「経営者の責任」撤退も戦略のうち。社員の心を折らずに大赤字から逃げだそう

ニアセ寄稿

 
コンサルティングしたい」「経営したい」と考えた方が真っ先に学ぶフレームワークのひとつに、SWOT分析がある。自社が置かれている状況を俯瞰するために、4つの観点で現状を切り分けるもので、S・W・O・Tはそれぞれの頭文字だ。

SWOT分析

SWOT分析で要素分解するだけも、ブランドの抱える現状が見えてくる。が、これだけでは経営には使えない。そこで「クロスSWOT分析」を行う。難しい要素はないので初めてご覧になる方もご安心あれ。クロスSWOTとは、4要素を組み合わせて戦略を考えることだ。これも百聞は一見に如かずなので、図をご覧いただきたい。(主観による国内飲料メーカーのクロスSWOT分析)

と、先ほどSWOT分析で切り分けた4つの要素を掛け合わせるだけで、スラスラと戦略が生まれる。実際の経営では自社や市場の現状をしっかり調べてリスト化する必要はあるが、初心者にも使いやすいフレームワークだろう。
 
クロスSWOT分析を行うメリットは、取りうる施策を平等に並べることで、冷静に検討できることだ。しかし現実はそうではない。「SWOT分析・クロスSWOT分析を用いて、自社がどうすべきか提案してくれ」と依頼しても、ほぼ全員3パターンの案しか出してこない。弱み×脅威を踏まえた案、つまり「撤退戦略」はおおよそ誰も選ばないのだ。

撤退を選ぶ勇気は、経営者が発揮すべし

その理由は、なんとなくわかるはずだ。たとえ出来たてホヤホヤのベンチャーだって、今期の売上目標くらいある。撤退を選ぶということは、その目標へ向かって着々と工事してきた道を爆破するに等しい。じゃあどうやって売上を作るんだ? 投資額は返ってくるのか? 出資者への質疑応答を考えるだけで胃が痛むだろう。
 
特に多角経営を前提としていないベンチャーならなおさらだ。一攫千金を狙ってコツコツお金と時間を投資してきたのに、それをあきらめるなんて下手すりゃ倒産である。それでも冷静に見て沈没する船なら、沈む前に避難するしかない。経営者とはそういうものだ、ということは別の記事に詳しい(撤退戦は経営者の仕事。事業を畳む決断をどこでつけるか、出直しのために)ので、詳しくはこちらをご覧いただきたい。
 
さて、自社の状況を見るに撤退したほうがよさそうだ。となれば一番重要なのは「さっさと撤退する」ことだ。時間が経てば経つほど赤字が膨らむとわかっているなら、さっさと切って次へ進むに限る。正論だが、そうは問屋が卸さない。そこまで頑張ってきた社員がいるからである。

社員の心を折ると、ベンチャーは折れる

以前、「ベンチャーは社員が命」と書いた(スタートアップに揃えるべき4種の人材と、自社を壊す「毒になる社員」とは)。創業期にどれだけ優秀な社員がいてくれるかで、生存率は大きく変わる。前職でも活躍する優秀な社員を口説き、自社へ引き込むのも大変だったろう。そうやってようやく来てもらった社員へ「やっぱり今までの取り組みはナシにしよう」と伝えるのがどれほど危険か。
 

「やっぱりリスクを取るんじゃなかった」
「絶対成功するって言った、社長の言葉を信じてきたのに」
「もっとまともな会社があるんじゃないか?」

 
こういうムードが社内に生まれたとき、優秀な社員は真っ先に辞める。できる社員ほど去るのも早いのだ。だから撤退をするときは社員の情熱をへし折らずに説得せねばならない。ここからは、自社で撤退を繰り返したダメCEOの私から「撤退の作法」をお伝えしたい。

社員本人に、撤退を結論付けさせる

まず、「この案は撤退する」と結論を告知してはならない。現場の社員は、社長より自分の方がビジネスを理解していると考える。だからトップダウンで撤退を命ずると「わかっていない人に、無理やり仕事を止められた」と感じてしまい、モチベーションが下がる。
 
ドストエフスキーの実体験によれば、究極の拷問とは「半日かけて穴を掘らせ、残りの半日でその穴を埋めさせる」ものだという。何の目的も感じられない労働を命じることで、精神的ダメージを与えるのだ。
 
これまで死ぬ気で挑ませたプロジェクトへ撤退を命ずるのは、穴を掘らせてから、また埋めさせるのと変わらない拷問だろう。だったらどうすればいいか。「この穴、埋めたほうがいいな」と自分で思えるよう、誘導するのだ。
 
最もたやすい誘導の作法は、社員へオープンに現状を相談することである。「あなたのプロジェクトで、こういう問題が出てきてしまった。これをどうやって乗り越えたらいいか、アドバイスしてほしい」と伝えよう。こちらが頼ることで、現場の社員は信頼されていると感じる。さらに相手を説得せねばならないので、社員は一度冷静になる。上述のSWOT・クロスSWOT分析は、撤退を意識させる道具のひとつだ。優秀な社員なら最終的に自ら撤退を結論付けてくれるだろう。

社員をフォローすることは経営者の責任

それでも無理にプロジェクトを通そうとしてくるならば、第三者の意見を入れよう。たとえば試験段階で消費者調査を導入し「こんなサービス/製品、絶対に使わない」と言われるのはかなり効く。だが、それでも話を持ってくるほど胆力のある社員はそういない。万が一それでもプロジェクトの継続をゴリ押ししてくるのなら、その社員が本当に優秀か疑ったほうがよい。
 
そして撤退を提案されたら、社員へ謝ってほしい。「このプロジェクトがうまくいかなかったのは、あなたのせいではない。自分の判断力不足だ」と。それが事実である必要はない。というよりも、ほとんどのプロジェクトが傾くとき、それは誰のせいでもない。
 
経営者の役割はただ、その社員が自分を責めすぎないようフォローすることだ。心を折りさえしなければ、優秀な社員は反省を活かした企画を出してくれる。そのためには撤退で湧き出そうな涙をぐっとこらえて、社員をフォローする。それが、経営者の責任である。

 
 

慶應義塾大学在学中に起業を2回経験。卒業後は外資系企業に勤め現在は独立。フリーのマーケターとして活動するほか、ブログ『トイアンナのぐだぐだ』(http://toianna.hatenablog.com/)をきっかけにライターとしても活動中。

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