放送作家2年目の僕が出会った、「あるブログ」
放送作家2年目のハシモトコーキです。僕は4年前に熊本から上京し、現在、事務所所属の放送作家をしています。昔からお笑いが好きで、テレビやラジオが好き。憧れの仕事に就くことができて「さぁこれから!」と意気込んでいた矢先のこと、15年先輩の放送作家である細田さんのブログ『ハガキ職人から放送作家、そして廃業へ。』に出会ってしまいました。読めば読むほど襲ってくる迷いのようなもの。「僕はこのまま放送作家を続けてもいいのだろうか?」。
メッセを送ったら返事が来た!
僕はその答えを求めて、Twitterを通して細田さんに連絡を取らせていただきました。すると、細田さんからの返答は「続けたいで続く仕事ではないし、頑張ればどう、ってことでもない。もっと気楽にやった方がいいですよ」。あっけらかんとそう言い放つ細田さんに、他の放送作家とは全く違う空気を感じました。「この仕事には夢がある」「儲かる」「売れたいなら頑張れ」。僕が今まで先輩たちから聞いてきた言葉とはまるで逆。なんなんだこの人は!?細田さんにもっと詳しく、お話を聞いてみたい。というわけで、今回の記事を企画しました。
お話スタート。まずは「放送作家って何をする人?」
細田さん、今日はよろしくおねがいします。
よろしくお願いします。
「放送作家」とはどんな仕事なのか。あらためて、細田さんからご説明いただけますか?
ざっくりいうと、番組の「台本を作る」お仕事です。
そうなりますよね。
ざっくりとしか言いようがないんですよ。会議や打ち合わせに参加したり、企画案を考えてプレゼンをしたり、収録現場ではフロアディレクター※みたいな役割を頼まれることもあります。それらすべてが「台本を作る」ことに関連しているので「どんな仕事?」と聞かれたときは、こう答えるようにしています。
※フロアディレクター…収録現場で、カメラの横から出演者にカンペなどで指示を送る役割。
特に細田さんの場合は、いろんな媒体でお仕事されていますよね。
レギュラーではネット番組とテレビ、ラジオもやらせていただいています。あと、最近は広告の案件にも関わっています。
すごい!それだけ幅広くやっている人は珍しいと思います。
すごくはないですよ。確かに、ラジオならラジオだけをやる、テレビならテレビだけをやるという作家さんが大半ですが。私の場合は「これ!」と未だに定まらなくて、結果的にいろいろやっている状態です。
テレビ、ラジオ、ネット…放送作家が目指すべき場所って?
現在、放送作家の主戦場がテレビ、ラジオ、ネットだとして。僕たちのような若い作家は今後、どこを目指すべきなんでしょうか?
目指す目指さないではなく、この仕事は巡り合わせです。「テレビをやりたい!」と言って、やらせてもらえるわけでもなく、オファーをくださる人がいて初めて成り立つ仕事なので。一つ言えるとすれば、依頼をいただいた時に最低限「それに応えるスキル」を備えておく必要はあると思います。要はテレビもラジオもネットもどれにでも対応できるようにしておけばいい、ということです。
それって難しくないですか?
それぞれ特徴が違うだけで、基本的にはやることは同じです。私はラジオからこの業界に入った人間なので、そう感じるのかもしれませんが、ラジオの原稿が書ければテレビもネットの台本も書けると思います。ラジオの音声に映像(動き)が付いたものがテレビ、それに(視聴者との)双方向性を加えたものがネット番組と考えれば、それほど変わりはないです。
放送作家ってどうやったらなれるの?
話は少しそれますか、放送作家を目指す人は細田さんのように「ハガキ職人から放送作家」のプロセスをイメージする人が多いと思うのですが、それについてはいかがですか?
私がそれで入ったのはもう17年も前ですからね(笑)。今そのプロセスを踏もうとするのは、かなり遠回りだと思います。だって、放送作家に「なる」ということだけなら、今すぐに誰にでも出来るじゃないですか。例えば、ハシモトさんのように作家の事務所に連絡して所属させてもらうとか。この業界、基本的に的には来る者拒まずですよね?
はい。僕の場合は事務所に企画書を送って、面接をして入りました。
なるのがこんなに簡単な職業は、他にないと思いますよ。名刺を作ってしまえば「はい、放送作家です」ってことだし。つまり、なれるかなれないかではなく、やるかやらないか。実際にやってみた上で向いてるかどうかを見極めて、続けるか続けないかを自分で判断する。放送作家に限らず、仕事ってそういうものだと思います。
放送作家には、先輩も後輩もない!?
細田さんは、(どこにも所属せず)ずっとフリーで活動されているんですよね?
そうですね。仕事を始めてしばらくした頃、いろんな事務所さんから(所属の)お誘いがありましたけど。所属すると、どうしてもその中で先輩・後輩という関係が生まれてしまって、面倒くさそうじゃないですか(笑)。
確かに。
そもそも、放送作家に先輩・後輩の感覚って必要ないと思うんです。もちろん、長くやっている人に対してはリスペクトの気持ちはあります。しかし、仕事上で意見をぶつけ合う時、そこを気にしてモノが言えなくなってしまったとしたら、それは弊害でしかない。
それは下の人に対してもそうですか?
私は、ハシモトさんのことを「後輩だ」と思う感覚もないですよ。
やめてください(笑)、だいぶ後輩です。
例えば、私とハシモトさんが同じ会議に参加したとして。私が先輩風を吹かせてハシモトさんの意見を押さえつけてしまったら、そのアイディアの可能性が一つ消えてしまう。それって、全体から見ると損ですよね。
そこまで考えますか。
何年やっているとか、過去にどんな番組をやって来たとか全然関係なくて、今の時点で何が出来るか。案件に対して常にフラットな立場でアイディアを出せるからこそ、放送作家という立場に価値があると思います。
若手作家あるある。「雑用仕事」という名の「雑用」は断るべき?
僕ら若手作家には「修行」といった名目で、雑用仕事が回ってきます。僕は極力そこを避けたいのですが。かといって、そういった仕事を断るにも勇気が要ります
そういうの、あるみたいですね。「こういう人(出演者候補)、探してきて」とか「こういうお店を探して」とかいう、いわゆるリサーチの発注がよくくると聞きます。
まさに、それです。
ハシモトさんは今「雑用仕事」と言いましたけど、雑用と仕事ってはっきりと線引きできると思うんです。ギャラが支払われるのであれば仕事だし、無いなら仕事ではない。
そういう発注には、たいていお金の話は書かれていないですね。
つまりはそういう事。発注元がリサーチ会社なりに支払う予算がないからこそ、たくさんいる若手作家たちにバーっと発注がかかるわけで。要は足元を見られているということです。「修行」に限らず「勉強になるから」とか、「コンペ」や「オーディション」もそう、立場が上の人に圧倒的な有利がある言葉に対しては、見極めが必要だと思います。
細田さんが若い時は、どうしてたんですか?
全部、断ってました。「ギャラが出ないなら、仕事じゃない」とか言って。生意気な奴ですよね(笑)。
出来ることなら、僕もそう言いたいんですけど。これを断ったら先が続かないんじゃないか、とか思ってしまいます。
そもそも、そういう発注をしてくるのは、こっちを一人の仕事相手と見なしていないわけで、今後ハシモトさんに(正式な)仕事を頼んでくるとは考えにくいですよね。「避けたい」という気持ちがはっきりしているのなら、さっさと断って、別のことに時間を割いた方がいいかもしれません。
放送作家として成功するにはどうするべきか?
ずばり、放送作家として成功するには?稼げるようになるにはどうしたらいいですか?
何を持って成功とするか、だと思います。自分はまだ、自分の中で「成功」したと思える位置にはいませんし、稼げているとも思っていません。私が若手の頃は、エンタメ業界もまだこれほど縮小していなくて、放送作家は「楽で」「稼げる」仕事でした。でも今は、それなりに稼ごうとすると、それなりに大変ですよ。だからと言って、あくまで放送作家は誰かから依頼されてはじめて成立する仕事。自分であれこれしなきゃと、もがいたところでそれほど意味がない。
そんな中で、細田さんが心がけていることがあれば教えてください。
常に機嫌よくいる、ということですかね。あとは常に元気でいる、とか。
シンプルですね。
逆にいうと、それくらいしか出来る事がないんですよ。放送作家は才能やセンスが問われるような仕事じゃないし、ある程度の場数を踏むとスキルは大体みんな同じになる。そんな中で「この人と一緒に仕事がしたい」と思ってもらうには、いろんな2択で勝つしかない。例えば、見た目も技術も全く同じで「機嫌がいい人」と「機嫌が悪い人」がいたら、誰もが「機嫌がいい」方に仕事を頼みませんか?
機嫌か…。考えたこともなかったです。
最近は、日々を正しく生きることも意識しています。電車でおばあさんに席をゆずる、とか、赤信号を無視しないとか。小学校で習ったようなことを今さらになってやってますよ(笑)。放送作家の仕事の依頼って、ある日突然くるじゃないですか。私の場合はLINEやメールでくる事が多いんですけど、新しい仕事が入ってきたときに「日頃の行いがよかったから、このお仕事をいただけたのかも」とか勝手に思うと、楽しいですよ。
放送作家は「看板」が武器になる!?
では、仕事の上で心がけていることは?
人を相手に仕事をする以上、「何者か」を早い段階でお伝えする努力はしています。
どういうことでしょうか?
社会の中で、仕事をするには「自分は何者か」ということを相手に伝える必要があります。初めましての時に、名刺交換をするのもその一つ。しかし、私の感覚では「放送作家」という紹介だけではまだ足りない、プラスアルファが必要だと思っています。私は、ありがたいことに「ナインティナインのオールナイトニッポンのハガキ職人から放送作家になった」という過去があって、どの現場に行っても、特に同世代の人から「ラジオ聴いてました!」「あの顔面凶器さんですか?」なんて言ってもらえるんです。
細田さんはかつて「顔面凶器」というペンネームで、ハガキ職人をされていたんですよね。
正直いうと30代前半ぐらいまでは、これがコンプレックスでしかなくて。いく先いく先で「この作家さんは元ナイナイANNのハガキ職人で…」と紹介されるたびに、「昔の話、持ち出してんじゃねーよ」と内心イラっとしたりして(笑)。
はたから見ると、とても羨ましいことですが。
去年、『ハガキ職人から放送作家、そして廃業へ。』というブログを書いて、自分のこれまでのことを見つめ直すことが出来て。新たな気持ちで仕事に取り組む中で、今ではとても大切なものの一つです。「この作家さんは元ナイナイANNの…」と、誰かが私のことをそう紹介してくださるだけで、紹介された側は「なら大丈夫ですね」「(この仕事を)安心してお任せできますね」となる。もちろん、言っていただいた以上、その期待に応えなければという別のプレッシャーは生まれますが。こんなにありがたく、幸せなことはないですよ。
細田さんにとって、一つの看板になっているこということですね
話を戻すと、これからは「放送作家」という肩書きにプラスして、仕事相手を安心させたり喜ばせたりする、「この人と一緒に仕事をしてみたい」と思わせる何かは必要になってくると思います。「SNSのフォロワーが10万人います」とか「並行してyoutuberやってます」とか、「お豆腐屋さんもやってます!」というのでもいいと思います。
これからは、放送作家1本じゃダメなのか…
そういうものがあるに越したことない、という意味です。私自身も一つでも多く、新たな看板を見つけたいと思っています。
最後に、「放送作家2年目の僕に、17年目の細田さんから何か一言」いただけませんか?
特にないなぁ(笑)。ただ、同じエンタメ業界の端っこに関わる者として「自分以外の誰の言うことも聞くな!」ということだけはお伝えしておきます。この業界、もとよりこの世の中、本当の正解を知っている人なんて誰一人いないと思うんです。「お前は間違ってる」と上から怒られたり、批判されたりすることもあるでしょうけど、何が本当に正しいのかは誰にも分からない。これを突き詰めて行くと結局、自分が正解だと思えることをやっていくしかない。少なくとも、他人の意見に振り回されて自分の可能性を狭めてしまうことだけは、もったいない。「自分が思うまま、好きなようにやればいい!」ということですかね(笑)。
細田さん、ありがとうございました!
こちらこそ、楽しかったです。
編集後記
現役の放送作家である二人の会話。いかがでしたか?放送作家とは「台本を作る人」。ただ、その働き方、自分ルールは千差万別。その中で、ベテラン作家である細田氏が心がけていることは、まず「自分は何者か」を伝えること。そして、先輩後輩関係なく相手をリスペクトし、いつも機嫌よく、日々を正しく生きる。放送作家という特殊自営業ですが、大切な事は会社で働く我々と同じということですね。ハシモトさんにはどう響いたでしょうか。新ジャンル「お豆腐屋さんの放送作家」が誕生するかもしれませんね。
細田さんはあのナインティナインのオールナイトニッポンでハガキ職人から放送作家になったというご経歴があります。番組のヘビーリスナーの1人としては、今回の企画を通してあの「顔面凶器」さんが今も放送作家として元気に活躍されていることを知ることができて非常に良かったです。