365日食べられる究極の普通味!?200円カレーを提供する「原価率研究所」とは?

ニューアキンド

 
安い、早い、うまい」が売りのファストフード業界も単純な安売り戦略でなく、高級路線に走ったり、増税を理由にじわじわ値上げを行ったりしている。
 
そんな中、たったの200円でカレーライスを提供するカレー屋さんがある。店の名前は「原価率研究所」だ。
 
200円カレー原価率研究所
この2つのワードだけで、ただのカレー屋でないことは明らかだ。安売りだけでない、何か特別なビジョンがあるに違いないと感じ、経営哲学戦略を取材してきた。

原価率研究所という名のカレー屋

原価率研究所は新潟県を中心に直営店2店舗・FC7店舗を構えるチェーン店だ。都内には竹ノ塚店と梅屋敷店の2店舗がある。取材で伺ったのは竹ノ塚店。駅から8分ほど歩いた通り沿いにある。

看板には「今回のテーマは『カレーライス』」と書かれている。
どこかしら突き放したような表現だ。間違いなく普通のカレー屋ではない。

「カレーライス」と「200円」ののぼりがはためく。

メニューはいたってシンプル。
カレーライス200円チーズカレー300円、それにテイクアウト用の鍋カレー(ルーのみ)150円だけだ。辛さの設定やトッピングもなければ、ライス大盛りすらメニューにない。

▲カレー200円(右) チーズカレー300円(左)

 
カレーとチーズカレー。
店内・テイクアウトともに、容器は使い捨てのプラスチック製を使用している。
洗う手間を省いて人件費を浮かせるためだ。

大きめの鶏肉が3〜4個入っている。
鶏を使用する理由は、牛や豚に比べて好き嫌いが少ないためだそう。
また、当日の値段によって仕入れ先を変え、一番安い国産鶏ムネ肉を仕入れている

200円だからと侮るなかれ。ご飯の量は結構多い。
ルーと合わせて600gあるので大人の男性でもちゃんとお腹いっぱいになる。
コストを抑えていても福神漬を添えるところに好感が持てる。

ルーは甘めに作られているので、辛めが好きな人はデスソースなどの調味料をふりかけ、自分で調節する。
調味料の購入資金は、お客さんからの募金で支えられている。

カレー屋なら必ず出て来る水も用意されていない。
飲みたい人は店内の自販機で購入する仕組み。ペットボトルの水が100円だったので、実質この組み合わせで300円というわけだ。とにかく削れるところは徹底的に削っている。

原価率研究所がたった200円でカレーライスを提供できるわけ

お話を伺った株式会社原価率研究所研究員の吉田恭平さん。時々、冗談を挟みながら気さくに答えていただいた。

 
 
ーーお昼時ですが、お一人で回しているのですか?
 
はい、1人でやってます。
1人で回さないと採算が取れないってわけではないので、ほんとはもう1人欲しいです。お昼と夕方5時以降がすごいことになっちゃいますので。
この竹ノ塚店が一番人員に困ってるんですよ。
 
ーー1日平均何杯ぐらいでますか
 
竹ノ塚店は200~300食ぐらいですね。お店によってかなり違うと思います。
 
ーー次から次へとお客さんがやってきてますが、それでも回せる秘訣はありますか
 
作業の簡素化ですね。
15分あれば50人前作れます。
なかでもカレールーが特別なんです。大手食品メーカーと共同開発したのですが、お湯で溶かせばカレーになるように作られています
 
普通ならお湯で溶かすだけでなく、追加で玉ねぎなどの野菜をいれたり肉をいれたり、煮込む時間が必要です。そうしないと美味しくならないので。でも、うちの場合はお湯で溶かして鶏肉いれて終わり。なくなったら、またお湯で溶かしてを繰り返すだけです。


 
ーー家庭用の炊飯器が何個もありますが、それも何か理由がありますか
 
大きい炊飯器で炊くと小回りが効かないんですよ。
小さい炊飯器なら食品ロスを最小限にできます。ただ、客足の予測がつくので、ほとんどロスはでません。
炊飯器はメーカーのこだわりもないので各店舗に任せています。うちはフランチャイズ経営もしていますが指定備品はほとんどないんです。安く手に入るものを使います。


 
ーーテイクアウトとイートインの比率はどうですか
 
8~9割がテイクアウトですね。商売的にも回転率が上がるからその方がいいんですよ。あえて店内も居心地がいいようにしてないんです
この椅子だって1000円しませんからね(笑)
 
ーーそういえば店内はちょっと暑いですね
 
エアコンを付けてないんです。
初期費用や運営コストを抑えるという側面もありますけど、居心地のいい空間を目指さずに、回転率を上げていこうという狙いもある
んです。
 
容器やスプーンも洗う手間を考えて、使い捨ての容器を使用してます。
食べ終えたお皿はお客さんがゴミ箱に捨ててくれるので、営業中に厨房から出ることはほとんどありません。
 
ーー「原価率研究所」という店名も狙いがあるんですか?
 
原価率研究所」というネーミング、かなり大きいですよ。この名前が目立つので今回みたいに取材が来てくれます。宣伝広告費を大きく抑えられますね。
 
ー一番コストカットを考えているのはどの点でしょうか?
 
やっぱり一番は仕入れです。
どんなお店よりも安く仕入れてるものがいくつかありますよ。中でも鶏肉はその日一番安いものを仕入れています。ただ、冷凍でない国産品というこだわりはあります。お米も供給量と相場に応じて仕入れる品種を変えています。
 
ーーカレーライスの値段は、300円ではダメだったんですか?
 
300円や200円台だと他にもあるので。200円ちょうどじゃないとダメです。
増税をふまえて値上げする時代だからこそ、200円でやる価値があると決めました。それを実現させるためにいろいろと考え、実行してきたんです

おいしすぎてもダメ!究極の普通カレーを目指し、三度の改良


 
ーーいままでに3度の改良をおこなったそうですね
 
最初のカレーは、昔懐かしい昭和の味を再現した黄色いカレーでした。でも、好き嫌いが分かれちゃったんです。原価率研究所が目指すのは好き嫌いのない普通のカレーなので、1年後くらいに家庭的なものに改良しました。ただ、すごく美味しくなりすぎちゃったんですよ。ミスりました。
 
ーー美味しくなりすぎちゃった、ですか
 
そう、美味しくなりすぎたので失敗です。
美味しくなりすぎちゃうと満足感がでてしまって、たまに食べるだけでもいいかってなっちゃうんです
 
美味しいものを食べている時って無意識にいろいろと考えてしまうんです。
「これはどういう食材を使ってるのか」「どうしてこういう味になるのか」と考えていたら、疲れてしまって毎日食べられません。
 
私たちの目指すカレーは極論をいえば、食べている時に何も感じないカレーです。
「食事を摂っている」ということ以外、何も考える余地のない普通のカレーを目指してるんです

 
ーー普通を極めたカレーですか
 
「おいしい」も「まずい」も言われない、ど真ん中の普通味を目指しています
とはいえ、3度目の改良を経たカレーはあまりにも普通すぎて「これで本当に大丈夫か?」とちょっと不安になりましたけど(笑)結果的に受け入れられました。

原価率研究所の常連の基準は「365日」来てくれること


 
ーーやはり常連さんが多いですか
 
お昼はほとんど常連さんですね。
学生さんから主婦、会社員や作業員の方まで幅広い客層です。
 
うちの常連さんの基準はすごいですよ。
週に1~2回とかではありません。365日来てくださるお客様を常連さんと認識しています
 
ーーえ!365日ですか!?
 
はい、どの店舗でも365日来てくださる常連さんが10人くらいいると思います。
平日だけ毎日来てくださる方を数えたら10~20人なんてもんじゃありません。中には1日3回来た方までいるくらいです。
 
そうなると「ご飯少な目がいい」とか「福神漬けがいらない」とかわざわざ聞かなくてもわかるようになりますね。
 
ーーメニューがカレーだけだとリピーターを作るのが難しいのではと思っていたのですが、違うんですね
 
むしろ逆だと思います。
何を食べようかあれこれ考える必要がないのでお客さんは楽なんですよ

飲食業というよりは社会福祉・地域振興企業という意識


 
ーー今後はフランチャイズ店を増やすことが目標ですか
 
そうですね。
年間100店舗、10年で1,000店舗を目標にしています。
 
ーー竹ノ塚ってかなり渋いエリア選択だと思うんですが、たとえば渋谷センター街みたいなところに出店しないんですか
 
お店のコンセプトややりたいことが達成できないので、都心には出さないと思います。仮に渋谷に出店したら大騒ぎになって、まわりの飲食店も面白くないでしょう。渋谷に遊びに来れる若者なら、別にカレーを200円で食べる必要もありませんし。
 
ーーお店のコンセプトですか
 
うちの社長が福島で東日本大震災を経験して、新潟に引っ越した際に地元の方々に良くしてもらったそうです。その恩返しをしようという想いで創業したのが、この会社でして。
 
カレー屋をやりたいから始めたわけではないんです。
社長に飲食店のビジネスノウハウがあったのでカレー屋にしただけで、一番大切なのは多くの人に喜んでもらうことなんですね。
 
ーーそれで安いことが重要なわけですね
 
具体的には3つの役割があると思っています。
 

食のインフラ

200円じゃないとご飯が食べられないという方々もいらっしゃいます。
そういう方々を含めて、誰でも食べたい時に食べられることが大切です
 

地域活性化

人通りの少ない場所に出店することで、人の流れができます。
カレーライスが200円ですから「お金が浮いたから、近くで惣菜を買い足そう」とか「コンビニでサラダも買っていこう」とか、周りのお店に波及効果がでるように狙ってます
 

災害時の支援拠点

これは社長が被災したときの経験からです。
災害になったとき500~600食は提供できるように備蓄しています

▲この日届いたという大量のお米。ルーも100人分は備蓄している

 
ーーなるほど、そういう想いに200円カレーは支えられてるわけですね
 
正直、200円カレーはやろうと思えば誰でもできると思います。
ただ、それを続けていくのは難しいはずです。実際、200円でカレーを出すお店はあちこちにできましたが長く続かなかった。
 
それは設立のバックグラウンドとコンセプトが違うからなんですね。
原価率研究所徹底的な原価率の研究と社会福祉・地域振興という意識がベースになっています。おいしいカレー屋を目指していないのが続けられている秘訣かもしれません

 
 

取材協力:株式会社 原価率研究所
URL:http://www.genkaritsu.jp/200yen_curry.html