お初にお目にかかります。ゆうぞうといいます。 普段は学校で英語を教えながら、楽器の演奏をしたり、文章を書いたりしています。
・個人ブログ「言語とその他たち」 https://yuzo.hatenablog.com/
・作った曲 https://music.apple.com/jp/artist/four-meals-a-day/1436925512
・書いた文章 https://yuzo.hatenablog.com/entry/2021/02/24/114055
こんな仕事の回し方をするようになったのにもいろいろ経緯があるんですが、まあそれはおいおい。
さて、今回からここニアセにてちょっとした「心理」に関する文章を書かせてもらいます。「明日から使える!」とは言いませんが、いざという時「ああ、そういえばこんなのもあったな……」と思い出せるような、そんな遅効性の知見を共有できたらと思います。
簡単にわたしの経歴を。 わたしは大学で英語・韓国語などの外国語学を専攻したのち、大学院で教育心理学や英語教育学に関する研究をしていました。そしてその後、学校での仕事を始めたのですが、いちど精神的にダウンしました。それからいわゆる「メンタル」についても学び始め、なんとか復活し今に至ります。
そんな理論と実践(……。)をそこそこ経てきたわたしが、そのいろいろをごちゃまぜにして、可食部だけをみなさんに倶する…… というのがこの文章の趣旨です。 インターネットは義務教育ではありません、美味しそうなところだけつまみ食いしてもらえれば幸いです。
またせっかくなので、心理系の学問に興味をもった中高生のみなさんの最初の一歩となるような内容にもなればと思います(仕事柄どうしても、わかりやすくおもしろい説明をしようとすると、彼らの顔が頭に浮かぶのです)。
初回は、メンタルを壊すパチンコ台のお話。
「メンタルを壊す」とは
何をもってして「メンタルが壊れた」状態と言うのかは解釈が分かれますが、とりあえず本稿では「精神に不具合が発生し、日常生活に支障をきたしている状態」とでもしておきましょう。この「日常生活に支障をきたしている」というのがミソです。
みなさんの周囲で(もしくはみなさん自身に)こういう事案が発生し、メンタルに不調を示しているしている方はおられないでしょうか。
・いつも同じような男性(女性)に引っかかる
・当初は仲の良かった友人が徐々に離れていく
・どの職場やコミュニティも肌に合わず、次々と転職する
聞き覚えのある例ですね。
もちろん、森羅万象・有象無象が複雑怪奇に群雄割拠する現代社会、一概に誰が悪くて誰が悪くないなどは、決して簡単には口にできません(そういう言い方をしている人は、知性が活発でないと判断してかまいません)。
しかし、そんな現代社会において、少しでもリスク・ヘッジというものを念頭に置くならば、まずは改善の余地がまだある部分…… 「自身」に関しての省察を行うのが吉かと思います。
こと人間関係において、同じような事象を繰り返す場合は要注意です。
例えば、以下のような場合です。
・最初は優しかった彼が徐々に精神を病んでいく
・自分で友人を飲みに誘うことはあれど、友人からのお誘いはほとんどない
・職場でいつも息が詰まるほどああだこうだ言われる
こんなとき、夜中のツイッターにおぞましい言説を書き殴りたくなる気持ちもわかりますが、グッと堪えて、自身を覗き込みましょう。痛いところに手を突っ込まないと、痛いところは治らないのです。
グッと堪えて痛いとこに手を突っ込む覚悟ができた方は、続きを読んでください。そうではない方はソッ閉じしてください。準備はいいですか?
あなたは、相手のメンタルを壊す「パチンコ台」になっていないだろうか?
つまり、あなた自身が他人の精神状態を悪い意味で左右していないだろうか?
学習における「強化」のおはなし
ここから今回のトピックを「学習」と言う観点から少し考えてみます。
心理学において「学習」とは「経験による比較的永続的な行動の変容」と定義されます。学問というのはつくづく便利ですね、いきなりグッと本題に入ることができます。 「経験によって行動が変わる」、当たり前と言えば当たり前ですね。
そんな学習の文脈において「強化」という言葉が使われます。 「強化」とは、「行動に結果が伴うことにより、その行動の強度や頻度が変化する」ことを指します。なんだかややこしいですが、例えば「宿題をすれば、おこづかいがもらえる」場合、その「おこづかい」は「正の強化」の役目を果たしたと言えます。わたし個人としては、教育的な観点からあまり採用したくないストラテジーではありますが…… 。
スキナー(1957)は、ネズミを用いて次のような実験を行いました。
「レバーを押すと、エサが出る」といった基本条件のもと、レバーを押す回数や間隔に応じてエサが出てきたり出てこなかったりという機械を用い、ネズミの行動を観察しました。 この「出てきたり出てこなかったり」というのがミソです(ミソばっかり) 。 その回数や間隔は、以下の4つ。
①固定比率強化……レバーを10回押せば、1回エサが出てくる
②変動比率強化……「平均して」レバーを10回押せば、1回エサが出てくる
③固定間隔強化……1分ごとにレバーを押せば、1回エサが出てくる
④変動間隔強化……「平均して」1分ごとにレバーを押せば、1回エサが出てくる
上の①③の条件では「①10回押す」または「③1分ごとの区切りのタイミングにレバーを押す」この行動でネズミはエサを確実に手に入れることができます。
対して②の条件では、5回押してエサが出るときもあれば、20回押しても出ないときもある。④の条件では、30秒で出る時もあれば、2分間ずっと出ないときもある。
この実験により、ネズミがいったい何を学習し、そして行動にどのような変化が出るのか。それを観察すると、こんなことが分かりました。
①③の条件でトレーニングされたネズミは、エサをもらう度に「休憩」をとりました。そりゃそうですね。何回かレバーを押せば、もしくは何秒か待ってから押せば、確実にエサがもらえる。そう学習したから、それ以外の時間はあくせく動く必要はありませんものね。
しかし②④の条件においては、いつエサが出てくるかわからないものだから、ネズミは休むことなくレバーを押し続けました。恐ろしいですね。
「依存」とパチンコ台
ここから少し話を大きくします。
②④の結果は、わたしたちが「依存」について考えるとき参考になります。とりわけ「②変動比率強化」は、よくパチンコ台に例えられます。
「3日前は大当たりしたのに、おとといは当たらなかった。昨日も当たらない。今日は…おお、キタキタ!これだからパチンコはたまらねえ。」
人間が何かに「ハマって」日常生活に支障をきたしている場合、そこにはある種のパチンコ台が発生しているのです。
例えば、もしパートナーの行動に同様の傾向が見られたら、どうなるでしょうか。
「3日前は連絡をくれたのに、おとといは未読無視。昨日は既読無視。今日は……あ、返事がきた!うれしいな、やっぱりアタシはタケシ(仮名)のことが大好き!」
実験の解釈としては少し冗長ですが、こうやって休みなく「レバーを押し続ける」ことで、人は精神に不調をきたしていくのかなと思います。言い換えると、レバーを押し続けさせることで、タケシくん(仮名)はパートナーのメンタルを壊しているのです。
わたしの実体験から考える
恥ずかしながら、わたしにも身に覚えがあります。
10代後半のころのわたしは、今よりもずっと機嫌に波がありました。今思えば、そのせいで周囲の人間にいらぬ気を使わせてたのではないかと思います。とりわけ近しい人は、わたしがいつ怒るか、どうすれば機嫌がよくなるかを一層思案してくれていたのではないのかと。
つまり、わたしは他人に「レバー」を押し続けさせて、精神的に苦痛を与えていたのではないかと今では猛省しています。
しかし恐ろしいことに、当時の感覚では「なぜ周囲の人間はビクビクして精神的に安定していないのか」と、けっこう本気で疑問に思っていましたからね。いや、お前やろと。無知というのは本当に罪ですね。
また、友人関係においても似たような話があります。
よくわからないタイミングで不機嫌になったり、自分の話になると途端に饒舌になる人間、どこにでもいますよね。「メンタル」の勉強をする前はそれでも「まあ友人だしな……」と思ってそれとなく付き合っていたフシがわたしにもありました。でも最近は「貴重な人生の時間を無理にその人と過ごさなくてもいいよな……」と思うようになりました。わざわざ自分の時間を割いてレバーを押し続ける必要ある?と。
齢28でわたしはようやくそのことに気づきましたが、早熟な方はもっと前からそれに気づき、いろんな人間関係を整頓していたのではないかと想像すると、なかなか言葉に詰まります。
仕事においても、自分でコントロールできること・できないことをもっと上手に分別していれば、他人にレバーを押し続けさせて疲弊させたり、はたまた自分でレバーを押し続けて精神的にダウンすることも避けられたのかな、と思います(そんなに簡単な話ではないですが…… )。
わたしも他人にレバーを押させていたり、はたまた別の場面ではレバーを押す側に回っていたのだ、ということです。
まとめ
なんだか、思う存分話がとっちらかってしまいました……まとめます。
あなたの(意識的・無意識的な)変動が他人を生きづらくすることもあれば、あなた自身が他人の変動に生きづらくさせられることもあります。意識的ならそれはやめた方がいいですし、無意識的ならもっとダメです、気づきましょう。
大切な相手のメンタルを壊すパチンコ台になる前に、休みなくレバーを押し続けるネズミのことを考えてみてはいかがでしょうか。なによりも、自分がレバーを押し続ける側にならないように。
参考文献:心理学概論[第2版] ナカニシヤ出版
協力:野口直樹、松尾奈奈