う~ん……どうしたらいいんだろう?
私は、会社のパソコンの前で一人うなっていた。パソコンには色々な商品がずらっと並んでいる。どれも魅力的な商品には違いないのに、売れ行きは悪い。
そう、私は会社でECの運営を任されている山口将子。社内でECを取り扱うのはこのサイトが初めてで、私もECなんて運営したこともない。だけど、新規開拓部に所属していた私は、辞令が出てここに座っている。
同じEC事業部には他に三人いるけど、あまりやる気がないので、結果的に私一人が四苦八苦しているというわけだ。
古谷課長
山口さん、ECは伸びてる?
営業部の古谷課長が声をかけてくる。彼は、私が新入社員だった頃の上司だった人。そのせいか、部署が違うようになってからも、何かと声をかけてくれる。ちなみにEC事業部は、新規部署で売れるかどうかもわからないということで、部長と平社員しかいない、いびつな部署。部長も、他の部と掛け持ちをしているので、あまりEC事業部の部長席には座っていない。
山口
古谷課長~……全然だめです。どうしたらいいのか、いまいちわからなくて
古谷課長
うちは専門に特化しているから、売れやすいと思ってたんだけどな……
そう言いながら、古谷課長は私の席に置いてある本を見る。EC事業部になった私は、右も左もわからなかったので、とにかくマーケティングの本をたくさん読み漁った。おかげで、マーケティング用語なんかは、頭にいろいろ詰め込められている。
古谷課長
そんなに勉強をしているなら、僕よりもECに詳しそうなのに
山口
古谷課長より詳しいことなんて、一つもありませんよ~
古谷課長
おいおい、それはどうかと思うよ
古谷課長は苦笑しながら、今度はパソコンを覗き込んだ。
古谷課長
ユーザーの動きはどうなってる? ちゃんと商品までたどり着けてる?
私はそう言われて、自社で開発しているアクセス解析のページを表示した。
山口
導線は……こんな感じですけど、みんながみんな同じように動くわけじゃないし、何をどうしたらいいのか
古谷課長
個別の導線は出せるんだよね?
山口
あ、はい。技術に頼めば、出してもらえます。え、でも、それ全部を確認するんですか?
古谷課長
山口さん、物を売るにはどうしたらいいと思う?
私の会社はスポーツ用品を扱っている会社のため、アクセスしてくるユーザー数は比較的多い。だが、そのユーザーたちの購入率となると、低すぎるというのが現状だ。
山口
え?
突然話が切り替わり、私は戸惑ってしまう。だけど、読んだ本の中にも書いてあったことを思いだした。
山口
えっと、ユーザーが欲しいと思った時に、探しやすい場所にある事です
古谷課長
そうだね。でもユーザーは、いつ欲しいと思うのかな?
山口
え……
その質問は、考えたこともなかった。私は固まってしまう。
古谷課長
固まらないで。この質問に的確に答えられる人は、そうはいないと思うから。だって、ユーザー一人一人のライフスタイルが違うんだから、いつ欲しくなるのかなんて、みんなバラバラだろうし
山口
あ、そっか
古谷課長
それでも、うちにくるユーザーの傾向ぐらいは、すぐに答えてほしかったけどね
山口
うぅ……すみません
私は物が売れない売れないと言いながら、実際にはユーザーのことを何も知らないんだとわかり、恥ずかしくなる。たくさんの本を読んで、マーケティング用語を覚える前に、ユーザーのことを知らないとだめだよね。
古谷課長
ユーザーのことを知れば、ユーザーがいつ動くのかがわかるよね。その時に、こちらもアクションを起こすようにするんだ。ランニング用シューズの新作が出たとか、タイムセールをしますとか、ね。
古谷課長
もともと興味のあるユーザーなら、食いつきもいいはずだし、すぐにそのページに飛べるようになっていたら、購入率も上がる。
古谷課長
もちろん、一番ベストなのは、ユーザー一人一人の趣味嗜好や活動時間を調べて、それらに合わせたプロモーションをすることだけど、それは手作業で行うのは難しいから、自動化の開発を依頼するのもありだと思うよ
山口
!! さっそく、技術のところに行ってきます!
私は勢いよく立ち上がる。何をすればいいのかがわかれば、後は行動に移すのみだ。私は古谷課長に見守られながら、技術のいる場所へと走ったのだった。