なぜ天才会計士はいまベンチャーを選ぶのか? リスクと安定を両立させる新キャリア

ニアセ寄稿

かつては「安定の象徴」だった公認会計士だが…

「公認会計士」といえば、かつては安定の象徴ともいえるキャリアだった。5%ともいわれる難関資格をくぐりぬければ、あとは監査法人へ就職すればリストラもなく初任給600万と高給だ
 
しかし、2006年から2010年には公認会計士バブルが発生合格者を15,000人も出したことから、当時の公認会計士は報酬減額就職難に見舞われた。
 
そのころから、公認会計士が監査法人以外のキャリアを考えるようになったと思われる。従来であれば選択肢になかったベンチャー企業の役員一覧で、公認会計士がちらほら登場するのはここからだ。
 
そこで今回、なぜ安定高給の象徴であった公認会計士がベンチャー企業を志すのか、実際の経験者からお話をうかがってきた。
 

当時最年少 で会計士資格を取得した天才の選ぶ道

お話を聞かせてくださったのは、株式会社ごちぽんで経営企画部の部長を務める井上健さんだ。井上さんは大学在学中に公認会計士試験へ当時最年少で合格した天才肌。卒業後は大手監査法人の花形部署で大手企業を中心に監査を担当していた。
 
 
― 監査法人にお勤めのころ、ベンチャー企業をどう見ていましたか?
 
井上さん:クライアントとしてのかかわりはありませんでした。当時、クライアントが大手の事業会社や外資系企業の日本支社でして。そのこともあり、ベンチャー企業が話題に上ることがあまりなかったと思います。就職先も監査法人、投資銀行の監査、もしくは親の跡を継いで会計士事務所へ行くか。
 
ベンチャー企業へ転職したのは、20名いた仲良しの同期でも私1人だったと記憶しています。転職後も肩書に公認会計士とある方はほとんどいなくて、「起業を志す会計士で集まろう!」と顔の広い先輩が声を方々へかけても集まったのが4人だったことがあります。
 
― 当時とくらべると、今は変化を感じますか?
 
井上さん:そうですね。以前も目上の方やお世話になっていた方々の中には会計士の方がいらしたのですが、20~30代にはなかなかいませんでした。それが最近は名刺交換の肩書を見て「あなたも公認会計士ですね」と話題になることが増えました。
 
その理由は、公認会計士の増加にあると思っています。公認会計士になってからベンチャーを選ぶ比率は変わらず数% くらいの印象ですが、公認会計士の数が私の世代では増えたので、実数でベンチャーに転職する会計士が増えたのかなと。
 
― 井上さん自身はなぜベンチャー企業を選んだのでしょうか。
 
井上さん:磯崎哲也さんの『起業のファイナンス』を読んだことがきっかけです。Twitterで当時タイムラインに流れてきたので手に取ったのですが、これが何も分からなかった。
 
曲りなりにも公認会計士として頑張っていたのに自分はサッパリわからない。そしてそれを「わかる人」がたくさんいる。危機感を抱いて、著者の磯崎さんへお電話したらなんと会っていただけて。「よくわからないけど知りたい」という気持ちが湧いてきたんです。
 
できれば全く知見のないネット業界に入りたいなと。それで25歳のとき、ベンチャー企業へ飛び込みました。当時からGREEさんやDeNAさんなど大手ベンチャーはありましたが、あえて知られていない小さなベンチャーがいいと、REALWORLDへ転職しました。
 
また、もし失敗しても監査の仕事に戻れるという安定感もありました。安定した資格があるからこそ、リスクを取れたかたちです。
 

ベンチャーを経て「現場の分かるプロ」に

― そこから1社を経て、なぜ現在の会社へ?
 
井上さん:REALWORLD、そして次のエウレカでIPOやバイアウトを経験できました。しかし私は「運が良すぎて実力以上のものを得てしまった」と感じていたんです。周りから過大評価されてしまっているぞ、と。そのとき弊社のオーナーにお会いして「こんなに真剣に仕事に向き合い、事業を拡大したいと思っている方がいるのか」と感銘を受けました。それでごちぽんへの参加を決めました。
 
― 今お勤めである「ごちぽん」さんの特色はどこにありますか?
 
まず、昨今だと珍しいとは思いますが、VC(ベンチャーキャピタル)や事業会社といった外部株主の方がいらっしゃらないというのがあげられます。そのため、自分たちで稼がないとすぐに潰れてしまうので、「事業を作り利益を生み出す」ということにかなり向き合っていると思います。
 
次に、様々なバックグラウンドの社員がいる。社員のダイバーシティ化があります。弊社グループが「ゲーム」「広告」「メディア」と様々な事業を行っているため、「とにかくゲームを作りたい」という動機で参画された方もいれば、広告に携わりたくて参加される方もいます。また、BCG(コンサル)出身のビジデブの人間もいれば、アルバイトとして弊社に入社し、執行役員まで上り詰めた社員もおります。様々なバックグラウンドの方が集まってきており切磋琢磨しているのは大きな特徴の一つです。
 
また、その人が熱意をもって「やりたい!」と手を挙げた仕事なら、過去の経歴と関係なくともどんどんお任せする風土もできてきており、月に一度経営陣に事業アイデアをプレゼンするような機会も用意しております。かくいう私自身も、今は広告事業の部長をしており、会計と直接関係ない業務を多く経験しています。
 
そしてもちろん、行っている事業自体も魅力の一つです 。ごちぽんは。「地方創生」アプリです。この分野はまだ他社様もこれ!という事業を作れていない未開の領域です。弊社としても、地方を活性化するためにITが貢献できるのではないか、と全力で取り組んでいます。
 
― こうしたキャリアで、通常の公認会計士と何が変わったと思いますか?
 
事業会社と監査、両方の立場がわかるようになったことです。世間の方がコンサルタントや監査法人へ抱く印象には「現場を知らず、教科書的な理論 を言ってくる」等少なからずネガティブな面があると思います。
 
しかし、事業会社の実務を経験したことで、事業会社と監査、両方の気持ちが汲めるようになりました。ベンチャーにおいても様々な場面において、銀行や監査法人との取引は欠かせません。そのような利害関係者の皆様と会計という同じ言語で話ができると、やはり強いですよね。様々な場面において円滑に業務を進めることができるようになったのは、公認会計士とベンチャー企業を両方経験できたからだと思います。
 

ベンチャーに向いている会計士とは?

― 最後に、ベンチャーと相性がいい会計士の人材像を教えてください。
 
まず、公認会計士は 客観的に物事を判断する癖がついている方が多いのではないかと思っております。だからこそ、ベンチャー企業ではよいブレーキ役になれると思っています。「絶対に成功する !」とひた走る起業家は、ともすれば大きすぎるリスクを取ってしまいます。そこで冷静な視点を向けられるのが強みです。
 
ただし、監査法人時代のやり方を元に 、「指導しよう」と言う気持ちが強すぎると、適応に苦しむことも起こるかもしれません。会計士の方々の会計知識は間違いなく大きな武器です。しかしながら、「会計に関しては自分が必ず正しい!」とは限りません。会計はあくまでツールであるため、目的によって使い方は変化していきます。特にまだ制度が整っていないからこそ、応用がきくのがベンチャーの利点です。もしベンチャー企業への転職を考えていらっしゃる方がいるなら「相手と自分、両方の視点を足せばより遠くへいけるんじゃないか」という視点で参画すると良い関係を作りやすいのではないかと思います。
 
― ありがとうございました。
 

まとめ

公認会計士の採用は、スタートアップの起業家にとってみればダイヤモンドが降ってくるようなもの。何が何でも採用したいだろう。だがそこで肩書きに踊らされ、双方が不幸になるキャリアを選ばせてはいけない。せっかく監査法人から新しい選択肢を検討してもらえるのだからこそ、お互いが楽しく成長できる職場であるべきなのだろう。
 
そして公認会計士をこれから受ける、あるいはすでに監査法人へお勤めの方。「もっとリスクを取ってみたい」「やりがいを感じたい」と思うなら、一度ベンチャーを経験するのは最後に監査法人へ戻るにせよ、現場を知るメリットが大きいのではないか。そんなことを、井上さんからは教えていただいた。

慶應義塾大学在学中に起業を2回経験。卒業後は外資系企業に勤め現在は独立。フリーのマーケターとして活動するほか、ブログ『トイアンナのぐだぐだ』(http://toianna.hatenablog.com/)をきっかけにライターとしても活動中。

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