「火星カレー」のコンセプトはゲーム開発と同じ脳みそで考えた

ニューアキンド

 
地球上になかった味」と評され、カレー通たちから支持される『火星カレー』。
 
池袋駅西口から徒歩3分ほどの場所にあり、かわいい看板が目印です。カウンターとテーブル席が4つのカレー屋さん。

火星カレーの特徴はなんといってもこのメニュー構成。さまざまなお肉がカレーの具になっています。鶏、豚、牛といった定番はもちろん、カンガルー、馬、鹿といった他では見たことないカレーがずらりと並びます。


▲鴨カレー880円 + 豆トッピング100円


鴨カレーに豆トッピングです。
彩り鮮やかなお豆はチキンスープで煮ています。ごはんはかるく焼かれて焦げ目がついており、香ばしい匂い。ルーは水分の少ないタイプですが、ドライカレーともキーマカレーとも一味ちがいます。水をほぼ使わずに、野菜から出た水分で作っているそうです。ルー1皿あたりニンニクが1かけら半入っているそうですが、独自のスパイス配合が効いてぜんぜん臭くありません。たしかにいままで食べたことのない味。これはクセになりますね。


▲カンガルーカレー1080円 + 草トッピング100円

カンガルーカレーに草のトッピングです。草とは、バターソテーされたほうれん草のこと。カンガルー肉はクセが強そうなイメージでしたが、実際食べてみるとそんなことはありません。脂肪も少なくて、むしろさっぱりしています。

火星カレープロデューサー・綾部和さんにお話しを伺った


▲店長の橋本さん(左)とオーナー&プロデューサーの綾部さん(右)
 
見た目も味も個性的な火星カレー
今回はプロデューサー兼オーナーの綾部和さんにインタビューを行いました。
 
綾部さんはゲームデザイナー兼シナリオライターとして「ぼくのなつやすみ」シリーズなど人気作品を制作。2014年に「火星カレー」をオープンするという異色の経歴の持ち主です。どういう経緯で個性的なカレー店が生まれたのか。
 

●料理の基礎知識がないから、自由に試行錯誤できた

 
-そもそもゲームデザイナーをされていた綾部さんが、どうしてカレー店をはじめたのですか?
 
綾部さん:30年前、学生の頃からカレーが好きでよく作ってたんです。料理の基礎知識がないから自由に試行錯誤してましたよ。プロじゃないけど一般的な男性よりは美味かった。
 
その頃ホームパーティーをよくやっていて僕のカレーをみんなで食べていたんです。そこでもっとも僕のカレーを気に入ってくれたのが、高校の同級生だった橋本店長です。「これを入れたら必ず美味しくなる」という食材をたっぷり入れたら、なぜか独特の味になりました。当時から「地球上に存在しない味だから火星カレー」と呼んでいたんですよ。
 
-この絶妙なルーをなんとなくの勘で作れたのはすごいですね。
 
綾部さん:僕はコーラも市販の材料で作れますから。
 
-え?コーラを?
 
綾部さん:やってみたらできたんです。コーラー味の飴があるけど、あれくらいで良ければコンビニで売ってる食材だけですぐにできます。店で出すとしたら、市販のぜんぜん違う味の缶ジュースを2つ出して、客が混ぜたらコーラになるってメニューもいいですね。
 
-ゲームのなかのアイテム合成みたい!
 
綾部さん:ゲームの仕事がひと段落したのが2013年。「やり残したことないかな」と考えたところ、やっぱりカレー屋さんがやりたいなと思ったんです。東京でいろいろカレー食べましたけど、自分のカレーが一番好きだったのでもったいないなと。ゲームとまったく違う畑だけどやってみようと決意しました。
 
-そこで橋本店長を誘ったわけですか
 
綾部さん:はい。社会人になって別々の道に進んでいましたが、2~3年に1回メシを食いに行ってました。橋本くんは東京の飲食店で店長を任されていたんですが、ちょうどその頃、彼が働いてたお店がなくなって体が空いてたんです。タイミングもよかったですね。
 
お店のプロデュースやルーのレシピは私、店舗運営やトッピングの開発は店長が担当してます。橋本店長は肉料理が得意ですから、私がトッピングの肉のアイデアを出したら、それをレシピで形にしてくれました。
 
-異業種への参入ですが、得意なことを分担すればやっていけるわけですね!


▲食べやすさからデザート用の細長いスプーンを採用している
 

●ゲームでいえばクリアー条件がわかってきた感じ

 
-店舗をもって難しかった点はどこですか?
 
綾部さん:せいぜい10人前しか作ったことがなかったので「量産できるのか」「回転率をあげて原価率をさげることができるのか」がハードルでした。そこで世の中に出てるおいしいものはどうしておいしいかを研究して、ポイントが掴めてきました。ゲームでいえばクリアするために必要な条件がわかってきた感じですね。コレとコレが必要だから、その条件を崩さないようアイテムを集めようと。


 
-フラグをたてて回収する感覚ですか
 
綾部さん:われわれ2人とも北海道の生まれなんですが、新千歳空港であるものを見つけまして。なにかは秘密なんですけど、カレーに入れたら美味いんです。でも、北海道の製造メーカーに問い合わせたら小量生産なんですね。そこはなんとかしようと店長が「わたしたちも北海道出身なのでよろしく頼みます!」とお願いしたところ、うちの店にのみ特別に大量生産してくれることになりました。
 
-ホームパーティーで作ってたころとは量が違いますもんね
 
綾部さん:とにかく仕込みに時間がかかるんですよ。うちは長時間煮こまない代わりに2日ほど業務用の1℃の冷蔵庫で熟成させます。煮込んですぐだと、中のいろんなものがケンカしておいしくない。かといって煮こみすぎるとウスターソースみたいな味になる。ほとんどの食材は旨味が壊れる直前で加熱をやめるのが一番おいしいんです。
 
ラーメン屋さんとちがって全国的におおきく成功しているとこはココイチぐらいしかないのもわかります。カレーはラーメンと比べて効率化がむずかしい業態なので、営業形態そのものにアイディアが必要になるんです。
 

●火星カレーのコンセプトはゲーム作りと同じ脳みそで考えた


 
-ゲーム開発の経験はカレー店運営のどんなところに活きましたか
 
綾部さん:コンセプトの部分でしょうか。まず券売機の絵を描いたんですよ。いろんな肉の名前が漢字一文字でずらっと並んでる状態を思い描きました。馬とか鹿とか肉の種類がたくさんあるけど、ジビエ料理のつもりじゃないんです。回転すしのようにいろんなお肉があったらおもしろいなという発想ですね。
 
こういうコンセプトの決定はゲームを考えるのと同じ脳みそを使っています。最初に方向性をしっかり示さないと出来上がったゲームがあやふやになってしまいます。他と違った個性があって、売上も含めてしっかり考えたロジックが備わっているビジョンです。それを考える時点ではものごとに縛られず自由に発想することが大切ですね。
 
-なかなか自由に考えるのは難しいんですが、いいアイデアを出すコツはありますか?
 
綾部さん:これはゲーム開発のときと同じですけど、アイディアがたとえば4個しか必要なくても100個考えて、そこから一番すぐれた4個を選ぶようにするんです。アイディアの質は問わずとにかく100個考える。すると使えそうなのが20個は出るのでそこからさらに4個にしぼるんです。火星カレーのメニューも、ストックは100個ぐらいありますよ。これをやると結果的にアイディアの質が格段によくなります。
 
-なるほど、まず100個考える!今日から使えそうです。
 
綾部さん:ほかのことには手につけず、考える時はそのことばかり考えてます。ずーっと考えてますね。
 
-とにかく考え続けることが重要なんですね
 
綾部さん:そうやって独自の方向性を決めていきます。コンセプトが珍しいということもあって、去年1年間で4回キー局の番組にでました。そこまででれば知名度も高まるし、宣伝効果もあります。
 
去年、声優さんの朗読劇の脚本をやったんだけど、そこに「綾部和(火星カレー)」って書けるのがかっこいいなと思ったんですよ。火星カレーってなんだよって(笑)
 
そういう裏の顔を持ってる人はあんまりいないからおもしろいですよね。ゲーム開発の経験とカレー大好きの精神がまじりあった異色のお店「火星カレー」なにかを突き詰めた知識やコツは、まったくちがう分野でも活きるものなのかもしれない。

取材協力:火星カレー
住所:東京都豊島区西池袋3-27-3 S&Kビル B1F