若い世代を中心にシェアハウスの利用が一般化しています。家を複数人でシェアするスタイルは、数年前まで「そういうの好きな人いるよね」程度の認識でしたが、現在は暮らしの1つの選択肢として選ばれています。
投資として利回りがいいことも注目されてシェアハウス運営者は増える一方。ひつじ不動産、東京シェアハウスなどシェアハウス専門サイトもたくさんあります。急速に競争が激しくなり、撤退する業者もあらわれはじめるシェアハウス業界。
そのなかで順調に規模を拡大しているのが「絆家シェアハウス」です。2017年7月現在、6軒のシェアハウスを運営し、平均稼働率は脅威の90%(※オープン後、半年以上のハウスを対象)。東京と大阪で合計約100名の住人が暮らしています。今年中にさらに2軒増える予定だとか。これだけの数のシェアハウスを社長夫婦と社員1人の3人で運営されています。
上記写真は取材に伺った東武練馬駅の絆家シェアハウス。4階建て18室で35名住んでいます。絆家シェアハウスを運営する「株式会社絆人」平岡夫妻に、「シェアハウスを円満運営するコツ」「住人を寄せつけるポイント」を伺った参りました。
入居期間は業界平均2倍!「居心地のいいコミュニティー」を作るポイント
――ずいぶん大きなシェアハウスですね。何人住んでるんですか?
いま、住人は35人です。私たちも夫婦でここに住んでます。もともと貴金属工場だったので大きいんですよ。「みんなでつくるシェアハウス」ってプロジェクトを立ち上げて、みんなでどんな内装にするか考えて、部屋割って、お風呂入れて、DIYで椅子や机を作ったりしました。
――35人!学校の1クラス分ですね。どんな方が住んでるのでしょうか
ここのシェアハウスの男女比は6割男性、4割女性。カップルも私たち以外に2組住んでます。年齢は下が19歳から上は30代半ばぐらいですね。ほとんどが会社員ですが、フリーランスで仕事してる人が3人いるかな。
社会人になって数年経ち、仕事が落ち着いて会社と家の往復に退屈になってきて、あたらしい刺激が欲しいなと入居してくる方が多いですよ。あとは地方から都内に上京してくるタイミングですね。一人暮らしだと、礼金、敷金、仲介手数料と、また家具を新しく一通り揃えると引越し初期費用が40円-50万円と高くなってしまうので、今まで引越しに踏み切れない人が多かったと思います。
シェアハウスだと、礼金、敷金もなく、家具が最初からすべて揃っているので、引越しがしやすくなったと思います。人と住むことにそれほど高いハードルを感じない人なら、シェアハウスはひとつの選択肢になりますね。
――平均でどれぐらいの期間住まれるんですか?
シェアハウス業界全体の平均だと半年から1年ぐらいと言われてるんですが、私たちの場合は1年~2年ぐらいですね。引越しする理由としては、転職して勤務地が変わるとか、結婚するとか、ドミトリーに住んでたけど1人部屋に暮らしたいとか、そういうタイミングが多いですね。
――業界平均の2倍長く住まれるんですね。なにか理由があるんですか?
居心地のいいコミュニティーが付加価値ですね。シェアハウスに暮らすことで、誰とどういう関係を作れるのかがポイントです。シェアハウスって敷金礼金がないので、ハード面で選ばれると近くにもっと条件の良いところができると簡単に移られちゃうんですね。家具も備えつけを使う方がほとんどですから引っ越しも楽ですし、入りやすくて出やすい構造。
でも、居心地いいコミュニティーがあればよそに移らないんです。私たちのシェアハウスでは、住民の歓迎会からはじまり、誕生日会などのイベントや、ごはん会など、住民の交流が密にあります。
――なにか交流を促す仕組みがあるんでしょうか?
いきなり「みんなで話して」と言っても何を話していいか分かりませんよね。新しく入った住人も、既存の住人の仲が良いからこそ「私、入れるかな……」と不安になってしまいます。だから、「料理が好きだから住んでみたい」「イベントがあるから住んでみたい」と別のファクターが必要なんですね。きっかけがあると入りやすいです。
――別のファクターですか
たとえば高田馬場に「masobiシェアハウス」というシェアハウスがあるんですね。masobiは学びと遊びをくっつけた造語なんですが。このシェアハウスでは月に3~4回、資格をもってる人をお呼びして料理教室やヨガ、コーヒー教室をリビングで開催しています。そうすると「料理教室があるから」と自然とリビングに集まりやすくなります。こういう教室って「わざわざ出かけるのが面倒くさい」「知らない人がいるからしんどい」となかなか長く続かないものですけど、シェアハウスでやれば気の知れた住人同士なので安心して続けられるんですね。
――なるほど。共通のコンテンツを体験すれば、自然と会話も生まれますね
コミュニティー作りが目的なので、そういった学びの教室もその道で教えるプロを呼ぶというよりも、居心地の良い雰囲気を作ることが上手な人当たりの良い講師をお呼びすることが多いですね。
コンセプトシェアハウスと言っても、あまりにニッチにしすぎると事業として成り立たなくなってしまいます。たとえば「麻雀シェアハウス」とか「人狼シェアハウス」を作って何十人と埋まるかどうか。趣味として一緒にやりたい人と、一緒に暮らしたい人はまた違ったりもするので、その辺りのバランス感覚が必要ですね。
増えてきてるコンセプトとしては、起業家シェアハウス、英会話シェアハウスなどがあります。これは広告を打つべきマーケットがはっきりしてるからです。起業家シェアハウスならビジネス系のセミナー、英会話シェアハウスなら英会話教室・日本語学校など、ターゲットがどこにいるか明確なものは事業として成り立ちやすいですね。
中には、ニッチなコンセプトで鉄道好きのシェアハウスや、サーファーシェアハウスなどもありますが、趣味の延長線上でシェアハウスをされたい人にはそういうのもありだと思います。
ゴージャスな設備がないなら、コミュニティーで差別化する
――大阪では旅好きのためのシェアハウスを運営されてますよね
はい、「旅するシェアハウス」という名前で運営しています。大阪には知り合いが1人もいなかったので、「旅」というコンセプトを明確にして、旅のイベントや旅好きが集まるバーなどに出向いていってコミュニティーを作っていきました。
――そんな草の根的で地道な活動をされてるんですね
自分も旅に興味があるからこそ出来ることですね。「旅好きが集まるシェアハウスをはじめました」と話して、外国人観光客にフリーガイドツアーやってる人たちや国際交流イベントの主催者たちとコラボ企画を月何回もやっていきました。そうやって旅好きに存在を認知してもらう。8割のシェアハウスは特にコンセプトがないので、こうしたテーマがあるとシェアハウスにそこまで興味のなかった人のアンテナにもひっかかってもらいやすいです。
旅するシェアハウスは大阪の北のほう摂津市にあるし、駅からも決して近くはありません。大阪の中心地ですらそんなに家賃は高くないですから立地やハードの部分だけでは差別化が図れません。住みながらいろんな外国人と触れ合えたり、普段は仕事でなかなか旅に出られない人が、日常生活の中で旅を感じられる生活の魅力を伝える。そういったハード面以外のソフト面の付加価値をどう付け加えられるかが大切です。
――差別化のために重要なのは分かりますけど、コミュニティー作りに本当にすごい手間をかけてるんですね
好きじゃないとできないかもしれませんね。私の場合、コミュニティー作りがライフワークなのでそれを負担とは感じませんが、このソフト面をビジネスライクに効率だけで考えようとすると難しいと思います。
シェアハウスは今2極化しています。
1つは100人前後の大型のシェアハウスで、設備も豪華なもの。ヨガスタジオ、映画施設まであってホテルのようなゴージャスな暮らしができます。ハードの部分を充実させたいという人にとって魅力的なシェアハウスです。結果、住んでる人数も多いので気の合う人も見つかりやすい。
もう1つは居心地の 良い住民との関係性にフォーカスをして、コミュニティがしっかりしているところ。そのために、コンセプトを明確にしているシェアハウスです。英語が学べる、旅が好き、起業家と切磋琢磨できる関係性があるなど「こういう人と住みたい」で選ぶシェアハウスです。
私たちは後者に入ります。
逆に、大型シェアハウスでもなく、コンセプトもあいまいな中間層は難しくなってきています。たとえば、2~3年前に従来の不動産業者が利回りの良さに目をつけてシェアハウス業界への参入が一気に増えました。キッチンなど水回りが1つにまとめられるので工事費が浮きますし、1K物件なら同じキャパで、15人しか住めなくてもシェアハウスなら30人住ませることができる。
でも、私たちはシェアハウスは不動産業というよりサービス業に近いと思っています。シェアハウスは、1Kマンションの集客方法と運営方法とはまったく違うからです。
結局は、満室時の利回りだけで考えても、居心地の良い住民コミュニティーが作れていないと長く続きません。「隣の部屋がうるさい」「だれだれさんが嫌」など、住民同士の関係性ができていれば起こりにくいクレームが多くなり手間がかかり、結果人件費が増えてしまいます。
一見、表面上の利回りは良いように見えますけど、実はすごく手間がかかります。ソフト面での差別化もできず、結局は価格競争になって家賃を下げざるを得ない。そうすると収益性が下がる。「こんなことなら普通の1K住宅にしたほうが良かった」と撤退するところも多いようです。
事業としてやるなら一軒家のシェアハウスはおすすめしません
――コンセプトを立てる以外に運営のポイントはありますか?
コミュニティのあるシェアハウスを作ろうと思うなら、住人の人数をある程度多くするのがポイントかもしれません。人数が少ないと、コミュニティができにくいか、できるまでに時間がかかります。シェアハウスは20代から30代前半の社会人が多いので、どうしても仕事の終わる時間にばらつきがあります。たとえば一軒家5〜6人の規模だと生活リズムの違いで普段顔合わせなかったり、コミュニティーが出来にくいようです。
現在、私たちは15人以上の規模のシェアハウスでないと新しく手をつけていません。人数が多いといろんなタイプの人がいて、コミュニティとしてのバランスが取れるので、大人数の方がコミュニティも早く育っていきます。15人程いると自然とリーダーシップをとれる人が住民から出てきますし、その中で特に気の合う小さなグループがいくつかできて自然とコミュニケーションが生まれます。
また、ある程度の規模だとこちらの運営費から定期的に外部から清掃業者が入ってもらえるので、ともすればトラブルのもとになるような掃除問題も未然に防ぎやすくなります。
――人数が多い方がコミュニティが自然と育ちやすいということですね
あとは、内見時にどういう考え方のシェアハウスなのかはっきり説明してミスマッチを少なくするのもすごく重要ですね。住んでいるのは背景が違う人たちばかりだから、内見のときに「絆家シェアハウスでは、コミュニケーションを重視してるシェアハウスです。考え方の違い、価値観の違いを受け入れることを楽しめるかどうかが大切。それができないと絆家には合わないかもしれません。あまり交流を求めないなら、1人暮らしみたいにプライベートをより重視するシェアハウスもたくさんありますからそのほうがいいかもしれません」とはっきり説明します。
シェアハウスのコンセプトを理解せず、好き勝手にやる人が1人でもいると居心地の良いコミュニティは壊れてしまうこともあります。内見時に面談というわけではないですが1時間くらい「シェアハウスにどんな暮らしを求めているか」「どういう人が苦手と感じるか」「チームやグループではどんなポジションが居心地が良いか」といった話題を雑談を交えてします。
そうすると、自然とミスマッチなく、お互いにとって不幸なシェア生活を送る必要がなくなります。「安いからシェアハウスに住みたい」というだけの方にで、こちらが難しいと判断した場合は、審査の末こちらからお断りすることもあります。
安さや立地だけで判断して入居希望される方は、すれちがっても挨拶がなかったり、誰かがリビングを使ってたら煩わしい人間関係を避けて部屋から出てこなかったり、コミュニティーが生まれませんので。今のシェアハウス住民の居心地の良さを守る上でも大切にする部分の判断基準は大切にしています。
シェアハウスごとに1人リーダーを任命する
――どういう人に住んでもらうか。そこからコミュニティー作りはじまってるわけですね
そうですね。人はとても大切なポイントです。現在5つのシェアハウスを運営していますが、それぞれのハウスには母親的な存在の住人ハウスマネージャーがいます。
――ハウスマネージャーの役割はどんなことでしょうか
新しく来た人を受け入れてみんなに紹介したり、ごはん会を設定したりと、いたら安心できる存在ですね。母性を感じるタイプの女性が多くて「この人のためなら何かしたいな」と自然と思わせるような人徳のある人にマネージャーをお願いしています。
月一回私たちとハウスマネージャーでミーティングをして、現状の課題をシェアして解決案を出し合ったり、こういうイベントやろうと決めたり。決まったことはハウスマネージャーを介して各ハウスに伝えてもらいます。
私たちもすべてのハウスに住めるわけではありません。やっぱり実際に住んでて、良くしたいと思ってる人にやってもらったほうがいいコミュニティーができるなと思い、できるだけ住民の中からお願いしています。
みんなでワイワイやるイベントや学び場などはシェアハウスの一番楽しい部分ですから、ハウスマネージャーにリードしてもらえたら嬉しいと思っています。
逆に言いづらいような部分は私たちから住民に伝えるようにしています。
まとめ
・入りやすくて出やすいシェアハウス業界では居心地のいいコミュニティーをいかに作るかが安定した運営に繋がる。
・交流をうながすために料理教室やヨガ教室を開催。共通のコンテンツで会話のきっかけを作る。
・ホテルみたいなゴージャス設備がないなら、ソフト面で差別化する
・活発なコミュニティを育てるにはある程度の住居人数が必要
・シェアハウスごとに母親的なハウスマネージャーがいることが大切
「シェアハウス運営は不動産業というよりサービス業」とおっしゃっていた真意が見えてきました。