<プロフィール>
庄司輝
クリエイティブディレクター、アパレルブランド「歪hizumi」クリエイター。2018年、大手企業にデザイナーとして勤務するかたわら、同ブランドを立ち上げる。売上は6万円からスタートし、約2年で1000万円超を達成。現在はクリエイティブディレクターとブランド運営を兼業。
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「ツッパリ」を思わせるセーラー服、特攻服のようなシルエットのシャツやコート、「道徳」や「引きこもり」などの印象的なロゴ、そして感情の断片をそのまま書き出したようなネーミング。
アパレル未経験のデザイナーが立ち上げたブランド「歪hizumi」は、攻めたデザインもさることながら、クリエイター・庄司輝さん(30)のバックグラウンドにも要注目です。
デザイナーとして大企業に入社するも「陰キャで先輩に怒られてばかり、会社で泣いたこともありました」と辛い日々を過ごしたそう。
そんな庄司さんは、「副業」であるブランド運営によって、約3年間で3400万円ほどの売り上げを生み出しています。今回は、「歪hizumi」のブランド誕生から成長へのプロセスについて、お伺いしました。
─初めてTik Tokで「歪hizumi」の服を見たとき、「これは凄いブランドが登場した」と衝撃を受けました。でもSNSで「陰キャ」「ポンコツ」という庄司さんのプロフィールを拝読し、さらなる衝撃を受けています。大企業のデザイナー時代は、先輩やクライアント、果ては元カノからもデザインを認めてもらえなかったとか。
そもそもデザイナーに向いてないんです(笑)。デザイナーの仕事って、人が思い浮かべているものを形にすることだと思います。でも、僕は人の考えを汲み取ることが苦手だし、そもそもやりたくない。モノを作ることは好きだけど、「自分の思い描いたモノ」を形にするのが好きなんです。それで趣味のつもりでぬるっと「歪hizumi」を立ち上げました。
─趣味(笑)。それでこのクオリティなのが驚きです。作品の独特な世界観は、どうやって生まれたものなのですか?
中学生の頃は結構真面目な方だったので、ヤンキーに対して「自分にはないカッコよさがある」と思っていました。「大人の敷いたレールから外れた感じ」に憧れたんです。学生時代は先生や親の言う通りに動ける人が評価されますが、社会に出ると突然自主性を求められますよね。大人になると自らレールを外れる人の方が、成功しているように思えたんです。そこから、あのヤンキーっぽいセーラー服などの作品が生まれました。
─なるほど。私が「歪hizumi」の服に衝撃を受けたのも、やすやすとレールから外れてしまう人への憧れがあるように思います。ところで、アパレルは未経験でしたよね。どのように服作りをしていったのでしょうか。
インターネットでいろいろ調べて、やりながら理解していく、という感じでした。ECサイト構築ツールも検索して一番上に出てきた2つを比較し、あまり考えずに手数料の安い方に決めたり。よくブランドを立ち上げたいという方から「どうやって職人さんを探せばいいですか?」と聞かれるのですが、僕は「たまたま」なんです。人との縁に関しては運が良くて。友達が開催したイベントに行ったら、バーテンダーがパタンナーさん。ほとんど家から出ない生活なのに(笑)、数少ない外出で信頼できる人を引き当てました。
─強運ですね。しかし人材はそろったとはいえ、初期投資が必要ですよね。TikTokでは「貯金ゼロからのスタート」とありましたが。
初回の販売は作品2種類だけ、カメラマンもアルバイト時代の後輩にやってもらいました。経費は多く見積もっても15万円。初回の販売で2着、2回目は1着しか売れず、売上はわずか6万円です。でも、会社では全くデザインを認めてもらえないのに、アパレルでは作品を気に入ってくれた人が「3人も」いた! と、嬉しくて。「歪hizumi」はファンの方が優しいんですよ。弱いヤツには優しい人が集まるって法則あるじゃないですか(笑)。だから自分に自信を持てる。「これでいいんだ」って思わせてくれるんです。
─それはいい関係ですね。ファンの方も「歪hizumi」に元気をもらっていると思います。ところで、その予算では在庫の管理は難しいように思えますが。
「歪hizumi」は受注生産のみなんです。在庫を抱えるメリットってお客様に素早く商品が届くということと、1点の価格を下げられることだと思います。でもそれは莫大な初期費用がかかるので、すごく怖い。僕はそもそもチキンなので(笑)、借金するという選択肢はありませんでした。すでに結婚もしており、家族にも迷惑をかけられないと思って。でも今の時代、ほかのブランドも受注生産が多いんです。立ち上げのときには、他のブランドの販売方法を参考にさせていただきました。
─店舗を作らずECサイトの販売に絞ったのは、戦略というよりは必然、そして時代の流れでもあるのですね。では、SNSやブログでのご自身の、ある意味「イケてない」過去の暴露も、やはり自然な流れだったのでしょうか。
それはブランディングであり、差別化です。洋服ってそもそも世の中にあふれていますよね。GUやユニクロなど、安くてカッコいい服はいくらでもあります。僕も家に帰れば量産型の服を着ていますし。その中からある程度値の張るの個人ブランドを選んでもらうには、クリエイターの世界観を好きになってもらう必要がある。そのためには、服の見た目だけではなく、作っている人の中身を伝えたいんです。世界観は人間性から出るもので、お客様に共感してもらえる部分です。加えて、SNSでは自分の弱みを見せる動画はバズりやすいだろうという計算もありました。こういうブランディングがしやすいのは、個人ブランドの強みだと思っています。
─物語に価値を感じるSNS時代の人たちには、とても響く戦略ですね。今後、アパレル業界のスタンダードになるかもしれません。ところで、庄司さんは現在クリエイティブディレクターとして企業で働きながら、副業として「歪hizumi」を運営されていますよね。二足のわらじで気をつけているポイントはありますか?
本業の仕事のボリュームをコントロールすることです。僕は、なるべく1日の就業時間を8時間におさめられるように調整し、残った時間を副業にあてています。「歪hizumi」の運営はやっていて楽しいのでなるべく力を注ぎたいですし、年収を上げるには、やはり副業が有効です。とはいえ、撮影などの特別なことがない限り、運営に費やすのは1日に2〜3時間程度。ブランド運営以外に趣味がないので、集中してやっています。
─なるほど。しかし、「歪hizumi」の運営がそんなに楽しいのであれば、本業を辞めて副業だけにしよう、と考えたりしませんか?
僕はさきほどもお話したように、チキンなんです。もしアパレルだけで食っていこうとしたら、「売らなくちゃ!」とお客様に媚びたデザインを作ってしまう。本業があるから媚びないデザインができる。そもそも2〜3時間でできるのに8時間空いても、ほかにやることないですし。また、副業はあくまで副業なので、いつかは辞めるかもしれません。自分らしいデザインを続けるためにも、今後も本業を続けていきます。
─本業でのご活躍も楽しみです。しかし、「本業があるから副業が自由にできる」というのは当たり前のようでいて、目からウロコでもありました。コロナ不況の今、副業や新しい商売を始めたくてもなかなか踏み出せない方には、いいヒントになりそうです。
「歪hizumi」の売上は最初6万円でもすごく嬉しかったし、そこから今の1000万円まで行くなんて、思っていませんでした。「意外と買ってくれる人がいるんだ」という気持ちでここまで来ることができたので、とりあえずやってみることをおすすめします。初期投資がかかる業種だと勇気がいりますが、アパレルのように受注生産もありますし。向いていたら続ければいいし、向いていなければ「また別のことを探そう」くらいの気持ちでやった方が、むしろうまくいく気がします。
─とても勇気が出るお話ですね。ありがとうございます。では、庄司さんとブランドの今後について、教えてください。
水タバコ屋さんをやろうかと。「歪hizumi」の世界観が好きな方は、水タバコに興味がある方が多いと思うんです。全然違う業種ですが、ブランド運営で培った経験が活かせるのでは、と考えています。店に作品のサンプルを置いたり、試着をした方が撮影会をできるような場を作りたいです。また、「歪hizumi」は2022年1月末に次の販売を行う予定です。作品の発表は2021年12月末。ぜひSNSでチェックしてみてください。
─年に3〜4回の発売タイミング、逃さずチェックしていただきたいですね。今回は、貴重なお話をありがとうございました。今後も刺激的なデザインを楽しみにしています!
<モデル名>
田中ショヲタ
ちち
Seiya Furukawa
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