現在、注目を浴びている異色のファッションデザイナー「鶴田能史」。
昨今のファッション業界の低迷のニュースが叫ばれる中、新しいファッション業界に風穴を開けてくれるのではと期待される、病気とファッションとの結びつける新進気鋭のファッションデザイナーにお話を伺ってきました。
祖母の病気から今の「tenbo」が始まった
-ファッションデザイナーとして独立したきっかけとtenboを立ち上げた理由について教えてください。
鶴田氏-私がファッションデザイナーになろうと思ったきっかけというよりも、何でtenboをやろうと思ったかを話した方がいいと思うので、このブランドについての創業ストーリーをお伝えしますね。
私はもともと文化服装学院出身で、将来必ず、独立してブランドを持つと決めていました。つまり、ファッションデザイナーになるために進学したので、今に至ったのもその流れからなんですね。
大学を卒業してからは、しばらく現場でスキルを磨こうとコシノヒロコやしまむら、西松屋の子供服のデザイナーの仕事を行っていました。
-最初は、企業のインハウスデザイナーだったんですね。tenboの構想はいつ頃からされていたのですか?
鶴田氏-実は、私の祖母の介護からヒントを得たんです。当時、私が働いている時に祖母がアルツハイマー病になり、車いす生活をする日々を過ごす中で、あることに気付いたのです。
それは、車いすに座りながら、スカートを履かせたり衣類の着脱が非常に不便に感じたことです。福祉の分野では、車いす専用のトイレや出入り口など、建築についてはユニバーサルデザインが進んでいるのに、ファッション業界は全然進歩がないことに気付いたわけです。
-なるほど、そのような原体験があったわけですね。それでご自身でやろうと思ったんですね。
鶴田氏-はい。こうした障害者も問題なく、おしゃれができるそういったファッションブランドを作ろうと思いました。まだ誰も挑戦していない、新しい市場ですので、唯一無二の存在になりたいと思い、決心しました。
しかし、障害者と向き合うことは必ず人権問題の壁も立ちはだかると思っていましたので、社会問題の解決にもつながるのではとやりがいを感じましたね。
-本当に素晴らしい取り組みですよね。実際にtenboが産声を上げたのはいつですか?
鶴田氏-2015年に立ち上げたので、大体1年半くらいですかね。社会問題を解決するというビジョンを持った以上、しっかりと自分のこと、ブランドのことを伝えることが非常に大事だと思いましたので、ブランドを立ち上げる前の4年間、専門学校で先生の仕事をしました。
学生にたいして、しっかりと物事を伝えることができないと、絶対ブランドを立ち上げても失敗すると思ったので。また、ここでの経験は、ブランドの展開以外に、次世代のファッションデザイナーを目指す卵を育てる服作りを教える塾をやっているのも、この頃の経験が生かされていると思います。
なぜ、ハンセン病をテーマに掲げたブランドの展開をしたのか
-次にお聞きしたいのですが、なぜハンセン病についてのファッション掲げたのですか?
鶴田氏-ハンセン病は、人権問題がいまも残る病気の代表例となっており、tenboの掲げる「世の中全ての人へ。みんなが分け隔てなくオシャレを楽しめる服。」のミッションを遂行するために、避けてはならないことだったからです。
つまり、人権問題を乗り越えてこそ、健常者と障害者どちらでも分け隔てなくおしゃれを楽しめる、そういった世の中にしたいと考えています。
間違えてほしくないのは、ハンセン病や障害者のためのファッションは作っていません。障害者も健常者も、ピープルデザインに沿った着やすい服を心がけデザインをしています。
例えば、通常のボタンではなく、磁石でくっつくタイプのボタンであれば、問題なく取り外しができますよね。また、点字をファッションに取り入れることで、おしゃれに見せたりと、従来にはないデザインをtenboの服には採用しています。
-すごい斬新ですね。つまり、私たちもtenboのファッションを着れると。
鶴田氏-はい。障害者、健常者の壁は作りたくありませんですし、従来のファッションでは正直、健常者向けのデザインしかされていないと感じたので、私がtenboで、ファッションのユニバーサルデザインという新しい市場でチャレンジしている感じですね。機能性重視で許容範囲のある服を目指しています。
-なるほど。現在tenboはどこで手に入るのですか。
鶴田氏-現在は、オンラインショップだと無料のECプラットフォームのbase、リアルショップだと、原宿ラフォーレ内にあるHOYAJUKUで買うことができます。また、障害者のご家族より直接、おしゃれな服を着せたいという要望をいただいて、オーダーメイドで服の注文を受注する場合もあります。
-すごいですね。ファッションショーも行っていますよね。
鶴田氏-はい。ハンセン病をテーマに、差別偏見をなくしたい、という思いを込めたファッションショーやtenboプロデュースのショーとして以来いただくこともあります。中でも、今年のamazonファッションウィーク(東京コレクション)では、クラウドファンディングを活用し、ショーにかかる費用300万ほど調達することができ、初の東京コレクションデビューを果たすことができました。
-えー!すごいですね。東コレですか!
鶴田氏-はい。これもひとえに応援してくださる皆様のおかげですし、改めてtenboとして服のユニバーサルデザイン、ファッション業界に風穴をあけるということに、やりがいや責任を感じるようになりましたね!
tenboの今後の展望について
-では最後に今後のtenboの展望について教えてください。
鶴田氏-はい。今のファストファッションが台頭し、おしゃれな服を安く買うことが当たり前の時代になりました。しかし、その大量生産の功罪が人々のおしゃれの概念を変えてしまい、いうなれば飲食の使い捨てのような状況になってしまったのです。昔は人のためになる服を製作していましたが、利益優先でいかに効率化、合理的にしていくかということにフォーカスされてしまい、ファッション業界はガラパゴス化しています。
実は、tenboのブランドを初めたことで気づいたことが2点あります。
まず1点目は、購入してくれるお客様に非常に喜んで頂いていることです。今まで健常者も障害者も、隔てなくおしゃれができるファッションがなかったので、tenboのコンセプトやデザインに感動し、涙を流すほど喜んで下さすお客様もいらっしゃいました。この体験は、自分のこれからのtenboのやる意義やモチベーションにもつながっています。
2点目は、海外から感銘の声や問い合わせをいただくのですが、tenboと同じようなコンセプトで運営しているブランドはNYに一つあるだけで、世界中を見渡しても、2つしかファッションのユニバーサルデザインに取り組むところがないのは驚きました。非常にニッチな世界ではあるとは思いますが、この分野では先駆者、唯一無二の存在になれるよう精進していきたいと思います。
編集後記
今回のインタビューを通し、あらためて市場のニッチを狙うこと、さらに社会問題までも解決するというこれからの企業のあり方を見たような取り組みを伺うことができ、とても刺激を受けました。tenboの取り組みがより評価され、世の中に人権問題がなくなるようになったらと思わせてくれる、そんな可能性を秘めた素晴らしい事業だと感銘しました。
また、NHK WORLDにて世界170カ国へ英語でtenboの取り組みやハンセン病をテーマにしたファッションショーの特集が組まれたとのことで、ワールドワイドな活躍が期待できるtenboにますます目が離せませんね。
テンボデザイン事務所