起業。自分で会社を作るということで、世の中には「起業家」なる肩書きまで存在する。ただ多くの場合、起業しているのは普通の人だ。メディアでもてはやされる「イケてるビジネスパーソン」ではなく、ごく普通の人が、就職でも、転職でもなく、起業する。どんな考えでそれに至ったのだろうか。
ということで、最近起業したばかりの人に、「どうして起業したの?一般ピープルが起業するってどんな感じなの?」ということを聞いてみたいと思う。
イケてるビジネスパーソン?いやいや、典型的な「一般人」が起業した
起業と言われると我々一般人には、全く関係ない話のように感じる。知らない男性の昨日見た夢の話のような、もう全く興味がないと言ってもいいかもしれない。私にしても起業って何?食べられるの?みたいな感じだ。
ちなみにこれを書く私(地主)は無職です!
しかし、私の知り合いに起業した人が現れた。雑誌やテレビによく出る煌びやかなビジネスパーソンではない。失礼だけれど、もう本当に一般ピープルなのだ。では、なぜ彼は起業をしたのだろうか、一般ピープルだったのに。
起業した杉野卓也さん(43歳)
杉野さんは東京農業大学で林学を専攻し卒業後、大学で研究員をしながら、「多摩川源流大学」という学内プロジェクトを担当していた。ただ今年の4月に「合同会社流域共創研究所だんどり」という会社を起業した。社長なのだ。ぜひお話を聞きたいと思う。
きっかけは後ろ向きな出来事。「普通のおじさん」が起業したワケ
いきなりですが、一般ピープルですよね?
そうですね、一般ピープルですね
でも、今は社長!
正確には、社長ではなくて「代表社員」なんだけどね。株式会社と違って、合同会社には社長というのが厳密にはなくて、「代表社員」というものになります
でも、社長なんですよね?
役職的にはそういうことにはなるね!
メガネの存在に初めて気がついた社長
なんで一般ピープルが起業したんですかね?
簡単な話だよ。大学の雇用期間が終了したから
研究員にも期間があるんですね
ある人もいるよ。で、それをきっかけに「合同会社流域共創研究所だんどり(以下、だんどり)」を起業したわけです
後ろ向きに前向きな理由ですね
10年ほど学内のプロジェクトをやっていて、学内だと色々と制約があるので、2年ほど前から一度大学の外に出てやってみたらどうだろう、みたいな話を周りの人たちと話していて、雇用期間の継続のタイミングで、いっちょやってみるか、と
「だんどり」はどういう仕事を?
簡単に言えば、地域にいる地域づくりをやりたい人と都会にいる専門家とか、都会に住んでいる人をつないだり、その場を「だんどり」する仕事かな
そういう仕事ならたとえば、地域系のコンサルの会社に就職するとかはなかったですか?
意外にも、そういう仕事をしている会社って少ないんだよね。10年ほどそのプロジェクトをやってきて、「だんどり」が目指す仕事をしている人は少ないし、いてもボランティア的だったり、補助金頼み過ぎだったり。それで、地域と都会を結びながら、両方の地域振興やコミュニティ作りをやろうという人は間違いなく必要だとわかったというのも起業の理由の一つではあるんですよ
必要な会社なんですね
今までは、主に農山村などの困っている地域をよく見ていたので、そういう地域が専門家にどうアプローチすればいいのか、アドバイスする人がもっといればいいなと思った。あと、地域の住民の方々と話し合いをするときに、司会の人の立場によって、恣意的な会の雰囲気にどうしてもなってしまう時がある。そうなると住民としては「やらされている感」が出てきてしまうこともあった。そういう時に「だんどり」では、第3 者的な司会(ファシリテーター)を用意して、トップダウン型の地域づくりではなく、ボトムアップ型で住民も専門家も行政もちゃんと参加して、みんなで地域を作り上げていく、納得のいく地域づくりをお手伝いをしたいな、と
なるほど!
地域の状態やニーズ毎に、必要な人をセッティングすることをお手伝いしたい。例えば、会議やワークショップなら司会(ファシリテーター)だったり、農業の問題なら専門の先生を呼んだり、商品作りをしたいならブランディングの専門家を呼んだりなど、私たちの会社がワンストップの場所として機能すればいいいなと。だから社名が「だんどり」なんですよね
真面目な話だ!
大丈夫?こういう話で。読んでくれるかな?
猫の写真を入れときます。みんな猫が好きなので!
猫は可愛いですよね!
あら、かわいい!
ラーメンも入れましょう!みんな好きだから!
ラーメンもみんな好きだよね!
あら、美味しそう!
ね!
「社長になりました!」は事後報告。その時、家族の反応は?
起業して、失敗する可能性もあるわけですよね?
ある!
今までで一番自信に満ち溢れた回答ですね!
2年持つかな、とは思ってるけどね!
来年危ない!
地域づくりのワークショップに特化したり、その成果の情報発信もできたりなど、入口と出口がワンセットということが「だんどり」にはできるので需要はあると思うけどね
でも、2年後に潰れている可能性もある?
あるね!ありすぎるね!
奥さんは何も言わなかったですか?
設立登記した日に初めて奥さんに「会社になりました、社長になりました」と言いました
事後報告!
会社を作るかも、とは言っていたけど、なんの会社なのか、そもそも本当に作るのか、などは事後報告だね
奥さんは「就職して安定して」とか言わなかったですか?お子さんもまだ小学生と幼稚園生ですし
言わなかったね。奥さんは私よりタフだから。奥さんの実家は自営業だからかな、肝が据わっている。むしろ私の両親はサラリーマンだから、大丈夫なの?と今でも心配しています。嫁は潰れたら、潰れたで働くんでしょ、とおおらかな感じ
いい奥さん!潰れたら働くんですか?
働くよ!なんでもいいから。ただ逆に地域系のコンサルみたいな「だんどり」に似ている会社には行かないかな。全然違う分野の仕事をしてみたい!
働くのは好きなんですね
そうだと思うよ。起業する人は仕事が好きな人だと思う。私も働くのもこの仕事も好きだし!
なるほど!私が起業も就職もしない理由は働くのが嫌だからなんですね!
そうなのかな、でも本人が言うならそうなんじゃないかな
めっちゃ稼いでも会社は続けます?
いや、3億たまったらやめる!
働くの好きでもやめるんだ!
3億貯まったらやめると語る社長
今後会社をどうしていきたい?ビジョンは?イメージは?
今後の会社のイメージはありますか?
うーん、他の社長さんなら明確なビジョンがあるんだろうけど…とりあえず1、2年後に誰かを雇いたいなくらい。ただ100人も200人も雇うという会社のイメージはなくて、毎年1人くらい雇っていって、その人が勤めて3、4年経ったら、地域に分社を作ったり、独立したりしてくれたらうれしいですね。その人達がそれぞれの地域でいろいろなネットワークを作って、いつか一緒に「だんどり」できたら楽しそうでしょ
5年後の会社のイメージを書く社長
5年後はこうなる!
線がフニャフニャで不安を感じる!
それは偶然よ、たぶん!
個人的な目標とかは?
大学にいて思ったのは、今の座学メインの教育より、もっと地域に出て、課題のある現場で学ぶ機会を増やして、それも単位に認めてあげられるようにしたい。現場に行っていろんな体験をするのが大切だと思うので。その中で、学ぶ心が育まれれば勉強も楽しくなる。学生を受け入れた現場も元気になるんじゃないかと思う。そして、そういう機会のマッチングを「だんどり」でやってあげたい。先生たちが受け入れ先を探すのは意外に大変なのよ
すごい目標だ!でも、3億貯まったら…
やめる! スパッとやめる!
そこにはすごい自信を感じるんだよな
やめることにすごい自信を見せる社長!
「怖くて…」あの人気番組が見られない?社長になって変わったコト
社長になって不安とかはないですか?
不安だらけだけど、仕事を選ばなければ、どこかで働けるだろうと思っているから
潰れることを前提に考えていますね!
不思議とそうなったね!
起業して社長になって変わったことはないですか?
ないな…。あ、「ガイアの夜明け」を見られなくなった!
なんで!
怖くて。起業前は見てたんだよ。でも、起業してからは怖いというか、俺も頑張んなきゃな、を急き立てられるようで。裏で頑張ってんだろうな、この手続きどうやってるんだろうな、とか考えちゃう。頑張っている人が眩しすぎるんだよね
他にないですか?急にバスローブを着て、葉巻を吸い始めたとか
ないよ、社長のイメージにそれがない!ただスーツを仕立てに行こうとは思っている。身だしなみに気をつけようと。今日も、ちゃんと髭剃って来たからね!!
娘さんがなんか言ったりしてないですか?学校で「うちのパパ、社長なんだ!」って自慢したり
ないない、まだ小学3年生だからあんまり社長にピンと来てないみたい
晩御飯が何かを考える社長!
もっといろいろと変わって欲しかったんだけどな
まだ会社の規模が小さいし、社員も自分を入れて3人だし。ただ今後もし会社が大きくなって、私が変わったら注意してほしい。急にブランド品しか身につけなくなったり、ワインがどうの、とか言い出したりしたら諭してね
現状は大丈夫ですね!
たぶんずっと大丈夫だと思うけどね。ただ起業してグローバルというのが大切だと思ってきたから、子供をインターナショナルスクールに通わせようと思っている!インターナショナルスクール、いいでしょ!インターナショナルよ!インタっしょ!
あ、早々と諭す時が来た!
晩御飯をハンバーグと聞いて喜ぶ社長
理由は後ろ向きでもいい!なんとなくでもいい!大事なのは…
ということで、一般ピープルの起業について聞いた。思っていたより、ハードルは低いようだ。問題はキッカケだけ。杉野さんにしても、雇用継続見直しのタイミングという、なんとなく後ろ向きなタイミング。でも、それでいいのだ。一方で、自分が立ち上げる仕事のニーズについてはしっかりと考えられていると感じた。ごくごく一般人、杉野さんが立ち上げた会社は果たしてどのような道をたどるのか、興味は尽きない。
「働くのが好き」というのも大きなポイント。私には無理だと悟った。
透明な「ひのきの棒」を大切に持ち上げる社長
<協力>
合同会社流域共創研究所だんどり
https://www.facebook.com/dandoridori/