肉、トマト、オニオン、チーズ、肉。
バンズのかわりにビーフパティでサンドした、肉バーガー「ワイルドアウト」をご存知だろうか?美味しそう×写真映え×ネタになるの三拍子が揃っていて、見るからにバズりそうだな!というのが、初見の素直な感想だ。
これは相当戦略を練って商品開発したに違いないと確信し、人気ハンバーガー店「シェイクツリー」に商品の開発秘話を伺ってきた。
行列のできるハンバーガー店「シェイクツリー」
2011年にオープンした「シェイクツリー」は、JR総武線錦糸町駅、地下鉄両国駅からそれぞれ徒歩10分のところにある。
多くのハンバーガーチェーンが駅近に店を構えるなか、シェイクツリーは、やや不便な立地に店を構えている。それにもかかわらず、連日盛況。週末には行列もできる。
店名の「シェイクツリー」は、「shake a person’s tree(人を喜ばせる)」から名付けられた。
ドアノブはデカいハンバーガー。こういった演出も、テンションを上げてくれる重要な要素だ。
肉バーガー「ワイルドアウト」だけでない破壊力抜群の商品ラインナップ
インタビューの前にまずはシェイクツリーの人気メニューを見てみよう。
ベーコンチーズバーガー 1,300円
フレッシュなトマトとレタスに肉厚ビーフパティ、BBQソースとチーズが絡み合う。付け合わせにまるごと一本のピクルスと熱々のフライドポテトがついてくる。
パカッ。
脳みそからよだれがでてくるような強烈なビジュアルだ。たまらず口にすると脳内にUSAコールが響きわたる。USA!♪USA!♪
ザッツブロッコリー 600円
ド直球。その名の通り、まるごと一本のブロッコリーだ。
普段見るブロッコリーのサイズ感とはまるで違うため、余計に大きく感じる。
ただ、これでもやや小ぶりなんだそう。
ナイフで切って食べる。
このほか、ザッツシリーズとしてはトマトとセロリがある。
ワイルドアウト 1,450円
通称「肉バーガー」。
シェイクツリーを代表する人気メニューだ。
手に持つとずっしりと重く、そして熱い。
ゴロゴロと歯ごたえのある肉塊の食感も最高だ。
食べた瞬間に肉汁が溢れだし、快楽の味に溺れる。
HIP HOPからハンバーガー屋へ転身!29歳で「シェイクツリー」をオープン
お話を伺ったシェイクツリー・オーナーの木村雄太さん。落ち着いた口調で飾らずありのままを語っていただいた。
ー 昔からハンバーガー店を開きたいと考えていたのですか
木村オーナー:いえ、まったく。中学からずっとHIP HOPをやってまして、絶対に音楽で有名になれると思い込んでました。今思うとバカなんですけど。それ以外はまったくやりたいことがなかったので、フリーターしながら音楽活動をやってました。アルバイトはアメリカンレストラン「TGIフライデーズ」で肉を焼くブロイルというポジションでした。
最初は音楽活動のための食いつなぎだったんですけど、社員さんとささいなことで揉めたときに、帰りの電車でもずっとイライラが収まらなかったんです。
冷静になってから「食いつなぎのバイトで、何イラついているんだろう」と。これだけ熱くなれるって、もしかしたら自分はこの職業好きなのかもなって思うようになったんです。
ー イラつくのは本気になっている証拠だと
木村オーナー:それをきっかけに、もうちょっと真面目にというか、本気でこの仕事を掘っていきたいと考えはじめました。HIP HOPもそうですが、スケボーやアメリカンカルチャーが好きだったので連想ゲームのようにハンバーガーに辿り着きました。
ハンバーガー専門店を探したところ、都内に5件ほど有名店がありまして。その中から実家から通いやすい人形町の「ブラザーズ」に、とりあえず食べに行ったんです。
ー ブラザーズは人気ハンバーガー店ですね
木村オーナー:ちょうど目の前でオーナーさんが焼いていて、いろんなことを話せたのは大きかったですね。特に印象に残ったのはブラザーズ創業の話。オーナーは25歳のときにブラザーズを作ったんです。その時、自分は23歳。「自分もやってやるぜ!」とやる気が湧きました。その場でオーナーに働きたいと切りだしたら「じゃあとりあえず、試しにやってみよう。いやならすぐに辞めていいから」と言われ、すぐに入社して5年働きました。
ちょうどオーナーが現場から経営に専念するという時期だったこともあり、厨房からキッチン設計、店舗のオペレーション管理、店舗設計など幅広く担当させていただきました。最終的にエリアマネージャーまで経験させていただき、2011年、29歳のときに独立。「シェイクツリー」をオープンしました。
70%の力でハンバーガーをつくる。余力はコミュニケーションに回す
ー この立地を選んだ理由はありますか?駅から10分ぐらいかかりますよね
木村オーナー:人形町のブラザーズってわかりづらいところにあるにもかかわらず、いつも満員で行列ができてたんです。目的来店のお客さまが多いんです。なんとなくお店に立ちよるのではなくて、その店で食べたいと思ってわざわざ足を運んでくれるんです。
「この店で食べたいんだ!」っていう気持ちにさせる店ってカッコいいし、自分の店もそうなりたいと思ってましたね。よい接客と美味しいメニューを提供していれば実現できると思い込んでたんです。
ー 目的来店してもらうためにどのようなことを考えましたか
木村オーナー:オープンの1年間はメニュー数を少なくして60~70%ぐらいの力でできるようにしました。残りの力はすべてお客さまの対応に回したんです。お客さま一人ひとりとのコミュニケーションに重点を置いたんです。
商品、人、空間をどう提供するかを考えた時に、商品だけが目立ちすぎたら商業施設に入っているチェーン店と変わらない。それよりも身の丈にあった商品を提供して、余力を残して、料理を運ぶ際になにか一言声をかける。アナログな商売を心掛けました。
▲オープン前の準備中。昨夜来店したお客さんについての情報共有がおこなわれていた
ー オープンしたときに広告は出しましたか
木村オーナー:最低限ということでホームページは作りましたが、広告は一切出しませんでした。それよりとにかくコミュニケーション。来ていただいたお客さまのお名前を覚えたり、人によってはアダ名をつけて軽口を叩いたり、そういうことを続けていました。
もちろんお客さまによって対応は柔軟に変えます。あまり話しかけて欲しくなさそうであれば、ムリに話しかけはしません。ただ、そういうお客さまで何回もお越しなら「きっと僕たちのことが嫌いではないはずだ」と判断して、「わたし木村と言います。いつもありがとうございます」と自己紹介ぐらいはしてもいいんじゃないかと。
最初の1年間はそれを徹底しました。2年目から商品を増やし、現在のラインナップになりました。台風のときでも地震のときでも、お客さまが1人も来ないという日はありませんでしたね。
ハンバーガーという枠組みのなかで戦う。ステーキ屋をライバルにしない
ー ワイルドアウトはどういう経緯で開発されたんですか
木村オーナー:ワイルドアウトはお客様とのやりとりがきっかけで生まれたんですよ。「アペタイザー(前菜)食べて、お酒飲んだら、お腹いっぱいでハンバーガー食べれないよ」ってお客さまから言われたんです。どう解決するか考えたところ「それならバンズ抜いて、肉だけのバーガーなら軽くて食べられるじゃん!」って思ったんです。
僕が考えるハンバーガーって肉がメインなんですよ。肉が主役。「ならば肉だけのハンバーガーにしちゃえばいいじゃん!」と考えたのも、ちょっと極端すぎたかもしれませんが自然な流れなんですよ。
アメリカに長期滞在していたときの体験もありますね。アメリカ人はハンバーガー屋で「肉だけくれ!」とか逆に「肉はいらない!」とか、ワガママな注文するんですよ。日本人は出されたものを素直に受けいれるけど、アメリカ人は自分の要望を主張するんです。これを見て「自分基準のハンバーガーっていいなあ」と思いました。
ー 自分基準のハンバーガーですか
木村オーナー:マクドナルドのイメージが強いので、ハンバーガーと聞くと決まった型を想像します。だけど本当は、ハンバーガーはもっと自由で「どんな珍しい型でも自分でハンバーガーだよって言っちゃえば、それはもうハンバーガーなんじゃないか!?」と思っています。
ー 主役が肉なら、肉だけで出すことはしないんですか?
木村オーナー:肉だけを出すとライバルがステーキになってしまいます。お客さんの頭の中で、肉の旨さをステーキ屋さんと比べてしまうんです。「1,000円台のハンバーガーという枠組み」のなかでは、かなり旨い肉だって自信があるんですけど、肉だけに原価をかけられるステーキ屋さんと勝負すれば負けてしまいます。あくまでハンバーガーという枠組みにこだわるのが重要なんです。
変わり種メニューはあくまで入り口。そこから先はコミュニケーション
▲ワイルドアウトをはじめ、シェイクツリーのハンバーガーはインスタグラムに多数投稿されている
ー ワイルドアウトはメディアで度々取り上げられていますが、なにか変化はありましたか
木村オーナー:シェイクツリーという屋号が広がったことで、出店依頼などのオファーをいただけるようになったのは確かです。ただ、お客さんとのコミュニケーションが一番というスタンスは変わりません。
ワイルドアウト目当てのお客さまも大事なお客さまですが、最終的に商品、人、空間をトータルで楽しんでリピートいただける方しか定着したお客さまにならないので。ワイルドアウトが入り口だとしても、そこから先はコミュニケーションです。
ー ワイルドアウトはメディア戦略やPRを意識して、開発したんですか
木村オーナー:いえ、ぜんぜん。「取材依頼が来ればそれでいいですが、来なくても問題ない」という意識です。少ないメニューとコミュニケーションで最初の1年間をやってきた自信がありましたから。
ただ、そのうち取材は来るだろうなと思ってました。名も知れぬ誰かがはじめたことでも、面白ければSNSなどで一気に広がる時代です。いい商品やいい空間を提供できていれば、いずれ口コミで広がるし、大手メディアも取り上げるだろうと考えていました。
差し入れが一番評価できる財産
ー お客さんとのコミュニケーションは、はじめから得意でしたか
木村オーナー:人と話すのが好きというより「人の考えが自分を成長させてくれる」と昔から感じていました。僕がお店を始めたときはまだ29歳のヒヨッコ。お客さまは、自分たちよりも長く社会で活躍されている方々です。そういう方々とお話ししていると「自分も変えなきゃいけないところがあるな」と感じます。ちょっと苦言を呈されたときも「かわいがってくれてる証拠だなあ」と勝手に勘違いしています(笑)
「肉が焦げてる」「パンが冷たい」とクレームが入る時もあります。自分はそういうときに「ベストな対応は何かを考えるチャンス」と捉えています。実際、クレームを言ってくれる方は、そのあとファンになってくれやすいんです。
ー ファン。お客さんとの距離が近いからこその言葉ですね。
木村オーナー:創業当時からずっと続いてることですが、お客さまが従業員のために差し入れをくれるんです。マクドナルドをもらったこともありますよ(笑)お客さまの差し入れこそが一番評価できる財産だと思ってるんです。
売り上げはやり方次第で調整できますけど、差し入れみたいなお客さまの自発的な行動はコントロールできません。僕らのことを思って栄養ドリンクやマクドナルドをもって来てくださることがすごく嬉しいんです。それさえがあれば、一時的に売り上げがさがっても問題ないと思ってます。逆に、いくら売り上げがあがっても差し入れがゼロになるならヤバいですね。
ー 差し入れが評価基準。ここから店舗数を増やすと、お客さんとの距離感を保つのも難しくなりますよね
木村オーナー:1店舗目としてこの方法論は間違えてなかったと思います。ただ拡大させていくなら、今までと違った方法論が必要かもしれません。今日の時点では繁盛店のオーナーかもしれませんけど、3年後はわかりませんよ。言ってることも全然違うかもしれませんし、「取材受けなきゃよかった」と恥ずかしくなってるかもしれません(笑)このインタビュー、お客さんに「なにカッコつけてんだよ」って絶対イジられますね。
編集後記
SNS拡散を狙った商品開発かと思いきや、お客さんとのコミュニケーションをとことん大事にする姿勢がそこにあった。話題の肉バーガーもお客さんとのやりとりのなかで生まれたものなのだ。シェイクツリー、わたしもあだ名で呼ばれるまで通いつづけたい。