私は社会人になって14年間、「言葉」を生む仕事をしてきました。しかし、言葉と言うものは、ただ「表現する」ためだけに存在するのではなく、商品やサービス、プロジェクトの「コンセプト」や「進むべき方向性」を指し示すものとして機能します。
そう考えれば、どんな業種、どんな職種で働かれている方も「強い言葉を生む技術」は、仕事をする上でとても重要で、持っていると強い武器になるものと言えます。
そこで今日は、そんな「強いコンセプト」や「強いディレクション」につながる「強い言葉の作り方」について、具体的な例を交えて、お伝えしたいと思います。
「強い言葉」を生むために言葉を再定義する
「強い言葉を生む」ためには、いくつか方法論があるのですが、今日は最も使い勝手が良く、本質的なものについてお伝えしたいと思います。それは
というものです。簡単に言ってしまえば「ある言葉」や「ある考え方」を、「別の言葉で言い換える」というものなのですが、これがとても有効なのです。わかりやすい例を出します。
これは、2009年にお亡くなりになられたコピーライター、眞木準の伊勢丹のキャッチコピーです。おそらく「伊勢丹に四十歳のターゲットを集客したい」というクライアントの要望を受け、開発されたキャッチコピーだと思います。
クライアントからこのお題が出た時、きっと駆け出しのコピーライター(若い頃の自分も含め)は
・洋服にこだわる四十代は、かっこいい。
・今日初めて、娘のインスタグラムにのった
などと書いてしまいます。
・クライアントの戦略ワードをキャッチーに言語化する
・ターゲットのインサイトをつく
・ターゲットの背中を押す要素を入れる
という「キャッチコピーのあり方」に照らし合わせれば、悪いキャッチコピーではないと思います。しかし、このコピーは、ポスターや新聞広告など「限定された場所」でしか使えない「表現のコピー」に留まってしまっています。
言い換えると「コンセプト」や「ディレクション」にはならない“枝葉”のコピーであって、様々な施策に「広げる」ことができる“幹”となる言葉にはなりません。その視点で「四十歳は二度目のハタチ」を見てみるとどうでしょう?
この言葉は「四十歳」を「二度目のハタチ」と再定義するコピーであることがわかります。つまり “幹”(コンセプトやディレクション)となって、広がりが容易に想像出来ます。少し考えただけでも、
・二度目の成人式
・四十歳から飲める「大人の中の大人」限定の飲料キャンペーン
・二度目のハタチ採用活動
など、単なる「百貨店のキャンペーン」を超え、世の中の「四十歳」を再定義し、社会の価値観をも変えてしまう力を秘めていることがわかります。
このような言葉こそが「強い言葉」と言えるのです。
言葉を再定義し「強い言葉を生む」ための、オススメのやり方もご紹介しておきます。「再定義すべき言葉(課題となっているキーワード)」を、ノートの真ん中に書き、周りに言い換えを書いていきます。
他の言葉で、例を出してみます。
【飛行機の言い換え】
・空飛ぶ映画館
・電車より安全な交通手段
・最速の移動手段
【水の言い換え】
・お湯が冷えたもの
・薬(サプリサプリメント)を飲むもの
・植物の食事
飛行機を「空飛ぶ映画館」だと捉えれば、映画館で行っているサービス、例えば、3Dメガネを配って3D映画を上映したり、数種類のポップコーンが食べられたり、さらに進めると映画に合わせた飲食を提供したり(フランス映画とその地方のワイン、チーズなど)と、コンセプトからどんどん機内でのサービスへアイデアを広げていくことができます。
水を「薬を飲むもの」だと捉えれば「薬を飲むためだけのお水」というコンセプトが生まれます。酸性の薬(サプリメント)にも、アルカリ性の薬(サプリメント)にも合う中性、しかも成分の吸収を助けたり、新陳代謝を促したりすることができれば画期的な水が生まれます。これからの高齢化社会にあった商品として話題にもなりそうです。同じように水を「植物の食事」と捉えれば「植物専用のミネラルウォーター」というコンセプトで、植物の成長に適した成分を含んだ水、しかも人間も飲めるものを生むことができます。ペット専用のミネラルウォーターを作っても面白いかもしれません。
実際は、商品化やサービスの実現化に向けては、様々な検証、そして収支が合うかなど検討すべき点が多々ありますが、コンセプトづくり、アイデア出しというフェーズで見れば、かなり有効に使える方法論だと言えます。
以上のように、どんな業種、職種で働かれている方でも必要となる「強い言葉を生む技術」は、「再定義するコツを掴むだけ」で容易に手に入れられることがわかります。
何の拠り所もなく、コンセプトを生もうとしても、なかなか難しいものですが「再定義する」というシンプルな目標を掲げて、連想ゲームのように言葉を書き出していけば、驚くほど簡単に「強い言葉」「強いコンセプト」にたどり着くことができるのです。
課題を抱えて、頭を悩ませている方がいらっしゃったら、一度「再定義する」を試してみてはいかがでしょうか?
コメント
[…] 前回の記事では「言葉を再定義すれば強いコンセプトを作ることができる」というお話をしました。今日はその先の話をしようと思います。その先、つまり「作った商品やサービス」をいかに生活者に情報として流通させるか、というお話です。 […]