「薄毛」で悩む人に寄り添う「Oops」と「NOHAIRS」。アプローチは真逆でも両サービスともに伸び続けている理由

ニューアキンド

街中やネット上でしょっちゅう目にする「薄毛」に関する広告。よく見るということは、それだけ悩んでいる人が多いとも言えます。

オンラインAGA診療を展開する「Oops」(ウープス)と、イケてる薄毛のためのスタイルメディア「NOHAIRS」(ノーへアーズ)。両サービスはそれぞれの方法で薄毛に悩む人に寄り添う事業を展開しています。Oopsの代表を務める平野巴章さんは、「AGAで悩む人が正しい医療へ気軽にアクセスできるようにしたい」と語る一方、NOHAIRSを運営する高山芽衣さんは、隠すことが主流になっている薄毛を、ファッションとして浸透させることに尽力しています。

販売するシェービングフォームと洗顔料のオールインワンソープBorderless Timeが都内銭湯とコラボレーションした際のポスタービジュアル

「薄毛の悩みを解決する」とひとくちに言っても、アプローチの仕方は三者三様。なぜ事業として「薄毛」に着目したのか? レッドオーシャンな業界でどうやって事業を伸ばしているのか? おふたりは競合にあたるのでは……? という、興味と疑問、そして若干の不安を抱きながら、対談形式でお話をお伺いしました。

NOHAIRS高山さんのインタビュー記事はコチラ↓

【ご本人のプロフィール】

平野巴章
株式会社SQUIZ 代表取締役
広告クリエイターとして多くの企業のマーケティングやブランディングを担当。2021年株式会社SQUIZを設立。自身が20歳の頃にEDで悩んだ経験から「Oops」(ウープス)をローンチし、オンライン診療サービスをスタート。第2弾はAGAの事業として「Oops HAIR」を展開し、オンライン診療をはじめ、情報発信や教育を通して、コンプレックス市場と呼ばれるネガティブなイメージの変革に取り組んでいる。

高山芽衣
株式会社Passion monster創業者CEO、YouProduce株式会社 COO。
長野県出身。専門学校を経て、外資系アパレルブランドの販売員に。独立後は一人一人が個性豊かな人生を歩むための社会をつくるべく、25歳のときに株式会社Passion monsterを創業。薄毛を気にする男性に向けたメディア、「NOHAIRS」を開設し、自身がコンテンツディレクターとして、ウェブメディアやYouTubeにて、イケてる薄毛男性のスタイルを提案している。

薄毛に悩む人に寄り添うふたつのサービス。ミッションや、事業をはじめたきっかけは?

―お互いの事業についてどう思いますか?

平野:NOHAIRSのことは、Oopsを始める前から知っていて、めちゃくちゃ素敵なメディアだと思っていました。僕らは「薄毛にならないために」を軸にサービスを運営していますが、薄毛を受け入れてもいいと思っている方にアプローチする、NOHAIRSは心強い味方だろうなと。

高山:Oopsを利用する方もそうだと思うんですが、薄毛のことって周りに相談しづらいんですよね。NOHAIRSのコミュニティの中には「スキンヘッドにしちゃおう!」と考えを振り切っている人もいますけど、そういう人の周りにはすでに理解者がいるパターンが多いです。だから、気軽に相談できるOopsのような場があることは、すごく意義があると思っています。

―気軽に相談できる場所が少ない、という課題感はおふたりとも近そうですね。サービスを始めたきっかけはどこにあったんですか?

平野:OopsはEDのオンライン診療からローンチし、AGAのオンライン診療はふたつめのサービスです。EDとAGA、ふたつの領域に共通するキーワードは「情報」だと考えています。EDやAGAの領域は誤った情報が蔓延しやすく、正しい診療方法にたどり着けない患者さんが多いんです。例えば「男性ホルモンが強い人の方が薄毛になりやすい」って聞いたことありませんか? あれも誤った情報なんです。

高山:え、そうなんですね!

平野:分かりやすい情報ほど広まりやすいですよね。こういう誤った情報や、薄毛であることをコンプレックスと決めつけ煽る広告など、業界が蓄積してきた負の遺産を取っ払って「正しい情報にアクセスしてもらう」ことがOopsのミッションのひとつです。高山さんがNOHAIRSという事業を始めた理由が気になります。

高山: “ノリ”で始めたという理由が大きいです(笑)。薄毛である父が悩んでいなかったので、私は薄毛そのものに対してはネガティブに思っていなかったんですが、街中を見渡すと薄毛を隠そうと頑張っている人が多くて気になり始めたんです。隠すくらいならスキンヘッドにして、堂々としていたほうがカッコいいのにと思いました。髪の量はもちろん、カラーやスタイルが人の魅力を左右するわけではないのに! っていう違和感がNOHAIRSを始めたきっかけのひとつですね。

言葉の選び方ひとつでブランドのカラーが出る

―「薄毛」の領域はセンシティブなものとして扱われがちですが、おふたりが気を付けている点はありますか?

平野:「薄毛」の理由は多様である、ということを常に意識しています。AGAは体内で発生する原因物質が影響で発症しますが、例えば薬の副作用で髪が抜けてしまった方や、ストレスで一時的に脱毛してしまう方もいらっしゃいます。こういったユーザーの背景も理解しながら言葉やブランドを作ることを大切にしていますね。我々がターゲットにしているのはあくまで「AGAで悩んでいる方」です。

高山:メディアで扱う言葉は本人が使った言葉を採用する、という点ですね。これはコミュニティ内で話し合って決めたことなんですけど、NOHAIRSでは「ハゲ」という言葉も使ってます。

―「励(ハゲ)みになります!」って言葉とか、メディア内では「ハゲ」をいう言葉をフランクに使っていますよね。Oopsでは言葉の扱い方をどのように考えていますか?

平野:僕らは医師とも相談した上で、基本的には「AGA」に統一しています。

高山:言葉の選び方は、難しいところですよね。理由として、例えばYouTubeの検索ワードとして「ハゲ」が多いので、そこに合わせることで気づいてくれる人を増やす、という狙いもあります。実際YouTubeを見てポジティブになったと言ってくれる人もいるので、今はこういう方針で進めていますね。でもやっぱり「ハゲ」って強い言葉なので、外部の方に質問された際には慎重に説明しています。

既存の慣習やイメージを“合気道”のように利用して事業を伸ばす

―それぞれのサービスは、どうやって利益を出しているのか気になっていて……ぶっちゃけ儲かりますか?

高山:これ、めっちゃ聞かれません?

平野:よく聞かれます(笑)。

―みんな気になるところは同じなんですね! ご回答をお願いします(笑)!

平野:僕らはユーザーさんからお金をいただいて、薬代や医師への診療報酬など、諸々かかる費用を差し引いた金額が利益になるという、シンプルなビジネスモデルです。儲かっているかどうかはあえて伏せますが、ニーズに強く刺さっているという手応えは感じています。

高山:NOHAIRSはメディアですけど広告は入れてないので、ブランドの売り上げがほとんどです。剃毛に使うローションフォームやスキンヘッドに似合うアイテムを揃えたアパレルブランドを展開してます。YouTubeの視聴回数を見ると分かりやすいんですが、薄毛の説明よりもファッション関連の動画の方が伸びるんですよ。最近はメディアの露出も多くなってきたからか、NOHAIRSのユーザーも増えてきていますね。Oopsのユーザーは増えていますか?

平野:はい、口コミの影響も大きく、ありがたいことに順調に増えてます。

―両サービスとも順調に伸びているとのことですが、要因ってどこにあるんでしょうか。もちろんおふたりの努力はありつつ、客観的な要因として。

平野:この領域って、資金力のある会社がたくさん広告を打つので、超レッドオーシャンだと思われてるんですよ。なんですけど、僕らがやろうとしていることは、実はブルーオーシャンっていう。さっきも言ったように業界が蓄積してきた負の遺産があるので、そこに対してこれまで違うものを市場に放り込むと、これまで違和感を持っていた人が興味を持って接してくれます。相手の力をうまく利用して自分の力を出す、合気道みたいなイメージですね。

高山:育毛剤とか予防剤って、若い人も使っていいものだと思うんですけど、パッケージは総じて年配の方向けのものが多いですよね。ブランディングとして、Oopsのデザインは若者に受け入れられていそうです。

平野:あとは「国内で承認された薬しか取り扱わない」っていう徹底したホワイトイメージもひとつあるかもしれません。正直、海外製の未承認薬を安く仕入れて安く売るっていうことをやっているクリニックがほとんどなんですよ。AGAについて詳しく調べている患者さんほど、Oopsが安心して使えるブランドだと理解してくれています。

薄毛に悩む人にとっての選択肢として共存し、両軸でダイバーシティに切り込んでいく

―おふたりの話を聞いていて、「薄毛に悩みを持つ人を減らす」という目指す場所は同じだけど、異なる部分もあるなと……。むしろ、「髪を生やそう」と「髪なんてなくてもいいじゃん」って意見は、相反している気もしてきました。

平野:Oopsでは「治療」とか「改善」って言葉をなるべく使わないようにしています。文脈上、使わざるを得ない場面もあるのですが、とにかく「髪があるほうが良い状態」とか「薄毛はダメな状態」という価値観を押し付けたくないんです。根底にあるのは、髪を楽しむことでチャレンジの選択肢を広げてもらいたいという思いなので。

これはサービスを始めてから発見したインサイトなんですが、薄毛に関して悩みを持っているのは美容師さんだったんです。

お客さんから薄毛について相談されても、薄毛に関する知識がないから正しい答えを提示してあげられない、という悩みを聞きました。そういう声をヒントに、今は美容師さん向けの勉強会を定期的に開催しています。

高山まさにNOHAIRSも薄毛に悩んでいる人へひとつの選択肢を提示している、という意識で運営しています。薄毛を隠して生きていくのではなく、例えばスキンヘッドという方向性もあるよって。

平野:Oopsではサイトのトップページに「この髪と、どう生きていく?」という問いかけを、キャッチコピーとして置いています。「答えは自分自身で考えて決める」になるんですよね。我々もそうだし、NOHAIRSもひとつの選択肢として共存できるのかなと思います。

高山:アプローチが異なるからこそ、解決方法の選択肢として相反していないと言えますよね。もうひとつ相反しない理由として、訪れる人の特性が違うという点もありそうです。NOHAIRSに来る人は、剃ることも視野に入れているような、意思がはっきりしている人が多いですから。「髪、もういらなくない?」っていう、言わばミニマリストのような。

平野:Oopsのユーザーは、悩み始めた20~30代の方が多いですね。もちろん40代以降の方を避けているわけではなく、ケアの方法を悩んでいるような、症状の進行もまだ初期の方。

高山:ちなみにNOHAIRSにも若い人は来ます。スキンヘッドにしたいのに周りが反対するから悩んでいるとか……。例えばスキンヘッドは営業で不利って言われがちなんですけど、1回会ったら忘れられにくいという点では、武器になることもあるんですよね。

―既存の価値観を変えるって、時間とパワーがすごく必要だと思うんですが、おふたりが参考にしているものや考え方はありますか?

高山:ジェンダーについてですね。世の中にジェンダーに対する理解が浸透していく様子を見ていると、NOHAIRSも地道にやっていくしかないなと思っています。ある部分がコンプレックスになってしまう理由のひとつして、周囲の目線が気になるから、という点があると考えています。その“見られ方”というのが、いわゆる既存の価値観ですよね。

だからこそ、メディアを通して「スキンヘッドって怖いと感じていたけど、カッコいいかも」と思ってもらえるような、新しい価値観を提案していく方法を選んでいます。「就活前だからやめておこう」とか「彼女が嫌がるから踏み切れない」という理由でスキンヘッドを諦めてしまうのは、本人ではなく周りの見方に問題がある、という考え方です。異なることを受容する、いわゆるダイバーシティという概念に切り込んでいくのはかなり大変ですが、少しずつでも進めたいと考えています。

平野:結局、ダイバーシティっていう考え方に行き着きますよね。僕らも、そこについてはよく考えています。アクションとしては、さっきもお話したように、サイト内で使う言葉は「これが正解」という意味を持たせないものを社内で話し合いました。あとは今後、広告を出していく際にも、髪形をはじめ、職業やセクシュアリティなどダイバーシティを意識したタレント起用をおこなっていく予定です。 

―スタイルの選択肢として共存していることが、結果的に「薄毛に悩む人を減らす」ことにつながるんですね……! アプローチやスタンスの違いが明確にある分、面白いと感じました。最後に、今回の対談の感想をお聞かせください。

平野:「世の中の価値観を変えよう」という意味で高山さんと考え方の根底は近しいですし、素直に協業できるなと感じました。ふたつのサービスがそれぞれのミッションに取り組んでいくことで、両軸で解決される部分があるなと。

高山:敵対心というよりは、薄毛に悩んでいる人への選択肢として共存できるのが良いなと改めて思いました。サービスすべてに共通すると思いますが、セールスされたって感覚が強いと、誰でも満足度が下がります。大事なのは自分で決めることで。OopsもNOHAIRSも相談ベースで悩んでいる人に寄り添えるところが、強みではないでしょうか。

【編集後記】

私は元々「Oopsマガジン」というサービス関係者へのインタビュー記事を執筆した経験があり、Oopsへの事業理解がある状態で今回の取材に臨みました。平野さんの考え方を知っている分、高山さんの価値観との共通点や違いが色濃く見えて、とても面白かったです。私からの質問だけでなく、お互いが興味津々で質問し合っていた姿が印象的でした。おふたりが強く共感していた「価値観を押し付けない」という考え方は、これからの時代、どのビジネスにおいても重要視されるべきポイントになると改めて感じます。

竹本 萌瑛子

株式会社アマヤドリにて、広告制作・SNSマーケティング・メディア運用・ライティングなどを担当。複業ではライターやモデルとして活動し、小さなころに考えていた「毎日ちがう仕事がしたい」を叶えるために奮闘中。

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