ニューアキンドセンター様で書かせていただくのも今回で3回目になりますが、1回目2回目と失敗談ばかりだったので、今回はちょっと失敗談ではないものを書かせていただきます。本日は「出資者」の話です。僕の起業で成功と呼べるのはここだけじゃないかと思うところもあり、本当に出資者には恵まれました。お陰でまだ生きています。
この辺の話は今まで以上に個別性が高く、100人の起業家がいれば100通りの創業資金調達方法があるとは思うのですが、とりあえず僕の経験からの話になります。僕の創業は何の実績もない人間が資産家を口説いて金を引っ張ったというだけの話ですが、周囲の創業事例を見るとわりとよくあるパターンのようです。何かのご参考になれば幸いです。
出資で起業するか自己資金で起業するか
そもそもの話ですが、ベストは100%自己資金による起業です。出資者なしでやれるならそれがベストなんです。全て自己の裁量でやれますので、完全に自由な経営が可能になります。もちろん(誰にも株を渡さなかったとすれば)創業者利益も総取りになりますね。融資なども受けずに済むなら正にパーフェクトと言えるでしょう、返済も利払いもキツいしこれが一番いいですね。まぁ、世の中そんな都合の良い話はないんですけど。そんな金持ってて起業する意味があるかと言われたら微妙ですし・・・。
現実を言えば若手起業家が数百万~数千万の資金を完全な自己資金で用意するのはかなり難しいです。かなりの一流企業にお勤めのところからスタートでも、20代で真水の1000万を用意するのはそれなりにキツいですね。また創業融資などもある程度タネ銭がないと借りにくいです。出資金は返済義務のない資金ですので、そういう意味ではリスクが低いとも言えます。現実的なところを言うと、出資金と会社名義での借り入れを組み合わせて創業資金を作り出すのが一般的な段取りになるのではないでしょうか。出資100%なら返済義務がないので理想ですが、色々考えるとなかなかそうもいかないのが世の中の厳しいところで。
出資者の立場になって考えてみてください。それこそ「代表取締役が会社をブン投げて物理的に逃げた」という事態だってあり得るわけですよ。というかよくあるわけですよ。本当に社長というのはよく失踪する生物です。「おまえもリスクを負え、最後まで逃げない保証をつけろ」とは言いたくなるじゃないですか。(それでもわりと逃げるんですけど)創業融資は代表取締役が連帯保証人になるとちょっと金利が安くなったりしますので、この辺を負わされることが多いでしょうね。もっとシンプルに出資と融資を組み合わせてくる場合も多いと思います。
出資者と創業者の株式の配分に関しては、双方が納得するまで徹底的に話し合っておくべきです。少なくとも、「株式は100%出資者のもの」と主張する出資者の下で起業をするべきではありません。株式を一切持っていない創業者ですが、単なる定額働き放題プランですね。おまけに会社の借金の連帯保証人なんかになっていた場合逃げることすら出来ません。労働法規にも守られないのでほとんど奴隷です。まさかそんな条件で起業する人間がいるわけがないと思うじゃないですか。結論だけ言うとたまにいます。ここまで派手なアレじゃなくても序盤でこの辺が甘かったがために残酷なことになる事例はわりとありますね。
ある程度の自己資金を入れたり、会社の借り入れの連帯保証をしたり、あるいはプレイヤーとしての自分の必要性などを担保にして、納得できる割合の株式を創業者として獲得しておくことは最低限必要になります。この創業者として得られた株式ですが、将来的な創業者利益の担保であるとともに、自社内における今後の対人交渉、役員や従業員などに対してのとても強いカードでもあります。というか、代表取締役が切ることの出来るカードって本質的に金とこれしかないんですよ。
出資者はよく選ぶことを薦めます。極端な例ですが、出資を受けて創業してしばらくしたら、出資者が反社の人だったことがわかった、なんて事例ももちろんあります。きちんとビジネスプランに共感と理解があり、将来の夢と展望を共有できる、社会的に問題のない出資者を選びましょう。出資者の金の出所が不明なんてのは論外です。「気づいたら反社のフロント企業経営者だった」って話はですね、なくもないんですよ。経営が傾いたら彼らが寄ってくるのは有名な話ですが、創業からそもそも終わっていたパターンもあります。そして、しっかりと話し合った上で適切な配分で株式を受け取りましょう。何をもって適切とするかの根拠については、自分自身で考えるしかありませんけれど。
メイン出資者を選ぶチャンスは創業初期にしかありません。「出資者を選ぶのは自分だ」というつもりで出資者探しをするのがいいと思います。悪魔のような出資者ももちろん存在します。「良い大学出て良い会社に入った若者を俺のような人間がマトモに雇おうと思ったら安くて年600万はかかるが、起業という形で・・・」みたいなことをやっている人間は普通にいっぱいいます。(この話はそのうち細かくしたいと思います)
まとめ
- ・出資者は選びましょう、間違っても反社から資金を得てはいけません
- ・創業時の持ち株の比率は納得いくまで話し合ってください。議決権などの概念はよく勉強しましょう。初期メンバーや出資者の人数、事業の性質などによって最適解は変化します。
- ・自己裁量で他者に譲渡可能な自分持ちの株式は、経営権や創業者利益の担保であるとともに今後極めて重要な交渉カードになります。迂闊に切らないようにしてください。
- ・出資者に「食われる」ケースもそれなりにあることは頭の片隅に入れておいてください。
出資者の探し方
「お金を持っており、かつ事業に投資したい人」を探して、自分の事業計画をプレゼンするだけの簡単な作業です。僕は大学在学時代から果てしなく出資者を探し続けていたので、起業を具体的に考え始めた時には出資者の目処は大体ついていました。それで、「なんで僕に投資したんですか?」と出資者に尋ねようと思ったんですが、現在のザマでそれを尋ねるとかなり重苦しいことになってしまう気がしましたので、なんとなく予想してみることにします。そのうち風向きが良くなってきたら答え合わせをしましょう。
儲かりそう、と思わせる事業計画
これは基本かと思います。あくまで「儲かりそう」であって「儲かる」ではないのがポイントです。「絶対に儲かる事業計画」が仮に存在したとしても、出資者が「儲かりそうだな」と思ってくれなければ無意味なんですよね。僕は作図やパワポなんかはまるでダメですが、文章と喋りにはそこそこ自信がありましたので、これはそんなに苦労しませんでした。たぶん、これは狙う事業や個人のキャラクター性によってもやり方の正解が違うと思うので、とりあえず色んな人間に事業計画を話しまくって反応を見てみるといいと思います。(ただし、事業計画を丸パクって自分でやりそうな人間は避けましょう)それと、事業計画書は書きまくりましょう。就職活動のエントリーシートと一緒で、書けば書くほど、語れば語るほど洗練されていきますので。(実際の事業の成否とはたぶん無関係の技能ですが)
出資者のやりたいことと一致した事業計画
さりげなく非常に重要な気がします。これは地主系の皆さんであるとか、あるいは投資業で財を成した皆様にありがちなことですが、「実業をやりたいな」と考えている資産家の方はかなりの数います。でも、もちろん自分でやるのは面倒だしリスクも高い。しかし、出資する形で誰かにやらせて自分はオーナーになれば、出資した額面以上に損失が膨らむことはなく、事業に付随する各種リスクが降りかかることもない。ならやってみるか、そういう需要はこれだけ不景気の日本でもわりとあります。特に、飲食なんかは「やってみたいけど、自分でやるのは食中毒とか怖いし絶対嫌」という需要がわかりやすくありますね。「フレンチで修行したけど創業はオーナーの意向でハンバーガー屋」みたいな話もわりとある。そういうわけで、これは「事業の成功」という観点からは正しいとは言いにくいですが、「出資者に合わせて事業計画書を書く」もナシではないです。少なくともある程度合わせる柔軟性はあった方がいいですね。
出資者が「あいつに金を託した」と胸を張れる何かを持つ
ぶっちゃけたところですが、資産家である出資者から見て子飼いの起業家はちょっと値の張るペットみたいなものです。ワンワーン。
僕は、起業における主役は(出資を得ての起業の場合)起業家ではなく出資者・投資家だと思っているんですが、主役の皆様が気持ちよく「俺の下で会社やってる奴なんだよ」と紹介出来るだけの何かを持っておくと、必ず役に立つと思います。そういう意味で、「経歴なんか起業するなら役に立たない」という話はあんまり説得力がないと感じています。また、経歴というのは必ずしもキラキラしたエリート路線ばかりとは限らず、「地べた這い回って来たぜ」みたいな現場アピールするラッパーみたいな経歴もそれはそれで強みになります。持ち味を生かしましょう、人生はいつだってそうするしかない。
直接的に出資者の役に立つ能力
出資者は事業に金を出すわけですが、出資者と起業家の関係は実際もうちょっと密接だったりしますので、直接的に出資者様のお役に立てる特殊技能があったりするとかなり出資を得やすくなります。ほら、なんだかんだ人間の懐に滑り込むのには「具体的に役に立つ」って一番早いじゃないですか。僕のメイン出資者は地主様ですが「あなたの周囲で発生するめんどくさい仕事やスジの悪いあれは全部やります、やらせてください」「やります」「やります」などのプッシュが効果を発揮しました。人間、気合いを入れればわりと色んなことが出来ますので気合いだと思います。とりあえず「出来る」「やらせろ」と言ってみる姿勢です。多少色んな人にタダ働きさせられがちになるのは経費と思って諦めましょう。
人間的共感
出資者との間にある種の共通する価値観や共鳴する理念があることがとても大事だとは思います。結局カネを出す出さないの最後の一線ってそこになってくることが多いと思うんですよ。まぁ、出資を得るためにはある意味自分を偽ってでもこれを出資者との間で作り出さなければならないこともあるでしょう。でも、理想を言えば自然な形で出資者との間に人間的共感が発生しているのが一番良いですよね。僕がこうして大失敗しても未だに僕の出資者は僕に良くしてくれています。これは、やっぱり人間的に共感出来る部分があるということが大きく、そういうところが確保出来ていると理想だと思います。それだけに何とか恩は返したいですね・・・。頑張ります。次は上手くやります。
まぁ、こんなところかなぁと思います。とにかく色んなところを駈けずり回って、お金を出してくれそうな人に会ったらゴリゴリプレゼンをする。いつ、いかなるタイミングでも、口から事業計画が(それも可能であれば出資者ごとの特性に合わせてある程度カスタマイズされたものが)溢れ出るくらいまで高めて人生を送ることが重要なのではないでしょうか。僕のそう長くはない人生でも、これで複数の出資者候補は確保出来たので、多分やればできるのではないかと思います。こないだも「1億貸そうか?」という話がインターネットから転がって来ましたし。(どうなるかわかりませんが、今度一回お会いしますかという話になりました)
「事業に投資したい資産家がいる場所ってどこだよ」というお話ですが、流石にそれは自力で見つけてください。どっかにはいるんだから必死で探せばそのうち見つかるかもしれないですよ。流石に僕の金脈を他人に渡すことは出来かねます。僕だっていつかはもう一戦やるんですから。気合い入れて探しましょう。うまいこと見つかったら僕にも紹介してください。俺のものはやらないがおまえのものはくれ。
「起業して成功する」ことはともかく、「出資を得て起業する」というところまでは、「とにかく俺は起業をするし、儲けるし、あんたを儲けさせるし、事業プランももちろんある、俺の話を聞け」と叫び続けて人生を送ればどこかのタイミングで打席に立つチャンスが巡ってくるものなのではないかな、と思います。あとは、なるべくチャンスのありそうなところに移動していく嗅覚みたいなものも必要かもしれませんけれど。まぁ、それは各自与えられた条件の中で頑張るしかないところだと思います。こないだも「株式の10%で1500万出資受けたよ。未経験の業種で初創業だったけど」って人類と遭遇して「マジかよ」ってなったので意外とチャンスはあるんだと思います。やっていきましょう。
まとめ
- ・事業計画書を書きまくる、いついかなる時でも事業計画を話せるくらいまで練る。
- ・出資者の希望や性質に合わせて事業計画を書くのもあり。
- ・出資者にとって金を出す理由になるだけの経歴や肩書きがあると良し。
- ・直接的に出資者の役に立てる技能があると懐に潜り込みやすい。
- ・人間的共感が発生していると理想的。
- ・やっていきましょう。