なぜ銚子電鉄は支援されるのか。“脳に汗をかく”経営がもたらすもの

ニューアキンド

コロナ禍が2年以上続き、厳しい経営状況に置かれている人たちは、少なくありません。「崖っぷち経営」で知られる銚子電気鉄道株式会社(以下、銚子電鉄)は、万年赤字の状況でもチャレンジを続けています。新商品を続々と開発したり、YouTuberとコラボをしてみたり、さまざまな挑戦で現状打破を試みているのです。

銚子電鉄の代表取締役社長を務める竹本勝紀さんは言います。

「与えられた条件下でベストを尽くすしかない」

「どんな問題があっても解決できる」

絶え間なくチャレンジを続けられる、銚子電鉄のアタマの中を探りました。

【ご本人のプロフィール】
竹本勝紀
銚子電気鉄道株式会社 代表取締役社長
千葉県木更津市出身。慶応義塾大学経済学部卒業。千葉県内の税理士事務所に勤務し、2005年に銚子電鉄の顧問税理士となる。2007年には銚子電鉄の社外取締役になり 2009年に竹本税務会計事務所を開設。2012年に銚子電鉄の代表取締役社長に就任。

デジタルの先には、アナログの温かい気持ちを持つ人たちがいる

―大変失礼なのですが、銚子電鉄というと「崖っぷちの経営」「万年赤字」というイメージがあります。たとえ事実だとしても、あまり良い気持ちはしないと思いますが、どのように捉えていらっしゃいますか。

竹本:そうですね、銚子電鉄は赤字の代名詞になっています。恥じることなく、赤字と言い切って、赤字を売りにしている状態です。本当は、苦しい台所事情をそのまま表に出すのは、何年も閉店セールをするような禁じ手だと思っています。

それでも銚子電鉄が存続できているのは、我々の訴えに対して、多くの方たちからいただいた、温かい気持ちに支えられているからです。

―多くの方に支援されるようになったきっかけを教えてください。

竹本:15年前、経理担当者がオンラインショップに「電車運行維持のためにぬれ煎餅を買ってください!!」「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」と書いたことがきっかけでした。メッセージはネットで拡散されて、オンラインショップにはたくさんの注文が舞い込みました。これを機に、多くの方たちからご支援をいただくようになりました。

銚子電鉄は、乗車運賃ではなく、ぬれ煎餅が売上の主力商品なんです。オンラインショップは、私がまだ銚子電鉄の顧問税理士だったころに「売り上げはぬれ煎餅で作るしかないのだから、早くネットで売らなくては」と急いで、独学で開設しました。

銚子電鉄本社のある、仲ノ町駅
仲ノ町駅内の売店。左からまずい棒シリーズ、ぬれ煎餅シリーズ

オンラインショップは、1日1万円、月30万円の売り上げがあったので、想定よりも好調でしたが、経営状況はかなり逼迫していて、さらに前社長が横領で逮捕されてしまいました。現役の社長が逮捕されるなんて、銚子電鉄は、某自動車メーカーの15年も先を行っていましたね。

そのころに書かれたのが「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。」というメッセージなんです。

このときの担当者は「インターネットはデジタルの世界だけど、その先にはアナログの温かい気持ちを持った方がたくさんいて、そういった方たちに助けられた」と言っていました。本当に、感謝しかありません。

―オンラインショップは、15年前のぬれ煎餅ブーム以降も順調だったのでしょうか。

竹本:実のところ、オンラインショップの運営にはあまり力を入れておらず、卸売を中心に取り組んでいました。道の駅や菓子問屋さんに、ぬれ煎餅を卸していたんですね。

ところが2019年の秋に、銚子一帯は台風15号、19号に襲われて、鉄道に関するたくさんのイベントが中止になってしまったんです。秋は鉄道イベントが多い時期で、物販が売り上げのほとんどを占める銚子電鉄にとっては危機的状況でした。ぬれ煎餅を1日で100万円近くも売り上げるイベントが、全て中止になってしまったわけですから。

しかも、秋のイベントを見込んで、後で詳しくお話しする「まずい棒」を仕入れていたので、大量の在庫を抱える羽目になりました。

そのまま売れることはなく、賞味期限も迫っていたのですが、2020年4月、Twitterで「まずい棒、賞味期限迫る! 早い者勝ち」と投稿したら、それがとても大きな反響がありました。前年の売り上げを1~2週間で上回り、またインターネットの力に助けられたんです。

―危機に陥るたびに、インターネットの力に助けられているんですね。「万年赤字」経営の中、ほかにはどういった応援を受けたことがありますか?

最近は、鉄道系YouTuberに助けられていますね。たとえばスーツさんという方は、いろいろなところを旅して、沿線の魅力や歴史を深く語る、絶大な人気を誇るYouTuberなのですが、彼が「赤字ローカル線を1日だけ黒字にしてみた 【銚子電鉄】」という企画で、銚子~外川までの片道切符(350円)を400枚買ってくれたんですよ。

そして切符に「スーツ」というハンコを押して、銚子電鉄の1日乗車券を買ってくれた人にその切符をプレゼントする企画を行いました。たくさんの人が来て、400枚の切符がすべてなくなりました。売店の売り上げも大きく、1日分の黒字どころか、1ヶ月分の赤字が埋まったくらいの効果がありました。

ほかにも、カコ鉄さんというYouTuberがプレミアム生配信をしてくださって、売り上げを銚子電鉄に全額寄付してくださったこともあります。

オンラインショップが前年比1000%の大躍進。銚子電鉄を地域の情報発信基地に

―いま銚子電鉄のオンラインショップでは、たくさんの商品を販売していますね。

竹本:きっかけは、先ほどお話しした「まずい棒」です。コロナ禍の影響で、昨年4~6月の赤字が5000万円になってしまいました。1年後には2億円の赤字になってしまう。これはもう、破産間違いなし……というタイミングで、まずい棒がすごく売れました。3万本が即日完売したんです。赤字には変わりないのですが、これでオンラインショップがブレイクする予感を得ました。

以来、テレビ、新聞などさまざまなメディアに積極的に出させてもらって、そのたびに売り上げが伸びていきました。2019年まではオンラインショップにあまり力を入れてこなかったのですが、2020年のオンラインショップ売り上げは前年比1000%にもなりました。

これでアイテム数をどんどん増やしていこうとなりました。コロナ禍前までは20点ほどしかなかったのに、いまでは100点近くの商品を販売しています。

―数ある商品の中には地域の名産品も多く並んでいて、まるでアンテナショップのようですね。

竹本:銚子電鉄は2023年に創業100年を迎えます。100年も支えていただいた、銚子の方たちへの恩返しとして、地域に密着したことをやりたいと、オンランショップを銚子の情報発信基地として活用することに決めました。これで少しでも、銚子の街が潤えばうれしいです。

最近の人気商品は「ぬれ餃子」です。しっとり感のあるキャベツを使っていることと、ぬれ煎餅に関連づけて、ぬれ餃子と名づけました。

ぬれ餃子は、銚子の名産品を詰め込んだ商品なんです。銚子は春キャベツが非常に有名で、甘みがあって美味しいんですよ。生産量も日本一です。また、春キャベツだけでなく、醤油でも有名な地域です。さらにぬれ餃子には隠し味として、源醤(げんしょう)という旨味たっぷりの調味料を使っています。源醤は、箸でつかめる食べる醤油「ひ志お」をつくるときにできる液体で、とても希少なものです。

こうした地元の名産品をPRして、銚子の味を日本全国に知っていただきたいと思っています。

「脳に汗をかかなければならない」与えられた条件下でベストを尽くす

―ここまで現在の取り組みを伺ってきましたが、コロナ禍で銚子電鉄の経営状況はどんな状況でしょうか。

竹本:2020年の5月は、売上高が前年比の約5%でした。売り上げはどこへ……という大変危機的な状況です。1日の切符売り上げが、4480円しかないんです。電車をただ走らせるだけで、1日に60万円ぐらいかかるのに。

ただ、我々が思ったのは、「与えられた条件下でベストを尽くすしかない」ということです。自分たちができることを淡々と、粛々とやっていくしかないんです。何かやれることはないか、と知恵を絞って。これを「脳に汗をかかなければならない」というんですよね。

この言葉を知ったのは、マーケター・神田昌典さんの著書『あなたの会社が90日で儲かる!』でした。私が非常に感銘を受けた本です。この本でマーケティングの仕方をいろいろと勉強しました。銚子電鉄が突拍子もない取り組みをするようになったのは、この本による影響が大きいです。

さらに刺激を受けたのが本の表紙。色がピンクなんですよ。表紙がピンクのビジネス書はなかなか見ないですよね。

銚子電鉄でイルミネーション電車を走らせたことがあるのですが、そのイルミネーションをピンクにした理由は、表紙の印象が強烈だったからです。

―ピンクに光る電車……すごいインパクトですよね

竹本:面白いと思ったんです。ピンクに光る電車なんか見たことないですよね。冬だから暖色系がいいだろうと、オールピンクになったんです。しかも、プロジェクターで床にハートマークまで映していました。イルミネーションの工事を担当した者が、「ピンクのLEDが一番安いので、一部ではなくオールピンクにしましょう」と言ったのがオールピンクになった最終的な決め手だったんですよ。

ピンクは一昔前の日本だと、いやらしいというイメージがあったようで、イルミネーション電車がテレビで紹介されたときは「公共交通機関がなんていやらしいことをするのか」とお叱りの電話がありました。

一部の方からクレームがあった一方で、このイルミネーション電車はとても大きな話題になりました。いま銚子電鉄は、岩下の新生姜さんとコラボをしているのですが、このオールピンクのイルミネーション電車がきっかけだったんです。コラボの話そのものは、2年ほど前に出版社の方に、岩下の新生姜の岩下社長を紹介されてから始まりました。後日談ですが、岩下社長はそれよりずっと前、2015年にオールピンクのイルミネーション電車を走らせたときに衝撃を受けて以来、銚子電鉄に興味を持ってくださっていたそうです。

何もしないことが一番のリスク。一生懸命に取り組むことで、想定外の方向から解決策が与えられる

―厳しい状況になればなるほど、リスクを恐れてチャレンジせず、尻込みしてしまいそうですが、銚子電鉄はどうしてがむしゃらに取り組み続けられるのでしょうか。

竹本:「どんな問題があっても解決できる」と考えているからです。言い換えると、乗り越えることができるから、自分の身に問題が起きているんだ、と考えています。一生懸命、一心不乱にもがいているうちに、想定外の方向から、解決策がギフトとして与えられるのだと信じています。だからあきらめないんです。

「絶対にあきらめない」を掲げる、銚子電鉄の始発の地「銚子駅」

たとえば、本銚子駅という駅舎が築94年でボロボロの駅があるのですが、2017年にタレントのヒロミさんが、日本テレビの「24時間テレビ」のチャリティできれいに直してくれました。大正ロマン風の素敵な駅舎になって、駅のすぐ裏にある小学校の生徒がデザインしたステンドグラスが飾ってあったり、伝声管を使って会話ができたり、水をかけると千葉県のマスコットキャラクター チーバくんがあらわれるブロックがあったりします。自ら企画した場合、数千万円はかかるプロジェクトだったので、お話が来たときは本当に驚きましたよ。

「まずい棒」も、ぬれ煎餅に代わるヒット商品を考えなくてはと焦っていたときに生まれました。最初は、本当にまずいものを作ろうと、まずい棒を考案した実業家の寺井広樹さんと話をしていました。ただまずいだけだと「リピーターがつかない」という問題があり(笑)、3年ほど検討していたのですが、ふと「経営状況が“まずい”ってどうでしょう?」というアイデアが生まれたんです。

―まずい棒のアイデア、思わず笑っちゃいますね! 竹本社長がおっしゃる「想定外の方向からのギフト」は、銚子電鉄が逆境の中でもがむしゃらに取り組み続けたことで、支援の輪が広がったから与えられたのだと感じました。

当たり前のことですが、何もしなければ何も生まれないんですよ。何もしないことが一番のリスク。崖っぷちでも、銚子電鉄はさまざまな取り組みを仕掛け続けます。

「未来永劫支える」銚子電鉄を支えるメインバンクの言葉

―商売人にとって励みになるメッセージをありがとうございます。失礼な質問をもうひとつさせていただきます。「万年崖っぷち」といわれている銚子電鉄ですが、どうなるとつぶれてしまうのでしょうか。

資金が回らなくなったらです。銚子電鉄では、償却前営業利益(EBITDA/金利や税、減価償却費を計上する前の利益のことで、税引前当期純利益 + 支払利息 + 減価償却費で計算できる)という指標を重視しています。それを基準に資金が回っているのかを検証します。もちろん、キャッシュフロー計算書も出しますよ。

そして、メインバンクの銚子信用金庫がしっかりと支えてくれています。

―赤字とはいえ、メインバンクとの関係は良好なのですか?

メインバンクである、銚子信用金庫の理事長が、「銚子電鉄を未来永劫支える」といってくださっています。

私が顧問税理士となった当初はメインバンクの対応が厳しかったんですが、その後社長になり、さまざまな取り組みをしていくうちに、銚子電鉄を認めてくださったのだと思います。

銚子電鉄は、行政から補助金をもらっている立場ですから、有識者や経済界の有力者を集めて、経営状況について毎年報告する必要があるんです。もちろん、厳しい意見をおっしゃる方もいます。すると、銚子信用金庫の理事長が「銚子電鉄は重要な社会インフラだと考えておりますから、われわれは未来永劫支えます」とおっしゃりました。涙が出ましたよ。

強力なサポーターがいてくれるからこそ、今後も思い切って、失敗を恐れずに挑戦していこうと考えております。

―銚子電鉄は2023年7月に創業100年になります。最後に今後の目標を教えてください。

竹本:創業100年は通過点にすぎません。

もちろん、銚電倶楽部の方たちと一緒に、100年を盛大に祝うイベントをする予定です。

銚電倶楽部とは、年会費1800円で銚子電鉄を支えてくださっている方たちの集まりで、ひとりで10口も入ってくださる方もいるんですよ。100周年のイベントのときは、鉄道関係で著名な方をお呼びして、銚子電鉄を支えてくださる皆さまへ感謝をお伝えするイベントにしたいです。

【編集後記】

銚子電鉄は崖っぷち経営で有名になり、自虐的なアピールで、多くの方の応援を得ています。それも、竹本社長の「どんな問題も、必ず解決することができると信じる、だからあきらめない」という信念があってこそのものです。そして現在は、銚子の街を盛り上げていこうと取り組んでいます。次はどういった企画で、私たちを楽しませてくれるのでしょうか。これからも銚子電鉄から目が離せません。

森 英信

1969 年生まれ。就職情報誌やパソコン雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務、スマートフォンアプリやWeb システムの開発事業を展開する会社・アンジーを創業。編集プロダクション業務においては、IT・HR・英語・エンタメ関連の取材記者・編集業務を担当(取材は対面、オンライン両方対応可能。趣味は英語学習(TOEIC L&R スコア 905)で、英語によるインタビュー取材も対応。

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