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ホーム > EC  > 【消費体験を設計すること】ARASLモデルに見るネットと実店舗の融合

ネットも店舗も消費者にとって重要なチャネルです。それぞれが上手に連携し、消費者にとっての利便性が増し、結果として企業の売り上げ増加につながるようにするには、どのように考えればよいのでしょうか。
 

ネットと実店舗をまたがった消費体験の創造

ネットと実店舗には、それぞれ長所と短所があります。
 
ネット店舗の長所は、豊富な品揃え・検索や価格比較が容易・レビューの閲覧・自分のペースで買い物ができる、といった点が挙げられます。一方で、短所としては、柔軟な顧客対応が困難で、ユーザーが買い物途中でWebサイトを離れてしまう場合などが考えられます。IT機器に不慣れな高齢者や、自宅配送が受け取れない単身者などには不便を感じさせてしまう場合もあります。
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実店舗の長所は、接客サービスと買い物体験です。実物を手にして得られる体験は、ネット通販では到底再現できません。その場で持ち帰りが可能・初期設定や修理のサービスといった魅力もあります。しかし、実店舗では、親密な接客をかえって嫌がる顧客もおり、せっかくの高いサービスレベルを提供できないケースが見られます。また、実店舗で確認した商品を検索してネットで購入してしまう「ショールーミング」の課題も指摘されてきました。
ショールーミングのような課題が見られる背景には、スマートフォンの普及があります。いつでもどこでもネット接続し、他人の意見を確認したり、他社の価格情報を比較したりできるため、消費者が企業よりも多くの情報を有するようになりました。このような状況に対応するため、各企業は「ネットと実店舗の融合」を課題に掲げるようになっています。
 
「ネットと実店舗の融合」を進める上で、いくつかの対応策が欠かせません。ネット店舗と実店舗が別の事業として運営されている場合、その連携が必要です。在庫情報、顧客の購買履歴などをリアルタイムに共有できなければ、消費者にネットと実店舗で同じ消費体験を提供できません。
「ネットと実店舗の融合」は消費者の購買体験全体で実現するべきものです。どのように商品を認知し、購入意志を固め、それを友人と共有するか。このプロセスを理解し、それぞれの局面に必要な施策を立案するために、ARASLモデルが提案されました。
 

O2O時代の消費行動モデルARASL

ARASLモデルは2012年に野村総合研究所によって提唱された購買プロセスです。スマートフォンを使ってオンラインとオフラインが連携するO2O(Online to Offline)時代における消費者の行動パターンを簡潔に表現しています。ARASLは、それぞれ、以下の頭文字をとっています。
 

  • Attention:認知
  • Reach:送客
  • Action:購入
  • Share:共有
  • Loyal:再利用

 
「認知」の段階では、スマートフォンが持つ位置情報サービスによって、ユーザーが検索を行わなくても、自動的にユーザーに対して商品情報が提示されます。あるいは、ソーシャルメディアを使用している際に、友人のコメントなどを閲覧し、その商品を認知します。いずれの場合でも、リアルタイムで情報に触れ、特定の文脈の中で生きる鮮度の高い情報をユーザーは目にするのです。
 
「送客」は、ユーザーが実店舗へ誘導される場面です。Googleマップのようなナビゲーション機能を使って、ユーザーは現在地から目的地まで移動します。Uberの配車サービスと連携して、1クリックで移動が手配できるような施策が考えられます。
 
「購入」は、商品の購買やサービスの利用を意味します。スマートフォンを使って簡単に決済が行われたり、期間限定や地域限定のクーポンを使って割引が提供されたりするなど、購入の意志決定を後押しします。
 
「共有」では、FacebookやTwitterを使ってユーザーが店舗や商品の情報を拡散します。実店舗にいながらも、ソーシャルメディアの力を使って多くの友人へ口コミが広げられるのは、スマートフォン時代、特有の現象です。この口コミを目にした友人たちは、商品の「認知」に至り、このARASL購買モデルにおける最初のステップへと進みます。
 
最後に、「再利用」の局面では、ポイント集めなどの施策によって、ユーザーが継続して購入・利用するインセンティブを設けます。その企業のファンになってもらえば、積極的にソーシャルメディアに投稿してもらえたり、新商品をすぐに試してみてもらえたりするため、企業にとっては重要な存在になるのです。
 

消費者行動モデルの進化

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ARASLのような購買モデルは、その時代における消費者の心理や技術によって、様々なものが提案されてきました。
 
AIDMA(Attention、Interest、Desire、Memory、Action)が提案された1920年頃には、マスメディア向けの広告が発展し、テレビなどで認知した商品をいかに店舗で買ってもらうかが興味の対象でした。2004年には、検索エンジンでの調査・確認作業が当然となった時代でAISAS(Attention、Interest、Search、Action、Share)モデルが提案されました。
 
さらに、ソーシャルメディアが普及した昨今ではSIPS(Sympathize、Identify、Participate、Share&Spread)モデルが提案され、いかに共感を呼び、口コミを巻き起こすかが重要な課題となっています。
 
これらの購買モデルと比較して、ARASLモデルはネットと実店舗を上手に連携するO2O時代に特化した枠組みであることが分かります。スマートフォンの利用を前提とし、ソーシャルメディアなどで商品を認知させたユーザーを店舗に誘導し、その流れを継続・拡散させるのが、ARASLモデルの肝となるのです。
 

ソーシャルメディアによるARASLの実践

ARASLモデルを実装するには、FacebookやLINEの利用が推奨されます。例えば、企業向け公式アカウント「LINEビジネスコネクト」ではARASLモデルを網羅する機能が提供されています。「マストバイ」と呼ばれるキャンペーンは、対象商品の購入者のみにオリジナルスタンプを配布する仕組みです。マストバイでは、ARASLモデルに照らして考えると、認知から共有・再利用まで一貫した体験が得られます。
 
まず、キャンペーンに参加した消費者は、時間や場所を考慮したタイミングでLINEへプッシュ通知が届き、店頭へ誘導されます。店舗で商品を購入した消費者は、レシートまたは商品に付属したシリアルコードを手に入れられるので、それをLINE上で企業アカウントにメッセージとして送信します。消費者はオリジナルのスタンプを手に入れ、企業は販売促進に成功するという成果につながるのです。
 
2016年春からLINE Beaconという機能が導入されました。Beaconとは近距離通信の技術であり、特定の場所に近づいた際に、商品情報やクーポンが届くという使い方が想定されています。実際、「ZOZOTOWN」はボタン型の発信機を開発し、店舗にある商品に付属されたボタンを消費者が押すと、商品情報がLINE経由で届くという仕組みを展開し始めました。購入を後押しするという意味で、LINE BeaconはO2Oの新たな施策と言えるでしょう。
Twitter等、他のソーシャルメディアを使って、簡単にO2O施策を実施する方法もあります。
 

「ネットと実店舗の融合」を進める事例

マクドナルドは2015年に「おやすみ朝マック」キャンペーンを実施しました。午後8時に公式アカウントから発信するツイートを、夜のうちにリツイートするだけで、抽選でマックの朝食無料クーポンが提供されるというものです。Twitterを使い「認知」「送客」をスムーズに行えるのが特徴です。
 
ミスタードーナツは決済機能のついたアプリを開発し「購入」の利便性を高めています。「ミスタードーナツカード」に最大3万円まで現金をチャージし、スマートフォンのみで店舗内での決済が完了する仕組みです。さらに、ポイントの獲得や会員限定クーポンの配信など、ARASLモデルを実現したアプリだと言えるでしょう。
 
位置情報を上手に使っているのが、タコ焼きチェーンの「銀だこ」です。店舗付近で撮影した写真をアプリに投稿すると、ポイントが獲得できる仕組みを導入しています。その他にも、アプリにログインしただけでポイントが貯められ、そのポイントを特典に交換できる等、継続的な利用を促す施策が満載のアプリになっています。
 

まとめ

「ネットと実店舗の融合」を進めるO2O時代の消費行動モデルとしてARASLが提案されました。商品の認知から継続利用まで一貫した消費体験を設計すると、消費者の購入を後押しできます。
 
参考資料
実現段階に入ったリアルとネットの融合

 
 

この記事を書いた人

Mint Labsプロジェクト管理担当。1981年栃木県生まれ。2006年東京大学大学院工学系研究科修了。日本アイ・ビー・エムにてITコンサルタント及びソフトウェア開発者として勤務した後、ESADE Business SchoolにてMBA(経営学修士)を取得。現在は、スペイン・バルセロナにある医療系ベンチャー企業の経営管理・製品開発を行うと共に、ビジネスモデル・情報システムに関するコラムを執筆。Twitterアカウントは@takayukisato624。

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