「落ち込むことはよくある」 とろサーモン久保田かずのぶ流、感情コントロール術

ニューアキンド

『M-1グランプリ2017』で優勝したとろサーモン。2002年にコンビを結成し、15年目の2017年(M-1に出場できる最終年)、悲願のチャンピオンになりました。ボケの久保田かずのぶさんは、過去に失言で芸能界をザワつかせたり、SNSで炎上したりすることもしばしば……。最近ではフジテレビ『千鳥のクセがスゴいネタGP』で、歌がうまい少女の加藤礼愛ちゃんの歌に合わせて趣味のラップを被せるという、まさにクセの強いネタを披露しています。おもしろさと一緒についてまわるネガティブなイメージ……そんな久保田さんの本性を探るべく、インタビューを実施。普段考えていることや芸人としてのポリシー、良いメンタルの保ち方、時代を生き抜くためのヒントを伺いました。

【ご本人のプロフィール】
名前:久保田かずのぶ(twitter
年齢:42
肩書:お笑い芸人
趣味:釣り<海釣り・バス釣り>
特技:テニス・ラップ・観葉植物
Instagram
YouTubeチャンネル「もう久保田が言うてるから仕方ないやん〆

誹謗中傷する人はメンタルが傷ついている

―SNS上での誹謗中傷に関するニュースが絶えません。特に著名人だとSNS上でバッシングを受けることもあると思うのですが、久保田さんはどんな対策をしていますか?

久保田:インスタライブをたまにやっているのですが、配信中に誹謗中傷をされたときはそのアカウントとコメントを晒してピン留めしています。あとはYouTubeの企画で実際に誹謗中傷してきた人を呼んでインタビューしたこともあります。

―コメントを晒し続ける……効果がありそうですね。誹謗中傷者に会うと、謝罪されるんですか?

久保田:人によりますね。メンタルが傷ついている奴がいたり、小学生のときに女の子複数人にいじめられた経験をしている奴がいたり。一度、番組の企画でも誹謗中傷者に会ってその人のSNSを見せてもらったんですが、女性芸人にひどいリプライばかり送っていました。

なぜそんなことをするのか聞いたら、小学生のときに好きだった女の子に告白したら、その子の周りに他にも女の子が複数いて、めちゃくちゃいじめられて馬鹿にされた経験のある人でした。誹謗中傷をしてくる人はそういう傷を抱えている人が多いんだなあと思いましたね。過去に受けたいじめを今も引きずっていて、被害者意識を持ったままなんですよ。だから面と向かって謝ってもきません。

―傷が癒えていない人が匿名性を利用して誹謗中傷してくるんですね。SNSではなく知人で苦手な人にはどう対応していますか?

久保田:苦手な人とは関係を持ちませんね。M-1で優勝してからもそうですけど、俺に手のひら返してくる人がいないんですよ。昔から好き嫌いがはっきりしているし、嫌なときは顔に出るし、嫌な仕事は断るし、苦手な人とは関係を持ちません。

言いたい放題の裏で、寝る前に必ず行う“感謝”

―嫌な仕事は断り、苦手な人とは関わらない。ではNGにしている仕事はあるんですか?

久保田:ありますよ。テレビ以外にも山ほどチャネルがあるのに、テレビ至上主義みたいな考え方を押し付けられると嫌なんです。だったら劇場に足を運べやと思ったりします。

―「劇場に足を運べや」と思う理由は何でしょうか?

俺はテレビが好きですけれども、局によっては若手が出るようなネタ番組で「ネタ見せしてください」とか言ってくる。「俺らM-1チャンピオンですよ? 何様なんだよ」って。「お前が劇場に観に来いよ」と思ってます。

―他にはどんな仕事を断るんですか?

久保田:大食い系や激辛系、あとはバンジージャンプとか高い所に登るとか、体を張る系は断っています。大食いなんて大の大人がみっともないでしょう。

俺のおばあちゃんが「高い所に登るやつと辛いものが好きなやつは馬鹿が多い」って言ってましたね(笑)。それに、こういう体を張る企画っておもしろいと思わないんです。今や、素人でもSNSで体を張っている動画を腐るほどアップしているじゃないですか。それと同じことを芸人がやってなんでおもしろいと思うのか理解できないです。バンジージャンプにいたっては、飛んでもおもしろくない、飛ばなかったら炎上するし……どういうことやねんと。

―NG仕事の考え方に通ずるかもしれませんが、芸人としてのポリシーがあったら教えてください。

久保田:おもしろいことをやるというのも大事ですが、感情を正直に出していこうと思っています。誰しも「こいつとは感覚が合わへんな」と思う奴がいますよね。

自分で調べたんですけど、“感”って感情の感、感動の感、つまり感情が揺さぶられて感動するわけです。たとえば、何かを見ていて、目の前の人と同じタイミングで自分が泣いたら、その人とは感覚が合う、と感じませんか? 泣くときに必要なものって感情や感動で、そこが人間のおもしろい部分だと思うので、無機質にならないようにしています。

ムカついたときは怒るし、楽しかったら笑います。そういう自分と合うと思ってくれる人がファンなんです。これからも喜怒哀楽を激しく主張していこうと思っています。

―自分が思ったことを主張しにくい世の中だからこそ、ときに憂鬱を吹き飛ばしてくれる代弁者でもあり、一方で“感覚が合わない”人にとっては批判対象になる。簡単に真似できる生き方ではなさそうですが、久保田さんは落ち込むことはありますか?

久保田:落ち込むことはありますよ。そのへんは皆さんが思っている以上にめちゃくちゃ繊細なので。さりげないひとことで落ち込むこともよくあります。「なんであいつはあんなこと言ったんだろう」と思うと、眠れなくなることだってありますから。日々のいら立ちや辛さ、悩みは全部舞台やテレビにネタとしてぶち込みます。そこで発散して気持ちを発散しているかもしれません。

―落ち込んだときの対処法は舞台やテレビで発散させる以外に何かやっていますか?

久保田:ベッドの天井に「感謝」と書かれた紙を貼って眺めているんですけど、それをやり始めてからはストレスが溜まりにくくなっているかもしれません。誰が書いた文字かもわからないものをネットで適当に買って、誰に言われて始めたことかも今は思い出せないのですが、いらついていても「感謝」という言葉を見ると心がフラットになります。

1日の終わりに「感謝」を眺めるので、イライラしていることが頭に浮かんでも「こいつにキレてる場合じゃないな。こっちに感謝せなあかんな」と思えます。あと、「こいつが俺にひとこといらんことを言ったけど、別のあの人のおかげで仕事があるな」とか、感情を天秤にかけてバランスが取れるようにしています。

―誰かが書いた「感謝」によって、感情のバランスが保たれていたんですね。SNSなどを見ていると、久保田さんに「炎上」「かわいそう」といったネガティブなイメージを持つ人も一定数いるようですが、ご自身はとても繊細で、日々葛藤していることがわかりました。ではなぜネガティブなイメージがついたと思いますか?

久保田:上京したときだと思います。金持ちとくっつきだしたり、六本木に行って見たこともない酒をバケツに入れられてイッキ飲みしたり、お金がなさすぎて石焼き芋屋で働いたり……当時はこんな生活続けたくないから死にたいって思ったこともありました。

―死にたいと思っていたのは売れていなかったときですか?

久保田:そうです。全く売れていなくて毎日家にいる。金もない。上京したばかりで友だちもいないのでしゃべる相手もいない。人と話さなすぎて、自分の声がどんな声かわからなくなるんです。だから、部屋でひとり「あー」って声の確認をしていました。

―死を選ばずに済んだのはなぜですか?

久保田:言い方は悪いかもしれませんが、死ぬという選択をするのは、簡単に終わること、やめることだというのが、俺の持論なんです。やめずに続けることのほうが難しいわけで、人間はそこを試されています。試されているのは自分だけじゃないから、その傷の浅さや深さをたくさんの人と付き合って、「自分の傷ってこんなものだったのか」と分かっていったほうがいいような気がしたんですよね。

人のことより自分のことに光を当ててほしい

―そうやって売れない時代を乗り越えて今があるんですね。数々の困難を乗り越えてきた久保田さん。現代人の生き方についてどう考えていますか?

久保田:人のことはいいから自分を見て生きてほしいという思いがあります。人と比べている時間、もったいないですよ? 1日24時間あって、たとえば睡眠時間を7時間としましょうか。朝9時から夕方6時まで仕事をして残り8時間です。3時間くらいで職場の往復をしたり、お風呂に入ったり、食事をしたりする。残るはあと5時間。ここで何をするかです。

明日の準備もしないといけない。仕事の宿題もあるはず。それで2時間くらい使う。そして残り3時間。この3時間って自分の時間だと思うんですけど、スマホでSNSやニュースを見て、こいつはどうだとかフェイクニュースだとか、“いいね”を押したり……人のことにスポットを当てるよりも、自分にもっと光を当てて前向きなことに時間を使ってほしいです。映画を観るとかでもいいんですよ。「平日はできないから週末にする」という人もいるかもしれませんが、週末じゃなくても普段でもできるよと思うんです。自分のために時間を使わないともったいない気がしますね。

―久保田さんは最近絵も描かれ始めましたよね。久保田さんにとっては絵を描く時間が自分のための時間ということになりますか?

久保田:そうですね。絵を描くのは自分にプラスになることですよね。俺の場合は絵を描くことで自分の時間をつくっています。絵を描くこと、今まで隠していたんですよ。まだバレてないです。ラップ以来、久しぶりに切ったカードなので。ちなみにこの後は、軟式テニスっていうカードも控えてます(笑)。

―多才ですよね。ちなみに絵を描くときは、どんな心境で描いてるんですか?

何も考えないでひたすら描いています。失敗したらその絵にもう一回、黒でブワーっと塗りつぶしてまた描き出すとか。描くのは気持ちいいですよ。何にも縛られないのがまたいいんです。芸人の生き方と共通しているような気がします。失敗したものほどおいしい、失敗ほどおもしろいみたいな。

―久保田さんは日々のストレスをネタにぶつけたりテレビで発散したりしていますが、そうした鬱憤は絵にも表れているんでしょうか?

表れてると思いますよ。見たことのない配色で塗っているときはめちゃくちゃ楽しいです。でも俺、絵が下手なんですよ。小3のときに弟たちが小2だったんですね。弟、双子なんですけど、お父さんが双子を連れて絵の教室に行ったんです。お父さんはそのとき俺を連れていかなかった。それは、「おまえは絵が下手すぎるから無理」って理由です。

でも、大人になって絵が上手い人に聞いたら、絵は下手な人ほど伸びるって言うんです。俺、下手なほうだと思います。小学生の絵を真似て書くんですけど、子どもの絵を見るたびに思うんです、下手やなあって。でもその下手が美しいですよね。

―下手が美しい……すごく心に響くひとことですね。最後に、ニアセの中心読者である商売人を応援すべく、爽快な企画を検討しています。久保田さんがオススメする方はいますか?

商売人って、孤独だったり憂鬱だったりする方が多いんですね。それなら中山功太がいいですよ。みんな知らないだけですけど、彼はほんまに天才です。俺の同期はキングコングや南海キャンディーズ、なかやまきんに君、平成ノブシコブシ、ピース、ウーマンラッシュアワー……それらを全部含めた上で、最初にみんなをごぼう抜きして売れた人なので。ライブをすれば人が集まる。「R-1ぐらんぷり2009」(2021年より「R-1グランプリ」)で日本一を取って、その後は荒れ狂う人生で。おもしろいと思いますけどね。彼の波瀾万丈な人生。

【編集後記】

淡々と話し、裏表のない印象を受けた久保田さん。誹謗中傷する相手に会いに行くというのは少し驚きました。また、取材の中で印象的だったのが、「幸せ」について聞いたこと。久保田さんにとっては「おいしいものを食べること」とのこと。大金持ちになるより、一生おいしいものを食べていたいそうです。先日、史上最も有名なギャングスタ―、アル・カポネの食べ方を真似て、パイナップルに塩をかけたものがおいしかったと語っていました。どんなに売れっ子になっても、幸せは身近にあるんだなあ、と感じます。

最近は絵を描き始めてこれが仕事に繋がればいいなとも語っています。そんな久保田さんは5月10日から16日まで、渋谷モディ1階イベントスペースで初の個展「とろサーモン久保田和靖個展『なぐりがき』」を開催するそうです。ラップに続いて久保田さんの新たな一面を見られるのが楽しみです。

姫野桂

フリーライター。1987年生まれ。宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。大学時代は出版社でアルバイトをし、編集業務を学ぶ。卒業後は一般企業に就職。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブなどで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ。猫が好き過ぎて愛玩動物飼養管理士2級を取得。著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)、『「発達障害かも?」という人のための「生きづらさ」解消ライフハック』(ディスカヴァー21)、『生きづらさにまみれて』(晶文社)。趣味はサウナと読書、飲酒。

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