究極の時短メシ! テーブルマーク担当者に聞く、「冷凍うどん」の今と昔

ニューアキンド

 
スーパーやコンビニで手軽に買える冷凍うどん。冷凍庫に常備している人も多いはずだ。
 
まず“レンジ調理可”なのがいい。わざわざ大量のお湯を沸かす必要がなく、猛暑の日もストレスフリー。解凍するだけでよいので、冷凍庫から取り出して数分後には食べられる、ある意味究極の時短メシといえる。
 
簡便性に加え特徴的なのが、見た目と食感の良さだ。讃岐うどんをイメージした角の立ち方、なめらかな喉ごし、そして茹でたてのようなコシ。冷水で締めれば輪廓がシャープに際立ち、釜抜きすれば出汁ともよくなじむ。老若男女誰が作っても同じ仕上がりになる安定性も大切な要素だ。

手軽さと食味の良さが忙しい現代人に受けている

 
現在、多くの冷凍食品メーカーからさまざまな冷凍うどんが発売される中、トップシェアを誇るのがテーブルマーク(旧加ト吉)だ。冷凍うどん業界に参入して43年。黎明期を牽引してきた同社は現在、年間約5億食を供給し、市場規模およそ716億円の冷凍うどん業界で5割弱のシェア(出典:富士経済食品マーケティング便覧)を誇る

だが、意外にもその滑り出しは順調だったわけではない。先頭走者としてこだわり続けるものとは。同社M&S戦略部で冷凍麺を担当する根岸新一さんと高橋良輔さんのお二人にお話を伺った。

冷凍うどんのプロである根岸新一さん(右)と高橋良輔さん(左)

「冷凍したうどんなんて」で始まった苦節10年

 
――冷凍うどんを初めて発売したのは1974(昭和49)年ですね。
 
高橋良輔さん(以下、高橋):開発は香川県内の弊社工場で行われたのですが、いわゆる大がかりなラインを敷いた工場ではなく、よくある小さな製麺所のようなところだったと聞いています。
 
根岸新一さん(以下、根岸):開発にあたり従来の冷凍技術や凍結機器も利用しましたが、機械から機械へは人が移すなど、工程全体としては機械半分・人の手半分でしたね。
 
高橋:工業的に冷凍うどんを作るための連続的なラインが世の中になかったんです。それで人の手が入る。すると温度や湿度によって出来にばらつきが出てしまう。今は過去の膨大なデータと照らし合わせて調整できますが、品質の安定は当時の社員がもっとも苦労した点だそうです。製造するのも販売するのもみな香川の人間で、本当に美味しいうどんの味を知っているからこそですね。

社員自らマネキンとしてスーパーに立った時代も

 
――今でこそ大変画期的な商品だと思いますが、振り返ってみると決して“華麗なる誕生”というわけではなかったのですね。
 
高橋:そもそも「冷凍したうどん」という概念が受け入れられにくかったのでしょう。お客さまは日常的にうどんを食べている方々で、製麺所の高いクオリティに慣れている。食べてもらえれば美味しさが分かるとアピールしても、「冷凍したうどんなんて」と言われてしまう。さらに県外に関していえば、そのころはまだ讃岐うどんのブランド力も低く、アプローチが難しかったというか。
 
根岸:当時は社員がスーパーで試食販売を行う「マネキン」をやったり、屋台型のリヤカーを引いて回ったり、また、生協ルートで“お試し”という形を利用したり、あらゆる手を尽くしたそうです。それと同時に、急速凍結まですべて自動化しないとだめだ、と製造規模も拡大することに。
 
発売当時の値段は一食当たり現在の3~4倍もしたらしいですが、設備の導入と見直しの度にコストダウンすることで徐々に販売価格もリーズナブルに。そういう努力が実り、発売から10年後には全国でお取り扱いいただけるようになったと聞いています。その後の讃岐うどんブームも、弊社の冷凍うどんを広く知っていただくきっかけの一つになりました。

冷凍うどん戦国時代をナニで勝ち残る?

 
――現在、少し規模の大きいスーパーへ行くと、御社はもちろん、複数他社のものやPB商品を含めさまざまな種類の冷凍うどんが販売されています。他社商品との違いはどこにあるのでしょう。
 
根岸:一つはコシの強さを作る上で弊社にしかできない配合技術があります。もう一つは製造ラインの技術です。冷凍うどんに限りませんが、弊社は昔から「人間がやってることを機械で再現する」というアプローチが大好きで(笑)、職人が打つのと同じになるよう研究を重ねています
 
正直、もっと楽に作ろうと思えばできるかもしれませんが、「再現する」ということにこだわる。当時の技術部門の社員たちもおそらくそういう熱い思いを持っていたんだと思います。
 
高橋:量産と品質のバランスも不可欠です。量産に適した製造方法を前提に、どうすれば手打ちの工程により近づけたラインにできるかを常日頃考えています。新型のラインを導入する際は改良を加えて品質の改善に努める、そういう新しいことにトライする企業姿勢なんです。

現在は自動化され、安定した量産体制に。

 
――家庭向け冷凍うどんだけでもPB品含め約100商品を発売しているということですが、製法の使い分けについて教えていただけますか。
 
高橋:麺の製法をカット方法で大別すると、「スリッター方式」と「包丁切り方式」の2つがあります。カット方法が違うとうどんの角の形が変わり、食感に違いが出てきます。「スリッター方式」は、麺の幅に合わせたクシのような刃に生地を通す切り方です。
 
刃が固定されているので、安定した太さのうどんを大量に作るのに適しています。「包丁切り方式」は、職人と同じように包丁で1本1本切っていくもので、茹で上げた後の麺の断面は少し凹み、角が立つためつゆののりが良くなり、またコシのあるのど越しの良いうどんになります。
 
茹で方で大別すると「個食茹で方式」と「大釜茹で方式」があり、「個食茹で方式」が1食ずつ個別に茹でるのに対し、「大釜茹で方式」では製麺所のように巨大釜で茹でます。
 
根岸:当社売れ筋商品の1つでもある「丹念仕込み 本場さぬきうどん3食」は、「綾・熟成法」という製法を採用しています。この製法の特徴は、しっかり捏ねた生地をじっくり熟成し、一方向だけではなく縦、横と綾織りのように折り重ねることで本場讃岐うどんのような強いコシと滑らかさ、もちもち感を生みます。この製法を唯一実現できる香川県綾歌郡にある綾上工場の「綾」も掛け、私が命名しました。
 
――御社で“いいうどん”とされるのは具体的にどういう状態を指すのでしょう。
 
高橋:まず透明感ですね。生地の熟成が甘いとろうそくのような質感になりますが、きっちり熟成されていると透明感やツヤが出るんです。また、社内で独自に設けている評価項目として、食感でいうと粘りと弾力からなる「コシ」、「風味」、「つるみ」などがあります。
 
――「つるみ」というのは、一般的にはあまり使われない言葉だと思いますが。
 
高橋:そうかもしれませんね。弊社ではつるっとしたのど越しの良さを意味しています。つるみのない麺の表面はガサガサと肌荒れしていて、のど越しも悪いんです。

担当者はどんなアレンジで食べてるの?

 
――話は変わりますが、御社の冷凍うどんを使ったさまざまなアレンジレシピ本『テーブルマークの冷凍うどんで毎日食べたいレシピ』(主婦の友社)も出版されていますね。イタリアン風だったり中華風だったり、どれも簡単で美味しそうです。そこで今回は、冷凍うどんのプロであるお二人に一番好きな冷凍うどんレシピをお伺いしたいのですが。
 
根岸:我が家では家庭菜園で採れたオクラを刻み、納豆やマグロと一緒にうどんに乗せて食べています。
 
高橋:私は釜玉風にして食べる率が高いですね。レンジ調理で簡単にできるので。ちなみに、弊社ホームページでアレンジレシピを公開しているのですが、年間の閲覧トップはレシピ本にも掲載されている「明太バターうどん」です。
 
――冷凍うどん×明太子は私も大好きな組み合わせです。実は私、夏はこれを冷やしで食べています。
 
高橋:冷やし、ですか?
 
――はい。市販のパスタ用の明太子ソースを冷蔵庫で冷やしておいて、氷水で締めたうどんと混ぜるだけですが。
 
高橋:それはいいですね~! クリーム系やめんつゆ系などアレンジも効きそうです。
 
――最後になりますが、9月からは「国産小麦 減塩うどん3食」が発売されますね。やはり、昨今の減塩ニーズを受けての取り組みなのでしょうか。
 
高橋:冷凍食品業界全体として、健康を意識したものを作っていこうという空気があるのは間違いありません。本来、うどんに塩を入れるのは粘りを出して生地に伸展性を持たせるためですが、塩を減らすと生地が切れやすく、上下運動のラインには向きません。
 
そこで、塩を減らす分、副原料で粘りを調整したり、適したラインで製造したり、味を損なうことなく減塩することに成功しました。社外からも高い評価を受けている自信作なので、みなさまにお召し上がりいただけると幸いです。