廃業したはずのショッピングモール「まさかの活用法」
こんにちは。廃墟マニア、酷道マニアの鹿取です。
ここ10年ほどで急激に日本中に広がり、人口の少ない田舎町にまで進出しているショッピングモール。もはや国内では飽和状態で、既存店を潰す覚悟で出店するしかない状況だが、それだけ身近な存在になった。
食料品や衣料品だけではなく、家電や自動車、旅行商品なども手に入る。大型アミューズメント施設やシネコン、動物園を備えたモールもあり、老若男女が1日中楽しめる空間として我々の生活に定着しつつある。
その一方で、競争に敗れたり、様々な大人の事情で廃れゆくモールも存在する。最盛期には100以上のテナントを擁していたショッピングモールが、最終的には玉ねぎの無人販売所になってしまった。そんなウソのようなホントの話をご紹介したい。
玉ねぎモールとの運命的な出会い
全ては、スマホを落として壊したところからはじまった。
画面が割れて真っ黒になってしまったため、機種変更しようと携帯ショップを探した。自宅から徒歩圏内にもショップはあるが、知り合いが働く遠方のショップへ行くことにした。また、その日に限って自家用車が使えない事情があり、仕方なくバスに乗って向かった。
バスは1時間に1本しかなく、予約の時間まで1時間近くもある。炎天下ではあったが、じっとしていられない性質の私は、周辺を散策することにした。
そこにショッピングモール“LCワールド”がそこにあることは、以前から知っていた。買い物したり、ボーリングして遊んだこともあるが、半年ほど前から営業しなくなったと聞いていた。実際、広大な駐車場に、今は車が1台もない。モールが閉店してしまったことを残念に思っていた。
抜け殻になったモールの周りを歩いていると、おかしなことに気付いた。出入り口が閉鎖されているにも関わらず、照明が点いている。それだけではない。清掃員がモップがけをし、警備員が巡回していたのだ。
これはおかしいと思い、巨大な建物の周りをグルっと歩いてみた。すると、数ある出入り口のうち1箇所だけ、閉鎖されていなかった。これは、ひょっとして、ひょっとするのではないか。ドキドキしながら自動ドアに近づく。
すると、ドアが開いた!まさかの展開に、一人で興奮する。
廃墟?ショッピングモールの中に潜入
ショッピングモールの中は、なんとクーラーが効いていて涼しかった。しかし、目の前の通路は塞がれていて、核テナントであった食品スーパーも真っ暗で抜け殻の状態である。
いったい何のために自動ドアが開いたんだろうと不思議に思っていると、目の前に答えがあった。
カゴの中に玉ねぎが10個ほど入れられて「たまねぎ1玉100円」と書かれている。その後ろには “お会計箱” が置かれていた。そう、玉ねぎの無人販売だ。その脇には、こんな貼り紙もあった。
「誠に勝手ながら、4月20日をもって営業を縮小させて頂きます。」
そう、これは唯一のテナントであるスーパーが営業を縮小しただけで、モールは今でも営業していたのだ。いくらなんでも、縮小しすぎだろう。ボーリング場や飲食店など100以上のテナントが入っていたモールのなれの果てが、玉ねぎの無人販売だった。
あまりにも衝撃的な光景だったが、スマホが壊れているため写真を撮ることができない。興奮しながら機種変更をして、その足で再びあのLCワールドに戻った。もちろん、写真を撮るためだ。今のスマホに機種変更して、最初に撮ったのが玉ねぎである。
早速ツイートすると、瞬く間に話題となり、次の日にはワイドショーの取材が押し寄せていた。
“玉ねぎモール”
“世界一巨大な無人販売所”
などキャッチ―なコピーで紹介されると、“玉ねぎモール” という呼び名で定着した。
テレビやネットメディアの影響は絶大で、ほとんど人が寄り付かなかったモールに次々と車が入ってくるようになった。なかには遠方からわざわざ訪ねてくる人もいて、まるで観光地のようだ。玉ねぎも飛ぶように売れ、すぐに品切れとなってしまった。
こうした事態に、ついに運営会社も動き出した。あっという間に閉店し、取り壊し工事も完了。今春には跡地に大型食品スーパーがオープンした。
LCワールドのすぐ近くに住んでいる人でさえ完全に閉店したと思っていて、まさか玉ねぎの無人販売が行われているとは思っていなかったようだ。
素朴な疑問が。
ところで、玉ねぎが1玉100円というのはかなり割高だし、全部売れたところで大した金額にならない。最初から商売する気がないのは明らかだ。ではなぜそんなことをするのか。気になったので調べてみた。まずは事実関係を時系列ごとに整理しよう。
1992年11月 |
衣料品取扱い大手リオ横山が「リオワールド」として開設。 |
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2011年9月 |
不動産ファンド等を手がけるLCホールディングス傘下のロジコムに売却され、店名が「LCワールド」に。 |
2015年12月 |
本館の専門店が全て閉店し、食品スーパーのトミダヤのみとなった。 |
2016年4月 |
もってトミダヤが営業を縮小して玉ねぎの無人販売のみとなった。 |
2016年9月 |
機種変更のため私が訪問“玉ねぎモール”として話題に。 |
2016年10月 |
完全閉店。 |
2017年5月 |
取り壊し工事がはじまる。 |
2018年4月 |
跡地に食品スーパーがオープン。 |
リオワールドの経営が傾き、ロジコムに売却されたものの立て直すことが出来ず、テナントがつぎつぎと撤退。最後に残った食品スーパーも閉店する運びとなったが、テナント契約が残っていたため、玉ねぎの無人販売がひっそりと行われていた。そんな大人の事情が透けて見える。
事実、関係者がテレビ局の取材に対して、そのように答えていた。唯一の商品に玉ねぎを選んだ理由については「腐りにくく無人販売に適していたから」とのこと。人知れず営業していたのに、そんなタイミングで運悪く私が訪れてしまい、話題になってしまったということか。
しかし、これだけでは説明がつかない事実もある。テナント契約の関係だけで名目上の営業を続けていたのならば、警備員の巡回や毎日のモップがけが必要だろうか。何かほかの事情があって、テナントのスーパーだけではなく、モールの運営会社としても“営業している”という事実が必要だったのではないのだろうか。
そんな時、現地に立っていた“東海環状自動車道がここを通ります”という看板を思い出した。何やら急に闇の臭いが漂いはじめたので、早速調べてみた。
2011年にモールがロジコムへ売却された直後、敷地の一部が東海環状自動車道の建設用地にかかるという計画が決定されていた。収用されるのは主に駐車場だけであるが、107ものテナントを擁する現役のショッピングモールである。駐車場が大幅に減ってしまったら、モールそのものの運営もままならない。そうした事情も、補償金に盛り込まれるのではないか。
そして、ロジコムはIR資料によれば2016年5月、13億7,800万円もの補償金を国から受け取っている。モールの本館など、収用されなかった残りの土地は、直後に転売している。もしも、営業中のショッピングモールではなく空き店舗や空き地だったら、補償金は大幅に減額された可能性があるのではないか。
「玉ねぎモール」跡地の現在
当初、柿畑が広がっていた土地に一つの街を新たに作ろうというコンセプトのもと、開設されたリオワールド。転売、国による土地の収用などを経て、現在はLCワールド別館の5店舗と西エリアの5店舗が営業を続け、本館跡地にはスーパーができた。
たまたまスマホを落とし、知り合いが働く遠方のショップまで出向き、その日に限って自家用車が使えなかった。数々の偶然が重ならなければ、玉ねぎモールに気付くことはなかっただろう。実際のところ、我々が気付かいないだけで、こうした現象は各地で発生しているのかもしれない。
玉ねぎモール跡地にできたスーパーには、たまに買い物に行くが、その度に、リオワールド時代にカフェで食事したこと、子供と遊んだことなどを思い出す。そして、袋に入って売られている玉ねぎを見ると、少し複雑な気持ちになる。