ずっとやりたいことがあり、頭では思い描いているけれど、なかなか実行できない。そんな風に感じている方もいるのではないでしょうか。
今回は、好きなことを追い求め続け、クラウドファンディングで見事目標金額を達成し、それが原動力となり、ウェブマガジンPLARTの編集長とHEY!ARTプロデュースに従事。これからアート業界に新たな風を吹き入れてくれるであろうPLART代表の柿内奈緒美さんにお話を伺いました。
コンテンツビジネスを立ち上げるまで
-自己紹介も踏まえて、今までのことや現在について教えてください
柿内氏:はい。私は現在、アートがライフスタイルになるウェブマガジン「PLART」の代表と、PLARTのリアルイベント「HEY!ART」プロデューサーを務めさせていただいていますが、ここにくるまでが本当に紆余曲折な人生を送っていました。
今となってはさまざまな業界の人でも話が出来て仲良くなれるので色々な経験ができたことが良かったと思っています。20代の頃は職を転々としていて、飲食業界、理美容業界、建設業界、アパレル業界など様々な業種7社以上で働いてます。よくある話ですが(笑)長くお付き合いしていた人がいて、完全に人の夢に相乗りする様な職種を選んでました。その方とお別れしてから、「一体自分は何がやりたいんだ。」と真剣に向き合いました。
-なるほど。今のアート業界に興味を持ったのはいつごろなんですか。
柿内氏:アートに興味を持ったというよりも、自分を表現するには何がいいかと考えるようになったといった感じですね。当時27歳で、建設業界で働いているときに、先ほどお話しした「一体自分は何がやりたいんだ。」と考え始めた時で、結果、「自分が活きるフィールドで点と点を結ぶ線の様な存在になって活動していきたい。社会を良くする歯車になりたい。」と決意しました。
-なるほど。それで今まで地道に色々な活動をなされてきたのですね。
柿内氏:そうですね。目標は決めたのはいいものの、そのフィールドが何か、何が必要かもわからないので、とにかく直感で動きまくってました。5年前に関西から上京したこともその一つです。東京に来てからは時間をつくって、どんどん色々な方々に会いにいったり、興味のあるプロジェクトに参画してみたり、とにかく行動して、たくさん吸収しようとしていました。その中で、原体験になった活動が「1人で自分の雑誌を作る」というクラウドファンディングのプロジェクトだったのです。
-おお、あれですね。自分も支援させていただきました笑
柿内氏:そうですよね!ありがとうございます。私はずっと大型のシェアハウス(※)に住んでいたので、そこで感じた心地よさをどうしたら、社会に広めることができるのだろう?と考えていました。シェアハウスに住んでいる人は皆、ここに色んな人がいると理解して住んでいます。自分と違う価値観を許し合うこと、それぞれのできることを補い合うことを知ってます。他者に対してどちらかというとポジティブな感情を持っています。それがとても私にとっては心地よかったのです。そのことを雑誌を通して伝えたくて、クラウドファンディングを行いました。
※ここでいうシェアハウスは70名以上の住人がいる大型のシェアハウス
-クラウドファンディングは、結構取り組みたいと考えている方もいると思うのですが、達成させる秘訣みたいのはあるのですか。
柿内氏:クラウドファンディングを始めたときは、とにかく人の目に入るようにしていました。プレゼンイベントに出たり、共感いただいた方から応援メッセージをもらって、ひたすらSNSで発信していました。私は自分の中で1日のルーティーンを続けているのですが、朝活の一環で「本日のまがじぃ〜ん。」と題してSNSで発信しています。同じフォーマットで発信し続けることは、人の印象に残ります。そのため、私は数年会ってない人からでも「Facebookで見てるから」と、覚えてもらってる確率が高いです。
コンテンツビジネスで大切なこと
-柿内さんといえば朝のイメージですよね、しっかりとブランディングされていますよね。
柿内氏:ありがとうございます。実は朝にこだわりを持つ理由がありまして、昔、京都の鈴虫寺へ行った際、住職さんがおっしゃっていた言葉がとても好きです。「朝という字は十月十日の組み合わせからできていて、それは赤ちゃんがお母さんのお腹の中にいる期間です。だから、朝が来る度に生まれ変わりなさい」というのがすごく響いたのです。
ちょうど自分がその時に精密検査を受けたりと、自分の体とこれからに向き合っている時だったのもあります。それから、朝が来るたびにその言葉を思い出すようにしています。朝に「GO!GO!」と言いたいので、5時5分に起きています(笑)また、朝はインプットの時間にしていて、先ほどお話しした「本日のまがじぃ〜ん」という活動をしており、発売された雑誌を1日に3冊〜10冊ほど読んでます。ここが私のエネルギーの源なんです。雑誌のページをめくる度にワクワクするんです。どんなきっかけが詰まってるんだろう?って。
-なるほど、やはりゲン担ぎやルーティーンは大事ですよね。これだけ意思や思いを持った人だからクラウドファンディングも成功したんですね。
柿内氏:元々、意思は強い方だとは思うのですが、もっと強くなったきっかけが幾つかあります。東京に来て1年3ケ月経った頃、趣味のボルダリング中に壁から落ちて腰椎骨折をしました。あと数ミリで神経を傷つけてしまい下半身不随になったかも・・・という大怪我で、7時間の手術と半年のコルセット生活。そして半年のリハビリをしました。同じ時期に長い間寝たきりだった父親が他界した事も意思が強くなった大きな出来事の一つです。
「せっかく健康で生きていくチャンスをもらったんだ。絶対に諦めない。」
挫けそうになった時はいつもそう思ってました。もちろん、思いを持ってるだけではだめで、自分がやりたいと思っていることをとにかく伝えることが大切だと思っています。私の場合は自分が好きなものを集めて、伝えました。小説家、伊坂幸太郎さん著書の「ラッシュライフ」の名前が好きで「LushLife」という雑誌名を決めました。LushLifeは、豊潤な暮らしという意味です。シェアすることについてを雑誌で表現したいと思いました。
この雑誌を通して、シェアすることが自分と違う価値観を受け入れることがどんな豊潤な暮らしにつながることなのか、をゆるく伝えられたらと行動に移しました。黙っていても、何も伝わりません。とにかく「伝える・発信する・継続する」こと。それがコンテンツビジネスには大切だと思います。
コンテンツビジネス:「PLART」というメディアをプロデュース
-次にPLARTについてお伺いしたいのですが、アートに対しての考えやPLARTの方向性などをお聞きしたいです。
柿内氏:クラウドファンディングで目標金額を達成し、雑誌を発刊でき、そして、今の自分にたどり着いた基盤となる今の会社で、お仕事をさせていただくうちに、これまでずっと自分が思い浮かべていたこと全てが線となってつながり、シェアハウスで感じたことを表現するのにはアートがピッタリだと思い、PLARTというひとつのメディアをスタートさせました。
-なるほど、ついに自分の道を見つけたのですね。
柿内氏:はい。シェアハウスの住人たちは「色んな人がいる」「色んな表現がある」ということを受け入れていました。そして、アートはまさに個性の塊、人の表現です。それを楽しむことは他者の表現を楽しむことに繋がっていくんじゃないか、と思いました。今の日本社会が息苦しいと感じ、人の目ばかり気にして、身動きが取れなくなる見えない鎖を少しでも壊したいと思ってます。
もっと、自分らしく、それぞれの個性が生きる百花繚乱の世界に変えていきたい。アートがライフスタイルになるほど当たり前になれば、日本も多様性を前提としたお互いがお互いを認め合える社会になる。少しでもそこに繋がっていくと信じて、PLARTを運営してます。
しかし、そもそも日本のアート業界は狭いといわれてます。だから、もっともっと身近に感じられるように、「アート」と「◯◯」といったコンテンツにしました。そして、ウェブはどちらかというと、情報が多すぎてどれを読めばいいのか解りにくく、消耗品のように感じられます。そこで、私は雑誌が大好きですので、雑誌のように毎月、公開する日を決め様々な切り口の特集を組むことにしました。コンテンツは出来るだけ雑誌ぽく見えるように手描きの箇所を入れてます。
また先日、PLART初のリアルイベント「HEY!ART」は、代官山のギャラリーで行わせていただき、おかげさまで約320〜330名の方にお越し頂きました。
第1回目のテーマは「アートのある暮らし」
アート好きな友人の部屋へ遊びに行って、コーヒーを飲んでおしゃべりして、くつろぐ・・・そんなイメージのアート展でした。美術館やギャラリーでは味わえない、リラックスした空間で気軽にアートを楽しんで頂けるよう工夫しました。なんとか納得するカタチで終えることができたのは周囲の協力があったからだと思ってます。本当に感謝してます!
仕掛けていきたい今後のコンテンツビジネスについて
-最後にPLART含め、今後の活動のビジョンについてお話し伺えればと思います。
柿内氏:はい。PLARTは、アート業界とは違う層の方にアプローチしているので、もっとPLARTは通じて、アートにあまり興味がない人が少し目を向けてくれたり、日常にもっと気軽にアートを楽しめるような、そんな情報発信や、提案をどんどんしていこうと思ってます。
編集後記
柿内さんにインタビューして思ったことは、自分の芯をしっかりと持っていること、そして寛容性があるということを感じました。アートは否定ではなく、さまざまな作品を認め合って、お互いの作品をリスペクトする。このような考えが、アートのみならず、自分の生き様にもあらわれているような気がしました。
人が何かを決心したことで生まれるパワーはすごいものを感じ、また周囲を巻き込むほどの思いや信念がある人が世の中にインパクトあることをやっていくのだと改めて感じた次第でした。