ECを介して「幸せなお金のやりとり」を作りたい。総合格闘家・青木真也の商人魂【ネクストエンジンライフ】

ニューアキンド

「忙しい」と言われるEC担当者でありながら、業務を効率化することで、プライベートを充実させている。そんな「イケてる」EC担当者にお話を聞くインタビュー連載【ネクストエンジンライフ】。第5回目となる今回は、総合格闘家であり自身のアイテムを販売するECサイト「青木真也商店」を運営する青木真也さん(36) 。

青木さんにとってネットビジネスは自身の多様な活動のうちの「チャンネルの一つ」。消費者であるファンとの交流を楽しみながら、「身の丈に合った規模」で商売を続ける秘訣を聞いた。

【会社プロフィール】
青木真也商店(https://shinyaaoki.thebase.in/
商材:青木真也のグッズ、書籍など

【ご本人のプロフィール】
名前:青木真也
年齢:36
肩書:総合格闘家
趣味: サウナ

自分はフリーランス格闘家。ECサイトは1人で作った

物販ビジネスを、たいそうな大義を持ってやっているわけではないんです。正直に言えば儲けようとしていない(笑)。正確には把握していませんが、収入全体のうち物販での利益は1ケタ%以下だと思います。あくまで、試合する、書く、話すといった自分のさまざまなチャンネルのうちの1つなんです。

ECサイトを立ち上げたのは2017〜2018年頃。そもそも物を売ろうと思ったのは、自分のファンが課金する場所をできるだけ多く作ったほうがいいと思ったからです。チケットを購入して試合を見てもらい、われわれ選手がそこから報酬マネーをもらう。格闘技には、そうした分かりやすい応援の形がありますが、それ以外にファン心理として、応援している気持ちを作る何かがあったほうが自分の求心力が高まる、と考えました。格闘家は個性があって、それぞれにつくファンがいる。

だから、一定数は必ず売れるんです。さらに言えば、格闘家、プロレスラー、他競技のスポーツ選手やアーティストもそうですが、もう本職だけで生活する時代じゃなくなってきている。まず、世の中に名前を認知されることが大切。認知されて初めて他のチャンネルが広がる。団体や企業に属していれば販路があると思いますが、自分はフリーで活動しているので、ECサイトの立ち上げ、商品のデザインなどすべて自分1人で準備しました。最初はTシャツ50枚からのスタートです。本業をおろそかにしないために、ずっと商品数を絞って運営してきているので、今まで忙しくて困ったことはありません。

父の背中を見て学んだ「こつこつ続けること」の大切さ

あとは、リスクを背負わないようにやっていますね。ポイントは、1度の出品につき売れる数を把握し、コントロールすること。サイトの商品全体で100から200の間に留まるように調整しています。だから1人で裁ける。あとは、商品の告知をコントロールできる範囲でやること。1日に30件とか注文が来ても捌ききれないので、SNS上でもほどよい頻度での告知を心がけています。

告知をする時は、タイミングも大事です。例えば、格闘技大会の解説をしている合間や、インスタライブの最中に差し込んでみたり。そういうタイミングに告知をすると、刺さる可能性が高い。ECビジネスは、自分がどう動いたら、人の心をつかめるかというのを学習しやすい。スポーツ選手は、そういう“学びの場”として個人商売をやるのもいいんじゃないかなと思います。本職の仕事だけをしていると、客観的に自分が社会にどう認識されているのか、どれほど需要があるのか理解しづらい。選手としての自分を把握するためにも、やることを薦めたいです。

何事もやり始めるのは簡単にできますが、案外継続できないものです。ある程度、軌道にのるまでに根気が要る。SNSでも何でも続けられるかどうか。とにかくこつこつやり続けることが大事だと考えています。商品の発送は、全部手作業なんです。梱包して、宛名を書いて、サインして、ポストに投函して…。全部やってますよ。これも、コミュニケーションの一環なんですかね。

自分は「サインを書いてください」というファンの方の心理が正直分からないんです。ただ実際、サインを頼まれることが多いので、宛名を手書きで書き直接届けていることに価値はあるのかなと考えています。手書きも面倒くさがらず、こつこつです。そういうこつこつ続ける態度があるのは、父の影響が強いのかもしれません。実家は、丸太を角材に加工する工場でした。そこで父がこつこつ仕事をしているのをいつも見ていました。だから、仕事とはそういうものだ、という考えがあるんでしょうね。今ECでやっていることも、その家業に近い感覚です。

人は何に惹かれ大きな買い物をするのか? その答えは「ストーリー」

これまではコラボレーション商品をやってきませんでしたが、今後はどこかと共同して商品を作ってみたいですね。食べ物系に手を出してみたいです。自分は海外に行くことも多いので、現地で見つけたものを紹介して売っていくのもいいかもしれない。自分が信頼して、選んだ食品を自分のショップに置いていきたい。

自分はカレーが好きなので、レトルトカレーを作ろうと考えたこともあったのですが、1度に1500食からしか作れないんですよね。そうすると、自宅に在庫を置くのが大変なので、ちょっと難しいです。あと商品として考えているのは、うちの実家の干し柿。それが超うまくて。真空パックにして「青木家の干し柿」として売るのはいいかもしれない。

安い物を買いたい時は、セール品を売っている安いお店で買えばいい。でも、ストーリー、物語があると、人はそれに惹かれて特別な買い方をする。そういう意味で、ぼくは声が大きいから、言葉を持っているから、ストーリーが伝わりやすい。大きく利益が出るわけじゃないけど。小さい経済圏で楽しく生きていく。これから、そういう形が増えていくと思います。自分で価値をつくる。豊かな感じはしますし、すごく楽しさがある。ぼくはECを通じて、お金のやりとりを分かりやすい形でやっている。それが一番幸せな形だと思いますよ。

編集後記

青木さんは待ち合わせの取材場所に自転車でやって来た。その後、知人選手が出場する試合のセコンド(試合に出る選手をサポートする役目)につく予定だったため、動きやすいジャージー上下姿に、リュック。予想通り軽身の人だなと思った。彼はフリーの総合格闘家、プロレスラーとして試合やメディアに出演するのはもちろん、講演、本の執筆、物販と活動は多岐にわたり、すべて自分でマネジメントしている。

いろいろ手を出すあまり、「意味わかんなくなっている」と話すが、忙殺されている印象はない。インタビューでも話してくださったように、自分の「身の丈」に合った仕事量にうまくコントロールしているからだろう。格闘家という特殊な立場ではあるが、その言葉にはビジネスにとどまらず心地よく生きるためのヒントが詰まっている。読者のみなさんがお金と生活について考えるきっかけになれば幸いである。

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高場 泉穂

日刊スポーツ新聞社バトル(プロレス、ボクシング、格闘技)担当。
福島県出身。08年入社。整理部、東北総局、五輪担当を経て、18年末から現担当。

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