2022年3月・コロナ禍のさなか、伝説的フィギュアメーカー「海洋堂」が「海洋堂スペースファクトリーなんこく」をオープンしました!
ガレージキットメーカーの先駆けとして知られ、チョコエッグを始めとした食玩で一大ブームを興した海洋堂。精巧なフィギュア造形はもはや神業と讃えられ、その腕前はハリウッドでも評判となり、映画「ジュラシックパーク」では一部海洋堂制作の恐竜の脚が使われたとか。そんな海洋堂が、2020年に関連会社「海洋堂高知」を設立し、ファクトリーを開設。この意外な新展開に期待が高まります。
高知県南国市のごくごく普通の大通りに、いきなり現れる近未来感満載の大きな建物。中に入ると、巨大なフィギュアモニュメント「生命の塔」(松村しのぶ作)に度肝を抜かれます。
このファクトリー一番の特徴は、実際にソフビフィギュアを作る工程を生で見学できること。1階の「ものづくりファクトリー」で、海洋堂の技術スタッフたちが目の前で神業を展開してくれるのです。
2階には、誰でも参加できる工作室・体験工房、その隣にはミュージアムショップ。このショップでしか手に入らないレア物や、ファクトリーオリジナルの塗装を施したフィギュアなど、海洋堂ファンにはたまらないアイテムが揃っています。ほかにも南国市を破壊するゴジラのジオラマや、等身大パワードスーツ、歴代ソフビの展示など、見どころ満載です。
そして常勤スタッフである河野さんも、実は知られざるファクトリーの魅力のひとつ。
<プロフィール>
河野 通さん
海洋堂スペースファクトリーなんこくの名物スタッフ。元々海洋堂のファンだったところ、あるきっかけで入社に至る。海洋堂への愛情がほとばしる、過剰気味な作品説明が持ち味。ミュージアムショップで販売されている人気のフィギュア「デブメガネ」のオンリーワンシリーズに、河野さんバージョンもあったらしい。
河野さんの熱すぎる施設案内は、解説の粋を超えた海洋堂愛の塊です。オープン1周年記念として、「海洋堂愛が熱すぎる男」河野さんに、海洋堂とファクトリー、そして「ここで働くことの魅力」について、語っていただきました。
─高知には、海洋堂の歴史とコレクションを展示する「海洋堂 ホビー館 四万十」、かっぱ専門の「海洋堂かっぱ館」とすでに2つの海洋堂の施設があります。なぜ3つめのファクトリーが誕生したのですか?
ホビー館四万十の館長であり創業者でもある宮脇修氏(以下館長)が「今まで中国で作っていたけれど、日本に製造工場が欲しい」と考えたそうです。はじめは四万十に増築する案もあったそうですが、交通の便を考えて御縁のある南国市に創設しました。
─製造工場ありきで、あとから「それをお客様に見せる」という魅力的なサービスが生まれたのですね。館長さんは高知のご出身でしたね。やはり模型がお好きで会社を始められたのでしょうか。
もとは貸本屋を営んでおりましたが、業界が斜陽になって廃業しました。次の商売を、プラモデル屋かうどん屋どちらにしようか?と迷ったそうです。それで木刀を立てて「こっちに倒れたらプラモ屋、こっちならうどん屋」と決め、木刀が倒れた方がプラモ屋だったそうです。
─運を天に任せてこの大成功、すごすぎます。しかし木刀で決めるとは、面白い方ですね。
はい。館長はアイデアマンで、「夢を実現する人」なんです。館長の名言は数多くありますが、私が好きなのは「ゼロ戦は赤く塗れ」です。世間の固定概念では、ゼロ戦は緑色の迷彩柄ですよね。でも情熱を持ってゼロ戦を赤く塗れば、芸術になる。プラモデルがアートになるというのです。ユニークな考え方です。
かっぱ館の構想が始まったのは2005年、館長が77歳のときです。もし77歳のおじいさんが「かっぱランドを作る!」と言ったら、「ボケたのかな?」と心配になってしまいますよね。でも、館長がいうと、「本当にできそうだ」とワクワクしてくるんです。このファクトリーに至っては、館長94歳でオープンです。私なら「無理だ」と思ってしまうような年齢で、またひとつ夢を叶えました。館長のやることには、計画性はないように見えます(笑)。でも周りのみんなが「できる」と信じて手伝うので、最後には夢が現実になるんです。きっと館長の頭の中にはちゃんと海図があり、社員に「ついてこい」と言えるだけの航路ができているんだと思います。
海洋堂のコンセプト「創るたのしみをすべての人に」を地でいく人です。私もとても影響を受けています。そもそも海洋堂は、館長、そして息子であり海洋堂高知の社長である宮脇修一氏の夢を形にしたものなんです。
あの2人が止まらない限り、海洋堂は走り続けます。私もそこに一生ついていきます。
─すごすぎる「海洋堂への情熱」を聞かせていただき、ありがとうございます。思わず御社で働きたくなるほど、魅力的なお話でした。そんな素敵な会社に河野さんが入社したきっかけは?
もともとは、アニメや特撮を浅く広く好きな、ただの海洋堂ファンでした。このファクトリーが建設されると知ったとき「どのポジションでもいいから、ここのスタッフになりたい」と思っていたのです。そしてオープン後にお客さんとして来館したのですが、2度目の来館時、知り合いだった社員の今久保さんに「ワークショップ手伝わない?」と声をかけられて、次の日には制服を着てここに立っていました。そのままスタッフとして居座ったんです(笑)
─素晴らしいですね。憧れの施設に採用とは。でもファクトリーの案内は、いきなりできるものなのでしょうか。前職も同じようなお仕事ですか?
以前は、10年間介護職をしておりました。主に認知症の方がいらっしゃる施設だったので、朝お話しても、昼になると私のことを忘れてしまう方がほとんどです。その都度その都度「はじめまして」から始まる関係性を10年間、続けてきました。その経験から、「その時その時で相手の気持ちを察してお話する」ことができているように思います。また、児童館や学童でのお仕事もしていたので、子どもたちとの会話にも慣れていました。
─なるほど。さまざまなタイプの方と触れ合うお仕事をされていたのですね。ではいよいよ、河野さんによるファクトリー案内をお願いいたします。
はい。まずは1階の「ものづくりファクトリー」。ここではソフビのフィギュアの塗装の様子などが見学できます。デジタル造形も見られますが、3Dの機械は割と地味です。スタッフはものづくり好きな人たちなので人前に出ることは得意ではなく、実は見られることに緊張するそうです。満員御礼のときは特に、たくさんの子どもたちがガラスに張り付いて見ていたりするので、「もう少早く進んでくれないか」と(笑)。ここではウルトラマンシリーズの怪獣も常時製作しています。ぜひ見に来てください。
─近距離で見学できますからね。今度からさり気なく拝見します(笑)。見づらい箇所にズームカメラがあるのも嬉しいですね。では、2階の工作室・体験工房に。こちらの特徴は?
オリジナルパーツを使ってジオラマを作ったり、ファクトリーで作られたフィギュアを塗装できたりします。だいたい1〜2時間くらいで1作品できると思うのですが、ものづくりの世界は際限なく追求できるので、一度の来館で終わらない方もいます。
─そこまでハマるのもまた、楽しそうですね。おすすめの作品はどちらですか?
ジオラマに使うパーツなのですが、このかつおのタタキをよく見てください。これ、1枚1枚、かつおの「筋」が違うんですよ。
─え! 本当だ。芸が細かすぎます。
あとこのゴリラも大好きなんです。この腰からお尻までのラインが、本当にリアルで。手首足首が動くので、いろいろなポーズを取らせることができます。ほかにも西遊記の孫悟空のモデルになった猿「キンシコウ」のフィギュアなど、おすすめがいっぱいです。ここは平日でもいつでも体験ができます。
─パーツのディティールにも楽しみがあるのですね。ぜひ体験してみたいです。では続いてはショップのおすすめを教えてください。
私の最強のおすすめはこの2つです。「メガソフビアドバンス 北斗の拳 ケンシロウ胸像」(左・税込43780円)と、「メガソフビアドバンス 北斗の拳 ジャギ リデコVer.」(右・税込26180円)。
ケンシロウは1階にもありますが、こちらはさらにサビ塗装と銅像塗装を施しています。僕も部屋の広さとお金に余裕があったら、絶対にほしい逸品です。そしてジャギは、ヘルメットの下から見てほしいんですが…。
─目がこっち見てる! ちゃんとリアルに作ってありますね。
メットを外したボコボコの顔の状態を、ちゃんと塗装してあるのです。よく見てみると、アニメに出てくる傷のラインをきちんと再現しているんです。値段だけ見たら「フィギュアに2万円って!」と思いますが、知れば知るほど、むしろ安く思えるのではないでしょうか。
このクオリティのフィギュアにこのリアルな傷の塗装、自分でできるかと言われたら難しいです。だからといって、私はお客様に商品をゴリ押しすることはありません。「これすごいでしょ?」「海洋堂ってすごいでしょ?」と言いたいだけの変なおじさんです。
─わかります! 私もさきほどから「すごいですね」を連発しています。そして気になっているのが、このフィギュアですが、まさか…。
これは「デブメガネ」というフィギュア(税込6600円)。モデルは私!…ではなく、雑誌「フィギュア王」(ワールドフォトプレス刊)のライターさんです。でも、ファクトリーに来る子どもたちに聞かれたら「おっちゃんやで」って答えています(笑)。四万十ではすぐに売り切れてしまいましたが、こちらではオリジナルのカラーに塗装した「オンリーワンのデブメガネ」を販売しています。一押しはこのブロンズ仕上げです。
オリジナルデブメガネの原点です。メタリックデブという、本当にどこにもないここだけのオリジナルカラーリングです。世界中探しても、こんな強そうなデブいません。サモ・ハン・キンポーが演じたデブゴンくらいですよ。そして、ここにあるのが…。
─河野さんと同じ制服の色!
そうです。私が知らない内にモデルにされていました(※現在河野さんバージョンは品切れ)。塗装の技術スタッフが大爆笑しながら「河野さん、時間ありますか?」と聞いてきたので「なんですか?」とデスクを見たら、これが立ててあった(笑)。ヒゲ跡もきちんと再現しています。「くれるんですか?ありがとうございます!」と言ったら「あげません。売るんですよ」と。
(ここで、子どもたちがやってきて)
「これ、おじさん?」
「そう。おっちゃん商品になってるんやで」
「すげー! ほしい!」
「お母さんに『デブメガネ買うから6600円くれ』って言ったら怒られるで。お小遣いで買える物か、1階でおいしいものでも買いなさい」
─買ってもらわないのですか?
ひとりひとりのお客様とお話しながら、一緒に欲しい物を探すというのが僕の営業方法です。お子さんに6600円は大金です。ほかにもまだまだおすすめはありますから。
(※以降、ガチャのシリーズや「AKIRA」のフィギュアなどさまざまな商品の解説を2時間ほどいただくも、さらに話は尽きず…)
─楽しい解説をいただき、ありがとうございました! 全商品を紹介してほしいくらいですが、このままだと夜が明けてしまいそうです(笑)。お名残惜しいですが、ここで切り上げます。では、最後に海洋堂ファンの皆さんにメッセージを。
海洋堂は館長と専務、従業員みんなの夢と、フィギュアや模型の面白さが詰まった会社です。ここに来ればなにかが見つかるかもしれない、と思って楽しんでいただけたら嬉しいです。私は昔からおもちゃやフィギュアが大好きですが、お客様はオタクやマニアから通りすがりの方まで、さまざまな方がいらっしゃいます。それぞれのお客様に笑って喜んでもらえるようにご案内しておりますので、なんでも聞いてください。高知へ旅行にいらしたら、ぜひ覗いてみてください。
─最後まで情熱的ないいお話でした。今後も注目していきます。ありがとうございました!
<施設紹介>
海洋堂SpaceFactoryなんこく
住所:高知県南国市大そね1623-3
TEL:088-864-6777
入場無料
営業時間:10:00~18:00
定休日:火曜日、12/28~1/1
URL:https://kaiyodo-sfn.jp/
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