのでしょうか?

葛西: ないですね。LINEスタンプなどを手掛けたこともありましたが、そもそも自分の絵が好きじゃないんです(笑)。自分で描くよりは他の人に描いてもらう方が、自分の思い描いている商品に仕上がって、しっくりくるんですよね。

― 商品を企画するときに譲れないポイントはありますか?

葛西: もちろん商品によってコンセプトが違うため、一概には言えないですが、ゴリゴリのバンドTシャツにするとか、ポップで可愛らしいデザインにするとか。依頼しているデザイナーさんが幅広い商品を手掛けているので、そこは安心して任せています。もちろん自分が考えているイメージとは違う試作品があがってきたらダメ出ししますよ。自分が納得した商品を売りたいですから。

 プロレスラーは強い弱いだけで評価されるスポーツ選手とはまた違い、自身のキャラクターで食べていく商売、つまりタレント的な要素があると思うんです。いかに自分をコーディネートして、自己プロデュースをして売り出していくのか。「クレイジーファクトリー」の運営も、商品企画も自己プロデュースの一つなんです。「45歳のおじさん・葛西純」の商品だとお客さんは買ってくれないです。「プロレスラー・葛西純」を求めて商品を購入するわけで、葛西純らしさを表現すれば商品は売れると思っています。だから商品のアイデアはいくらでも出てきます。

― ECサイトに並ぶ数々の商品を眺めていると、こんなのよく思い浮かぶなあと感心させられます。商品や自己プロデュースのアイデアはどこから浮かんでくるのですか?

葛西: 私はホラー映画が好きで、そこからインスパイアされてビジュアルを決めることがあります。『シャイニング』のジャック・ニコルソン、今だと『時計じかけのオレンジ』の主人公アレックスの影響で片目を強調させたメークになったり…。例えば、私は試合中に血だらけになりながら笑っています。痛いのはやまやまですが、痛そうな表情をするよりもニヤリと笑った方が、ファンにとってインパクトが残るだろうなと思うんです。これもホラー映画の影響です。

葛西: あと「自分がプロレスファンだったら」という設定で考えるんです。「自分がファンだったらこんな選手を応援したい」「こんな選手だったら会場まで観に行きたい」、そういったことを考えます。ここまで考えている選手はなかなかいないと思いますよ。私はプロレスラーでありながら、プロレスオタクでもあるので、ファン目線は忘れないです。「クレイジーファクトリー」の商品もそうです。「自分がファンだったらこんな商品がほしいな」という考えを常に持って運営しています。

― その思いがファンの方に届いていて、商品はもちろん、葛西さんという存在が、長く求められ続けているんだろうな、と感じました。最後に一つ聞かせてください。今後、選手として、ECサイトオーナーとしてどのようになっていきたいですか?

葛西: ここまできたら、プロレスラーとしては生涯現役でやりたいですね。若い頃は40歳まで現役でと思っていたけど、気づけば今年46歳になるので。とにかくこれからも無茶なことをやって、バカやって、クレイジーな試合をして、家族を食わせていきたいなと。

 ECサイトに関してはそんなに野望はないです。デカい自社ビルを建てるといった、事業拡大の目標はありません。だけど、今回のコロナの影響を受けて、ECサイトをやっていて良かったと思いました。最終的に、家族で住むマンションか一軒家でも買えたらいいな、くらいに思っていますね。

【編集後記】

 コロナ禍で「お客さんの前で試合ができて嬉しい」という選手が多い中、「コロナに自分は負けた」と悔しがる葛西さん。彼にとって「クレイジーファクトリー」は自分を表現するためのツールであり、生活におけるセーフティネットとなっているのです。プロレスラーであり、ECサイトのオーナーである葛西さんの今後に、これからも注目し続けたいと思わされました。

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